血液ガスの基礎 血液中の酸素と二酸化炭素 意味・役割・測定 諏訪邦夫[email protected] 今日のアウトライン • • • • 実例:食道がん術後の呼吸不全 ガスの分圧について 人体での酸素と二酸化炭素の動き 肺のガス交換能について – 換気と血液酸素化の条件 • 血液と酸素:酸素解離曲線の解釈 – 酸素解離曲線の基礎 • 血液ガス分析についてほんの少しだけ 食道ガン術後の呼吸不全 • 53歳男性:持病あり – 高血圧・冠状動脈障害 – 糖尿病・腎機能低下 • 喫煙歴(20本×30年)・肺結核の既往 – 術前の肺機能検査で軽度拘束性閉塞性障害 – 成績は正常下限ぎりぎり • 手術時に肺の癒着 – 手術時間は8時間(肺癒着でやや延長) 術後経過 • 術後:気管内チューブ留置人工呼吸継続 – 術後1日:午前中に抜管 – 術後3日までPao2 が100→80→60と悪化 – Fio2 上昇などで対応 • 術後3日夕:Pao2 が急速に30mmHgに低下 – 気管内挿管して人工呼吸 • 多臓器不全併発,ダウンヒルで3週間後死亡 原因と反省? • 大手術後の呼吸不全(ARDS) – 基本的には現症と手術の組み合わせ – 高血圧・冠障害・糖尿病・腎機能低下・喫煙肺? • 急性呼吸不全から多臓器不全に • 積極治療の遅れ? – 遅れた理由は? 手術で見つかった肺傷害? • この手術が無理? しかし悪性腫瘍だ ガスの「分圧」を少し説明 • 空気中には酸素,窒素,二酸化炭素,水蒸気 • 水蒸気は状況で変化、体内では体温で飽和 47mmHg • 気道のガスは他の三者で713mmHg • ガス相で濃度と分圧は比例(ドルトンの法則) 酸素 窒素 二酸化炭素 濃度 20.93 79.04 0.03 分圧 149 564 0.2(≒0) 血液の「ガス分圧」とは 血液にガスを流す しばらく経過すると、流すガスと 血液とが平衡に達する (両者間にガスの受渡しなし) 「平衡」が「血液のガス分圧」 酸素 窒素 CO2 濃度20.93 79.04 0.03 分圧149 564 0.2 (≒0) 肺のガス交換能 • ガス交換能について – 肺が「良好に機能する」には – 「換気血流比:VA/Qc」の概念 – これが「一様」か「ばらばら」か – どういう病気や状態で? 上腹部手術のFio2 とPao2 麻酔+人工呼吸でVA/Qc悪化 実例は肺水腫:「拡散障害』も加わる O2 肺胞 O2 O2 O2 O2 間質浮腫 肺血管 分圧と量(含量)の関係: 酸素と二酸化炭素は違う • 酸素の血液中の成分は2種類 – ヘモグロビン結合分が主、少量が水に溶ける – ヘモグロビンの量と飽和度が重要 – それで「酸素解離曲線」 • 二酸化炭素は複雑:5~6種類もある – 「飽和度」はない – 血液の運搬は制限要因になりにくいが 酸素と二酸化炭素の血液での運ばれ方 酸素解離曲線を少し勉強 • ヘモグロビンと酸素の結合 • 「結合」と「解離」の両方が重要 – それが「S字」の問題 • 正常値 • 安静と活発な活動の差 • 「移動」:右方移動と左方移動 標準酸素解離曲線:37℃,pH7.4,Pco2 =40mmHg 酸素解離曲線の安静時と活動時 酸素解離曲線のS字型の意味 • • • • 化学反応としての意義 簡単な数式表現:ヒルの式 生理学的な意義 S字でない人は不調 ここでは生理的意味だけ検討しよう S字の生理学的な意義 • • • • 肺胞レベルで飽和度が高い:大量に取り込む 静脈レベルで飽和度が低い:大量に渡す 特に、臓器の活動が活発な時に有用度大 安静時での意義は高くないが 活動時や血流が障害された状況で有用 S字の生理学的な意義(2) • • • • 安静時の混合静脈血は(40, 75) 血流が全身に運んだ酸素の1/4だけ利用 ところが、激しい活動では 酸素消費量が10倍に増すのに、心拍出量は 5倍に増えるだけ • その代わり混合静脈血は(30,50) – 酸素解離曲線は右方移動(体温↑とpH下降) 曲線がS字でない人の体調 • 左方移動でS字の弯曲 も小さい例 – 肺で酸素をとりやすい が、末梢で放ちにくい – ふつうの生活には支障 はない – 運動能力が劣る – 過労に弱い 酸素解離曲線の移動と因子 酸素解離曲線移動の生理 • 酸素は右方移動で放出しやすく左方移動で 放出しにくくなる • 右方移動はいろいろに利用 – 運動(高温・pH低下),貧血・チアノーゼ (2,3DPG) • 左方移動利用の例は胎児 – 妊娠末期には母体の酸素解離曲線は右方移動 – 胎児の血液の酸素解離曲線は左方(P50=20) 喫煙と一酸化炭素のこと • COHbがあると 1. その分だけ酸素含量 が減少する 2. 酸素解離曲線の左方 移動 3. 二つの因子で、運動 能力低下 禁煙と減煙 • 20本/日でCOHb は約5%:十分悪い! – 10年の加齢に匹敵?! • 血液一酸化炭素は吸わなけれ1日でゼロに • したがって、「週に1日数本喫煙」なら害は小 (ただし、これは一酸化炭素の問題だけ、 がんの問題は別) • 禁煙がベストだが、せめて減煙して下さい 二酸化炭素は「換気」で決まる • 二酸化炭素は「換気」の影響が圧倒的 • 小さいが無視はできない因子 – – – – – 肺機能の良否 血流の良否 血液の二酸化炭素運搬能 身体の二酸化炭素産生能 血流低下による組織のアシドーシス 血液ガス分析:方法と利点 • 方法:分圧を「直接」測定 – 電極法を採用 – 電極は1950年代に相次いで開発 • 利点 – 正確で簡便で – 「ガス相と直接比較」 • 例:健康人ならPAo2 ≒Pao2 ≒100mmHg • 冒頭の患者はPAo2 ≒400でPao2 は 100→80→60→30と低下 「血液ガスの基礎」の結論 今日学んだことは、 • ガスの分圧について • ガス交換能について • 血液と酸素:酸素解離曲線の解釈 • ガス分析データの見方 • とくに、「ガス交換能」と「酸素解離曲線」を少 し詳しく • 勉強の資料は豊富 おわりです • おわり
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