日本における禁煙支援のインフラ構築 ~薬局・薬剤師の役割~ 日本禁煙推進医師歯科医師連盟学術総会新潟大会 会期:2009年2月27~28日 国立がんセンター研究所たばこ政策研究プロジェクト O 安達順一(リサーチ・スタッフ) 望月友美子(プロジェクト・リーダー) この研究は平成21年度がん研究助成金「たばこ政策への戦略基盤の構築 と政策提言・実施・評価メカニズムに関する研究」の一環として行われている たばこ規制枠組条約(FCTC)の「世界の合意」を 「世界の現実」に転換するための政策パッケージが MPOWERである 2008年版mpowerパッケージのPDFをご希望の方は下記メールアドレス にご連絡ください mpowerパッケージ(本) [email protected] 日本における禁煙支援のインフラ構築 ~薬局・薬剤師の役割~ はじめに 近年、日本のたばこ規制政策はかなりの成果を残し、その結果として喫煙率も成人男性で40 %を下回るまで低下し、成人の平均でも約20%と年々低下傾向を示している。これまでの10年 間に禁煙指導の保険適用や禁煙補助剤の追加承認が相次いだことも、追い風となっている。 しかしながら、一方で若年者の喫煙率増加や喫煙者のハードコア化も見られ、禁煙指導に停滞 感が出ている現象が見られる中で、早期に“たばこのない社会(Tobacco Free Japan)”の達 成を図るためには、禁煙指導の重要性のみならず、いかに喫煙者を禁煙に仕向けられるか(禁 煙誘導)がますます重要になる。そこで今回はこの禁煙誘導ためのインフラ構築における、薬 局と薬剤師の役割について考察を試みた。 これまでの禁煙支援や禁煙外来においては、薬剤師の役割についてはあまり注目はなされ ていなかったが、実際には医療用、OTCを含め全ての薬剤に関与出来るのは薬剤師であり、 患者以外の喫煙者にも接触できる機会を持つ医療従事者も薬剤師である、という観点からも、 もっと考慮されるべきである。 更に薬剤師の全国ネットワークを活用することは、たばこのない社会を日本により早く実現す るために有用であると考える。 M 3500 Monitor 監視 たばこ消費量(15歳以上1人あたり) 3300 たばこ消費量の推移と政策イベント 第6回喫煙と健康 世界会議(東京) 喫煙と健康 第1版 第1回世界禁煙デー 記念シンポジウム スタバ進出 JR首都圏駅分煙 分煙基準 NRTガム OTC承認 批 准 発 効 たばこ規制枠組条約 たばこ病 訴訟 たばこ特別税 喫煙と健康 厚生白書 WHO神 新版 戸会議 未喫法 深浦 改正 自販機 私鉄禁煙 広告・販促 条例 千代田区 病院機能 自主基準改正 路上禁煙条例 たばこ増税 評価ver5 JTがRJR タクシー 買収 たばこ族 訴訟 タクシー禁煙 反対決議 健康増進法 注意表示 たばこ増税 JR禁煙 8種類 たばこ製品マー 広告指針 ニコチン依存 症管理料 反対署名9 ケティング国際 規準 NRTパッチ保 内服禁煙薬承認 万5000 パッチOTC 険適用 喫煙と健康 たばこ 第2版 行動計画 NRT ガム承認 健康日本21(第1次?) がん対策推進基本計画 3100 JT民営化 自由化 2900 2700 2500 分煙指針 NRT パッチ承認 行政 CSR活動開始 がん対策 基本法 厚労省受動 喫煙防止方針 タスポ 2300 たばこ産業 神奈川県受動喫煙 防止条例 NGO声明・結成(全国レベル) 2100 JTがギャラハー 買収 民間対策 JT-11 国内業績 10%減 見込み たばこ増税 反対署名 300万4000 分煙コンサル ティング 1900 1700 幻の消費半 減目標 1500 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 第1次対がん総合戦略 第2次対がん総合戦略 第3次対がん総合戦略 救命艇には限界がある→定員を増やすか、 とにかく一人でも多く飛び込ませるか O 禁煙支援の提供 (Offer) 非喫煙者 1億人 禁煙誘導政策 E 広告禁止 (Enforce) 喫煙者 2600万人 依存症者 1800万人 W 禁煙誘導政策 有害警告 (Warn) R 価格の値上げ (Raise) P 受動喫煙保護 (Protect) 救命艇 O 禁煙支援体制→社会のセーフティネット 喫煙人口: 3300万人(1999)→2600万人(2009) たばこ依存症者: 1800万人(54%)→1800万(70%) Offer 提供 サービ ス提供 者 Quitline 主対象 薬剤師 (薬局) (学校) 公共の禁煙電 話相談または ネットの相談 サイト、若年 層取り込みに 最適 特徴 学校薬剤 師・学校医 青少年、 20-40代女性 学童への禁煙教 育を通じて教師 および親へ影響 を与える 小中高生徒、大 学生、教師、親 歯科医師・歯 産業医・看護 医師・看護師 科衛生師 師・保健師 ・薬剤師 (歯科医院) 他の薬剤を購入 するまたは処方 を受けに来る患 者への意識付け に最適 中高年男女 若者や女性に対 する喫煙の害の 美的観点からの 啓発に最適、歯 周病予防も 若い女性 中高年患者 (健診・検診) 企業の検診の場 で、疾患を持っ ていないが禁煙 できない予備軍 への啓発 会社員 経営者 (医療機関) 疾患を持っていて も禁煙できない人 や家族への啓発、 周産期女性 中高老年患者、 若い女性 第一線で喫煙者に接する薬剤師の禁煙誘導への役割大 薬剤師の現状を理解するための参考資料 (1)日本薬剤師会について • 日本薬剤師会の会員数 約25万人の薬剤師が厚生労働省に登録(男女比率は男4:6女) 日本薬剤師会の会員は約4割の10万人強が加入 薬剤師職業別内訳 薬局薬剤師:50%、 一般販売業(卸など):6%、 病院・診療所:19% 行政:2%、 製薬企業:12%、 大学:4%、 その他:7% 薬局薬剤師の73%が入会しており、病院・診療所勤務を合わせると約80%の入会率 職種部会 薬局薬剤師部会、 学校薬剤師部会、 病院診療所部会、 製薬薬剤師部会、 卸薬剤師部会、 行政薬剤師部会、 農林水産薬事薬剤師部会 • 全国薬局数: 52,539軒 (保険薬局は51,213軒) (2007年度) 参考:医療施設数-約10万軒(病院1万、医院9万)、 禁煙外来-1万軒弱 • 日本病院薬剤師会 - 正会員数 約3万8千人(2008年12月) 主に病院に勤務する薬剤師(調剤薬局含む)が所属 • 日本学校薬剤師会 - 会員 約1万8千人(2000年) 昭和33年に制定された学校保健法により学校薬剤師の職務が確立された (薬剤師会アニュアルレポート2009より) (2)認定基準薬局について • 日本薬剤師会による基準薬局の認定は平成2年4月より開始され、平成19年1月 に全面改訂がなされ、6分野30項目の基準が日本薬剤師会から示されている。 これに各県の薬剤師会が多少の付加項目を追加して認定基準としている。 認定は都道府県薬剤師会が薬局からの申請を受けて審査・認定を行っている。 • 認定基準薬局数: 約1万9千件/保険薬局数約5万1千件(2006年6月) 37% • 特典 1)認定基準薬局には基準薬局であるしるしのシールが付与され、店先に掲示出 来る。 2)薬剤師会のホームページや広報において“かかりつけ薬局”として認定基準薬 局を推奨して行くこととしている。 • 禁煙に関する項目 医療提供施設として適切な体制の整備の分野、第8項目: “薬局内が全面禁煙であり、タバコを販売していない” との条件 がある (3)薬剤師に関る大きな変革 • 薬剤師養成教育(大学薬学部)6年制が2007年から導入されて、2013年から6年生の 教育を受けた薬剤師が医療の現場で働き始めることになる。 現在6年生と4年生が並存している大学が多いが4年生は薬剤師国家試験は受験できない • 登録販売者制度-都道府県の認定 2006年度の薬事法改定により、薬種商制度が廃止されることになり、代わりにチェーンド ラッグ協会などの販売店からの要望を受けて作られた、2類、3類の一般用医薬品の販売を 行える専門資格取得者である。 2009年6月1日から実施された制度。 09年度合格者:58,715人(合格率64.5%) この制度により薬剤師のいない大手スーパーやコンビニエンスストアーも自社開発ブランド の一般薬を含め薬の販売に力を入れ始めている しかし、レジで登録販売者が必ず対応可能かが問題である。 • 改正薬事法における禁煙補助剤のNRTガムとパッチは異なる分類である ガム ②類で薬剤師が係るほうが好ましい薬剤 パッチ 1類で薬剤師のみが販売出来る薬剤 (4)薬剤師の教育研修の機会 教育制度が整備されてきており、禁煙支援に関する教育が生涯教育の一環として取り上げや すく、点数制が導入されており研修の機会が確保しやすい状況がある 財)日本薬剤師研修センター(JPEC) 薬剤師の生涯教育の支援と推進を目的として1989年に厚生労働省と日本薬剤師会との協力で設立さ れた。各種研修会の開催、認定薬剤師の認定、学習教材の刊行などを行う組織 専門薬剤師研修や都道府県薬剤師会の教育プログラム研修会の認定、および認定薬剤師更新制度に ポイントの付与を行っている。 新規:4年40単位、 更新:3年30単位(ただし年間5単位以上)が条件 (禁煙との関連) 現在は全国統一の認定制度のプログラムは行われていないが、都道府県で禁煙支援認定薬剤師制度 を設けている県がある(13県)。このプログラムは各都道府県の薬剤師会がシールや証明書を発行し店 内に掲げることが出来るようになっている。ただし制度的にはまだ不完全であり、当センターは関与して いない。 薬剤師認定制度認証機構(CPC) 薬剤師の専門認定プログラムを第三者評価機関として検証する機関であり、 2004年6月に設立された。 禁煙支援薬剤師を全国統一の制度とするためにはこの機関からの認定を受ける場合もありうる。 薬剤師会や薬剤師研修センターと共に研修プログラムを作成し、当機構に申請をすることで正式な薬剤 師認定教育になる。 今後、薬剤師研修プログラムを作成する場合は、このようなシステムがあることを知っておく必要がある。 (5)日本薬剤会と禁煙の関わり ~禁煙推進への主な取り組み~ • 日本薬剤師会では禁煙運動宣言を2003年4月に出し(別添)、健康日本21対策委員を中心に禁煙 運動を推進して来た。ただし薬局によるタバコの販売が多方面から問題提起され、またWHOのタバコ規 制枠組条約が2005年に発効されたことを受け、新禁煙運動宣言を2006年1月に“薬局・薬店ではタバコ の販売を行わない”と言う宣言文を追加し発行した。 • 日本病院薬剤師会も禁煙治療の保険適用(2006年4月)をうけ2007年12月に禁煙推進宣言を 出している(別添) • 二コレットガムのOTC化が2001年になされ、発売に向け地域の薬剤師会を単位として全国で350箇所以 上で2時間以上の薬剤師の研修会が開催された。 基本的にはこの研修会に参加した薬局・薬店のみが販売できることと当時はなっていた。 薬剤師の禁煙指導基準マニュアルがOTCニコレットガムの発売と合わせて、薬剤師会により作成され、 ホームページに掲載されると同時に、薬剤師会会報の別刷として会員に配布された。 薬剤師会の健康日本21対策委員会の下部組織が各県や市の薬剤師会にも作られ、地区の行政(健康 増進課など)と共に禁煙推進イベントの開催に協力する地区も多い・ 47都道府県で35県が何らかのイヴェントに参加と回答している (2009年11月調査より) 日本学校薬剤師会において薬物乱用防止教育を小中学校において担当をしている関係から禁煙に対 する関心も高く、学校教育において“タバコの害”について取り上げる学校薬剤師も多い (2009年11月 調査より) 禁煙支援・指導認定薬剤師のプログラムが2002年4月に宮城県薬剤師会で作成され、各地で開始 された禁煙支援認定薬剤師(13県:2009年)の基本となっている (2009年11月調査) • • • • 宮城、長野、滋賀、兵庫、奈良、和歌山、広島、佐賀、熊本、大分、鹿児島、沖縄、(福岡市) 薬剤師の禁煙支援の現状と課題 (薬局のタイプ別) 1.OTC中心の個人薬局---OTCのニコチンガムとニコチンパッチの販売を行っている小型薬局の場合 パッチは1類、ガムは②類の扱いであるが、基本的には薬剤師のみが販売できることになる。 個人の薬局の問題点としては混雑すると禁煙指導に時間がさけない為、簡単な説明に止まることが多 い。しかし地域の健康情報発信の場として禁煙情報の提供には適していると思われる(禁煙誘導)。 2.チェーンドラッグ薬局---登録販売者制度が2009年6月より開始され、2類、3類以下の薬品は薬剤師以 外でも販売が可能となったため。人員が確保される場合は薬剤師は1類や禁煙指導に時間をさくことも 可能と思われる。 また若者も多く訪れるため、女性や若者への情報提供にも適している(禁煙誘導) 3.保険調剤薬局---一部のOTC薬品も併売していることが多いが、医療用医薬品の調剤のみを行う場合も 多い。 ニコチンパッチとチャンティツクスの2剤が医療用医薬品として使用されており、禁煙外来の指導を受け た患者さんに対する服薬指導を行う。また医療用とOTC両方を扱うことが出来ることから、他の疾患を持 つ患者さんへの禁煙支援を含む禁煙誘導に最適 OTC禁煙補助剤の設置が更に推進されれば禁煙支援の場として最適。 4.小・中個人病院薬局---院外処方が進んでおり、薬剤師は薬の取り扱いは入院患者中心となることが多 い。従って入院患者の禁煙指導は保険対象から外れている現在は入院患者の禁煙指導の服薬指導か 禁煙外来で禁煙指導を手伝うことになるが、病院の方針や薬剤師の人数により大きくかわる。 5.大学・大病院薬局---やはり院外処方が進んでおり、病棟において働く臨床薬剤師(専門)と院内処方の 調剤を行う薬剤師の担当がある。 入院患者に対しては病棟薬剤師が患者さんへの服薬指導を含めて 禁煙指導を行うのは効率が良いと考えられるが、禁煙外来との連携が必要である。 将来的に入院患者の禁煙指導も保険適用となる場合は特に薬剤師の役割も併記されることが望まれる 赤字--禁煙指導によりふさわしいと考えられる職場タイプ 青字--禁煙誘導に適した職場タイプ 薬局における禁煙誘導・支援の流れへの提案 薬局来店 喫煙していますか? はい 禁煙した人 再喫煙の防止 喫煙の害の再強化 喫煙していない人 家族の禁煙を勧める 喫煙の害の基礎知識 喫煙者 禁煙の すすめ 禁煙したい 禁煙の意思なし 薬の購入で 再来局 外来紹介 禁煙外来 OTC購入 禁煙指導 フォローアップ 脱落者 自費 全ての薬局 動機づけ 知識提供 保険 保険薬局 強制的禁煙 病院勤務薬剤師 禁煙・服薬指導 禁煙維持支援 関心期へ移行 服薬指導 再喫煙予防 禁煙成功 入院患者 入院中禁煙 禁煙失敗 禁煙外来 又は保険薬局へ 薬局と歯科医の連携による禁煙誘導の提案 喫煙者 歯の疾患の紹介 禁煙状況の連絡 歯科医 紹介 禁煙外来 OTCの服薬指導 フォローアップ 歯周病 インプラント ホワイトニング 禁煙指導 薬局 歯科医からの 連絡票(紹介) 禁煙希望者 禁煙成功 禁煙自費治療 まとめ 禁煙補助剤が医療用と一般医薬品(OTC)として汎用されて久しい中において、日本薬剤師会と大学薬学 部が明確な禁煙指導教育に対する共通のビジョンを持たないことは問題があると思われるが、医療における 薬剤師の役割を明確に示してゆくことが必要であり、今後の対応策を真剣に考えてゆく重要な時期にある。 従って、その一環として禁煙支援に対し既に知識を持つ25万人の薬剤師と5万軒余りの薬局、そして1万8 千人の学校薬剤師のネットワークを生かし、喫煙者の禁煙誘導への役割の一端を担うことにより、より早い “たばこのない社会”の実現に向け、禁煙誘導の社会的インフラ整備にとっても有用と思われる。 また疾病の予防と治療の両面において薬剤師の貢献しうる最大の方法を考えてゆく事は社会にとっても有 益であり、そのために以下に掲げる重要事項を整備してゆくことが今後の課題であろう。 提言 1. 2. 3. 4. 5. 6. 薬剤師の禁煙支援状況実態調査を継続的に実施する-喫煙率調査など2010年度実施予定 (第1回調査結果については5月頃に日本薬剤師会より発表予定) 薬局現場における実践的禁煙指導マニュアル(職務別)の整備 --現在日本薬剤師会と検討中 一般薬局編、入院患者編、禁煙外来編など薬剤師に合わせた内容に 禁煙支援認定薬剤師制度の整備 --日本薬剤師会が検討中 禁煙支援認定薬剤師のカリキュラムの標準化における日本薬剤師会のイニシアティブ (学会による認定禁煙指導者の取り扱いとポイント化の調整など) 小・中学校における防煙教育への学校薬剤師の役割の明確化と教育資材の標準化 大学における禁煙指導教育実施(必須教育とし、薬物依存の一部で扱う)--教科書的マニュアル が必要となる (日本薬剤師会の積極的な働きかけを期待) 歯科との地域連携による禁煙支援体制の構築の重要性 これらの進捗状況につきましては順次発表予定
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