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わが国企業および産業における
IT投資の効果発現メカニズムについて
micro-macro linkagesに関する日米比較
実積 寿也(長崎大学)
三友 仁志(早稲田大学)
鬼木 甫 (大阪学院大学)
1
研究の背景
米国におけるIT生産性パラドクスの「発生」と「解消」

IT投資の効果に関する研究は、米国において1970年代以降、労働生産性・総
要素生産性(MFP)の成長が停滞した一方、増加が著しいIT資本の経済成長
への貢献が有意に計測できなかったことにはじまる。
You can see the computer age everywhere but in the productivity statistics.
(Solow, 1987)

その後、1990年代後半より、労働生産性、多要素生産性が急激に改善されつ
つあり、IT生産性パラドクスの存否にかかわる議論は下火に。
他方、わが国では、IT投資自体は積極的に進められてはきたものの、米国
に見られたような労働生産性の急改善等は観察されず、米国とは対照的
に依然としてIT生産性パラドクスの下にあると解釈できる状況がある。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
2
IT投資経済効果の格差(Dewan & Kraemer 2000)
The orthogonal components are the
residuals obtained by separately
regressing the average GDP per
worker and the average IT capital per
worker against two control variables
(non-IT capital per worker and the
number of workers).
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
3
プロジェクトの目的
個別企業のIT化がミクロ的効果を生み、さらに集約されてマクロ経済指標
にインパクトを及ぼすメカニズム(micro-macro linkages)の解明

「生産性パラドクスを克服した後、生産性向上を謳歌している米国企業・経済の
シナリオは、わが国においても成り立つのか? あるいはわが国では別のシナ
リオが成立するのか?」
特に今回の報告に係る目的は以下の2点

プロジェクトの準拠する分析フレームワークの紹介
Micro-macro linkagesを左右する制約要因の指摘
制約要因に関する日米対照

わが国企業を対象とした実証分析の結果の提示
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
4
本報告の結論:実証分析から得られた知見
IT投資はわが国においても生産に対してプラスの貢献をしている。

IT投資の効果がそのコストを上回っているか否かは不明
IT化を順調に進めるための周辺環境整備施策が所期の効果を挙げていな
い。

IT化を順調に進めるためには、企業・産業の行動パターン自体を変える必要が
ある。
IT投資は企業の収益性に有意な影響を与えていない。

IT投資の果実は競争メカニズムを通じて消費者にきちんと還元されている可能
性がある。
日米の産業構造の差が、両国のIT投資のマクロ経済への顕われ方に影響
している可能性がある。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
5
IT化が経済に及ぼす影響
情報通信技術(IT)の進歩
ムーアの法則:コンピュータチップの集積度は18ヶ月で2倍
ドッグイヤー、マウスイヤー
IT供給産業
IT機器製造業
通信事業者
コンテンツ製造者
生産性向上
製品の高性能化
低価格化
経済の拡大
IT利用産業
IT化投資
IT機器
IT消費
効率化・コスト削減・生産性向上
新商品・新サービスの提供
既存商品の高品質化・低価格化
消費者ニーズへの対応
ビジネスモデルの転換
非IT消費
IT消費財
消費者
個人の情報武装
需要の高度化・多様化
Prosumer化
メトカーフの法則:ネットワーク化された
コンピュータは接続台数の二乗に応じた
能力を発揮する。
新商品
新サービス
生産拡大による経済規模の
拡大
生産性向上による一人当たり
の所得の増加
産業構造の転換
IT供給産業の拡大
IT化への対応に成功した
産業のシェア拡大
IT化への対応に失敗した
産業の衰退
雇用構造の転換
生産性向上による雇用削減
生産拡大による雇用増大
IT関連職種の拡大
IT非関連職種の縮小
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
6
IT化が社会に及ぼす影響
IT投資
経済メカニズムのIT化
情報通信技術(IT)の進歩
メトカーフの法則:ネットワーク化されたコン
ピュータは接続台数の二条に応じた能力を
発揮する。
ムーアの法則:コンピュータチップの集積度は18ヶ月で2倍
ドッグイヤー、マウスイヤー
IT供給産業
IT機器製造業
通信事業者
コンテンツ製造者
経済の拡大
IT利用産業
効率化・コスト削減・生産性向上
新商品・新サービスの提供
既存商品の高品質化・低価格化
消費者ニーズへの対応
ビジネスモデルの転換
IT化投資
生産拡大
生産性向上
製品の高性能化
低価格化
生産拡大による経済規模の拡
大
生産性向上による一人当たりの
所得の増加
産業構造の転換
IT供給産業の拡大
IT消費
非IT消費
生産拡大
IT化への対応に成功した
産業のシェア拡大
IT化への対応に失敗した
産業の衰退
生産拡大
消費者
雇用構造の転換
個人の情報武装
需要の高度化・多様化
Prosumer化
政治・社会メカニズムのIT化
社会のあらゆる局面におけるIT化
公的サービス:
社会福祉、老人介護、電子政府
教育:遠隔教育、インターネット大学
医療:遠隔医療
政治メカニズム:選挙、国民投票
生産性向上による雇用削減
生産拡大による雇用増大
IT関連職種の拡大
IT非関連職種の縮小
高度情報通信ネットワーク社会
インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情
報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信することにより、あらゆる分野
における創造的かつ活力ある発展が可能になる社会
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
7
IT投資による経済効果の波及経路(micro-macro linkage)と
その制約要因
企業内のIT投資効果発現経路
[Micro-level Mechanism]
IT投資の実施
投資効果の発現
(Product/Process Innovation)
生産性・収益性の向上、環境負荷の軽減
今回前提として
いる因果関係
IT投資決定モデル
の内生化
Micro-level Mechanismの制約要因
IT投資の潜在能力:
技術自体の価値
投資目的
e.g.広告・宣伝目的では、マクロ効果は見込めない
Conversion Effectiveness(企業内の環境整備)
IT化は個人の情報処理能力の向上とともに、協同作
業の効率性を著しく向上させるため、新たなビジネス
モデル、組織形態を要求する。
Macro-level Mechanismの制約要因
産業・経済レベルのIT投資効果発現経路
[Macro-level Mechanism]
競争、Value-chain等を通じた効果波及
経済全体の生産性の向上、環境負荷の軽減
経済環境の変化
産業内/間の競争環境:
IT化に先行した企業のレントの持続可能性を左右
e.g.参入障壁の大きさ、知的財産権の保護の程度
産業構造:
生産物の品質向上・価格低下による波及効果
特定産業の生産性改善による中間投入物の増大
ネットワーク外部性、環境負荷軽減等の外部経済
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
8
制約要因に関する日米格差の存在
米国における先行研究の成果
日米格差の存在(当初の想定)
IT投資の潜在能力
IT資本の付加価値弾力性、Gross
Marginal Productは有意にプラス。
Net Returnについてもプラスであると
推定される。
(Hitt & Brynjolfsson 1996)
IT技術の技術伝播は急速かつ普遍
的であり、日米格差は存在しない。
従って、IT資本は生産に対して同程
度のプラスの貢献をしている。
Conversion
Effectiveness
IT投資、労働者の高技能化、企業組
織変革(権限委譲、チーム活動)の間
には正の補完性がある。
(Bresnahan et al. 1999)
IT化に伴う企業内環境の整備は、経
営方針・企業文化と密接に関連して
いる。従って、最適施策の選択につい
ては日米格差は存在する。
競争環境
IT投資は個別企業の収益性に有意
な効果をもたず、その代わりに大きな
消費者余剰を生み出している。(⇒充
分な競争環境下にあることを示唆)
(Hitt & Brynjolfsson 1996)
法的規制の格差は消失しつつあるが、
一部産業では業界自主規制など実
効的な参入障壁の格差は残存。わが
国の企業はIT投資に由来するレント
を長期的に享受しうる可能性がある。
産業構造
Domar Weightによる分析がある。
日米の産業構造は明らかに同一では
ない。
vq
 log MFP  i i  log m fpi
VQ
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
9
わが国企業を対象とした実証分析
本邦企業のIT投資に係るデータを収集し、米国先行研究との比較を行う。
分析に使用するデータセットについては、以下の二種類の収集方法で得
られたデータを統合。

サービス業
情報サービス・ 5.1%
調査業
1.0%
電気・
ガス・
熱供
給・
水道業
2.1%
本邦上場企業の全社を対象に2000年1月
に実施
通信業
0.5%
その他
3.1%
有効回答数 195社(回収率6%)
建設業
11.8%
回答企業の産業別構成は統計的に見て母
集団に概ね一致(χ2検定)
運輸業
5.6%
従業員規模についても母集団と一致
不動産業
1.5%

金融・
保険業
7.2%
卸売・
小売・
飲食
店
19.5%
アンケート調査
製造業
42.6%
財務データ
財団法人日本経済研究所発行のCD-ROM
所収の財務諸表データ
1996~98年度までの3年度分のデータを各
種デフレーターにより実質化して利用
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
10
アンケートにみられるわが国企業のIT化の現状1
ネットワーク化率は既存パソコンの79%、1998年度導入のパソコンの
みを対象とすると88%に達している。
情報化投資の目的は既存のビジネススタイルを前提とした業務効率化
が主流で、新規事業の創出を主目的とした企業は少ない。
0%
20%
40%
60%
情報の共有化の手段
100%
87.6%
経営スピード向上のための手段
78.8%
46.1%
損益管理徹底のための手段
ローコスト経営のための手段
49.2%
サービス改善、顧客満足獲得のための手段
50.3%
市場機会発見のための手段
19.2%
21.8%
新しい能力と技術の創造のための手段
その他
80%
1.0%
N =193
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
11
アンケートにみられるわが国企業のIT化の現状2
IT投資は企業の情報処理能力の向上を通じて、業務効率化に貢献して
いるが、財務的なインパクトを産む段階には至っていない。
0%
20%
40%
56.4%
カスタマーサービス業務が効率化した(N =140)
47.1%
研究開発業務が効率化した(N =123)
46.3%
0%
100%
20%
人件費総額(N =161)
13.7%
総経費額(N =160)
13.8%
32.9%
43.6%
28.8%
80%
100%
0.0%
53.4%
3.1%
54.4%
52.9%
抑制
53.7%
55.8%
0%
20%
影響なし
増加
40%
不明・
回答不能
60%
80%
100%
44.2%
56.1%
効果あり
60%
13.4%
売上・
収入(N =168) 7.7%
物流業務が効率化した(N =132)
40%
22.6%
86.6%
事務関連業務が効率化した(N =186)
生産・製造業務が効率化した(N =120)
80%
77.4%
管理業務が効率化した(N =186)
営業・販売業務が効率化した(N =179)
60%
41.1%
51.2%
43.9%
効果なし
増加
影響なし
不明・
回答不能
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
12
アンケートにみられるわが国企業のIT化の現状3
環境改善を目的としてIT投資を決定した企業は14%弱であるが、多くの企
業においてIT投資の環境効果を認知している。
0%
20%
ビジネスに係る交通(N =184)
60%
40.8%
紙の使用量(N =188)
エネルギーの消費量(N =185)
40%
58.0%
23.4%
18.4%
55.7%
2.2%
18.6%
25.9%
83.8%
環境汚染物質の排出量(N =177) 5.1%
14.5%
100%
57.1%
温暖化物質の排出量(N =179) 11.7%
産業廃棄物の量(N =179)
80%
4.5%
93.2%
55.9%
環境負荷を削減
変化なし
1.7%
29.6%
環境負荷を増大
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
13
分析仮説と検定モデル
仮説1
「わが国のIT投資は、個別企業の生産に対してプラスの貢献をしている。」
Fixed effect model (FEM) :
 ln Y  F L, X , Ko, Ki, S 


 1 ln L   2 ln X   3 ln Ko   4 ln Ki

 s  


Randomeffect model (REM) :
 ln Y  F L, X , Ko, Ki, S 

 1 ln L   2 ln X   3 ln Ko   4 ln Ki


 us  

Y:生産高(売上高)
L: 労働投入量
X: 中間投入
Ko: 非IT資本
Ki: IT資本
S: 産業セクター
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
14
分析仮説と検定モデル
仮説2
「IT投資に伴って実施されるビジネス環境整備は所期の効果を生んでいる。」
単一生産物モデルのパラメトリック検定
(最小二乗法によって得られたパラメーターに対するt検定)
ln Y  F L, X , Ko, Ki, S    a D1   b D2   c D1  D2 
ln Y  F L, X , K , S    d DI   e D   f DI  D
Di:考慮したビジネス環境整備施策
勤務形態の変更
組織形態の変更
企業形態の変更
複数生産物モデルのノンパラメトリック検定
(Data Envelopment Analysisによって導出される
効率値を用いた順位和検定)
min 
x a   x j  j  0

jB

s.t.  y a   y j  j  0
jB

0  e  ,  j  0 (j  B)

パートタイム労働力の重用
アウトソーシング化
X:複数生産物ベクトル
生産高(売上高)、質的効果指数
自然環境効果指数、IT効果指数
Y:生産要素ベクトル
労働投入、中間投入、総資産
IT化インデックス
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
15
分析仮説と検定モデル
仮説3
「IT投資は収益性の改善に貢献している(超過利潤を生み出している)。」
FEM :

    1 IT   2


REM :

    1 IT   2

π: ROAあるいはROE
Ki
  3 SG   4 CI   s  
L
IT: IT化インデックス
Ki/L :一人当たりIT資本
SG:売上高伸び率
Ki
  3 SG   4 CI  u s  
L
CI:労働装備率
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
16
仮説1に関する推計結果
IT資本の限界生産力をあらわすパラメーター(β4)については統計的に有意な
正の値を安定的に得ている。(有意水準5%)
Model
1-1
1-2
1-3
1-4
1-5
1-6
1-7
1-8
Specification
REM
REM
REM
REM
FEM
FEM
FEM
FEM
n
42
42
41
41
42
42
41
41
R2
.826980
.820702
.827640
.821154
.85888
.85279
.86178
.85513
50.91**
48.50**
50.88**
48.22**
F-Value
β0 (Constant)
3.287 **
3.279 **
3.187 **
3.168 **
3.594 **
3.621 **
3.417 **
3.434 **
β1 (lnL)
0.369 **
0.382 **
0.320
0.338 *
0.312 **
0.314 **
0.262
0.266
β2 (lnX)
0.203
0.184
0.247
0.226
0.195
0.174
0.248
0.226
β3 (lnKo)
-0.020
0.020
-0.023
0.019
-0.011
0.033
-0.016
0.032
β4 (lnKi)
0.494 **
0.469 **
0.498 **
0.468 **
0.504 **
0.479 **
0.506 **
0.476 **
モデル1-1~1-8は、資本データの算出方法の違い及び産業セクターの差に由来するクロスセクションの
影響の取り扱い方法によって区別されている。
**:有意水準 5%、*: 有意水準 10%
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
17
仮説1の検定結果についての考察
わが国企業においても、米国企業と同様、IT投資が生産にプラスに貢献。


投資対象となるIT技術の潜在能力に日米格差が存在すれば、両国のマクロ的
状況への波及効果が異なるのは当然。
しかしながら、情報通信ネットワークを介することで誰でもどこからでも最先端の
技術情報にアクセスすることが可能で、しかもIT関連財の大部分が電子商取引
形式で入手可能であるという現状では、IT投資の潜在能力自体に日米格差が
あることを想定することは困難であったが、ここで得られた検定結果はこの当初
の予想と整合的。
今回の推計では、IT投資に係るコストを得ることが困難であったためNet
Marginal Productの推計には至っていないが、合理的な企業、自由な資本
市場の存在という前提条件の下、日米企業のIT投資は、同水準のNet
Returnを生むことが期待できる。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
18
仮説2に関する推計結果(単一生産物モデル)
ビジネス環境整備施策は企
業の生産に対する所期の効
果を生んでいない。





βb (D2)
βc (D1×D2)
D2
勤務形態の変更
組織形態の変更
(no sample)
(no sample)
(no sample)
企業形態の変更
±0
±0
Negative#2
パートタイム重視
±0
±0
±0
(no sample)
(no sample)
(no sample)
企業形態の変更
±0
Negative#1
±0
パートタイム重視
±0
±0
±0
アウトソーシング重視
±0
±0
±0
パートタイム重視
±0
Positive#1
±0
アウトソーシング重視
Negative#1
±0
±0
±0
±0
±0
施策相互間には負の補完性
が観察される場合がある。
施策によっては、IT化の効果
発揮を妨げているように解釈
可能な結果も存在する。
βa (D1)
D1
アウトソーシング重視
組織形態の変更
±0=すべての推定結果におい
てパラメータは有意には0と異な
らない。
企業形態の変更
Negative#1=すべての推定結
果においてパラメータは負。
パートタイム重視
アウトソーシング重視
Negative#2=8分の3の推定結
果においてパラメータは負。残余
の推定結果は有意でない。
DI
D
IT 化ダミー
勤務形態の変更
Positive
±0
±0
Positive#1=8分の1の推定結果
においてパラメータは正。残余の
推定結果は有意でない。
組織形態の変更
±0
±0
Positive
企業形態の変更
Positive
±0
Positive
Positive=すべての推定結果に
おいてパラメータは正。
パートタイム重視
Positive
±0
Positive
±0
±0
Positive
βd (DI)
アウトソーシング重視
βe (D)
βf (DI×D)
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
19
仮説2に関する推計結果(複数生産物モデル)
単一生産物モデルの結果
は、複数生産物モデルにお
いても維持されている。
noD1×D2
D1×D2
(no sample)
Negative **
Negative **
企業形態の変更
Negative *
Negative **
Negative **
D1×noD2
D1
D2
勤務形態の変更
組織形態の変更

**:有意水準 5%
パートタイム重視
(no sample)
Negative **
Negative **

*: 有意水準 10%
アウトソーシング重視
(no sample)
Positive **
Negative **
企業形態の変更
Negative **
Negative *
Negative **
パートタイム重視
Negative *
±0
Negative **
アウトソーシング重視
Negative **
±0
±0
パートタイム重視
±0
Negative **
Negative **
アウトソーシング重視
±0
±0
±0
アウトソーシング重視
Negative **
±0
±0
組織形態の変更
企業形態の変更
パートタイム重視
D1×noD2
noD1×D2
D1×D2
DI
D
IT 化ダミー
勤務形態の変更
Positive *
Negative *
Negative **
組織形態の変更
Negative **
Negative **
±0
企業形態の変更
±0
Negative *
±0
パートタイム重視
±0
Negative **
Negative **
Negative **
Negative **
±0
アウトソーシング重視
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
20
仮説2の検定結果についての考察
わが国では各ビジネス環境整備施策は所期の効果を生んでおらず、米国
企業のケースとは対照的。


今回分析したビジネス環境整備施策は恣意的に選択されたものであることに留
意すべきであり、補完性の有無について確定的な議論を行うためには、企業が
選択する可能性のある施策を悉皆調査することが必要。
但し、これら施策は企業体質改善策の代表例であり、それらが所期の効果を生
んでおらず、負の補完性が観察されるケースさえ存在することは実務上大きな
問題。これは施策自体に問題があるのではなく、本邦企業の体質そのものに問
題がある可能性がある。
仮説2を巡る分析結果からは、わが国企業におけるIT化はその導入過程の
状況(conversion effectiveness)に問題があることが強く示され、ミクロレベ
ルにおける「経営ミス説」が少なくとも今回のサンプル企業の間においては
広く成立している可能性が示された。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
21
仮説3に関する推計結果
IT資本と収益性の間には有意な関係が存在しない。(有意水準5%)
Model
3-1
3-2
3-3
3-4
3-5
3-6
3-7
3-8
π
ROA
ROA
ROA
ROA
ROE
ROE
ROE
ROE
n
41
41
41
41
41
41
41
41
Adj. R2
-0.05417
-0.05495
-0.04685
-0.04265
0.13261
0.13795
0.12491
0.12499
F-value
0.49
0.48
0.55
0.59
2.53 *
2.60 *
2.43 *
2.43 *
β0
4.101 **
4.149 **
3.984 **
4.080 **
3.740 **
3.970 **
3.361**
3.378 **
β1 (IT)
-0.247
-0.287
-0.238
-0.234
-0.361
-0.359
-0.539
-0.537
β2 (Ki/L)
-0.334
-0.494
-0.182
-0.348
-0.431
-0.862
-0.031
-0.061
β3 (SG)
1.576
1.602
1.589
1.616
4.552 **
4.584 **
4.588 **
4.593 **
β4 (CI)
.176E-05
.198E-05
.128E-05
.203E-05
.109E-04
.126E-04
.767E-05
.781E-05
モデル3-1~3-4、3-5~3-8は、資本データの算出方法の違いによって区別されている。
**:有意水準 5%、*: 有意水準 10%
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
22
仮説3の検定結果についての考察
仮説1の結果を合わせて考えると、わが国のIT化は、新製品の開発や既存
製品の改善による企業のレント拡大を引き起こしているのではなく、既存製
品の生産プロセスの合理化に主として用いられ、その結果、生産物価格が
下落し、消費者余剰の増大という形でマクロ経済に貢献しているという姿が
示唆される。
あるいは、この結果は、IT投資が金銭的な効果を生むためにはある程度の
時間がかかるということを意味している可能性もある。

米国の先行研究においてIT投資が効果を発揮するためにはビジネス環境を整
える必要があることが示されているが、そういったビジネス環境を整えることは、
長年培ってきた企業慣行を転換するという点で大きなエネルギーを必要とする
ため、実現には長い時間がかかることが予想される。
これら二つの解釈のいずれが正しいかを明らかにするためには、クロスセ
クションデータではなく、各企業のパフォーマンスを継続的に観察することに
よってパネルデータを構築し、分析に供することが必要である。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
23
日米のDomar weight
Domar weight(産業のGrossアウトプットと経済全体の付加価値生産額合
計の比率)は、各産業の総要素生産性成長の経済全体への貢献度を示す。

他産業との中間財取引が多い(すなわちDomar weightの高い)産業における
生産性上昇は経済全体に与える波及効果が大きい。
US
Japan
1992
1996
1997
1980
1990
1995
Agriculture
0.038
2.2%
0.037
2.1%
0.036
2.0%
0.053
2.6%
0.040
2.1%
0.031
1.7%
Mining
0.025
1.4%
0.022
1.3%
0.021
1.2%
0.006
0.3%
0.005
0.2%
0.003
0.2%
Construction
0.109
6.3%
0.111
6.3%
0.114
6.4%
0.169
8.3%
0.200
10.3%
0.175
9.5%
Manufacturing
0.473
27.3%
0.469
26.6%
0.467
26.4%
0.846
41.4%
0.753
38.7%
0.617
33.7%
Transportation
0.145
8.3%
0.146
8.2%
0.141
8.1%
0.064
3.2%
0.050
2.6%
0.052
2.9%
Trade
0.175
10.1%
0.186
10.5%
0.180
10.2%
0.185
9.1%
0.185
9.5%
0.203
11.0%
Finance
0.265
15.3%
0.275
15.6%
0.283
16.0%
0.186
9.1%
0.185
9.5%
0.199
10.8%
Services
0.357
20.6%
0.379
21.5%
0.385
21.8%
0.507
24.9%
0.507
26.1%
0.540
29.4%
Other
0.148
8.5%
0.140
7.9%
0.139
7.9%
0.026
1.3%
0.019
1.0%
0.015
0.8%
TOTAL
1.736
100%
1.765
100%
1.768
100%
2.041
100%
1.943
100%
1.837
100%
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
24
Domar weightによる産業構造の比較
IT化の進展によるミクロレベルでの効果が日米両国では実質的には同程
度だった場合でも、マクロ経済指標に与えるインパクトは米国優位として観
察される可能性が示されている。
IT投資によるマクロ経済の成長を国際比較として分析するためには、
Jorgenson & Stiroh (2000a, 2000b)も指摘しているように、少なくとも産業
毎の比較分析としてモデルを構築する必要がある。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
25
本報告の結論:実証分析から得られた知見(再掲)
IT投資はわが国においても生産に対してプラスの貢献をしている。

IT投資の効果がそのコストを上回っているか否かは不明
IT化を順調に進めるための周辺環境整備施策が所期の効果を挙げていな
い。

IT化を順調に進めるためには、企業・産業の行動パターン自体を変える必要が
ある。
IT投資は企業の収益性に有意な影響を与えていない。

IT投資の果実は競争メカニズムを通じて消費者にきちんと還元されている可能
性がある。
日米の産業構造の差が、両国のIT投資のマクロ経済への顕われ方に影響
している可能性がある。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
26
今後の主要研究課題
企業内の意思決定行動の分析を通じた日本型シナリオの探求

わが国企業のIT投資にまつわるconversion effectivenessの改善方策

米国では効果的とされた施策がわが国で有効ではない理由は何か?
時系列的な観点の導入

あらゆる技術にはインキュベーション期間が必要。

企業の行動パターンが変わるためにも時間が必要。

因果関係テストの実施
データの精緻化

IT資産に係るコストの推定
日米比較のみならず、第三国との比較も必要

IT化が所期の効果を生むか否かは企業文化・労働慣行により大きく左右される。

米国型モデルが唯一の解答ではない(日本に関しては最適解ではない)。
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
27
主要参考文献
Bresnahan, T.F., Brynjolfsson, E., and Hitt,
L.M. 1999. Information Technology,
Workplace Organization, and the
Demand for Skilled Labor: Firm-Level
Evidence. NBER Working Paper Series,
No.7136.
Cooper, W.W., Seiford, L.M., and Tone, K.
1999. Data Envelopment Analysis: A
Comprehensive Text with Models,
Applications, References and DEASolver Software, Kluwer Academic
Publishers, Boston, MA.
Dewan, S. and Kraemer, K.L. 2000.
Information Technology and
Productivity: Evidence from CountryLevel Data. Management Science, 46(4),
548-562.
Domar, E.D. 1961. On the Measurement of
Technological Change, Economic
Journal, 71(284), 709-729.
Jitsuzumi, T., Mitomo, H., and Oniki, H.
2001. ICTs and Sustainability: the
Managerial and Environmental Impact in
Japan. Foresight, 3(2), 103-112.
Jorgenson, D.W. and Stiroh, K.J. 2000a.
Raising the Speed Limit: U.S. Economic
Growth in the Information Age.
Brookings Papers on Economic Activity,
0(1), 125-211.
Jorgenson, D.W. and Stiroh, K.J. 2000b.
U.S. Economic Growth at the Industry
Level. American Economic Review,
90(2), 161-167.
三友仁志・実積寿也・鬼木甫 2001. 「情報通信
技術によるSustainable Societyの実現可
能性とわが国における情報化投資の現状」
『平成12年度情報通信学会年報』 1-14.
Solow, R.M. 1987. We’d Better Watch Out.
New York Times Book Review, July 12,
36.
Hitt, L.M. and Brynjolfsson, E. 1996.
Productivity, Business Profitability, and
Consumer Surplus: Three Different
Measures of Information Technology
Value. MIS Quarterly, 20(2), 121-142.
Jitsuzumi, T., Mitomo, H. and Oniki, H., 2001.
28