史学講義8 近代世界システム2 第5回 上田信(立教大学) 第1章 モノから見た東ユーラシア② 砂糖をめぐる交易史 東ユーラシア史の時期区分 1253 フビライの雲南侵攻 銀大循環メカニズム 1371 明朝の海禁令 脱・銀メカニズム 1567 朝貢外の交易を容認 互市システムの開始 1684 清朝、展海令を施行 海域世界の消滅 1842 南京条約の締結 環球システムの開始 1945 太平洋・日中戦争終結 環球システムの完成 現代 (北京オリンピック) 華人ネットの可視化 リアクション・ペーパーから (前々回の分) 共産主義について • 前回のリアクションペーパーの紹介で、アンド レ・コント=スポンヴィルの著作を思い出しまし た。「人間は利己主義者であって、いつでも、 そのほとんどが集団の利害よりも個人的な利 害の方を優先するものなのですから。だから こそ、共産主義が全体主義化するのも、ほと んど不可避だったのです。なぜなら、道徳で は実現できないと露呈したことは、強制によっ て課すしかなかったのですから」(『資本主義 に徳はあるか』) アンドレ・コント=スポンヴィル • Comte-Sponville, Andre'(1952-) • フランスの哲学者。 • 『資本主義に徳はあるか』 小須田健/訳 C.カ ンタン/訳 紀伊国屋書店、2006年8月 1.砂糖がめぐった東ユーラシア 東ユーラシアの世界商品 • 13世紀~16世紀 :生糸・絹織物・蘇木(すおう)・陶磁器 =富裕・支配者層の奢侈品 • 18世紀~19世紀前半 :砂糖・アヘン・茶葉・海産物(アワビ・ フカヒレ・イリコ・昆布など) =嗜好品(習慣性がある) 17世紀の収縮局面 • ウォーラーステイン:第2巻 • 「17世紀の危機」 • ほぼ1600年から1750年の「長期の17世紀」 は、質的な激変は認められない。 • 16世紀に始まる近代世界システムと連続。 • 景気の循環パターンとして、17世紀を収縮局 面と位置づける。 交易システムの展開(上田説) • 13世紀なかば~14世紀なかば モンゴル帝国の「銀の大循環」メカニズム • 14世紀なかば~15世紀なかば 脱「銀」メカニズム=朝貢メカニズム • 15世紀なかば~16世紀 銀の復活→「銀」システム 東ユーラシアは中国産品と日本の銀、スペ インの銀を軸に展開する。 17世紀の東ユーラシア • 日本=江戸幕府の成立→貿易の統制 • 中国=清朝の成立 • 海域世界=鄭成功が開いた台湾の鄭氏政権 の崩壊 • ポルトガル貿易商人の後退 「銀」システムの行き詰まり 17世紀の変動 • 日本における銀鉱山の枯渇 • アメリカ大陸の銀を握るスペインの衰退。 • 「銀」存在量を超えた交易規模? →新しいシステムに向けた模索の時期 18世紀の交易システム • 銀などの貴金属に依存したシステム →複数の世界商品を組み合わせたシステム • ヨーロッパでのスペイン・ポルトガルからオラ ンダ・イギリスへの経済ヘゲモニーの移行。 • オランダ・イギリスは銀の産地を持たない。 • 日本・イギリスなど銀を持たない国々は、アジ ア産品を国産化。 日本における中国物産の国産化 • 日本における銀・銅山の枯渇。 • 徳川吉宗(将軍在位1716~45年)の時期か ら始まる、生糸やチョウセンニンジンの国産 化政策。→軌道に乗るのは18世紀後半から ヨーロッパにおけるアジア物産の国産化 • イギリス:インドから輸入していた高級綿織物 の国産化→技術革新の必要性→18世紀後 半、綿織物業からはじまる産業革命。 • ドイツ(ザクセン):錬金術師ヨハン・フリードリ ッヒ・ベットガーによる陶磁器。1710年マイセ ン磁器の生産。 18世紀の世界商品 • 新たな世界商品 =砂糖・コショウ・茶葉・アヘン---- 砂糖 コショウ あへん 18世紀後半の砂糖(ジャワ島) インド ア ヘ ン コ シ ョ ウ 中国 日本 日 用 雑 貨 スマトラ 砂 糖 バタヴィア(オランダ領) ベンクーレン (イギリス領) ジャワ 中国系 商人 3.アヘン 中国のアヘンの記録 • 『本草綱目』=明代16世紀後半 • 李自珍が27年の年月をかけて、膨大な書物 を分類し、実際にみずから山野に出かけて調 査・採集を行って編纂したもの> • 『本草綱目』に所載1871種の薬材のなかで、 376種は新たに李が追加したものである。 • そのなかの一つに、アヘンがある。 阿芙蓉 • 『本草綱目』巻二三「穀部」 「阿芙蓉」 • ケシの花が咲き終わり未熟果を結んだときに 、午後に針でその青い皮を傷つけて滲み出た 乳液を干して作る。 • 阿片または鴉片とも呼ぶ。 • 薬効:小豆ほどの大きさの粒をお湯とともに 一日一回服用。下痢に効果。房中のときに用 いる。 • 北京では一粒金丹という名で百病に効くとし て売られているともある。 アフユーン • 阿芙蓉←アラビア語のアフユーン • ケシ(学名Papaver somniferum)=地中海 東部沿海地方が原産地である。 アヘンの歴史 • 地中海世界=紀元前数百年からアヘンが人 間の精神に及ぼす効果が知られていた。 • 英語でアヘンを意味するオピウムは、ギリシ ア語起源 • 中国=唐代に西アジアの商人の手を経ても たらされた。 アヘン:経口か吸飲か • アヘンを経口で服用=不純物を含み副作用 が強く、大量に呑み込むと死にいたる。 • 蒸気を吸飲=モルヒネの鎮痛や多幸感など の快感をもたらす作用を得やすい。その代わ り習慣性が強く、いったん中毒となるとなかな か抜け出られなくなる。 アヘン吸飲の普及 • 一般には一七世紀のなかばにオランダ支配 下にあったジャワ島で始まり、オランダ人の 手を経て台湾に伝わり、マラリアの特効薬と して普及、福建移民のネットワークを通じて対 岸の福建に広がったとされる。 • はじめはタバコに混ぜて火を付けて吸ってい たものが、中国で吸飲具の工夫とともに吸飲 方法も発達を遂げる。 中国のアヘン • ポルトガル人によってインドからマカオを経由 して中国にもたらされた。 • 富裕層のあいだで広がり始めたアヘン吸引 の習慣は、しだいに広東や福建などの沿海 地域で社会の各層に波及するようになった。 4.茶葉とアヘン 通説:三角貿易 • 18世紀前半:イギリスで茶の習慣が定着 • 中国からイギリスへの茶葉貿易が発達 • イギリス東インド会社(インドを拠点とする特 許商社) • 会社は茶葉を中国で買うために銀を用いる。 • インドから中国に向かうアヘン貿易が成長。 • イギリス人は銀に代えてアヘンで決済するこ とを考えた。 通説:三角貿易 • • • • 1770年代:イギリス産業革命が始まる。 →インドの伝統的な綿織物業をつぶす →インドはイギリス本国への綿花の供給地 1820年代:イギリス綿製品→インド インド産アヘン→中国 中国産茶葉→イギリス 通説三角貿易の略図 イギリス 工場製の 綿織物 茶葉 中国 インド アヘン 通説は本当か? • 三角貿易が盛んとなったとされる1820年代に は、イギリスの綿織物産業の規模は、それほ ど大きくなかった。 • イギリスの茶葉輸入量と工業製品輸出量と は見合わない。 • そもそも、どのように収支バランスをとったの か? 1つの仮説:本国送金 • 1600年 イギリス東インド会社の設立。 喜望峰~マゼラン海峡までの貿易 独占権 を有する。 • 1757年 インドにおけるブラッシーの戦い。 インドのベンガル支配権を獲得。商社から行 政までを行うようになる。 カントリー・トレーダー • 紅海以東の交易に従事したイギリス人貿易 商人。 • 東インド会社はアヘン禁止をタテマエとする 中国での交易を継続するため、中国向けアヘ ン貿易には直接に拘わらず、カントリー・トレ ーダーに行わせる。 • 代表的なカントリー・トレーダー =ウィリアム・ジャーディン 1つの仮説:本国送金 イギリス 商業部門 軍備・建築資材など 茶葉 地金など 東インド会社 インド部門 インド 広東財務局 アヘン 利益 カントリートレーダー 中国 1つの仮説:本国送金 イギリス 商業部門 茶葉 地金など 東インド会社 インド部門 インド 広東財務局 アヘン 利益 カントリートレーダー 中国 銀 1つの仮説:本国送金 イギリス 商業部門 茶葉 地金など 東インド会社 インド部門 広東財務局 インド 為替 利益 カントリートレーダー 中国 ポイント • 18世紀:複数の物産を組み合わせた交易 例:砂糖とコショウとアヘン--世界商品の国産化 例:日本の生糸、イギリスの綿布 • 19世紀:複数の物産の交易を金融が支える 例:アヘンと茶葉 通説=生産の側からの説明 新説=金融の側からの説明 リアクション・ペーパーから 朝貢貿易 • 朝貢貿易に於いて、諸国が貢納を行うと、明 朝は派手にそのお返しを持って帰らせたそう ですが、それは割にあった取引だったのでし ょうか。 明朝の銀 • 日本から銀が中国に流入したと言うが、徴税 を含む中国政権のメカニズムにおいて、銀は 使われなかったが、政権を離れた民衆レベル では、銀を中心にした経済が続いていたとい うことでしょうか? • 一条鞭法=さまざまな負担を一本化し、銀納 とする税法。16世紀後半から。 朝鮮出兵 • 朝貢メカニズムの崩壊と秀吉の朝鮮出兵とは 、何か関係があるのか、気になりました。 テキスト 海と帝国 テキスト • 上田信『海と帝国』講談社、2005年、\2,600。 • 事業部に取り寄せ済み。 • 欠席者は、欠席した授業に相当すると担当教 員(上田)が指定したテキストの部分を読み、 その要旨を整理し、A4のレポートにまとめこ と(3回まで、そのレポートの評価をリアクショ ンペーパーへの評価と読み替える)。 • 授業前半の対応は、10月26日に公表。
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