データ解析概論3 可視/赤外観測の違い

データ解析概論3
(赤外)
美濃和 陽典
(国立天文台すばるプロジェクト研究員)
赤外線とは?
可視光
(400nm~1μm)
Suprime-Cam HDS
FOCAS
中間赤外線
(5~30μm)
近赤外線
(1~5μm)
MOIRCS
IRCS
CIAO
COMICS
赤外線で何が分かるか?(銀河系内編)
銀河系の多波長撮像データ

可視光(0.4~0.6ミクロン)--- 星間塵による吸収が顕著

近赤外線(1.25~3.5ミクロン)--- 星からの光

中間赤外線 (7~10ミクロン) --- ダストからの放射
http://mwmw.gsfc.nasa.gov/
1.0<λ<1.6
静止系波長 > 5500A
静止系波長 < 5500A
λ<1.0
波長 [um]
λ~2.2
赤外線で何が分かるか? (系外銀河編)
0
1
赤方偏移
2
3
赤外線観測の特徴
(1)大気透過率
(2)背景光強度
(3)検出感度
(4)大気による減光量
(5)大気分散
(6)大気揺らぎとシーイング
赤外線観測の特徴
(1)大気透過率
CO
H20
CO2
H20
CO2
H20
H20
H20
CH4
H20 H20
J H


O3
K
L’ M’
N
Q
可視光ではほとんど大気吸収が無く、ほぼ全波長域で観測可能
赤外線では、大気中の分子の振動回転遷移による吸収が深く、
一部の大気の窓でしか観測できない
赤外線観測の特徴
(2)背景光強度

背景光とは?
天体以外から望遠鏡に入る光
 光量が多いほどポアソンノイズが増える


主な背景光の要因(赤:赤外線、青:可視)
望遠鏡、観測装置からの熱放射(~273K)
 人工光の大気中微粒子による散乱光
 大気の発光(OH夜光、水蒸気の熱放射、オゾン輝線等)
 月明かり
 黄道光(太陽の散乱光、塵の熱放射)

赤外線観測の特徴
(2)背景光強度
可視光に比べて赤外線の放射強度は100~108倍多い
水蒸気からの熱放射
望遠鏡、観測装置の熱放射
(273K)
OH夜光
~273Kの黒体放射はKバンド付近から効き始める
黄道光(塵の熱放射)
黄道光(太陽の散乱光)
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/LECTURE/OBS/atmos.html
赤外線観測の特徴
(3)可視と赤外線の検出感度

天体からのシグナルとノイズの比
OBJ: 天体、SKY: 背景光、DARK: 暗電流、R:読み出しノイズ
t: 積分時間、r: 天体の広がり(半径)、g: 検出器のゲイン(e-/ADU)
大気吸収:可視< 赤外  OBJopt > OBJIR
 背景光:可視<赤外  SKYopt < SKYIR

 赤外線観測は可視と比べて感度が悪い
赤外線観測の特徴
(4)大気による減光
平均減光量(mag/エアマス)

z
大気
エアマス~1/cos(z)
天体からの光が地球大気を通る距離(エアマス)
が多くなるほど、天体からの光は減光される。
可視 近赤外
中間赤外

可視光~1.2μm


近赤外(1.6~2.5μm)


大気中の微粒子による散乱の
影響大
波長が長くなり散乱の影響は小
3μm~中間赤外


散乱の影響は小
気体分子の振動回転遷移によ
る吸収大
波長(ミクロン)
可視、中間赤外に比べて近赤外(1.6~2.5μm)は大気減光は少ない
赤外線観測の特徴
(5)大気分散

空気の屈折率により、天体の実
際の高度と見かけの高度には
差が出る(大気差) 。

大気差は波長により異なるため、
高度の低い天体を観測すると、
像が伸びる(大気分散)。
可視:
大気分散の影響は著しく、ほとんどの観測装置
ではこれを光学的に補正している
赤外線:
大気
大気差は小さく、ほとんど観測に支障とならない。
観測者
ただし、補償光学を用いて高分散分光を行った
場合は近赤外線で影響が出るため、補正する場
合がある。
赤外線観測の特徴
(6)大気揺らぎとシーイング
対流層、境界層で大気の
温度や密度のムラ(屈折
率)が場所により異なる
成層圏
光波面の位相がずれる
星像が広がる
10-12 km
対流圏
シーイング
r0
境界層
~ 1 km
ドーム周りの風
~ λ/r0
r0: フリード長
大気揺らぎが波長に比べて小さいと
みなせる開口サイズ∝λ1.2
赤外線観測の特徴
(6)大気揺らぎとシーイング

シーイングサイズ~λ/r0∝λ-0.2
可視より赤外線の方がシーイングが良い

補償光学は、望遠鏡の開口(D)をr0のサイズに分割し、
サブ開口間の位相誤差をキャンセルすることで、望遠鏡
の回折限界分解能(~λ/D)を得る。
 r0が大きいほどサブ開口の数が少なくてすむ
(r0>Dの場合は補償光学不要)
 赤外線の方が補償光学を作りやすい。
参考
すばるの場合: D~8.2 m; r0 ~0.25m (λ=0.6μm), 1.2m (2.2μm), 17m (20μm)
 補償光学で必要な分割数: > 1000 (λ=0.6μm), 46(2.2μm), 不要(20μm)
赤外線の観測/データ解析
(1)検出器
(2)近赤外線観測の流れ
(3)データ解析上の注意点
赤外線の観測方法
(1)検出器

赤外線に感度がある半導体と、
電荷を読むマルチプレクサから
なるハイブリッドアレイ。


電荷をピクセル毎に直接読み出
すことが出来る。

赤外アレイ検出器の模式図
可視CCDは受光も読出しも同じ半
導体で行う。
CCDは1列毎に電荷を転送し読
み出す。

非破壊読み出しが出来る

読み出しノイズは可視のCCDに
比べて10倍程度悪い。
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/LECTURE/OBS/detector.html
赤外線に感度のある半導体: InSb(1~5μm), HgCdTe (1~2.5μm), Si:As (<27μm) 等
赤外線の観測/データ解析方法
(2)近赤外線観測の流れ

望遠鏡を天体に向け追尾する


積分時間を決める


背景光(スカイ)の寄与が主なため、スカイを検出器上でサチらせ無いように
決める。天体が明るい場合は天体のピーク値で決める。
観測視野を少しずつ変えながら積分を繰り返す(ディザリング)。


ブロードバンド撮像の場合は、積分時間が短いため、オートガイダーを使用し
ない場合が多い。分光や狭帯域撮像では使用する。
ディザリングをする目的は、
1.位置を合わせず重ねることで、背景光フレームを作るため。
2.バッドピクセルの影響を除くため。
観測した視野の近くの標準星のデータを取得する。

近赤外線(特にH,Kバンド)は、可視光に比べて減光が少ないため、誤差0.1
等以下の高精度の測光をするのでなければ、エアマスをキッチリあわせる必
要は無い(エアマス0.3程度の違いは問題なし)。
赤外線の観測方法
(3)データ解析上の注意点

データを取ってしまえば、基本的には可視も赤
外もほとんど同じ。

注意が必要なのは、背景光と大気吸収の変動。


スカイフレームはなるべく時間の近いフレームで作る。
背景光で検出器がサチっていないかは解析前に確認す
る(特にKバンドより長波長)。
まとめ
赤外線観測では可視光とは独立した新しい情
報が得られる。
 赤外線は大気吸収率、背景光の増加により、
可視光と比べて検出感度が悪い。
 大気分散、大気による減光、シーイング等、可
視光よりも良い面もある。
 観測時は、背景光を基準に積分時間を決め、
解析時にうまく背景光が引けるようにディザリ
ングを行う。
 データ解析の手法は、可視光と大差は無い。

非破壊読み出し

積分中に電荷を壊すこ
となく、読出しが出来る

読出しノイズの削減
読出しノイズが効いてくる高分散
分光で重要になる。
撮像観測のように、背景光のポ
アソンノイズに比べて、読出しノイ
ズが無視できる場合は必要ない。
N回非破壊読み出しの場合、読出しノイズは1/√N
ディザリング
http://www.kusastro.kyoto-u.ac.jp/~iwamuro/LECTURE/OBS/atmos.html