第12章 貨幣の3つの機能

第12章
貨幣の3つの機能
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貨幣の歴史(p.215-)
• 貨幣の歴史は文明の歴史と同じほど長い。
• 貴金属(特に銀)を貨幣として用いた記録
(メソポタミアやエジプト、BC2000年)
• 貴金属をコインとして用いたのは小アジア
(現在のトルコ)のリディア王国が最初、金
と銀の自然合金
• 公式の紙幣の最初は中国(1189年)
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貨幣博物館(おすすめ)
• 無料です
• 休館日:月曜日、祝日
• 日本銀行の横です
• いろんな貨幣が展示さ
れています
• リディア王国の最初の
コインもありました
http://www.imes.boj.or.jp/cm/htmls/index.htm
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貨幣の歴史(p.216-)
• 西洋での最初の「紙幣」はスウェーデンの
銀行券(1656年)
• 西洋での、政府発行の最初の紙幣は、英
領植民地のマサチューセッツが発行した信
用手形(1690年)
• 1971年まで、紙幣とは(建前では)「金や銀
などの貴金属と兌換(=交換)を政府が保
証していた」。⇒ニクソン・ショック(1971年)
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ニクソン・ショックの意味
• 1971年を境にして、巨大化する経済取引
は、貴金属による価値の裏付けを持たな
い純粋な「信用貨幣」(=つまり、ただの紙
切れ)に委ねることになった
• なぜ「信用貨幣」が用いられるのに、こんな
長い歴史(=4000年マイナス30年)が、か
かったのだろうか?
• 貨幣の経済的役割の検討
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Richard M. Nixon (1913-1994)
• 第37代米国大統領
1969-1974
• ニクソン・ショック
• 中国訪問
• ウォーターゲート事
件
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ちなみに、ウォーターゲート事件
• ウォーターゲート事
件(Watergate
Scandal)を知るた
めの映画としてお
薦めなのは「大統
領の陰謀」(主演:
ダスティン・ホフマン
&ロバート・レッド
フォード)
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貨幣の3つの機能
• ①価値の尺度
• ②交換の媒体
• ③価値の貯蔵手段
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交換の媒体としての貨幣
• 物々交換の経済では交換が実現するため
には「欲望の二重の一致」条件が満たされ
る必要がある(ジェボンズ)。
• 欲望の二重の一致(Double Coincidences
of Wants)とは?
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欲望の二重の一致
私はバナナ
を持っていて、
オレンジと交
換したい
私はオレンジを
持っていて、バナ
持っているが、リ
ンゴと交換したい
ナと交換したい
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欲求の二重の一致を満たすの
は大変!
• サーチ(search、探索)費用がかかる
• 自給自足のほうがいい?
• 特殊な財・サービスを生産すると交換相手
が見つからない?
• しかし、貨幣を媒介とした交換が可能にな
ると、「欲求の二重の一致」条件が不要に
なる!
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さらに、
• 貨幣は保存がきくので、「価値の貯蔵手
段」ともなる
• この機能があるので、「所得を得る時点」と
「支払いを行う時点」を分離することが可能
になる
• つまり、貨幣が存在するおかげで、「市場
経済の発展」と「職業の専門家、分業化」を
促進する
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交換の媒体としての貨幣
• Kiyotaki and Wright (1993)
• 交換経済に100人が存在し、それぞれが異
なった財を生産している
• 毎期、二人の者が偶然にでくわし、両者が
納得したときだけ「物々交換」する
• ある者にとっては全員のうち10%の人々が
生産している財は欲しい
• ある者が生産する財は全員のうち10%の
人々だけが欲しい
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Kiyotaki and Wright (1993)
• 二人(AとB)が出会うとき、Aが生産する財
がBの消費に適する確率は10%
• Bが生産する財がAの消費に適する確率は
10%
• 物々交換が成立するためには、上記の両方
が起きる必要がある
• そこで、交換が成立する確率は10%×10%
=1%(厳しい!)
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Kiyotaki and Wright (1993)
• 「貨幣」の導入
• Aは、他の99人が、ある確率で決済手段と
して「貨幣」を受け取ると予想し、その予想
の下で、A自身が「貨幣」を受け取るかどう
かを決めるとする
• さて、Aは「貨幣」を受け取るべきか?
• 極端な例から考えてみよう!
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Kiyotaki and Wright (1993)
• 99人が受け取る確率が0%と予想した場合: 他
の人が貨幣を受け取らないから、自分も受け取
らないのが正しい(合理的な予想)
• 99人が受け取る確率が100%と予想した場合:
他の人は貨幣を受け取るから、自分も受け取る
のが正しい(合理的な予想)
– だれもが貨幣を決済手段として認めた場合には、貨
幣に信用が生まれて、決済手段として定着する
• では、貨幣が決済手段として認められる場合に
は交換が成立する確率はどうなるか?
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Kiyotaki and Wright (1993)
• 貨幣を使うので、Aが「Bの生産物」を交換OKと
考えるか、もしくは、Bが「Aの生産物」を交換OK
と考えるか、のどちらかが成立すればよい
• つまり、100%-(AもBもお互いの生産物を拒否
する可能性)になる
• Aが「Bの生産物」を拒否する確率は90%、Bが
「Aの生産物」を拒否する確率は90%、つまり、両
方が拒否する確率は90%×90%=81%
• であるから、貨幣による交換が成立する可能性
は100%-81%=19%
• 物々交換の1%から19%と増加した
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Kiyotaki and Wright (1993)
• さらに、貨幣が「生産の分業化・専門化」を
促進することを説明した(省略)
• 「交換の媒体」としての貨幣の機能
• さて、「価値の尺度」という機能は、「交換
の媒体」という機能の必要条件である
• なぜ?
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Banerjee and Maskin (1996)
• Aがアップルを生産し、Bがバナナを生産すると仮定
• 「欲望の二重の一致」の代わりに、Aはとにかくバナ
ナをもらっておいて、後からバナナが欲しい人と交
換をするというやり方は考えられないか?
• このやり方は不可能になることをBanerjee and
Maskin (1996)が考察した
• 相手が持ってくる財について「品質に関する情報」を
幅広く持っている必要があるから
• 質がわかる人は、「高級品」を貯めて「低級品」のみ
を取り引きする⇒「低級品」のみ流通(逆選択問題)
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Banerjee and Maskin (1996)
• 「低級品」のみ流通という問題を解決する
には、品質の差が最も少ない一つの財を
貨幣として採用するのがよい
• 品質の差が最も少ないので、誰もが品質
の評価が同じになる
• つまり、貨幣1枚の価値はだれでも評価で
きるからである
• 「価値の尺度」⇒「交換の媒体」
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グレシャムの法則
• イギリス人の財政家・貿易家
• 『悪貨は良貨を駆逐する』
• “Bad money drives out good.”
• 「優良な硬貨」を見分けられる人は貯めこ
むので、「不良な硬貨」ばかりが流通するこ
とになるという法則
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Banerjee and Maskin (1996)
• 硬貨の有用性
– 1)アルキメデスの原理を利用した鉱物の重量
測定法の発達⇒まがい物のチェック
– 2)コインの縁にギザギザを刻み込む鋳造術
の発達⇒縁を削って量を少なくするとわかる
• でも、わざわざ金や銀に貴重な労働力を
使わなければいけない
• 紙幣の印刷なら比較的容易!
• 高度な印刷術により品質情報問題OK
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アルキメデスの原理(BC3世紀)
• この法則が発見されるまでの故事:
• ヘロン王が金細工師に金を渡し、純金の王冠を作らせた。ところが、
金細工師は金に混ぜ物をし、王から預かった金の一部を盗んだ、と
いううわさが広まった。そこで王はアルキメデスに、王冠を壊さずに
混ぜ物がしてあるかどうか調べるように命じた。アルキメデスは困り
果てたが、ある日、風呂に入ったところ、水が湯船からあふれるのを
見て、その瞬間、アルキメデスの原理を発見したと言われる。このと
き浴場から飛び出たアルキメデスは「エウレカ(Eureka)、エウレカ」
(分かったぞ)と叫びながら裸で走っていったという伝説も残っている。
• アルキメデスは金細工師に渡したのと同じ重量の金塊を用意し、金
塊と王冠のそれぞれを、ぎりぎりまで水を張った容器に入れた。する
と、王冠を入れると、金塊を入れたときよりも多くの水があふれ、金
細工師の不正が明らかになった。金細工師の名は知られていない
が、その後死刑になったと伝えられる。
• 偽造硬貨が容易にわかる
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Banerjee and Maskin (1996)
• 貨幣を印刷するのが効率的なのだが、政
府が生産費ほとんどゼロの「信用貨幣」を
印刷する特権をもつと、悪用する可能性が
ある
• 政府が信用貨幣を増発しすぎると、信用貨
幣の価値が減少して、交換の媒体として所
有している経済主体が損失をこうむる
• 行き過ぎると、経済主体は物々交換に戻
ることもある
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シニョレッジ(Seignorage)
• 「信用貨幣」の発行権から得られる利益の
ことをシニョレッジと言う
• 金塊・銀塊を鋳造貨幣にするときの手数料
• ところが、印刷された紙切れである信用貨
幣には、「政府の信用」だけがその信用を
支える
• 政府が紙幣発行で自由にモノが買えるよう
になったのは1971年8月16日以来
• なぜ?
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Ritter (1995)
• 信用貨幣の発行は一部の主体に限定されなけ
ればならない(誰もが発行するのは駄目)
• 政府が信用貨幣を発行する場合
– ①「政府」の利益が国民全体の利益と合致する必要
がある
• 封建領主や専制君主は国民のことを考えなかった
– ②「政府」は長期的視野を持つ必要がある
• 政府の財政基盤が安定しないと長期的視野をもつことができ
なかった
• じつは20世紀でも②は満たされないこともあった
⇒ハイパー・インフレーション(第13章)
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マークシートのアンケート
(HBの鉛筆を使用します)
書き込んでください。
解答に使用します。
学年とクラスの指定を無視して、
10桁の学籍番号を左から埋めてください。
間違った場合には出席になりません!
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問題①
• ニクソン・ショックは何年に起きたでしょうか?
1.1951年
2.1961年
3.1971年
4.1981年
5.1991年
問題番号の1の下の1~5までの選択肢から一
つをマークしてください。
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問題②
• 次の4つから貨幣の3つの機能にあてはまら
ない選択肢を選びなさい
1.価値の尺度
2.交換の媒体
3.価値の貯蔵手段
4.政府の収入手段
問題番号の1の下の1~4までの選択肢から一
つをマークしてください。
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問題③
• グレシャムの法則とは何ですか?
1.物体を水中に浸すと、物体はその水面下の部分と同体
積の水の重さに等しい浮力を、周囲の水から受ける。
2.悪貨は良貨を駆逐する
3.欲求の二重の一致
4.ポンジーのゲーム
5.ケインズの美人投票
問題番号の1の下の1~5までの選択肢から一
つをマークしてください。
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マークシート用紙を後ろから集
めてください
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