フットケアと看護の取り組み

フットケアと看護の取り組み
生体・生活機能看護学
小笠原祐子
はじめに
フットケアは高齢者・糖尿病患者のADLを維持し、
QOLを向上するために、大変重要なものである。日
本では血管外科、整形外科、内科、皮膚科のはざま
で、患者ケアが行き届かない分野で、足切断になる
まで医療者のケアがされていない、予防もできてい
ない分野でもある。
目的
文献検索をとおして、日本におけるフットケアの
現状と、今後の課題を探る
方法
医学中央雑誌で1998年から2003年の文献検索を
行った。今後、看護研究を進めるにあたり、活かせる文
献検討を行う目的から、最も新しい年代から遡ることに
し、最新の知見を得ることを目的とした。1998年から
としたのは、日本においてフットケアが注目され始めた
のは近年であり、雑誌の特集に組まれるようになったの
が2001年以降、出版物の刊行は1999年以降であったた
めである。
すでに、フットケアへの取り組みの歴史が長い海外での
知見については、起点となる重要文献を落とさないよう
にするため、1966年から検索した。
結果
1 9 9 8 年~2 0 0 3 年
フ ッ ト ケア
2 7 件
×看護
1 5 件
×看護技術
0 件
×エビ デン ス
0 件
足部病変/足病変
2 2 6 件
×フ ッ ト ケ ア
×看護
1 1 件
7 件
fo otc ar e
2 件
p o d iatr y
1 件
文献の選択基準
論文のタイトルと要旨から、糖尿病患者や透析患者への
フットケアの取り組みと、患者、看護職のフットケアへ
の意識などの、現状報告や実態調査が多いことが分かっ
た。その他では、フットケアの有用性にかかわるもの、
糖尿病性足病変の循環障害、神経障害に対する検討をし
た論文を選択した。
フットケアの現状
1999年オランダでおこなわれた、第3回糖尿病性足病変
に関する国際シンポジウムにおいて、糖尿病性足病変の
インターナショナル・コンセンサスが発表された。各国の内
科医、糖尿病専門医、足療法士、糖尿病専門看護師、外
科医、血管外科医、整形外科医、国際機関の代表者から
なるワーキンググループが組織され、文献研究、コクラン
分析、他の合意文書、専門家の意見に基づき、コンセンサ
スは作成された。
日本におけるフットケアの現状
1
フットケアに取り組んでいるのは、糖尿病患者の入院
病棟や外来、透析センターである。患者は糖尿病や動
脈硬化により、足病変が重症化しやすい状況にある。
近年尿病や透析患者数の増加と共に、糖尿病性壊疽の
ため下肢切断にいたった患者を経験したことを契機に
取り組みはじめている施設もあった。
日本におけるフットケアの現状
2
足の状態は、皮膚の乾燥24~52%、胼胝や鶏眼9~
47%、白癬症14~53%、爪白癬17~18%を占め、角
質の肥厚、潰瘍、火傷、爪の肥厚や変形なども見ら
れた。一般的に、糖尿病患者には白癬症、胼胝、鶏
眼、爪の異常が多いことと合致する。
日本におけるフットケアの現状
3
フットケアとして主に実施されているのは、足の観察と
臨床検査である。観察は、チェックシートを作成して取
り組んでいるところが多かった。臨床検査については、
外来の取り組みで温痛覚検査、触圧覚検査、振動覚検査、
動脈触知をしているところや、教育入院時には深部腱反
射、サーモグラフィー、神経伝達速度、脈波伝達速度
(PWV)、ankle brachial pressure index(ABI)を行うが、
その後の外来では、観察を心がけるのみでチェックシー
トへの記入は行わないなど、施設ごとの基準に大きな差
異が見られた。
日本におけるフットケアの現状
4
チェックシートへの記入率は、6ヵ月後69%、12ヵ月後
91%であったが、フットケアの患者指導については、
19%、67%と比較的低かった。患者指導について、定着
率が高かったのは、足を洗うことと靴下の着用であったが、
趾間部は洗われていなかったり、黒や紺色の靴下の着用で
あったりと、指導の効果とはいえない結果であった。中に
は指導の効果から、意識と行動に変化があった患者もみら
れたとある。それぞれの患者に個別的な指導が必要である。
フットケアの有用性
患者、看護師の意識は高まり、足病変の予防と早期
発見につながったとされている。観察者による判断
の差異を防ぎ、観察継続がしやすいように、チェッ
ク項目を羅列した専用チェックシートを作成、導入
し効果的だったとある。
循環障害に対する検討
ABIでは0.8〜0.9以下の場合、動脈閉塞の疑いがあると
する。全人口ベースの調査はないものの、10〜20%と
推定されている 。
外来透析患者の下肢の動脈硬化や閉塞の現状を示した1件
は、65例中ABI値 0.9未満が7.7%であった。自覚症状、
Fontaine分類、下肢の動脈触知、歩行状態などの臨床所見
と一致しないものもあり、定期的な検査の有効性を示唆し
ていた。
神経障害に対する検討 1
Semmes-Weinsteinモノフィラメント検査(5.07)で知
覚の低下があった場合、糖尿病性足潰瘍を合併する可
能性が高いとされているが、検査する部位と頻度を明
らかにした根拠あるデーターはない 。
振動覚検査で振動覚の低下があった場合も、その後糖
尿病性足潰瘍を形成しやすいとされている。128ヘ
ルツ音叉が振動覚閾値と相関することが分かっている。
神経障害に対する検討 2
モノフィラメントを用いて、糖尿病患者における下肢防御
感覚障害のスクリーニングを行ったところ、陽性者は57名
中15名であり、陽性者は神経障害100%,網膜症80%,腎障害
66.6%の頻度で合併していた。,陰性者に比較し合併率が有
意に高率であったとするものが1件あった。さらに陽性者
15名中4名が下肢切断者,3名が切断には至らない潰瘍既往者
であったことも明らかにされている。モノフィラメントを
用いることにより、防御感覚障害のスクリーニングが簡単
に行え,しかも糖尿病患者におけるフットケアの動機づけに
なると報告されていた。
患者教育
特にハイリスク患者において、教育が足潰瘍と切断を
減少させるというデーターもあり、短期間の教育で
フットケアの知識と行動に明らかな効果があるとも示
されている。教育の効果に関する研究は比較的少ない
とされており、どのような教育方法がいいのかという
ことについては、これからの研究の積み重ねが必要に
なる。
看護職としてのアクションプラン 1
臨床 フットケアの正しい知識の啓蒙・普及を目指す
・看護職が参加できる研究会、学会の設立
・現在あるエビデンス、ガイドラインの紹介
・看護職の意識改革
看護職としてのアクションプラン 2
研究
フットケアに関する看護研究を推進する
看護職としての領域の確立を目指す研究
フットケアの有用性の根拠となる研究
フットケアを受ける患者の心理についての研究
フットケアの実践に影響する心理的要素と行動についての研究
効果的な患者教育のありかたについての研究
教育効果と心理的要素についての研究
日本の地域性、特性に基づいた研究
フットケアの実践に効果的なツール開発についての研究
看護技術としてのフットケア技術についての研究
看護職としてのアクションプラン 3
教育
フットケアに関する教育を進める
フットケアの知名度を高める
フットケアの医療効果について啓蒙する
フットケアを看護技術のひとつとして基礎教育の中に
組み込む
医療者に向けた知識の刷新と患者教育のための継続的
な教育
まとめ
今回の文献検討の結果、テーマとして漠然としていると
感じた。今後の看護研究につなげるためには、テーマの
絞り込みと、知識を深めることが必要であると分かった。
日本でのフットケアへの取り組み、特に看護における取
り組みは始まったばかりであり、臨床、研究の両分野で
の積み重ねが必要である。