南海トラフの巨大地震・津波を想定した 防災意識と避難行動に関する住民意識調査 孫 英英 ほか 学校教育教員養成課程 森下明里 はじめに • 東日本大震災が発生し、従来の津波対策などへの課題が見 えてきた。 • 現在は、近い将来起こるとされる南海トラフの巨大地震とそ れに伴う津波への備えに対する社会的関心が高まっている。 本研究では、津波防災の実践に関与してきた地域社会(高知 県四万十町興津地区)における防災意識と避難行動について アンケート調査を行い、その結果が同地区の津波対策に与え る示唆、同じく南海トラフの巨大地震・津波対策という課題に直 面している自治体、地域社会における取り組みの意義について も考察する。 東日本大震災のインパクト • 東日本大震災では、地震と津波によっておよそ2万人の犠牲 者が出た。 • 犠牲者の約92%が津波によるものであった。 (地震発生から津波到達までは早いところで十数分) →東日本大震災前から南海トラフの地震・津波に備える地域に 大きなインパクト 従前の対策の効果性に疑問 東日本大震災のインパクト① 個別の課題 • 犠牲者が高齢者に偏る 犠牲者の64.3%が60歳以上、45.5%が70歳以上である。 • 地域の消防団の犠牲の多さ 消防団は、災害時要援護者の支援など、地域防災の主役として期待されていた。 『共助の限界』 • 避難所へのクルマでの移動 全避難者の56%がクルマを利用 渋滞、道路面の被害、信号機の滅灯による犠牲 東日本大震災のインパクト② 「想定」の見直し 津波の規模が「想定外」 ・津波対策を目的としたハード施設が十分機能したとは言えない。 ・自治体の指定避難場所まで破壊的な津波が押し寄せたところも (全体の16%が浸水) →南海トラフの巨大地震・津波の規模や被害想定の再検討 →関係自治体による避難場所の再検討 東日本大震災のインパクト③ 低調な避難率 • 東北3県(津波に対する警戒意識が高い)では 揺れがおさまった後すぐに避難した人は57% 津波の犠牲になった人では23% • 太平洋沿岸の(大)津波警報が発令され避難指示・勧告が 出た地域では 指示・勧告対象者の6%未満 質問紙調査対象地域 • 高知県四万十町興津地区 • 全戸数552戸、人口1014人、高齢化率48%(2012年1月) • 小室部落、浦分部落、郷分部落の3部落 • 海と山に四方を囲まれている 他の地区とのアクセス路は山道1本( 雨などによる土砂崩れ) • マグニチュード8.4級の南海地震で、 地震発生から18分程度で波高12mの津波に襲われる予想 これまでの防災対策 • 興津小学校における防災教育 「ぐるみの会」との協働によるもの 防災マップ作りを通して、保育所などの施設が高台移転された。 • 津波避難場所の整備 1582人収容できる(人口1014人) 防災倉庫、雨雪を避けるための防災小屋の設置 興津地区の個別の課題 • 高齢者の避難 高齢者率48%であり、深刻な課題 • 「想定」の見直し 3連動(マグニチュード9.0級)では、 津波の高さは従来の2~3倍(25メートルとなる可能性) • 避難率 興津地区全住民に避難勧告・指示 →26.9%の人は避難(県全体は5.9%) 質問紙調査 • 2012年1月、全世帯(552世帯)を対象に調査 • 回収率46.2% • 3つのインパクトに依拠して作成 ② ③ ③ ③ ① ③ ① クロスロード方式 ① ② ①個別の課題 • Q5 避難手段 郷分地区は、主な避 難場所(さくら貝)と 離れているため、徒 歩以外の手段を多く 選択。 この地区はクルマ避 難の効果が大 →ブロック塀などもあ り、個別の対応が 必要 ① 個別の課題 • Q7 家族の避難 「津波てんでんこ」の原 則の不徹底 子どもを高齢者に置き 換えても同様のことが いえる。 ①個別の課題 • Q8 消防団の避難 地区内での合意が形成 されていない。 →呼びかけながらの避 難の効果を最大にする ルート選定の必要性 ②「想定」の見直し • Q1 津波想定 「想定以上の津波が来る」76.7% →「想定」に対する信頼感の低下、不安感 →「想定外」を念頭に置き始めている ②「想定」の見直し • Q9 希望の津波対策 ・避難場所の安全性の 不安 ・「ぐるみの会」への依 存 →住民の積極的参加を 促してこなかったか ③津波避難 • Q2 避難のきっかけ 「地震の大きな揺れ」81.1%(東日本大震災実績値57%) ・「避難意向を示す」値であり、過大評価 →過大評価でさえ100%に達しない 「テレビなどの注意報など」10.6% 「防災無線の情報」6.1% ・「情報待ち」の問題 ③津波避難 • Q3一次避難場所 部落内での避難場所に集中 Q6 二次避難場所の選択で、 避難タワーや裏山などへの避難する傾向 →最後の手段 ③津波避難 • Q4 避難所要時間 (津波到達予想時間の)18分以内が90% 男性より女性の方が時間を多く見積もる ・走力、家具の下敷きになった時の対応など体力面で劣る ・他律的 3分以内で避難できると回答→揺れで避難 18分以上かかる→揺れでは避難しない 防災訓練の希望は3分以内と18分以上の両極端 まとめ • 防災教育もあって、ソフト面での対策に大きい効果 • ひとりひとりに寄り添った津波防災対策の必要性 →「個別避難タイムトライアル」を実施 ・時間を測りながら移動 ・避難の改善点、ハード整備の計画 地域レベルから 個人レベルの避難行動の検討へ
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