手紙とコミュニケーション 東洋大学社会学部メディアコミュニケーション学科 今井 聡〔関谷ゼミ〕 問題提起 • 現代において様々なコミュニケーションツールが 存在する中で、「手紙」という原始的な伝達手段 が活躍しているのはなぜか? • 「手紙」は、時代によって存在意義を変化させな がら生き残ってきた。それぞれの特徴をまとめな がら、現代における手紙の社会的意味を考えて いきたい。 手紙の定義 • 「手紙」とは、特定の相手に対して情報を伝達するため の文書のことである。「信書」、「書簡」などとも呼ばれ、 古くは「書状」、「消息」とも呼ばれた。 特定されている→「手紙」 不特定多数→「チラシ」 • 手紙に記される内容は礼状、招待状、ダイレクトメール、 ファンレターなど、様々である。手紙がコミュニケーション 手段として利用されるには、受信側・発信側双方の識字 率の高さ、用紙の入手のしやすさ、運搬者の確保などが 条件である。 日本の手紙事情 • 現代日本では、電話(携帯電話)やFAX、電子 メールの普及により、文書を直接渡す方式の手 紙の需要は低下している。しかし、各種契約など の重要な事柄は書面原本でやりとりされること が多く、その際には内容証明などの送達手段が 用いられる。 • はがきなどに季節の事物などの絵を描き、メッ セージを添えた絵葉書や絵手紙も近年流行して おり、これは情報を相手に伝えようというよりは 絵と文字で相手を楽しませるために送付する。 伝達手段の進化 • 通信は、情報をよりはやく、より大量につたえる ことを目指して発達してきた。人間が言葉や文 字で情報を届ける時代から、電波で届ける時代 へと進歩し、今ではコンピューターの登場で、情 報を符号化して送ることが可能になった。通信 衛星や光ファイバーケーブルと結んで、通信の ネットワークができた。 • 時代の変化とともに姿を消した瓦版やポケベル といったメディア媒体がある一方で、新聞やラジ オなどは現在でも大きな役割を担っている。 印刷媒体との比較① • 新聞などの印刷媒体には大衆性がある。 ⇔手紙は一般的に送り手と受け手が特定される。 • 文字を利用している点では共通しているが、書 かれる内容は全く異なる。 ⇒利用される目的そのものが違う。 • どちらも紙を使用しているため、長期的にそのま ま保存できる記録媒体である。 印刷媒体との比較② • 新聞の誕生と郵便制度の発達は時期的に同じ である。また原型である瓦版や飛脚の活躍時期 も大して変わらない。 しかし手紙には江戸より以前にも数多くの歴史がある。 • 政治が発達し、法律や制度を庶民が知るために 誕生した大衆向けの媒体とは異なり、手紙という 特定の送り手と受け手が存在するコミュニケー ションツールはずっと昔からある。 テレビとの比較 • テレビには、メディアとしての • 手紙には絵などの挿絵がある 影響力が大きい。大衆性とい とはいえテレビのような映像能 う面では新聞などと同様だが、 力はないし、音声もない。しか 文字の他に映像や音声を使 しテレビとは違って手紙には 用するという点で、新聞などの 無限の可能性がある。 ⇒そこに書かれた文字から、 印刷媒体とは違った特性を もっている。テレビで放映され 受け手が内容を理解し想像し た情報は瞬時に国民に広がり、 ていくことで、映像や音がなく それが世の中の流行などを ても、それ以上の伝達能力を 作っていく。 発揮する。 ⇒テレビは現代を映す鏡なの もちろん、このような伝達能力 ではないか。 が発揮できるのは、手紙という コミュニケーションツールが、 特定された間でのやりとりだか らである。 ラジオとの比較 • ラジオに関しては現在の存在意義を考えると、テレビと似ている部 分が大きい。それに加えた特徴としては、 ①災害時などにその状況を知るための手段 ②被災者が親戚に無事を伝えたりする為の伝言板 このような役割を担っている。 • また、日本ではラジオの発達当時今のようにラジオの概念がしっか りとしていなかったので、電話のような特性としてもとらえられていた かもしれない。 • 何よりここで比べていきたいのは、アメリカでは発達当初アマチュア 無線家たちの「ネットワーク」という側面のほうが中心だった。 ⇒今のように不特定の大衆に向けて放たれる電波メディアではなく、 個人などの特定された間でやりとりがされていた。 これは手紙がもつ概念と似てる。 固定電話との比較① • 固定電話は、器械から器械へと声が伝わってい く。相手の声が直接聞こえる電話は非常に親近 感のあるコミュニケーションツールである。まるで 相手がすぐそばにいるような感じもする。 • 手紙は書いたものが送り手から受け手に直接届 く。文字などによって相手の雰囲気は伝わるが、 受け手の感じ方が大きく関係してくる。 固定電話との比較② • 共通点・・・お互いに特定された相手とのコミュニ ケーションである。 ⇒利用する場合、誰に伝えるかは決まっている。 • そして、固定電話にはFAXといった手紙に似て いる伝達手段がある。 ⇒ 固定電話は、すでに挙げた印刷媒体や大衆向 けメディアよりも手紙に近いメディアである。 携帯電話との比較① • 電話機能については、固定電話の特徴と ほぼ同じである。 ⇒それに加えて、携帯電話ではいつでもど こでも利用でき、持ち運びもできる。 • 他の機能については最近さまざまな付加 価値があり、TVなども見れるようになった。 携帯電話との比較② • メールも手紙も個人に届くように住所やアドレスがあり、 それを利用すれば相手にちゃんと届く。しかし個人情報 が悪用されてしまい業者などから悪質な手紙やメールが 届くことがある。最近では法律が整備されたり、防犯の 機能が充実して、それらを回避できるようになってきたが、 まだ見直しが必要である。 • 携帯電話のメールでは、手紙の機能である文字によって 相手に情報などを伝える他に、絵文字やデコレーション によって、より個性的なものへと変えることができる。 しかしながら、手書きの文書の温かみも、それらに負け ないよさがあるのも確かだ。 人は手作りなどに親近感や情を感じやすいもの である。 インターネットとの比較 • インターネットにもメール機能がついている。 ⇒個人間の特定されたコミュニケーションができ る。 • 手紙は古くからある伝達手段であるのに対して、 インターネットはごく最近発達したメディアである。 ⇒その歴史からすれば、手紙の方が伝達手段・ コミュニケーション機能として重要だと感じるが、 インターネットの可能性は、はかりしれないもの がある。 • 伝えたい情報を一瞬にして、個人や大衆に発信 できるインターネットは手紙だけでなく、すべての メディア機能をもった集大成といえるだろう。 現代における手紙の意味 (1)なぜ誕生したのか • 人類は、他の生物とは異なる成長をしてきた。 脳が発達し意志をもつようになり、それを相手に 伝えるために言葉や文字が誕生した。それは、 やがて現在の手紙という形に進化していく。 • なぜ誕生したかといえば、人類が文明をもつよう になり、他人に伝える事が必要となった為、ある 意味必然と絵や文字が開発され文章に発展し、 それを相手にきちんと伝え、同じことを共有する ようになったからである。 現代における手紙の意味 (2)なぜなくならないのか① • 社会的な角度からみてみると、現代のビジネス 界はIT化が進み、情報がデジタル化されてやり 取りされるケースが多い。しかしながら、重要な 文書や契約書といったものは現在でも紙媒体を 通しておこなわれているのがほとんどである。 これはつまり、手紙のもつ信頼性や保存能力と いったものを活かして利用している例といえる。 情報が大量にあふれている現代において、手紙 の持つ信頼性というのは個人間のプライバシー を保護する上でも重要な役割を持っている。 現代における手紙の意味 (2)なぜなくならないのか② • 年賀状や季節の挨拶など、形式的な手紙のやり とりにおいて、携帯電話やインターネットが普及 した現在、手紙を利用するよりも早く安く簡単に 相手にあいさつする方法があるのになぜ手紙を 利用するのか。 ⇒そこにはもはや、便利さといった概念はなく、 日本人の特徴でもある伝統や形式を大切にしな がら守り、伝えていくという文化が存在する。 • 相手のことを考えながら自分の思いを文字に して相手に手紙を送る。この行為から生まれた 手紙はもはや芸術品といっても過言ではない。 手紙に求められているもの ① • 近代に入ると、新たな情報伝達手段やコミュニ ケーションツールが登場してくる。それらの中に は、手紙と同じような機能を果たし、手紙よりも 便利なものもある。しかしながら手紙というツー ルは消えることなく、現代においても様々な場面 で役立っている。そこには、手紙の持つ情報を 相手に伝える機能の他に、社会的な信頼性や 保存性、相手とのつながりを感じられる不思議 な力があるのだろう。 手紙に求められているもの ② • その不思議な力とは手紙を相手から受け取る ことによって、その間に生まれる情報の共有や 相手との心の距離を感じ、送り手に対し親近感 を抱くことだと考える。送り手が受け手に対して、 手紙を書くために費やした時間や、手間を感じ 取れるので、他のコミュニケーションツールとは 違った良さがある。 • 自分宛に送られてきた過去の手紙を読み返すと、 ふと昔の記憶を思い出したりするし、手紙のもつ 隠れた力はすごい。 これからの手紙 • 手紙という伝達ツールは、日本において他国にはない 人々の心への密着をしていると思う。 現代において情報を伝えるという面では劣等生である 手紙も、思いを伝えるという点では優等生である。 年賀状やラブレターをもらったら嬉しいし、それはモノと して残るだけでなく、心にも残るのだ。 • これからも手紙は時代に合わせて存在意義を変化させ ながら、人々の生活に関わってくるであろう。 これほど素晴らしい価値をもち優れている 情報伝達ツールは過去にも未来にもない かもしれない。
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