LCA講義全部 東北大学使用版

“3R”それぞれのRの協調的活用へ
安井 至
国際連合大学名誉副学長・東京大学名誉教授
(独)製品評価技術基盤機構(NITE)
http://www.yasuienv.net/
1
重要と思われるポイント



1.これまで、3Rは廃棄物行政の一部。解決法は
「何に誰が処理費を払うか」が中心。
2.したがって、「資源の有効利用」という考え方で
制度設計がなされてきた訳では無い。
3.廃棄物政策は時々刻々変化している。

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


3Rは最終処分地不足を理由に始まった
容リ法は自治体に自由度を与えると同時に、自治体か
ら自由度を奪うシステム
そろそろ、それぞれのRの最適な組み合わせで資源有
効活用を目指すタイミング
3R政策と温室効果ガス排出抑制策は合体する方向
手法としては、やはり俯瞰的LCAか
2
目標
3
循環型社会形成基本法
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


平成12年6月2日(金)施行
(1) 喫緊の課題である廃棄物・リサイクル対策
の重要性にかんがみ、環境庁として今後の対策
のあり方について検討を進めてきた。
(2) 平成11年10月4日の与党政策合意におい
て、「平成12年度を「循環型社会元年」と位置づ
け、基本的枠組みとしての法制定を図る」こととさ
れた。
(3) 政府、与党一体となって検討作業が進めら
れた結果、「循環型社会形成推進基本法案」が
取りまとまり、平成12年4月14日の臨時閣議で
決定された。
4
容器包装リサイクル法 歴史
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1995年6月 成立・公布 12月第1段階施行(基本方
針、再商品化計画、指定法人関係)
1996年6月第2段階施行(分別収集計画関係)
1997年4月本格施行(再商品化事業開始)
対象品目:ガラスびん(無色、茶色、その他色)
ペットボトル リサイクル義務を負う企業:大企業
2000年4月完全施行
対象品目:上記に加え紙製容器包装及びプラス
チック製容器包装
リサイクル義務を負う企業:上記に加え中小企業
2006年第一回目の改正
5
ポスト京都中期目標
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


鳩山首相の25%削減
しかし、国内の真水削減量は不明
麻生政権発表の8%削減シナリオ作成の
際に、いくつかの検討が行われている
国立環境研と日本エネルギー経済研究所
の15%削減シナリオを再検討
6
低炭素化のための技術は
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


1.自然エネルギー/自然材料
2.高効率利用(省エネ、省資源、長寿命
製品、循環利用=3R)
3.二酸化炭素分離貯留(=CCS)
4.原子力利用拡大
7
国立環境研シナリオ中の“循環”
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


鉄鋼:廃プラスチック利用拡大
セメント:エネルギー代替廃棄物の利用拡大
発電部門:廃棄物・バイオマス発電
非エネルギー部門:家畜排せつ物処理方法
転換
同上:循環計画推進等による循環利用促進
8
容器包装リサイクル法関係
9
容器包装リサイクル法の仕組み
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

市民:分別して排出
自治体:収集して貯蔵し、引渡し
事業者:再商品化=リサイクルされた分に
ついて費用を負担する
ただし、指定法人=リサイクル協会に再商
品化を委託をすることが可能
指定法人は、リサイクル業者から入札を受
け付けて、再商品化を実行する。
10
再商品化

鉄鋼は、“ケミカルリサイクル”



廃棄物発電は、効率が悪い


売電を主目的とするものではない
マテリアルリサイクル


実態は、コークス原料、高炉吹き込み
再びプラスチックに戻る訳では無い
現在のやり方では、50%程度が焼却?
自治体が再商品化手法を選択できない
→ 最適の分別を実現できない
11
12
自治体と容リ法
なぜ自治体は頑張るのか

容リ法に対応すると;



費用(税金)はかなり掛かる。しかし、先進自
治体的になりうる。
プラごみが、一般廃棄物から産業廃棄物に替
って、自治体の責任から外れる。
名古屋市が典型例


藤前干潟を最終処分場に! → 失敗。
最終処分地が無い!!
13
矛盾も出ている
東京都23区のその他プラ
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



その他プラ=ペットボトル以外のプラスチック
最終処分地不足を理由に焼却を容認
それまで、プラスチックは「不燃ゴミ」
生ゴミは「可燃ゴミ」
23区の改正容リ法への対応
区に清掃事業が移管され、区に決定権あり
14
各種リサイクルマーク
プラマークのみ、意味が違う: さて??
リサイクルに適しているとは限らない。
リサイクル費用の負担していることを意味
しかし、市民レベルでの判定基準は
プラマークが唯一
15
東京23区の困った対応


回収される「その他プラ」の品質
は様々であった。
「その他プラ」は二派に分かれ
た


港区: 「その他プラは、全部回収
します。そのままでも出してくださ
い。当方で分別します」。
大田区など、「全部燃やします。可
燃ごみとして出してください」
16
LCA:「その他プラ」どこまで洗う?

1gのプラスチックフィルム
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
最低でも1Lぐらいのお湯






ペラペラしたポリエチレンフィルムだと、30×10cm。
ラップだとさらに軽くて、30×20cmぐらい。
根拠は、蛇口を細めに開けたとして、1Lが20秒。
お湯1L(40度)を得るには、10gのCO2 ↑
10gのCO2を出す石油は4g
1gのプラスチックを作るには、石油が1.3~1.4g
が必要。
お湯で洗うだけに必要な石油で、廃プラスチックフィ
ルムの3倍ぐらいの量を新しく作ることができる。
水で洗えば、1LならOK(お湯の環境負荷の1/20
以下)
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東京23区のその他プラ





その他プラを資源回収している区
徐々に「汚れていない」プラのみ回収へ
資源回収をしない区
住民からは楽になったとの評価
区によっては、やはり集めたい。しかし、中
間処理施設が作れない
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廃プラスチック中間処理施設



プラスチックを圧縮し、輸送効率を上げる
ために必要
市民団体は「杉並病の再来」だと反対
影本浩東大教授は、「プラスチック圧縮プ
ロセスによって、未知の有害物質が発生す
る可能性がある。したがって、全量焼却す
べきだ」。
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廃プラに関わるリスクトレードオフ

圧縮処理+ケミカルリサイクル



圧縮時のリスク=未知
ケミカルリサイクル時のリスク=未知
非分別+焼却



パッカー車が他のゴミと一緒にプラを圧縮して
いる=杉並中継地に近い状態
焼却のリスクも完全にゼロという訳ではない
非分別による住民意識の低下による資源過大
利用のリスクがある
20
現有の最善の知識では





ベンゼンが最大のリスク物質である。
一日10トン程度の圧縮処理で発生するベ
ンゼンの量は、車の排気ガス中に含まれ
るベンゼンの車1台分に相当。
圧縮しないで、多くの車で運搬した方が、
全体的なベンゼンの排出量は多くなる。
当然、エネルギー効率も悪い。
リサイクル価値そのものが消える可能性。
21
家電リサイクル法関連
22
家電リサイクル法 2001年施行





テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコン
その後、冷凍庫が加わる
さらに、薄型テレビ、乾燥機が
中国の資源ブラックホール時代、不法輸
出が増えた?
現時点、無料で集めて輸出することも、若
干の利益が出始めた
23
後払いでも動く希な国、日本



排出時にリサイクル費用を取る方法は、世
界で日本のみが実施可能
それでも、最近は、個人による不法投棄が
目立ち始めている
以前は、事業者による不法投棄が主なも
のであった。
24
ブラウン管ガラスリサイクル不能
25
CRTのリサイクルは止まった





ブラウン管テレビのCRTガラス
とうとう日本国内でカレットにする事業者が
無い
日本でCRTはもはや製造されていない
現在、マレーシアが唯一引き取り手
世界的にもCRTは絶滅??
2011年の地上波アナログ停止
26
家電リサイクル法

各種家電のリサイクル率を義務化

ブラウン管テレビは 55%
27
ブラウン管テレビ




新製品を製造する企業が無くなった
現時点で、アジアに何社か
日本からのガラスはマレーシアに
しかし、それも今年限り?
28
ブラウン管用のガラス
他に
ネックガラス
ガラスフリット
29
鉛は有用物だが有害物
日本の生産量
30
大気中の鉛濃度の推移(詳細リスク評価書)
31
大気濃度と血中濃度 米国
32
神経系への影響




血中濃度 10μg/dL 以下が安全圏
10 → 20 μg/dLになると、
IQが低下する可能性(≒2.6低下)
米国では、貧困家庭ほど鉛の血中濃度が
高い → 古い白いペンキが鉛を含有。米
国の家屋は古く、ペンキは重ね塗り。鉛は
甘いので、古いペンキをガムのように食べ
る子どもがいる。
33
子どもの鉛血中濃度 日本
これが1%程度以下になるように管理
34
35
36
日本とEUの違い




EUは、すでに消費者のマインド
製造業で生きるメンタリティーは、ドイツの
自動車産業ぐらいか?
容器リサイクル、WEEE(廃家電)、ELV(
廃自動車)などの法律はあるが、しばらく
前まで、日本のリサイクルが格段に優れて
いたと思われる。
しかし、最近では。。。。
37
EUでの実例:CRTのガラス



パネル(前面:バリウム・ストロンチウムガ
ラス)とファンネル(後部:鉛ガラス)を分離
するのが普通=日本は今でもやっている
オランダは、そのまま粉砕した混合ガラス
を路盤材に利用することを認可
鉛の溶出が問題だが、、、、
ゼロリスクを目指す日本では考えられない選択
38
EUでの実例:プラスチック包装




フィルム類は集めないが、極力使わない
ボトルしか回収しない
しかし、自治体の回収費用も、80%を事
業者負担(フランス、エコアンバラージュの
場合)
ただし、合理的に回収を行っている自治体
の費用が標準
→ 自治体の回収の合理化を促す
39
最近のEUの傾向





廃棄物処理もリスクがそこそこ低く、かつ、
コストの低い方法で実施
加えて、材質別の自動分別を導入して、資
源効率の向上も両立へ
cf.日本のリサイクル=「目的に二面性」
廃棄物処理と資源有効利用
cf.日本の市民感覚=余り合理的でない
もったいない意識
40
今後の3Rの方向性


最終処分地の保全だけでなく、資源エネル
ギーの保全へ
そのためには、





LCA的な俯瞰的な発想をもつ
リサイクルのみから、3Rへ
リスクを正確に把握する
ベネフィットを重視する
具体的には、


なんでもリサイクルから、選択したリサイクル
プラ類は2サイクルから水平リサイクルへ 41
リスク管理の実現に向けて
42
大きな流れは?

RoHS + REACH + EuP(ErP)
欧州がリードする化学物質管理
その中で、理論的には正しい「リスクベースに
よる化学物質管理」をいかに実現すべきか。
製品輸出で生きる日本には、効率の高い管理
法の実現が不可欠。
日本は改正化審法。

リスクというものについて、若干の考察を!




43
キーワード「リスク管理」
ところが、これが日本人にはもっとも難しい
言葉である。なぜか?
 日本にはコタツがあるのに、欧米にはなぜ
ないのか? 実は「答」は同じ。
 農耕民族 vs.狩猟民族
 リスクを避ける習性
 「穢れ=他人と違う」を嫌う
-> なじみの無いものへの警戒感が強い
 例えば、遺伝子組換え作物(GMO)
 新型インフルエンザ
44

リスク感覚=リスク分布
日本流
個人・空間etc
欧州流
個人・空間etc
典型例:ノンフロン冷蔵庫、臭素系難燃剤
45
欧州と日本のリスク管理の枠組
哲学的に
極めて
実施段階
美しい
絆創膏型枠組
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化学物質管理の各種法制度
対象
労働環境
ヒ
ト
急
性
被
害
形 ヒ
態 ト
慢
性
環
境
影
毒劇法
労
働
安
全
衛
生
法
農
薬
取
締
法
消費者
食 有
品 害
衛 家
生 庭
法薬 用
事品
法規
制
法
環境経由
建
築
基
準
法
農
薬
取
締
法
化
学
物
質
審
査
規
制
法
排出
大
気
汚・
染水
防質
止・
土
法壌
なに
ど対
す
る
廃棄
廃
棄
物
処
理
法
な
ど
化学物質管理促進法
オゾン層保護法
47
「1Rから3Rへ」

Recycleだけの社会から、
Reduce>Reuse>Recycle社会へ。
今後の方向性は




Reduce:長寿命化、リペア
:軽量化 これまでこれだけ推進
Reuse:製品リユース、部品リユース
Recycle:水平マテリアルリサイクル
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ペットボトルなど
容器リサイクルの今後
49
50
ペットボトルリサイクル効果
51
ケミカルリサイクル: PET ボトル
27MJ/kg??
20MJ/kg??
原料
34.6MJ/kg
Crude Oil:0.9L
採掘; 輸送;
石油精製; 輸送;
重合;PET樹脂
成形;
ラベル;
PETボトル
27.9MJ/kg
収集; 輸送;
解重合;
精製;重合
PET 樹脂;
28.3MJ/kg
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ペットボトルはリユースすべきか
飲料容器の今後の方向
環境省ペットリユース研究会
CO2排出量 ステージ別 2001年当時
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
CO2排出量(kg)
ペットボトル
ワンウェイびん
リターナブル2.5
リターナブル5
リターナブル20
製造
製造輸送
廃棄
廃棄輸送
アルミ缶
スチール缶3P
スチール缶2P
紙容器
紙容器バイオ
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飲料容器系の方向性

ペットボトルは





これまでの軽量化の方向性は正しい
加えて、メカニカルリサイクルの実現
リユースは、安全性確保という意味と、資源効
率面の両面で、オープンリユースは難しい
宅配のリユースはあり得る
ガラスびんのリユース



ローカルなリユースを推進
業務系のリユースをキャンペーン
デザインボトル入りで付加価値
58
メカニカルリサイクルとは
=水平リサイクルのこと
ペットボトルを破砕
 極限まで洗浄
 高温・減圧処理で有機有害物の除去
 ペレット化
 バージンPET樹脂と混ぜて、再度ボトルと
して使用
またまたリスクゼロ思想とバッティング

59
反リサイクル主張の誤謬



反リサイクルの主張
「ペットボトルを新しく作ると10円。しかし、
再生ペット樹脂で作ると30円かかります」。
だからリサイクルは環境負荷が高い。



コスト的に見て環境負荷が高い
輸送の環境負荷は高い
人力の環境負荷は高い
60
日本にとっての希少元素

世界の希少元素の半分は日本で使用





ネオジム、ディスプロシウム:ハイブリッド車のモー
ター用磁石:ほぼ全量中国から輸入
インジウム:液晶の透明電極:中国が多い
コバルト:リチウム電池の電極用:フィンランドなど
から輸入
リチウム:リチウム電池用:チリからの輸入が大部
分
ロジウム:自動車触媒用:南アフリカからの輸入が
大部分
61
希少元素のリサイクルは不十分




コスト的に合わない
以前存在していた精錬業が日本から消滅
しつつある
精錬業がなくなると、リサイクル技術も同
時に消える
中国との奪い合いになると、将来どうなる
のだろうか???
62
エネルギー使用量の長期推移
Ultra-Long Term Scope Fossil Fuel
Fossil Fuel Era
500 Years
BC 10,000
AD 10,000
63
結論




そろそろ3Rも根本的な発想の転換が必須
EUは3Rでは遅れていたが、また、抜かれた
方向性は、資源有効利用を拡大
手法は、3Rそれぞれの有効な活用




ゼロリスク思想とのバッティング
そのため、俯瞰的リスク管理、俯瞰的LCA
これは、日本社会にとって難しい
市民、行政、事業者3者の同時変革が必要
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