誰でもかかる可能性のある 女性のうつ病 ー 見過ごさず適切な対応を - 聖路加看護大学大学院博士後期課程 高橋 恵子 憂鬱だ・・ うつ病って? 眠れない イライラする 私はだめだ 死にたい・・ 集中力がない やる気がしない 食欲がない だるい、疲れる • うつ病は、気持ちが落ち込んで、何にもやる気がせ ず、つらく、悲しい気持ちが2週間以上と長く続き、生 活にも支障をきたしている状態。 • うつ病は、「気分障害」という病気の一種。 うつ病は増えている ◇日本では、うつ病が年々増加している。 ◇うつ病は誰でもかかかる可能性がある病気「こ ころの風邪」。 ◇ある国内調査では、住民の約15人に1人がこ れまでにうつ病を経験していると言われている。 ◇しかし、うつ病は再発しやすい病気なので、放 置したり、軽くみてはいけない。 わが国の自殺死亡者数の変化 厚生労働省HP 自殺死亡統計の概況 自殺死亡の年次推移 http://www.mhlw.go.jp/index.html うつ病のきっかけは? ◆いろいろな要素が重なり合って発症する。 ◆一番大きいきっかけはストレスの場合が多い。 人間関係 ショック 病気・けが 経済的負担 うつ病 環境の変化 身体的な疲労 喪失体験 女性に多いうつ病 ◆「うつ病」になる割合は、女性が男性より約2倍。 ◆女性は、出産後、更年期などに生じる女性ホル モンの急激な変動があり、また、出産後や更年 期は、環境や役割も変化することが多く、うつ病 のきっかけになりやすい。 ◆女性に特有のうつ病には、主に「産後うつ病」、 「更年期うつ病」がある。 ◆しかし、「マタニティー・ブルーズのせい」、「更年 期障害のせい」と症状を見過ごしてしまいがち。 マタニティー・ブルーの特徴 ◆出産後2~3日目から1週間以内に起こるこころの変化 ◆出産直後のホルモン分泌の急速な低下 ◇周囲のちょっとした言葉にひどく傷つく ◇不安感やイライラが強くなる ◇理由もなく泣けてくる ◇眠れない ◇子育てに自信をなくす ◇考えがまとまらず、集中力が低下する ◇頭痛や疲労感 症状が長引くようなら「産後うつ病」 の可能性があり、主治医に相談 10日目頃から自然に回復 産後うつ病とは ◆多くは、出産後3~6週間以内に発症する ◆実家への里帰り出産後、自宅に戻り発症す ることが多い ◆産後うつ病は、出産を経験した女性の10% にみられる。 ◆女性ホルモン分泌の急激な変動が産後うつ 病の発症に影響していると考えられている 産後うつ病の背景 <妻・母としての環境や役割の変化> ◆赤ちゃんの世話で、からだの疲労がたまる ◆育児にかかる経済的負担 ◆夫や家族の身体的・心理的サポートがない ◆望まなかった出産(夫が喜んでいない) ◆赤ちゃんの生まれつきの病気 <過去にうつ病の経験者> ◆過去に、うつ病になった経験がある ◆うつ病の治療中に妊娠し、薬を中断している 産後うつ病の特徴 <母親として> ◆赤ちゃんの過度な心配、または育児放棄 ◆赤ちゃんがかわいく思えない ◆母親としての役割が果たせない ◆赤ちゃんを育てる自信が持てない <こころの症状> ◆気持ちが落ち込む ◆何もやる気がしない ◆自分を責める ◆物事がうまく対処できない <からだの症状> ◆体力が戻らない ◆頭が重い、だるい ◆食欲がない ◆眠れない Aさん 産後うつ病 • 20代 女性。Aさんは、妊娠をきっかけに5年間務めていた仕 事を辞めました。退院後から2週間は、実家の母親が自宅に 泊まり赤ちゃんの世話と、掃除、洗濯、食事なども手伝ってく れました。しかし、実母が帰った頃から、徐々に、Aさんは、 食欲も落ち、疲労感が強く、気力もなくなってきました。また、 急に泣き出したり、「育てる自信がない」「この子がいなけれ ば、仕事も辞めずにすんだのに」と夫に口にするようになりま した。夫は出産後の一時的な「マタニティー・ブルーズ」と思っ ていました。しかし、改善の気配が見られず、赤ちゃんが泣き 続けていても、何もしようとしないAさんの様子を見て、おかし いと思い、出産先の産婦人科に連れて行きました。担当医に 精神科を勧められ抵抗を感じながらも受診しました。その結 果、「産後うつ病」を診断され、通院することになりました。 産後うつへの対応 ◆休養を十分にとりましょう ・無理をすると症状が長引くため、疲れを感じたら、休 息の時間を確保し、ゆっくり休みましょう。 ◆主治医と相談し、薬を正しく使いましょう ・治療の基本は薬(抗うつ薬)。 ・薬は医師の指示通り、正しく使うことが大切。 ・服薬中は授乳は控える。 ◆家族のサポートや自治体の支援を活用しましょう ・育児や家事は大きな負担のため、家族の協力や 地域の子育て支援システムを活用しましょう。気軽 に自治体にある育児相談などを利用しましょう。 更年期うつ病 ◆更年期は、月経周期が不規則になる頃から月経停止後 数年間の時期(一般的に45~55歳前後) <女性ホルモン> 卵巣機能が低下し、女 性ホルモンの急速な低 下に、バランスを崩し、 自律神経が乱れる。 <人生の転機> ・子どもの独立 ・母親役割の変化 ・家族の病気や死別 ・親の介護 ◆更年期は、女性ホルモンの変化に、 人生の転換期によるストレスが積み重 なり、うつ病のきっかけになりやすい 更年期うつ病の特徴 ◆更年期障害との見極めが難しい 更年期うつ病は、うつ病と同じで、ゆううつ気分が続 き、気力が低下し、「自分はだめ人間だ」「死んだほ うが」と悪い方向ばかり物事を考える。また、倦怠感 、体重低下、不眠・頭痛などからだの症状が起こる。 更年期障害との見極めが難しい。 ◆「更年期障害のせいだ」と思い込まない 通常の更年期障害を越えた、落ち込み、不安があ り、うつ症状が、2週間以上持続し、日常生活に支障 をきたしている場合は、更年期障害にうつ病が合併 したと考え、一度、精神科に受診してみよう。 Bさん 更年期うつ病 • Bさんは、50歳の専業主婦。顔がほてりなどがみられ、婦人科 で更年期障害の治療を受けていました。最近、一人娘が結婚 し家を出て子育ても終わった矢先に、施設で療養していた実 母が肺炎で亡くなりました。そのころからBさんの笑顔が見ら れなくなり、食欲も落ちてきました。夫は、毎晩仕事が遅く、Bさ んは娘が家を出てから、1日中一人で過ごすことが多くなりま した。また、食事、洗濯、掃除などの家事もほとんどやらなくな ってしまい、一日中、寝巻姿で過ごすようになりました。夫は更 年期障害のせいだと思っていましたが、Bさんの様子が何かお かしいと思い、慌てて病院に連れて行きました。その結果、う つ病の疑いがあると、抗うつ薬の治療を始め、通院することに なりました。 更年期うつ病への対応 ◆休養を十分にとりましょう 心理的なストレスが大きく影響しているため、ゆとりあ る生活が送れるように、十分な休養をとりましょう。 ◆主治医と相談しながら治療を進めていきましょう ・抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬などの服用です。 ・ホルモン補充療法(不足しているホルモンの補充) ・医師より決められた量を一定期間使用しましょう。 ◆家族や周囲に協力を求めましょう ・食事、洗濯、掃除などの家事なども、家族の協力を 求めましょう。 家族や周囲の理解と適切な対応 ◆本人の辛い気持を理解する ◆病気の特徴を理解する ◆無理に気晴らしに誘わない ◆治療と休養を一番に考える ◆本人はがんばっているから、励まさない ◆大事な決め事は、先送りにする ◆自殺のサインに注意する ◆保健医療専門職と協力する サインに気づき、早めに対応を ◆うつ病のサインに気づこう 「睡眠」「食事量」はわかりやすいサイン ◆うつ症状を感じたら、見過ごさずに相談 2週間以上、うつ病の症状が続く場合は、近くの医療機関( 精神科、メンタルクリニック、心療内科など)、保健機関(保健 所、保健センター、精神保健福祉センターなど)にご相談して 下さい。 ◆別の病気だと誤解しないで 「更年期障害のせいだ」「マタニティー・ブルーのせいだ」と安 易に、思い込まないで。 ◆家族のSOSに気づきましょう うつ病の特徴を理解し、家族のSOSに気づいてください。
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