1A6 発明の本質抽出能力の鍛錬と試験の方法 2010年度 知的財産学会学術研究発表会 2010年6月19日 久野敦司 (E-mail : [email protected] ) 1 発明の本質とは • 「既存機能の価値ある組合せ構造を導く新たな 命題」こそが、発明の本質であり、 これを「着想命題」と名付ける。 • 着想命題を把握すれば、既存機能の他の組み合 わせ構造も容易に発想できるし、その発明を応 用した事業のキーポイントも容易に認識できる。 • 着想命題を見抜く能力こそが、「目利き能力の 核心」である。 2 着想命題と、発明の関係 既存機能 A 既存機能 B 組合せ構造の仮説設定と仮説検証 (実現性と効果を検証) 既存機能 Z アイデアの閃き 既存機能の価値ある組 合せ構造を導く新たな 命題(着想命題) 既存機能の価値 ある組合せ構造 としての、発明 「着想命題は」、発明の背景にあり既存 機能の組み合わせ構造を主導する。 3 着想命題は、既存方式の部分置換から始まる改造を主導して、 機能の新たな組合せ構造(発明)を導出できる。 既存方式A1 H1 既存機能A 既存機能B 既存機能D H3 H2 既存機能C 置換 効果E1 問題点:P1 H4 既存機能F 新効果を生む属性:K1 既存知識 着想命題S1の別表現: 既存方式A1を変形して、 H2をH4に置換しても効果E1を維持できる。 着想命題S1: 効果E1の観点では、 4 H4はH2と等価である。 着想命題の具体例は? 請求項1: 予めさまざまな心理的条件下で質問への回答を得て、それらの回答から本人 度算出のための知識データを得る知識データ作成手段と、 操作者に対する質問を複数提示する提示手段と、 提示された前記複数の質問への操作者の各回答から、各回答毎の多値の本 人度を前記知識データを用いて算出する本人度算出手段と、 前記本人度算出手段によって算出された各回答毎の多値の本人度を総合評 価して得た総合評価値を所定の閾値と比較して本人であるか否かを判別して、 個人照合を行う総合評価手段と、 を具備することを特徴とする 個人照合装置。 5 前記の請求項1の発明を導出した着想命題 「価値観で本人照合ができる」 , 「価値観はコピーできない」 , 「価値観を反映すると思われる多数の質問への回答 データは、個人照合可能なデータとして取り扱える。」 6 着想命題の重要性 • 着想命題は、発明の効果が導出されるキーポイ ントを示している。すなわち、着想命題は発明 の原理とも言えるし、発明の前提条件とも言え る。 • 発明製品を製造販売する事業においては、発明 の効果が顧客価値に一致する場合がある。その 場合、顧客価値の提供のキーポイントが、着想 命題に示されることとなる。 • そのため、着想命題は事業成功のキーポイント となる場合が多い。 7 知財人材に目利きを増やすことが必要 • 知財を活用して顧客価値を競争優位に提供する事業を実 現するためには、顧客価値の観点で「着想命題」を認識 した上で、その着想命題に合致する知財を抽出し、その 知財をカバーする知財権の取得と活用を知財人材は行な わねばならない。 • そのための能力の柱は、知財権法の知識ではなく、知財 に関する目利き能力である。したがって、事業貢献でき る知財業務を行なえるためには興味と能力の優先順位は 下記のAとならねばならない。Bの優先順位では駄目で ある。 A: 知財権法<知財権<知財<事業貢献 B: 知財権法>知財権>知財>事業貢献 8 本来、知財人材は次のような思考をすべきである。 ①ある商品分野において、何が優先順位の高い顧客価値とな り、その顧客価値を得るために、どのような機能をユーザは 注目するようになるのか? ②ユーザが注目する機能をどのような技術で実現すると、競 争力が得られるのか? ③競争力が得られると思われるその技術は、その注目機能に おいてどこまでの性能を達成できる潜在力を持っているのか? ④自分たちは、その注目した技術に関して、世界一のレベル を実現できるのか? ⑤さらには、その技術を独占するか、自由に実施できるため の知的財産権を自分たちは確保できるのか? 上記の①から⑤の思考をせず、知的財産権法の知識だけを 持っているような知財人材は事業貢献ができない。 9 請求項として発明が与えられた場合、 着想命題を抽出する方法は? 発明を示された場合に、その発明の本質である着想命題を抽 出するには、発明と公知技術の相違点を抽出するというレベ ルを超えて、発明の背景にあり既存機能の組み合わせ構造を 主導した「着想命題」の仮説を設定し検証するという事の繰り 返しが必要である。 このような仮説設定と検証で、短時間で着想命題を得られる 人が「目利き」である。 10 発明の本質抽出能力の 鍛錬と試験の方法 次のHisano Methodが有効である。(着想命題を発見できる脳に鍛える方法) (1)請求項を示し、その請求項の発明で実現できる「発明の効 果」を述べさせる。 (2)請求項と、その請求項の発明で実現できる「発明の効果」を 示し、その発明の効果を達成できる他の請求項を述べさせる。 (3)「発明の効果」をもとに、その発明を実施することで可能とな ると思われる商品やサービスの事業を述べさせる。 次ページ以降に、具体例を述べる。 11 請求項 出典: 発明の効果の選択肢 特公平06-040846 【請求項1】 棒状の柄部と、 該柄部の端部に設けられたブラシ部とか らなる歯ブラシにおいて、 前記ブラシ部の台座に、柄部の長軸方向 に一定範囲内でのみ回転可能な複数の 柱状回転体を等間隔で設け、 該回転体の外周両端に植毛した ことを特徴とする 歯ブラシ。 ① ブラシ部を歯にあてがいながら柄 部を往復運動させることで回転させた 柱状回転体の発生する電気で歯の表 面を消毒できる。 ② ブラシ部の色が変化するので、色 の変化を見ながら長時間の歯磨きが できる。 ③ ブラシ部を歯列に軽く当てがうだけで、 毛先を隣接面(歯と歯との間)に入り込ま せることができるので、毛先によって歯肉 を傷つけてしまうことはなく、その結果、歯 肉が化膿してしまう虞れもない。 ☆ 12 請求項 発明の効果の選択肢 出典: 特許第2754749号 【請求項1】 ベッドに寝ている人が目覚めるべき所定時刻を 記憶する目覚め時刻記憶手段と、 時計を計るタイマーと、 前記タイマーで計られた時刻が前記目覚め時 刻記憶手段に記憶されている所定時刻に達し たときに就寝者に振動を加える目覚まし手段と を備え、 該目覚まし手段が、ベッドのマット下部に配置 された複数の圧力ユニットと、 これら各圧力ユニット内の圧力を調整して前記 ベッドに振動を加える手段と、 を具備して構成したことを特徴とする ① ベッドに寝ている人がいない場合 には目覚し機能を作動させないように できて、無駄な目覚まし音を発生させ なくて良くなる。 ② 就寝者に対してベッドの振動によ るマッサージを与えて、疲れをとり、快 適な睡眠をもたらすことができる。 ③ 時には騒音となりがちな通常の目覚ま し時計等による目覚まし機能よりも、就寝 者に快適な目覚めを促すことができる。 ☆ ベッド制御装置。 13 発明の効果 発明の効果を維持したまま、変更可能な構成要素と、その変更後の内容 出典: 特許第2754749号 時には騒音となりがちな通常 の目覚まし時計等による目 覚まし機能よりも、就寝者に 快適な目覚めを促すことがで きる ① 「ベッドに寝ている人が目覚めるべき所定時刻を記憶する目覚め時刻 記憶手段」を、 「ベッドに寝ている人が眠るべき睡眠時間を記憶する睡眠時間記憶手段」 に変更し、 「前記タイマーで計られた時間が前記目覚め時刻記憶手段に記憶されてい る所定時刻に達したときに就寝者に振動を加える目覚まし手段とを備え、」 を、 「前記タイマーで計られた時間が前記睡眠時間記憶手段に記憶されている 所定時間に達したときに就寝者に振動を加える目覚まし手段とを備え、 」に 変更する。☆ ②「これら各圧力ユニット内の圧力を調整して前記ベッドに振動を加える手 段」を、 「これら各圧力ユニット内の圧力を調整して前記ベッドに落下感覚を与える 手段」に変更する。 ③「これら各圧力ユニット内の圧力を調整して前記ベッドに振動を加える手 段」を、 「これら各圧力ユニット内の圧力を調整して前記ベッドに傾斜を与える手段」 に変更する。 14 発明の効果 発明の効果から想定できる事業でのアプリケーション 出典: 特許第2754749号 時には騒音となりがちな通常 ①病院の患者用のベッドとしての需要があると考えられる。 の目覚まし時計等による目 覚まし機能よりも、就寝者に 快適な目覚めを促すことがで きる ②ホテルや旅館や宿泊研修施設などで、宿泊者が目覚まし時計をかけて 目覚まし音で隣室の人まで起こしてしまうことを避けるためと、目覚ましをか けた人の起床を快適にするためのベッドとして需要があると考えられる。 ☆ ③夜勤者が交代で仮眠しながら業務を行なうための仮眠室での ベッドとして需要があると考えられる。 ☆ 15
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