教育課程部会における これまでの審議のまとめ」

学習指導要領改訂の動向
奈良女子大学附属中等教育学校
吉田 隆
1
講義概要1(学習指導要領改訂の趣旨)









学習指導要領改訂までの経緯
学習指導要領の変遷
学習指導要領の理念
現行学習指導要領の下での課題
学習指導要領改訂の基本的な考え方
中学校教育課程の枠組み
各教科の内容の改善
学習指導要領改訂に伴う移行措置
学習評価について
*平成20年度中学校新教育課程説明会中央説明会資料より引用
2
講義概要2(学習指導要領改訂のポイント)

大枠・基本的方向に変化なし

「習得」と「探究」を結ぶ「活用」

リテラシーとシチズンシップの育成
3
学習指導要領改訂までの経緯
平成17年2月
学習指導要領の見直しに着手(大臣からの要請)
平成18年12月
教育基本法改正
平成19年 6月
学校教育法改正
平成19年11月7日
中央教育審議会教育課程部会「審議のまとめ」
広く国民から意見募集(11/8~12/7)、関係団体からヒアリング
平成20年1月17日
中央教育審議会「答申」
平成20年2月15日 幼稚園、小・中学校学習指導要領等(文部科学省告示)改訂案公表
広く国民から意見募集(2/16~3/16)
平成20年3月28日 幼稚園、小・中学校学習指導要領等(文部科学省告示)改訂
平成20年6月13日 小・中学校学習指導要領の移行措置に関する告示等を公示
4
学習指導要領の変遷
昭和
33~
35年
改訂
教育課程の基準としての性格の明確化
(道徳の時間の新設、基礎学力の充実、科学技術教育の向上等)
(系統的な学習を重視)
昭和
43~
45年
改訂
教育内容の一層の向上(「教育内容の現代化」)
(時代の進展に対応した教育内容の導入)
(算数における集合の導入等)
昭和
52~
53年
改訂
平成
元年
改訂
平成
10~
11
年改
訂
(実施)
小学校:昭和36年度、中学校:昭和37年度、高等学校:昭和38年度(学年進行)
(実施)
小学校:昭和46年度、中学校:昭和47年度、高等学校:昭和48年度(学年進行)
ゆとりある充実した学校生活の実現=学習負担の適正化
(各教科等の目標・内容を中核的事項にしぼる)
(実施)
小学校:昭和55年度、中学校:昭和56年度、高等学校:昭和57年度(学年進行)
社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成
(生活科の新設、道徳教育の充実)
(実施)
小学校:平成4年度、中学校:平成5年度、高等学校:平成6年度(学年進行)
基礎・基本を確実に身に付けさせ、自ら学び自ら考える力などの[生きる力]の育成
(教育内容の厳選、「総合的な学習の時間」の新設)
(実施)
小学校:平成14年度、中学校:平成14年度、高等学校:平成15年度(学年進行)
学習指導要領のねらいの一層の実現の観点から
学習指導要領の一部改正(平成15年)
5
学習指導要領の理念

現行学習指導要領の理念は「生きる力」をはぐくむこと
「生きる力」:
○基礎・基本を確実に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、
自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力、
○自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性、
○たくましく生きるための健康や体力 など

「知識基盤社会」の時代において「生きる力」をはぐくむ
という理念はますます重要

教育基本法改正等により教育の理念が明確になるとともに、
学校教育法改正により学力の重要な要素が規定
今回の改訂においては、これまでの理念を継承し、
教育基本法改正等を踏まえ、「生きる力」を育成
6
現行学習指導要領の下での課題

学習指導要領の理念を実現するためのこれまで
の手立てに5つの課題
[1] 「生きる力」の意味や必要性について、文部科学省による趣旨の周
知・徹底が必ずしも十分ではなく、十分な共通理解がなされなかった
[2] 子どもの自主性を尊重するあまり、教師が指導を躊躇する状況が
あったとの指摘
[3] 各教科での知識・技能の習得と総合的な学習の時間での課題解
決的な学習や探究活動との間の段階的なつながりが乏しくなっている
[4] 各教科において、知識・技能の習得とともに、観察・実験、レポート、
論述といった、知識・技能を活用する学習活動を行うためには、現在
の授業時数では十分ではない
[5] 豊かな心や健やかな体の育成について、家庭や地域の教育力が
低下したことを踏まえた対応が十分ではなかった
7
学習指導要領改訂の基本的な考え方



教育基本法改正等で明確になった教育の理念を
踏まえ 「生きる力」を育成
知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の
育成のバランスを重視
道徳教育や体育などの充実により、豊かな心や
健やかな体を育成
8
中学校の教育課程の枠組み





現行の9教科、道徳、特別活動、総合的な学習の時間で構成
教育課程の共通性を重視し、選択教科は、標準授業時数の
枠外で開設可とする
国語、社会、数学、理科、外国語、保健体育の授業時数を40
0時間程度増加(選択教科の履修状況を踏まえると230時間
程度の増加)
総合的な学習の時間は、教科の知識・技能を活用する学習
活動を各教科の中で充実すること等を踏まえ、 3学年合わせ
て190時間に縮減
総授業時数は、各学年で35単位時間(週1コマ相当)増加
授業時数の増加は、主に次の学習を充実するために行うもの
①つまずきやすい内容の確実な習得を図るための繰り返し学習
②知識・技能を活用する学習(観察・実験やレポート作成、論述など)9
小・中学校の総授業時数の推移
①小学校
単位時間
(45分)
6000
5821
②中学校
単位時間
(50分)
6135
5785
5785
5367
5000
1880
5645
2194
3500
3535
3360
3000
2126
2333
2426
4000
2403
1295
3150
3150
1260
1155
2940
3045
1400
2500
1120
1375
2000
3000
1500
2000
3941
3941
3659
3452
2941
3242
1000
1000
2065
2135
1890
1995
1565
1925
500
0
昭36~
昭46~
昭55~
平4~
平14~
改訂
改訂案
0
昭37~
昭47~
昭56~
平5~
平14~
改訂
改訂案
:国語、社会、算数・数学、理科、外国語(中学校)の授業時数の合計
:上記以外の教科等の授業時数の合計
※昭和46年度~のグラフにおける小学校の総授業時数については、総授業時数の他に学習指導要領において特別活動の一部に充てることが望まし
いとされていた時間数を加えている。
10
国語、社会、算数・数学、理科、体育・保健体育、外国語の授業時数の推移
①小学校
②中学校
単位時間(50分)
単位時間(45分)
550
1800
1603
1600
1603
1601
1532
1461
国語
1377
500
450
1400
525
455
420
1200
算数
1047
1047
1011
1011
600
1011
350
869
663
627
社会
628
理科
663
627
体育 627
628
400
理科
558
540
350
420
200
数学
597
250
405
365
345
315
455
455
420
420
375
315
420
385
350
385
350
保健体育
300
627
385
455
社会
400
1000
800
国語
490
385
350
350
315
315
315
315
290
295
外国語
270
200
150
100
0
昭36~
昭46~
昭55~
平4~
平14~
改訂
改訂案
昭37~
昭47~
昭56~
平5~
平14~
改訂案
改訂
11
教育内容の主な改善事項






言語活動の充実
理数教育の充実
伝統や文化に関する教育の充実
道徳教育の充実
体験活動の充実
外国語教育の充実
○学校週5日制の下での土曜日の活用
・ 学校週5日制の維持
・ 地域と連携し、総合的な学習の時間の一環として体験活動等を
行う場合の土曜日の活用
12
各教科等の主な内容の改善
○ 総則
・ 知識・技能を活用して課題を解決するための思考力、判断力、表現力等の育成、
言語活動の充実、学習習慣の確立等を規定
・ 改正教育基本法等を踏まえ、伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が
国と郷土を愛し、公共の精神の尊び、他国を尊重し、国際社会の平和と発展や
環境の保全に貢献する主体性のある日本人を育成することを道徳教育の目標に
規定
・ 小学校の道徳教育では、集団宿泊活動等を通じ、基本的な生活習慣やきまり、
善悪の判断、人間としてしてはならないことをしないことを重視することを規定
・ 中学校の道徳教育では、職場体験活動等を通じ、自他の生命の尊重、規律あ
る生活、自己の将来、法やきまりの意義の理解、社会の形成への参画、国際社
会に生きる日本人としての自覚を重視することを規定
・ 体力の向上に加え、食育の推進や安全に関する指導を規定
・ 学校教育の一環として生徒が自発的に取り組む部活動の意義や留意点を規定
(中学校)
13
学習指導要領の改訂に伴う移行措置①
平成20年度中に周知徹底、平成21年度から可能なものは先行して実施
○ 総則や道徳等は直ちに先行実施
◇ 直ちに実施可能な、学習指導要領の総則や、道徳、総合的な学
習の時間、特別活動については、平成21年度から新しい学習指導
要領の規定を先行実施
○ 数学及び理科は教材を整備して先行実施
◇ 数学及び理科については、新課程に円滑に移行できるよう、移
行措置期間中から、新課程の内容の一部を前倒しして実施 (授
業時数の増加も前倒し実施)
◇ 中学校は、選択教科等の授業時数を削減するため、総授業時
数は変更なし(小学校では、総授業時数を各学年で週1コマ増加)
◇ 新課程の前倒しに伴い、現在の教科書には記載がない事項を
指導する際に必要となる教材を作成・配布
14
学習指導要領の改訂に伴う移行措置②
○ 他の各教科等 (学校の判断で先行実施)
(1)各教科(数学及び理科を除く)
◇ 各教科(数学及び理科を除く)は、学校の判断により、新学習指
導要領によることも可能とする
◇ 但し、以下のものについては、全ての中学校で先行実施
・ 音楽の共通歌唱教材を新たに設定(7曲から各学年1曲以上)
(2)中学校における選択教科
◇ 選択教科については、これまで生徒が教科を選択することを
基本としていたが、移行期間中はそれだけではなく、いわゆる
「学校選択」を可能とする
15
学習評価について
「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の
学習指導要領等の改善について」
(平成20年1月中央教育審議会答申)
評価の観点並びにそれぞれの観点の評価の考え方、
設定する評価規準、評価方法及び評価時期等について、
今回の学習指導要領改訂の基本的な考え方を踏まえ、
より一層簡素で効率的な学習評価が実施できるような
枠組みについて、更に専門的な観点から検討を行う
16
条件整備
平成20年度
平成21年度
平成22年度
小学校
全面実施
先行実施
(移行措置)
教職員配置
補助教材等
(算数・数学、理科)
小学校外国語
定数改善1,195人
非常勤7,000人
補助教材
作成・配布
理科支援員〈小学〉
平成24年度
中学校
全面実施
先行実施(移行措置)・全面実施にかかる措置
(小学校)
補助教材配布・使用
「英語ノート」試行
(教材、研修、ALT等)
平成23年度
(中学校)
「英語ノート」使用
教員研修の実施、ALTの配置
約3,000校
「英語ノート」使用
教員研修の実施、ALTの配置
理科支援員配置
理科支援員配置
武道必修化〈中学〉
施設設備の整備
施設設備の整備
(施設設備、研修等)
教員研修の実施
教員研修の実施
道徳教材
「心のノート」改訂
「心のノート」
作成・配布
「心のノート」等の教材使用
教材検討(内容、国庫補助等)
教科書
検定
基準
見直し
小学校
編集
検定
採択供給
中学校
編集
検定
使用
採択供給
使用
17
学習指導要領改訂のポイント①




今回の学習指導要領の改訂では、大枠で
は特に新しいものはない
理念や方針において変化はないが、バラ
ンスに配慮
授業時数と内容がある程度増加
社会の変化により、求められる能力は「習
得・記憶」型から「探究・思考」型へ
18
学習指導要領改訂のポイント②
キャッチアップ
(追いつけ追い越せ)
の日本社会
キャッチアップ
(追いつけ追い越せ)
が終わった日本社会
習得・記憶型の能力
習得・記憶型の能力
&
探究・思考型の能力
「生きる力」=「考える力」
(平成8年の中教審第一次答申)
19
学習指導要領改訂のポイント③
「習得」と「探究」を結ぶ「活用
20
学習指導要領改訂のポイント④

各教科と総合的な学習の時間の関係
ESDの課題
21
ESD(持続可能な開発のための教育)
文部科学省ホームページより引用
22
学習指導要領改訂のポイント⑤
23
学習指導要領改訂のポイント⑥
リテラシーとシチズンシップの育成
「リテラシー」の定義
学校において教育される共通教養
社会的自立の基礎となる公共的な教養
「シチズンシップ」の定義
21世紀の知識基盤社会に必要な市民
的素養

24
知識基盤社会とは

21世紀は,新しい知識・情報・技術が政
治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領
域での活動の基盤として飛躍的に重要性
を増す,いわゆる「知識基盤社会」
(knowledge-based society)の時代で
あると言われる。
*「我が国の高等教育の将来像(答申)」(平成17年1月28日中央教育
審議会)
25
知識基盤社会に求められるのは


「知識基盤社会」の特質としては,例えば,
知識には国境がなく,グローバル化が一層進む, 知識は日進月歩
であり,競争と技術革新が絶え間なく生まれる, 知識の進展は旧来
のパラダイムの転換を伴うことが多く,幅広い知識と柔軟な思考力に
基づく判断が一層重要となる, 性別や年齢を問わず参画することが
促進される,
等を挙げることができる。
こうした時代にあっては,精神的文化的側面と物質的経済的側面
のバランスのとれた個々人の人間性を追求していくことが,社会を構
築していく上でも基調となる。また,国内・国際社会ともに一層流動
的で複雑化した先行き不透明な時代を迎える中,相互の信頼と共生
を支える基盤として,他者の歴史・文化・宗教・風俗習慣等を理解・
尊重し,他者と積極的にコミュニケーションをとることのできる力がよ
り重要となってくると考えられる。
*「我が国の高等教育の将来像(答申)」(平成17年1月28日中央教育審議会)
26
これからの社会に求められるもの
27
学習指導要領改訂のポイント⑦

中・高連携の場合
2-2-2制による6年一貫教育(奈良女子大学附属中等教育学校)
1・2年:基本的学力と学習の基本的方法の習得
3・4年:自主的体験的学習による幅広い学力の習得
5・6年:個性・能力・進路に応じた学力の習得と自立した人格の育成

小・中連携の場合
4-4-4制による12年一貫教育(玉川学園)
1~4年:本格的な学習への導入として学び方を学び、学習姿勢・基礎学力
を養成
5~8年:基礎学力を根底とした応用力の養成
9~12年:応用力から発展した高度な専門知識の修得
http://www.tamagawa.ed.jp/k-12/k12.html (玉川学園ホームページより引用)
28
おわりに

リベラルアーツ(21世紀の教養)
「教養とは、巷間言われるような『幅広い知
識』などでは決してなく、自らの『正しさ』を
も疑うことのできる柔らかな精神のことであ
る」
(奈良女子大学文学部准教授 西村拓生『奈良女子大学教育システ
ム研究開発センターNewsletter07』より引用)
29
参考文献一覧



『誰のための「教育再生」か』(藤田英典編・岩波新書)
「リテラシーの概念とその再定義」(佐藤学著・『教育学研
究』70(3))
『スクールマネジメント』(篠原清昭編著・ミネルヴァ書房)
30