「金儲け」ではない経営学入門 2003年6月21日 法政大学プレキャンパス 奥西 好夫(経営学部) [email protected] 1 「経営学」って、ブッチャケ「金儲け」 の学問ですか?(ある高校生の質問) 1.どうしたら「金儲け」できるか? モノを売る、投資する、・・・その基本原理は? 2.「会社」で働くということ 「会社」とは何か・・・その目的は? 3.「経営学」で学ぶこと 結局、「経営学」とは、・・・いくつかの実例 4.経営学部の案内 5.参考文献 2 1.どうしたら「金儲け」できるか? (1)自分で事業(商売)をやる---モノ・サービスを 他人に売る。 売り手にとっての価値<取引価格<買い手に とっての価値 (自発的交換の原理) (2)他人の事業に投資する---おカネを貸す、出資 する。 (3)その他---ギャンブルに賭ける(平均的には儲か らない)、相手を騙す・脅す(犯罪行為)など。 3 1.どうしたら「金儲け」できるか? ---「自発的交換の原理」の例解 売り手:ある性能・デザインのパソコンを 20万円の費用で作れる。 買い手:そのパソコンを是非ほしいが、自 分で作るとしたら50万円かかる。 もし価格が30万円なら、売り手は10万円 儲かり、買い手は20万円得をする。 4 1.どうしたら「金儲け」できるか? ---「自発的交換の原理」が意味するもの 経営(ビジネス)とは、社会的な価値の創 造活動---「買い手にとっての価値-売り手に とっての価値」>0が創造されている。 「儲かる」(「取引価格-売り手にとっての価値」 >0)かどうかは、そうした活動の一つのイ ンセンティブ、一つの評価尺度として意味 を持つ。 5 1.どうしたら「金儲け」できるか? ---「社会的価値創造」のための条件 人々が欲しがるモノやサービスを見つけ る(顧客ニーズの発見)。 それを安く提供できるよう工夫する(コスト 削減、効率化)。 この両方が揃わないと、ビジネスは成り 立たない。 6 1.どうしたら「金儲け」できるか? ---「社会的価値創造」活動と「経営学」の関連 どんなモノ・サービスを売るか→戦略 買い手のニーズをどう掴むか、モノ・サービスの価値 をどう伝えるか→マーケティング モノ・サービスをどのような仕組みで生み出すか →組織、管理 そうした活動に必要な人材をどうするか→人事 そうした活動に必要な資金をどうするか→財務 以上のような経営活動の結果をどう記録し、 評価するか→会計 7 2.「会社」で働くということ 自分で事業(商売)をやっている人はそん なに多くない。多くの人は「会社」勤め。 社会的価値創造活動の多くも、組織、とり わけ「会社」によって行われている。 では「会社」とは何か? ---いくつかのモデル 「会社」の目的は何か? ---いろいろな見方、言い方 8 2.「会社」で働くということ ---経営組織別従業者の割合(2001年) 8.7 0.2 15.0 8.5 個人経営 株式会社 株式会社以外の会社 13.3 会社以外の法人 法人でない団体 国・地方公共団体等 54.2 資料出所:総務省統計局『事業所・企業統計調査』 9 2.「会社」で働くということ ---株式会社とは?(岩井2003) 株主 所有関係(ヒトまたは法人が、法人を所有) 株式会社 ・・・法人だが、実際は代表取締役 というヒトが経営 所有関係(法人が、モノを所有) 会社資産 法人は、ヒトであり、モノでもある!10 2.「会社」で働くということ ---2つの会社モデル(岩井2003) 「モノ」としての会社 ・・・「支配株主」が、会社をモノとして所有。会社 は乗っ取り、売買の対象。 「ヒト」としての会社 ・・・「株式の持ち合い」を通じて、乗っ取り、売買を 回避。会社特殊的な人的資産を保護。 11 2.「会社」で働くということ ---会社の目的に関するさまざまな見方、言い方 「企業の赤字は罪悪である」(松下幸之助) 「ナンバーワンかツーになることは、単なる目標に とどまらない。それは必要条件だ」(ジャック・ウェ ルチ) 「経営者の利害を株主の利害と一致させること」 (ルイス・ガースナー) 「ほとんどのビジョナリー・カンパニーにとって、『株 主の富を最大限に高めること』や『利益を最大限 に高めること』は、大きな原動力でも最大の目標 でもなかった」(コリンズ+ポラス) 「企業の目的は永続すること。永続するためには 利益が出ていなければならない。利益は、手段で あり、企業活動の結果である」(小倉昌男) 12 3.「経営学」で学ぶこと(実例1) ---宅急便の誕生(小倉1999) 個人小荷物の輸送という「市場」。 偶発的、非定型的・・・ビジネスになるのか? 人々のニーズはあるのか?→ニーズ調査 そのサービスは、どうすれば安く提供できる のか?→ハブ・アンド・スポークシステム カギは、「荷物の密度」。 サービスの差別化・・・翌日配達、在宅時配 達など。「サービスが先、利益は後」 13 3.「経営学」で学ぶこと(実例1) ---ハブ・アンド・スポークシステム 送り主 → 取次店(酒屋、コンビニなど)・デポ → センター(警察署の数が目安) → ベース(各都道府県) → ベース → センター → 受取人 14 3.「経営学」で学ぶこと(実例2) ---高賃金の日本で生産活動は無理か? 日本の賃金水準の高さ。 国内で生産して国際競争に勝てるか? →人手をあまりかけずに高く売れるものを作 れば、人件費を吸収できる(付加価値生産 性の向上)。 どうやって? →機械設備、労働者の質、生産・流通システ ムの工夫、市場への素早い対応、・・・。 15 3.「経営学」で学ぶこと(実例2) ---各国の名目賃金(製造業、男女計、2000年) 日本 アメリカ イギリス ドイツ フランス 韓国 中国 インド 368,915円/月間 2,276円/時間 1,804円/時間 1,627円/時間 1,414円/時間 1,202円/時間 152,139円/月間 9,492円/月間 3,786円/月間 16 資料出所:生産性労働情報センター『活用労働統計』2003年版. 3.「経営学」で学ぶこと(実例2) ---あるパソコンメーカーの国際分業 半導体---前工程は日本、後工程はマレー シアで生産。 部品(ハードディスク、キーボードなど)--マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、中 国で生産。ただし開発は日本。 パソコン---日本で組み立て(←国内マー ケットが主、頻繁なモデル・チェンジ、ライ ンの変更)。 17 3.「経営学」で学ぶこと(実例3) ---知的障害者に価値創造活動は無理か? どんな仕事を(事業内容の選択)、どのよ うにやるか(職務設計)。 それ次第で、知的障害者も社会的価値 創造活動に十分貢献できる。 小倉2003,猪瀬2000などを参照。 18 3.「経営学」で学ぶこと ---結局、経営学とは? 「経営学」とは、社会的な価値創造活動(売り手の 価値<買い手の価値)の実践のための理論、知 識、ノウハウ等で構成される広範な学問分野。 「金儲け」は、「社会的な価値創造活動」の重要な インセンティブ。しかし重要なインセンティブの全 てではない。また、時に、誤ったインセンティブとも なりうる。 「金儲け」は、「社会的な価値創造活動」の重要な 測定指標。しかし不正確なこと、誤ることもある (バブル、粉飾決算など)。 19 4.経営学部の案内 2003年度から3学科体制に カリキュラムを大幅に刷新 少人数教育へ向けて 各種プログラム科目の新設・充実 詳しくは、経営学部ホームページで http://www.hosei.ac.jp/keiei/index.html 20 5.参考文献 ---最近出版された読みやすいものの中から 日本経済新聞社(編)『やさしい経営学』日本経済 新聞社、2002年. 岩井克人『会社はこれからどうなるのか』平凡社、 2003年. ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス『ビジョ ナリー・カンパニー』日経BP出版センター、1995年. ジャック・ウェルチ『ジャック・ウェルチ わが経営 (上・下)』日本経済新聞社、2001年. ルイス・ガースナー『巨象も踊る』日本経済新聞社、 2002年. 21 5.参考文献(続き) 小倉昌男『小倉昌男 経営学』日経BP社、1999年. 小倉昌男『経営はロマンだ!』日経ビジネス文庫、 2003年. 沼上幹『組織戦略の考え方』ちくま新書、2003年. 野口悠紀雄『金融工学、こんなに面白い』文春新 書、2000年. フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング・コン セプト』東洋経済新報社、2003年. 22
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