生協はどこ へ向かうのか? 現代生協論における 生協

第80回日本社会学会大会報告(2007.11.17;関東学院大
学)
生協はどこへ向かうのか?
現代生協論における
生協への視座に関する考察
角 一典(北海道教育大学)
問題の所在
戦後の生協運動:消費者運動の一角として、
社会運動セクターにおいて重要
な位置を占める。
ex.石けん(合成洗剤追放)運動・食品添加物・反原発・
産直運動・廃棄物問題
⇔1990年代以降の生協経営の危機
→生協セクターの「構造転換」の必要性
⇔どのように「構造転換」するのか?
⇔「構造転換」によって生じる新たな課題?
戦後日本における生協セクターの動向
地域生協の台頭(1970-80年代)
・急速な都市化
→インフラの未整備:生活用品購入にも支障
→親密圏の解体:個人のアトム化
・経済成長に脅かされる「食の安全・安心」
→食品公害:カネミ油症事件・食品添加物へ
の不安
→市場の寡占:企業による価格の「操作」
⇒「班別予約共同購入」を基盤とする拡大
生協セクターの伸張①
図1 生協数と総事業高の推移
800
40000
700
35000
600
30000
500
25000
400
20000 億円
300
15000
200
10000
100
5000
0
生協数
1970 1973 1976 1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 1999 2000 2001 2002 2003 2004
507
572
653
657
653
657
655
670
652
641
621
587
573
571
559
549
総事業高 1960 3592 6860 9411 13590 18731 23268 30371 32238 33581 33323 32832 32739 32654 32867 32530
0
生協セクターの伸張②
図2 地域購買生協の組合員数と世帯組織率の推移
2000
35
30
万人
1500
25
20
1000
15
10
500
5
0
0
1971 1973 1976 1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2001 2002 2003 2004
組合員数
80
124 196 260 368 575 768 1005 1237 1347 1450 1484 1525 1547 1597
世帯組織率
2.6
3.8
5.7
7.3
9.8
14.7 18.9 23.7 28.3 29.6 30.8 30.9 31.3
31
31.7
%
班別予約共同購入
班別予約共同購入の特徴と利点
・配達という仕組みの魅力
→主婦(特に子育て中)の労力の軽減
→組合員と職員の交流形成
・無店舗での営業が可能
→限られたスペースでも展開が可能
→人的にも(店舗に比べて)コストダウン
・「組合員参加」による事務の「アウトソーシング」
→職員労働の軽減・効率化
→組合員同士の交流形成
→「生協を知る」場としての班
⇒日本型生協モデルの基盤を形成
日本型生協の「揺らぎ」
班別予約共同購入の基盤(日本型生協の特
徴)
・組合員の大半が主婦
→専業主婦が多数を占める
→組合員世帯は核家族(子供がいる)
⇔日本社会の変動
→女性の社会進出・晩婚化
→少子高齢化
→自動車の普及などの副次的要因
⇒日本型生協の「危機」
専業主婦率の推移
平均初婚年齢の推移
年齢階層別人口の推移・予測
自動車の普及状況
1990年代における生協の「再生」
生協の挑戦:「店舗拡大」と「個配導入」
→大手流通業にも劣らない店舗の充実
⇔積極路線を採用した大生協の経営危機
→個別配送による共同購入の「柔軟化」
→より広いライフスタイルへの適応
→班に不満を持っていた組合員のニーズに
も応える
→班との条件の差別化により、班も続伸
→新規組合員獲得にとどまらず、元班組合
員の再吸収も実現
店舗・共同購入・個配供給高の推移①
図8 生協の店舗・共同購入・個配供給高の推移
16000
14000
12000
10000
億円
8000
6000
4000
2000
0
店舗供給高
1995
1996
1997
1998
1999
2000 2001
2002
2003
2004
12382 12700 12578 12786 12147 11582 11011 10926 10788 10722
共同購入供給高 13254 13445 13535 13570 14189 14183 14191 14525 14763 14599
1397 2153 3113 3770 4661 5563 5926
0
0
0
個配供給高
店舗・共同購入・個配供給高の推移②
100%
60%
40%
20%
店舗供給高
共同購入供給高
個配供給高
20
04
年
20
03
年
20
02
年
20
01
年
20
00
年
19
99
年
19
98
年
19
97
年
19
96
年
0%
19
95
年
億円
80%
班数・班組合員数・班加入率の推移
図7 生協の班数・班組合員数と班加入率の推移
2000
45
1800
40
1600
35
1400
30
1200
千班・万人
25
1000
20
800
15
600
400
10
200
5
0
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
班数
1499 1556 1615 1617 1634 1824 1845 1774 1844 1812
班組合員数
766
616
629
班加入率
41.1 40.1 39.4 36.6 34.5 34.3 32.2 31.4 27.8
28
772
776
755
718
722
687
677
0
%
潜在化する危機?
個配の増加=班の縮小
⇒日本型生協の「根幹」の衰弱?
→生協アイデンティティの弱化・組合員の
顧客化・購買への関心特化
→リーダー層の再生産の困難化
→社会運動的な事柄への関心低下・無関
心・拒否感の増加
⇒さらなる「生協像の模索」の必要性
「原理論的」生協論
生協の危機=生協の「原点」からの逸脱
⇒「原点の再確認」「原点の再構築」の必要性
→「ニッチ産業」としての生協への回帰(野村)
→資本主義の矛盾(物象化)を乗り越えるための
主体形成の必要性(田中)
→官僚制的体質からの脱却・双方向コミュニケー
ションの確立(小栗)
→協同組合間共同(河野・斎藤・山田)
→不平等へのまなざし(中川)
「経営論的」生協論
生協の危機=経営体質の問題
⇒経営の改革・改善・改良の必要性
→「統制(=官僚制的組織)」から「共感(=ネッ
トワーク型組織)」への転換(榑松)
→閉鎖的組織(組合員-職員)から開放的
組織(マルチステイクホルダー)への転換
(杉本)
→「組合員自ら動かす生協」;「両輪論」の否
定(下山)
→海外生協の成功に「学ぶ」(生協総研)
「機能分化論的」生協論
新しい生協=事業と運動の役割分業
⇒組合員の「自治・自主管理」の範囲の
明確化
→購買にかかる部分(事業)は生協本体が
担い、組合員は、生協を「インフラ」として
活用しつつ多様な活動を展開(運動)
→組合員による活動は、生協とは相対的
自律性を有した形で展開
(21世紀コープ研究センター)
論点①
現代生協のトレンドに対する評価
⇒「巨大化」「個別対応」の流れにどう対
処すべきか?
・時流に鑑みればやむをえない。班に代わる
仕組みの構築が必要
→組合員・職員の共同を再構築
・経営的な体力を持たないと、巨大流通業に
対抗できない
・生協をインフラと考えれば、経営の強化は
積極的に進めることが総体としてプラス
→経営健全化・効率化を「最優先」すべき
論点②
生協労働のあり方(=組合員参加のあり方)
⇒生協の「運動性」となはにか?
・購買も含めて運動である
→専従職員も運動に関わる主体である
→専従職員は究極には不要(上野)
・購買=事業・組合員活動=運動
→原則として専従職員は運動に関与しな
い・
運動の主体は組合員
「残された」課題?①
生協運動の「融解」?
⇒「生協らしさ」の希薄化・喪失?
→生協の「独占・寡占市場」の喪失
→激しい競争の中で、いかにして「生協らしさ」
が維持可能なのか?
「残された」課題?②
生協運動とジェンダー
⇒「主婦の組織」の矛盾
→依然として「主婦・核家族」を基礎にした
組織構成となっている
→ 「主婦の組織」がジェンダー格差構造の
維持に加担するパラドックス
→閉じた連帯から開かれた連帯へ
「残された」課題?③
生協運動と階層
⇒生協の基本理念をめぐるパラドックス
→基本理念の追求によって「社会的弱者」が
排除される危惧
→「弱者の連帯」という原点からの「逸脱」・
生協運動の「特権化」