2010年度東大農経院 手法別分析事例集 パネルデータ編 2010年6月24日 有本寛 (一橋大学) 相関関係の発見 因果関係の識別 データの関係性を掴む:回帰分析の性質 因果関係の識別 選別バイアスとconditional independence assumption マッチング 回帰分析 ランダム化対照実験 重回帰分析 傾向スコアマッチング パネルデータ分析 操作変数法 2 欠落変数バイアス Si Ai yi 3 操作変数 × zi Si Ai yi 4 例 • アメリカの義務教育 – 入学:6歳になるカレンダー年 – 義務教育:16歳の誕生日まで • 生まれ月が早いほどドロップアウトしやすい 5 z s :誕生月と教育年数 6 z y :誕生月と賃金 7 目次 – Lin (1992 AER):集団耕作の非効率性 – Cutler and Miller (2005):上水道と死亡率 – Bleakley (2003): マラリア・鉤虫と就学率 – Banerjee et al (2002):小作権強化と生産性 8 Lin, Justin Yifu (1992) “Rural reforms and agricultural growth in China” American Economic Review 82(1):34-51. 9 概要 • 中国農業部門の成長(1978-1984): – 政府買上価格の引き上げ – 集団耕作 (個人の責任による)生産責任制 – 肥料供給の改善 • 生産責任制の導入が農業成長の要因か? • 省レベルパネルデータ (28省×(1970~1987年))による 生産関数推計 10 生産責任制 生産性向上? • 集団農場 – 20-30戸の近隣農家で形成 – 収益は等分に分配 • インセンティブ問題(チーム生産のモラルハザード) • 1978年ごろからなし崩し的に個別耕作に移行 • 1981年に生産責任制公認 – 15年を上限に農地を個人に貸し付け – 一定量を供出した残りは自由に販売できる 11 推計式 12 推計結果 13 14 成長会計 15 結論 • 1978-84年の農業生産額の成長の半分が, 生産責任制によって説明できる • 日本農業へのインプリケーション – 集落営農=集団耕作,生産性が下がる? • ただし,集団生産には正の効果も考えられる – 規模の経済性 (Lin and Yang 2005 JPE) – 農地の集積 16 中国大飢饉(1959-61)の要因分析 • Li and Yang (2005, JPE) • 大躍進政策(1958~1960年) • 飢饉(1959~61):1650~3000万人が餓死 – 天候不順 – 集団農場からの脱退の禁止 – 農業部門から工業部門への資源(労働力)移動 – 政府による穀物の調達(供出)過剰 • 州レベルパネルデータ(1952~77) 17 Li and Yang (2005, JPE) 18 Li生産チームの規模は+で有意 and Yang (2005, JPE) モラルハザード<規模の経済性 ? 19 差の差 • 差の差 – Cutler and Miller (2005):上水道と死亡率 – Bleakley (2003): マラリア・鉤虫と就学率 – Banerjee et al (2002):小作権強化と生産性 20 背景 • アメリカ:1900~1940年,死亡率が激減 • “epidemiological transition” – 感染症の減少 – “urban penalty”の解消 • その理由? – 公衆衛生上の介入に注目 • 水質改善技術:濾過と塩素消毒 – 上水の普及と死亡率減少の因果関係を検証 21 死亡原因の変化 • • • • • • • • • • • 結核 肺炎 下痢・腸炎 腸チフス 髄膜炎 マラリア 天然痘 サナダムシ 連鎖球菌による高熱 百日咳 ジフテリア・喉頭炎 22 水質改善技術の導入のタイミング 23 推計 • 13都市×(1900~1936) • 推計式 24 腸チフスによる死亡率 25 26 27 非感染症には効果なし 28 介入前後の効果 一部で介入に先行した「効果」あり 29 文盲率が高い=貧しい 地域ほど 水質改善技術による効果が大きい 30 まとめ • 「処置」開始のタイミングの地域差で識別 – 同時点で,処置群と対照群が観察可能 – かつ時系列方向にも観察可能 • 水質改善技術の導入死亡率の減少 • 貧しい地域ほど効果があった 31 Bleakley (2003) “Disease and development: evidence from the American South” Journal of European Economic Association 1(2-3):376-386 32 背景と課題 • 疾病は低開発の原因か? – Sachsの議論 – 内生性:疾病経済成果? • 事例:20世紀前半のアメリカ南部 – 疾病:マラリア,鉤虫(コウチュウ) – アウトカム:就学率,所得 • データ: – 国勢調査の個票 33 「処置」 • 鉤虫 – 1890年代に感染メカニズム発見 – 1910年に鉤虫撲滅キャンペーン • マラリア – パナマ運河建設で対策の知識を蓄積 – 1920年代ぐらいから対策開始? 34 識別 • 地域によって事前の感染率に差があった • 撲滅作戦の開始は外生 – 知識の獲得が外生 • よって,「処置」の開始は一律だが, その効果(アウトカムへの影響)は 事前の感染率(問題の深刻度)に依存する 35 36 37 38 • 子供時代の「処置」の暴露期間が長いと, 効果も大きいか? • 同じ地域内,異なるコホート間,で比較 地域 年 39 結論 • 疾病対策は,就学を向上させる効果があった • その結果,所得が上昇した • アメリカ北部と南部の所得格差の1/4,収束 幅の1/2は疾病(対策)で説明できる 40 • 政策のバリエーションが2方向 – 時系列×クロスセクション – 通常のDIDが可能 • 政策のバリエーションが時系列方向のみ – クロスセクションの比較ができない – 「処置」の受け手のバリエーションを使って識別 することを考える可能 41 Banerjee, Gertler, Ghatak (2002) “Empowerment and Efficiency: Tenancy Reform in West Bengal”, Journal of Political Economy, 110(2):239-280 42 モチベーション • WWII後,世界各地で農地改革が盛んに行わ れている ↓ 農地改革は農業生産性に影響を与えるか? • 目的:農地改革が農業生産性を向上させる かどうかを定量的に検証する 43 研究の概要 • 事例:インド・西ベンガルのOperation Barga • 仮説:小作権強化 → 生産性↑? • 検証 – 1.バングラとの比較DID推計 – 2.プログラム強度を使ったFE推計 • 結果 – 西ベンガルで有意に生産性↑ – プログラム強度が高いdistrictで生産性↑ 44 論文の構成 • • • • Sec II: Operation Bargaの概観 Sec III: 仮説:理論モデル Sec IV: 実証結果 Sec V: 結論 45 Operation Barga • 1955年 Land Reforms Act – 小作権の強化(恒久かつ相続可能) – 小作料上限規制:25% – 抜け穴:地主自作理由で取り上げ可能 • 1975年 West Bengal Land Reforms Act – 地主自作による農地取り上げの基準を厳格化 • Operation Barga(1979~) – 小作農の登録を推進するプログラム 46 仮説 • Operation Bargaは生産性を向上させる • 交渉力効果:75%の取り分を請求できる – 小作人の取り分比率↑ → インセンティブ↑ • 小作権の強化: – さぼったときクビにできない → インセンティブ↓ – 投資↑ → 生産性↑ 47 検証1:バングラとの比較 • バングラは独立以前は西ベンガルと同じ州 • データ:districtレベルのパネルデータ – 西ベンガル:N=14; – バングラ:N=15;1963~93年 • 手法:Difference-in-difference 48 before-after比較 49 処置以前には 差はない DID推計結果1 50 DID推計結果2 51 検証2:プログラム強度 • プログラム強度=districtの小作農登録率 52 FE推計結果 53 結論 • 小作農の取り分と耕作権↑ → 生産性↑ • Operation Bargaは,農業生産性の成長率の 28%を説明する 54 ちなみに・・・日本では • 戦後の農地改革(川越,1995『経済研究』) • 政府が地主から買い上げて小作農に売り渡 し(自作農主義) – 小作地率:45% 14%(1949) – 自作農比率:31%62%(1950) • 残存小作地も小作権を強く保護 55 相関係数:r=-0.255(有意差なし) 56 戦前 • • • • Arimoto, Okazaki, Nakabayashi (forthcoming) 戦前(1915~1937) 都道府県レベルのパネルデータ 小作地率と反収の関係 – share: 刈分小作が多かった県 57 58 いくつかのヒント • 処置のタイミングやスピードの地域差,個体 差を探す • 処置の地域差・地域差がない場合は,処置 の受け手の特徴から,処置の効果に差が生 じる余地がないか考える • 因果関係のルート(メカニズム)から検証可能 な仮説を考えて,できるだけ検証する 59 今週の課題 • 先週提出した課題と仮説について – どのようなデータがあれば原因と結果の相関関 係を捉えられるか(今回は,そのようなデータの 有無は調べなくてよい) – その相関関係から因果関係を主張するにあたっ て,選別バイアス,欠落変数の観点から,どのよ うな内生性の問題が考えられるか をA4二枚以内で書いてくること 60
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