OPTIM 緩和ケアセミナー こころのケア

OPTIM
緩和ケアセミナー
こころのケア
聖隷三方原病院 浜松がんサポートセンター
井村 千鶴
Contents
Ⅰ 終末期がん患者の
精神的苦悩(スピリチュアルペイン)とケア
Ⅱ 症例検討
・事例紹介
・グループディスカッション
・まとめ
終末期がん患者の
精神的苦悩(スピリチュアルペイン)とケア
終末期にある がんの患者さん
事例
ひとりで何もできなくなってしまった.
これじゃ,生きてる意味がない・・・
Aさん
60歳代 男性
肺がん
Spiritualとは人間として生きることに関連した経験的
一側面であり,身体的・心理的・社会的因子を包含し
た人間の“生”の全体を構成する一因としてみることが
でき,生きている意味や目的についての関心や懸念
にかかわっていることが多い.とくに人生の終末に近づ
いた人にとっては,自らを許すこと,他の人びととの和
解,価値の確認などと関連していることが多い.
World Health Organization
存在を支える3つの柱
人間を時間性,関係性,自律性により
支えられる存在として捉える
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
村田理論
存在を支える3つの柱
時間存在
• 人間は,過去に経験したさまざまな
出来事をとおして,将来への希望・
目標に向けて,今を生きている存
在である
関係存在
• 「人の存在は他者から与えられる」
生の存在と意味の成立には他者と
の関係が必要である
自律存在
• 人間は,自己決定できる自由が与
えられている存在である
小澤, 2004 一部改変
スピリチュアルペインとは?
存在と意味を支えていた時間性,関係性,
自律性のいずれかの柱が失われることに
由来する苦悩
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
時間存在である人間のスピリチュアルペイン
村田,緩和ケア 2005
時間存在である人間のスピリチュアルペイン
死が近づき,将来を失
うことにより,スピリチュ
アルペインが生じる
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
関係存在である人間のスピリチュアルペイン
自己の存在と意味は他者によって与えられる.
死が近づくことによって,他者や世界との関係
の断絶を想い,自己の存在と生きる意味を失う.
村田,緩和ケア 2005
関係存在である人間のスピリチュアルペイン
死の接近によって,他者
との関係を失うことにより,
スピリチュアルペインが生
じる
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
自律存在である人間のスピリチュアルペイン
村田,緩和ケア 2005
自律存在である人間のスピリチュアルペイン
死の接近によって,自立と
生産性を失うことからスピ
チュアルペインが生じる
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
ケアの指針
時間存在 死をも超えた将来を
見出す
新たな現在の意味
の回復
関係存在 死をも超えた他者を
見出す
その他者から自己
の存在の意味を与
えられる
自律存在 知覚/思考/表現/行為 自己決定と自律の
各次元での自律を語る 回復
(身体に依存しないスピリチュアルな自己の覚知)
村田,緩和ケア 2003
スピリチュアルペイン
時間性
• 世代継承性
• 死の不安
• 希望
関係性
• 関係性
• 負担
自律性
• コントロール
• 同一性
Murata H , Morita T . Palliat Support Care 2006
時間性
世代継承性 (Generativity)
• 自分にとって重要だと思うことを次の世代に受け継ぐこと
死の不安 (Death anxiety)
• 死へのとりくみ(受け入れる,否認する,闘う,委ねる)
希望 (Hope)
• 希望をもちたいと思うこと(回復,よりよいQOL ,目標の
達成,意味づけなど)
時間存在である人間のスピリチュアルペイン
 世代継承性
「次の世代に引き継ぐことで,自分の人生を全うし
たい」
 死の不安
「死がこわい」
「死にたくない」
「死んだら罰せられるだろうか」
 希望
「何の希望もない」
「希望をもっていたい」
関係性
関係性 (Relationships)
• 家族など大切な人と時間や気持ちを共有すること
• 家族のこころの準備ができたと思えること
• 人間関係における葛藤や罪悪感に対する和解・赦し
がえられること
負担 (Burden to others)
• 家族や医療者,社会に対して負担になっていると感
じること
関係存在である人間のスピリチュアルペイン
 関係性
「誰もわかってくれない」
「死んだ後,夫はうまくやっていけるだろうか」
「離婚した妻に一言わびたい」
 負担
「迷惑をかけたくない」
「家族につらい姿をみせたくない」
「家族に負担ばかりかけている」
自律性
コントロール (Control)
• 身体機能(自立),認知機能(精神),将来生じ
ることがらに対してコントロールしたいと思うこと
同一性 (Continuity of the self)
• 自分らしさ(役割や楽しみ,美しさ,価値観)を
保つこと
自律存在である人間のスピリチュアルペイン
 コントロール
「何もできなくなってしまった」(身体的コントロール)
「しっかりしていたい」(認知的コントロール)
「この先どうなるのか不安だ」(将来のコントロール)
 同一性
「自分らしくいつも美しくいたい」
「自分は何の役にも立たない」
「こんな姿を人に見られたくない」
ケアがめざすもの
meaning and peace of mind
こころがおだやかであること,かつ/または
意味や価値を見出すことができること
Murata H , Morita T . Palliat Support Care 2006
ケアの方向性
こころのおだやかさ,意味や価値を感じられる
ことを脅かしているものを弱める
こころのおだやかさ,意味や価値を感じられる
ことを支えるものを強める
基盤となるケア
患者との関係を確立する
現実を受けいれることを援助する
感情を受けいれることを援助する
ソーシャルサポートを強化する
くつろげる環境や方法を提供する
症状緩和を行う
医療チームをコーディネートする
森田 ,緩和医療学 2001
苦悩の最小化・存在と意味を強めるケア
時間性・関係性・自律性に関連したペイン
それぞれに対するケアを行う
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
ケアのプロセス
アセス
メント
1
アセス
メント
• スピリチュアルペインをキャッチ
• サポートのニーズの有無をアセスメント
• 生活史,家族歴など患者の全体像を捉える
• 時間性・関係性・自律性の視点からアセスメント
• 苦悩を強めるもの,やわらげるものを整理
2
ケア
• 基盤となるケア
• 苦悩の最小化・存在と意味を強めるケア
事例にもどって・・・
ひとりで何もできなくなってしまった.
これじゃ,生きてる意味がない・・・
どのように関わりますか?
ひとりで何もできなくなってしまった.
これじゃ,生きてる意味がない・・
「何もできなくなって,とてもつらいと感じて
いらっしゃるんですね・・・」
・受け取ったメッセージを言語化し,返す
・沈黙で気持ちをわかろうとしている
ことを伝え,患者さんの次の言葉を待つ
患者さんの思いを聴く
とってもつらいね・・.いままで,家族のために
頑張って働いてきたのに,今じゃ迷惑かけて
ばっかりだ.できるだけ自分のことは自分で
やって迷惑かけないようにと思う.
こんなんでも孫は顔をみると喜んでくれるよ
アセスメント
Aさんの苦しみ
・病状の進行により自立を失ってしまったことで,
自律まで失ってしまったと感じ苦悩している
・家族を支えるという役割を失い,価値がなく
なってしまったと感じている
・自立し,役立ってきた自分(あるべき姿)と現実
の自分の姿との間で葛藤が強い
アセスメント
苦悩を強めるもの
・依存の増大による他者への負担
苦悩をやわらげるもの/Aさん自身の対処
・家族とのつながり,とくに孫との関係性
・Aさんは,自分でできることをみつけ,自律を保と
うとしている
アセスメント
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
めざす状態
時
間
存
在
関
係
存
在
自
律
存
在
ケア(1)
基盤となるケア
・傾聴,寄り添うケアを継続する
・本人・家族とライフレビュー を行う(新たな意味づけ)
・人生において重要と思われること
・人生において印象深い思い出
・人生において自分が果たした重要な役割
・誇りに思うこと
・人生におけるターニングポイント
・適切な症状マネジメントを行う
・ソーシャルサポートの強化を行う
気持ちをわかってくれるひとの存在(家族・医療者など)
ケア(2)
存在と意味を強めるケア
・Aさんにとって重要なものは何かを問いかける
「Aさんにとって,一番大切な/支えになっていることは?」
「家族.孫には,自分のことをずっと覚えておいて欲しい」
・家族との時間を支える
Aさんが伝えようとしていることを支持する
その他,面会にあわせたレスキューの使用など
・存在そのものに意味があることを伝えていく
「Aさんは,ご家族にとってとても大切な存在なんですね」
*家族の記憶のなかに残り生き続けることができると思える
ならば,時間存在としてのペインのケアにもなる
ケア (3)
苦悩の最小化
・Aさんの頑張ろうとする気持ちを支える
・おかれた状況の中でもできることを共に探す
「工夫できることを一緒に考えさせてください」
・できていることに対して肯定的なフィードバックを行う
「がんばってますね」
・負担とならない声かけの工夫をする
「何か今私たちができることがありますか?」
・ひとつの方法を提示するのではなく,やり方や時間を
Aさん自身が決められるようサポートする(排泄など)
・本人と相談しながら環境整備を行う
・希望を支えることを目的にリハビリについて相談する
日本人にとっての望ましい
Quality of Life
ステップ緩和ケア
P154
多くの人が共通して望むこと
 希望をもって生きる
 負担にならない
 自立している
 人として大切にされる
 人生を全うできる
 苦痛がない
 望んだ場所で過ごす
 医療スタッフとよい関係で
いる
 家族とよい関係でいる
 落ち着いた環境で過ごす
個人差があること
 他者に感謝し,こころの準備が
できる
 価値を感じられる
 他人に弱った姿をみせない
 残された時間を知り準備する
 信仰に支えられる
 自然なかたちで過ごす
 死や病気を意識しないで過ごす
 できるだけの治療を受ける
Miyashita M et al . Ann oncol 2007
本日のまとめ
 日常のケアのなかにスピリチュアルケアがある
 その人にとっての望ましいQOLを達成するために
スピリチュアルケアは重要である