日清食品の組織能力

競争優位の源泉の追求
同志社大学 太田原ゼミ
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日清食品研究チーム
服部真明・三井耕太郎・永田絢子
奥村加菜・和知友美
目次
•
•
•
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•
•
研究概要
競争優位の定義
日清食品の概要
日清食品の顧客価値を上げる手法
日清食品のコストを下げる手法
日清食品の理念体系
結論
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研究概要
ポーターの競争優位という視点から
1.コストリーダーシップ(コストを下げる)
2.差別化(顧客価値を上げる)
3.集中戦略
↓
競争優位が存在するとは、
主に1と2の戦略のどちらかに特化し、同業他社より
高い利益率を上げている場合である。
※ 企業にはこの2つの戦略を稀に同時に行っている場合もある。
即席めん業界で長年にわたりシェアNO.1を維持している
日清食品はこの2つの戦略を同時に実行しているのではないか
という仮説から本研究により検証する。
3
マイケル・ポーターの3つの基本戦略
戦略の優位性
顧客から特異性が
認められる
戦
略
タ
ー
ゲ
ッ
ト
業
界
全
体
差別化
低コスト地位
コストのリーダー
シップ
特
定
セ
グ
集
中
メ
ン
ト
だ
け
(出所)M.E.ポーター『競争の戦略』ダイヤモンド社,1995年,P61
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日清食品ホールディングス株式会社
設立 1948年(昭和23年)9月4日
資本金 25,122百万円
代表者 代表取締役社長・CEO 安藤 宏基
本社 [東京本社] 東京都新宿区新宿六丁目28番1号
[大阪本社] 大阪市淀川区西中島四丁目1番1号
従業員数 7,388名 (連結)
売上高 3,711億78百万円 (連結・2010年3月期通期)
経常利益 327億94百万円 (連結・2010年3月期通期)
当期純利益 204億96百万円 (連結・2010年3月期通期)
事業概要
持株会社として、グループ全体の経営戦略の策定・推進、
グループ経営の監査、その他経営管理など。
事業内容
1. 即席めんの製造および販売
2. チルド食品の製造および販売
3. 冷凍食品の製造および販売
4. 菓子、シリアル食品の製造および販売
5. 乳製品、清涼飲料、チルドデザート等の製造および販売
6. 飲食店の運営
(出所)日清食品HPより
5
即席めん業界の市場占有率(2009年)
エースコック
8.4%
その他
10.3%
日清食品
49.0%
サンヨー食品
12.3%
東洋水産
20.0%
(出所)日経市場占有率2011をもとに作成
6
日清食品の競争優位-ファイブフォース分析-
新規参入企業
参入障壁が低い
低価格のPB商品が
大きな脅威
売り手
原材料メーカー
PB商品
買い手
即席めん業界
寡占市場
代替品
原材料価格の高騰
による値上げ
個人消費の低迷
人口減少
主食となるもの
消費者
食文化として確立
世界総需要も
年々増加している
(出所)筆者作成
7
日清食品のROAの推移
12.00%
10.00%
8.00%
6.00%
4.00%
2.00%
0.00%
2000
年
2001
年
2002
年
2003
年
2004
年
2005
年
2006
年
2007
年
2008
年
2009
年
日清食品 10.16% 9.17% 8.64% 7.46% 9.19% 10.78% 9.22% 8.35% 7.03% 8.03%
食料品
4.72% 4.07% 3.73% 3.80% 4.03% 4.13% 3.68% 3.22% 2.94% 3.46%
(出所)日清食品の有価証券報告書、財務省・法人企業統計年報を基に作成
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ROAの分解
(過去10年間の平均)
日清食品
食料品
全産業
ROA
8.84
3.79
3.05
売上高
経常利益率
9.65
3.03
2.73
総資本回転率
0.92
1.25
1.10
売上高経常利益率 → 高水準
収益率が高い=競争優位がある
競争優位の源泉は組織能力にあるといわれている。
組織能力とは企業組織の持つ「手法の束」
(出所)筆者作成
日清食品の顧客価値を上げる手法(A群)
日清食品のコストを下げる手法(B群)
(出所)筆者作成
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顧客価値を上げる手法
ブランドマネージャー制度
•
競争原理のないプロダクトマネージャー(PM)制度(製品ジャンル別の管理)から
1990年にブランドマネージャー(BM)制度(ブランド別の管理体制)に移行。その
ブランドごとの社長であるBMが、管理ブランドの売上と利益管理の全責任を負い、
マネージャー間に競争構造を導入。熾烈な社内競争により既存ブランドの価値
上昇と新商品の開発を目的とする。
•
製品開発、価格政策、流通戦略、宣伝企画、販売促進まで
一貫したマーケティング・ミックスを進め、社内の全部門が
BMの業務をサポートする。全組織を巻き込み活発な社内
競争の社風を目指す。
•
(出所)日清食品HPより
PM時は新製品数は年間2ケタに満たない(1989年:市場シェア32%)
⇒ BM導入後、新製品数年間300種類(2000年:市場シェア42%)
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顧客価値を上げる手法
開発
販売
その他
・4P戦略
・ブランドマネージャー制度
・コントロールサーベイ方式
・提案型営業「タナリスト」
・解剖会議
・HACCAP方式
・フリークエントショッパーズ
生産
・ブランドファイトシステム
・早期昇進制度
・新任管理職研修制度
・発明報酬制度
・VOICE
・ユニバーサルデザイン
の採用
プログラム
・年間300アイテムの
・顧客コストの最小化
新製品開発
・顧客視点の商品開発
・安全、安心という
価値の確立
・顧客のロイヤリティーを
高める
・ATRモデル
・年間300アイテムの
新製品開発
顧客価値上昇
(出所)筆者作成
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コストを下げる手法
日清食品ではサプライチェーンマネジメントを実践
サプライチェーンマネジメントとは?
原料の調達から販売までの一連の業務の流れを
サプライチェーンとしてとらえ、チェーン全体を柔軟
に最適化していくためのマネジメントのことである。
会社の内部だけでなく、取引先や販売先の企業とも
情報を共有して各工程間の無駄を省き、コスト・品質・
リードタイムをマネジメントしていく必要性がある。
(出所)筆者作成
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コストを下げる手法
生産
販売
流通
その他
・高速ライン
・自働化ライン
・CRP
・提案型営業「タナリスト」
・商社との
特約店契約
・Nアクセス
・日清統一配送
配車システム
・SBC制度
・BM損益会議
・フレキシブル生産
・グローバル調達
・2秒で20個生産
・在庫縮小
・資材の共有
・末端の人間まで
・光熱費削減
・販売の効率化
・配達の効率化
コスト意識を持つ
・材料費削減
・販売リスク削減
・1ヶ月以内に納入
・プレッシャー
コスト削減
(出所)筆者作成
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SBC制度とSCMにおける全体最適
ブランドファイト
システム
BM損益会議
解剖会議
ブランド
マネージャー
SBC制度
*顧客価値を高めるための手法
発明報酬制度
早期昇進制度
新任管理職研究
4P戦略
フリークエントショッパーズプログラム
管理・財務・事業戦略本部
集中管理方式
HACCP方式
品質管理カメラ
コントロールサーベイ方式
自働化・高速ライン
オートメーション化
フレキシブル生産
グローバル調達
ECR本部
*コストを下げるための手法
マーケティング本部
NASRAD550
細菌検査
日清食品安全基準
出荷前検査
ユニバーサル
デザインの採用
お客様
相談室
資材部
資材会社
生産本部
生産工場
食品総合研究所
食品安全研究所
Nアクセス
物流部
情報システム部
日清統一倉庫
配送配車システム
SCM
タナリスト
営業本部・支店営業所
タナリスト
CRP
小売店
(出所)筆者作成
カスタマー
コミュニケーションサービス
VOICE
商社との
特約店契約
卸業
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日清食品のバリューチェーン
図上部開発から物流販売部分は前パートでも述べたSCMの簡略系
開発
生産
• 最短2ヶ月の開
発リードタイム
データの蓄積・分
析
• 解剖会議
• BM損益会議
• ATRモデル
• ブランドファイト
システム
BM権限範囲
物流・販売
• 20個/2秒弱の
生産リードタイ
ム
• 新製品開発に
柔軟に対応で
きる生産ライン
情報共有体制
• 顧客の声を「見
える化」し各部
署と共有。
即席めん
市場
• 生産して1カ月
以内の小売店
での陳列
• CRP
消費者の声
市場シェア
49.0%
• CCC
• VOICE
• タナリスト
• CRP
図下部消費者ニーズからデータの蓄積分析部分は前パート
でも述べたBM制を軸にした顧客価値を上げる部分
日清食品の設計情報
(出所)筆者作成
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日清食品の変革の鍵
創業者安藤百福は「創造開発型企業」を前面に掲げ
「ファーストエントリー」を根本精神としていた。
当時、社内は安藤百福の強烈な個性で引っ張るトップダウンの風潮。
安藤百福は新製品開発着想から発売後の製品イノベーションまでの
全プロセスを首尾一貫して推進していた。
(出所)安藤宏基『世界食に挑戦するインスタントラーメンのマーケティング戦略』平成4年度,日本大学農獣医学部食品経済学科特別講義資料,1992年P.19
【安藤宏基社長就任後】
・所信表明「創業者精神の継承、長期安定成長のための基礎づくり」
(出所)安藤宏基『カップヌードルをぶっつぶせ!-創業者を激怒させた二代目社長のマーケティング流儀-』中央公論社,2009年10月
・新たな知恵を発生させる人材を生かす組織として「社内競争の徹底」を
提起し「創造開発型企業」づくりに着手する。
(出所)日清食品株式会社社史編纂室編集『食足世平 日清食品社史』日清食品,1992年5月
安藤百福の独創的な商品開発に依存する体制から、安藤百福個
人の独創的な商品開発力を組織で代替・拡大すること、といえる。
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安藤百福社長時 BM導入前
開発
生産
•カップヌードル
発案
•発砲スチロー
ル容器考案
データの蓄積・分
析
•紙コップに面を
入れて食べる
文化発見
物流・販売
•めんにカップ
を重ねる生産
ライン発案
情報共有体制
•情報発信面で
は社長のトップ
ダウン
•商社などとの
販売ルート
消費者の声
・トップダウンの風潮
・新たな収益の柱となる商品の不在
・年間3~4種類の新製品数
【事例】
「新製品開発の着想から発売後の継続的
な製品イノベーションまでの全プロセスを
安藤百福が首尾一貫して推進してきた。」
•市場創造
市場成長の鈍化から業績が伸び悩む。
(出所)筆者作成
安藤宏基社長時 BM導入後
開発
生産
•最短2ヶ月の開発
リードタイム
データの蓄積・分析
•解剖会議
•BM損益会議
•ATRモデル
•ブランドファイトシス
テム
物流・販売
•20個/2秒弱の生
産リードタイム
•新製品開発に柔
軟に対応できる
生産ライン
情報共有体制
•顧客の声を「見える
化」し各部署と共有
•生産して1カ月以
内の小売店での
陳列
•CRP
消費者の声
•CCC
•VOICE
•タナリスト
•CRP
・SBC制度による分権体制
・BM制による新商品開発
・年間300種類の新商品(2004)
・開発リードタイム短縮
【事例】
9人のBMが主導でこのサイクルを
担う。「ラ王」「カップヌードルごはん」
の開発に成功。
導入から10年間(1990-2000)で
金額ベースでのシェアを33%
→42%に向上させた。 (出所)筆者作成
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理念・手法体系
トヨタ自動車 理念体系
日清食品 理念体系
TPS
NPS
トヨタウェイ
NCS
豊田綱領
4つの企業理念
(出所)村田・宮城・出雲井・領木・米田・藤井「地方自治体における
組織改善―トヨタからのアプローチ―」,太田原準編『組織改善の研究』
同志社大学商学部商学会,2009年3月
(出所)筆者作成
「TPS は手段、トヨタウェイは行動指針、豊田綱領は基本理念である。そして
この3 層は下部が上部を規定するという密接な関係で結ばれる。土台である基本理念がし
っかりと確立してはじめて行動指針が生き、確固とした行動指針があってはじめて手段が
機能する。」
出所)村田・宮城・出雲井・領木・米田・藤井「地方自治体における
組織改善―トヨタからのアプローチ―,太田原準編『組織改善の研究』
同志社大学商学部商学会,2009年3月
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結論
• SCMによるコストリーダーシップ
その要因は、
• ブランドマネージャーを軸にした差別化
これまでの一人の天才創業者の能力を
集団の能力として組織に落とし込んだ
ことにある。
コストリーダーシップと差別化を
同時に行えることを実証した。
日清食品は
長年にわたって競争優位を維持
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参考文献
・デイビット・べサンコ,デイビッド・ドラノブ,マーク・シャンリー『戦略の経済学』ダイヤモンド社,2002年
・日経経済新聞社データバンク局商品情報部『クォータリー日経商品情報』2010年
・M.E.ポーター著『競争の戦略』土岐坤訳,ダイヤモンド社,1982年
・M.E.ポーター著『競争優位の戦略』土岐坤,中辻萬治,小野寺武夫訳,ダイヤモンド社1985年
・桜井久勝『財務諸表分析』中央経済社,2003年
・安藤宏基『カップヌードルをぶっつぶせ!』中央公論新社,2009年
・藤野直明『サプライチェーン経営入門』日本経済新聞社,1999年
・ジェフェリー・K・ライカー『ザ・トヨタウェイ 上』(第2版),日経BP社,2004年
・出雲井麻衣、藤井友紀、宮城亜矢子、村田知佳子、米田由香、領木琴音『公共経営におけるトヨタ
ウェイおよびTQMの波及』2009年
・日清食品株式会社[2008],『日清食品創業者安藤百福伝』,日清食品株式会社社史編纂プロジェクト編
・日清食品株式会社[2008],『日清食品50年史創造と革新の譜』,日清食品株式会社社史編纂プロジェクト編
・三浦一郎,肥塚浩著[1997],『日清食品のマネジメント 食文化創造とグローバル戦略』,立命館大学
経営戦略研究センター
・下谷政弘,鈴木恒夫『「経済大国」への軌跡』1955-1985,ミネルヴァ書房,2010年
・安藤宏基『世界食に挑戦するインスタントラーメンのマーケティング戦略』平成4年度,日本大学農獣
医学部食品経済学科特別講義資料,1992年P.19
21
ご清聴ありがとうございました。
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