スライド 1

家庭奉仕員制度の国家政策化の
背景に関する考察
渋谷 光美
1
家庭奉仕員制度の変遷Ⅰ
1955(S30)年 長野県上田市
「家庭養護婦派遣ボランティア事業」
1956(S31)年 長野県「家庭養護婦派遣事業」
1958(S33)年 大阪市「臨時家政婦派遣制度」
1959(S34)年 布施市(現東大阪市)
「独居老人家庭巡回奉仕員制度」
1960(S35)年 名古屋市「家庭奉仕員制度」
神戸市「ホームヘルパー派遣制度」
秩父市「老人家庭巡回奉仕員制度」
1961(S36)年 東京都「家庭奉仕員事業」
2
1950年代後半の社会問題-貧困の深刻化
1955年からの
神武景気に始まる
高度経済成長
朝日訴訟など
生活保護政策の
実情が社会問題化
中小企業の企業
倒産が急増⇒
労働者層の貧困
による生活問題
保護基準値以下の生
活層⇒老人世帯など
非稼働世帯
生活扶助基準が劣悪な低水準のため,
3
最低限の生活が脅かされる状態が存在した。
新たな在宅介護福祉労働として創設された
家庭奉仕員制度
「かなり厳しく骨の折れる訪
問と仕事」だと,政策主体
である大阪市は認識してい
た。(臨時家政婦派遣制度
実施要綱の規定)
大阪市は,事業実施後1ヶ月,そ
の後3ヶ月毎に対象者について調
査票に基き,その効果を評価して
いた。⇒事業当初から,長丁場に
構えた生活援助が必至であると考
えられていた 。
「この事業は老人に喜ばれているが
,当面貧困層のしかも老衰の著しい
老人が大半であるため,家庭奉仕員
の業務は容易なものではなく,むし
ろ文字どおり奉仕的な気持ちが必要
なわけである。」
(厚生白書1962)
無償の不定期な
ボランティアでは
担わせきれないと判断し
新たな介護福祉労働の
枠を創設した。
4
家庭奉仕員制度の人材確保政策
①未亡人会を運営に参画させる
こと,②働く人はなるべく未亡人
会員であるように配慮すること,
③仮に非会員の場合でも入会
を勧めること。
(上田市家庭養護婦派遣事業)
「家事サービス公共職業補導
所修了者若干名に委託を委
嘱し,実施区に派遣することも
考慮する。」
(大阪市「臨時家政婦派遣制
度実施要綱」)
戦争未亡人や寡婦など当事者の生活維持のための就労との兼ね
合いで,単に労働者としてあてがわれただけではない。
家庭奉仕員制度の人材確保の供給システムを介在させていた。
上田市では,1956(S31)年は10名が申込み,そのうち6名が未亡人。
大阪市では,1961(S36)年の37名の家庭奉仕員のうち29名が,翌年
は48名のうち,37名が未亡人だった。
5
上田市における
家庭養護婦派遣事業の年度別活動状況
区分
年度
母子家庭
派遣家庭
※( )内は自己負担家庭数
老人家庭
身障者家庭
1
1956(S31)年
その他の家庭
計
4(2)
5
3
3
1957(S32)年
1958(S33)年
1
3
1(1)
4
9
1959(S34)年
2(1)
4
2(2)
5
13
1960(S35)年
6(2)
10(3)
3(1)
11(1)
30
1961(S36)年
4(1)
8
15(1)
9(2)
36
1962(S37)年
5
19(1)
5(1)
13(4)
42
世帯数合計
(数)
18(4)
45(4)
26(6)
49(10)
138
(24)
世帯数合計
(%)
13.0
32.6
18.9
35.5 100.0
6
厚生省(当時)の家庭奉仕員制度への認識
社会福祉の上から,家庭奉仕員の派遣が必要で
あると考えられるのは,被保護階層,低所得階層
に属する老人世帯,母子世帯,児童世帯,父子
世帯,身体障害者世帯,傷病者世帯,妊産婦世
帯等である。厚生省施設課1960年『老人福祉』
老人世帯,特に低所得階層,
被保護階層に属する老人世
帯の安定化と,その転落・崩
壊防止のため,家庭奉仕員
の制度化とその十分な活用
が期待される。厚生省
まだ立法
化されたも
のがなかっ
た老人施策
が先行した
7
家庭奉仕員制度国策化のいきさつ
養老施設の事務費と生活費を合算すると7千円,夫
婦で1万5千円くらい。おそらく一般家庭でもそれだけ
のお金をかけている家庭は多くない。施設以外のサ
ービスを検討する必要があるのではないか。⇒家庭
奉仕員制度が具体化
老人だけの問題ではない。
身体障害者こそ,
家庭奉仕員を必要とする。
予算化するなら、
両方ですべきである。
厚生省局議で更生課
両方出せば共倒れ
になるおそれがあっ
た。今回は更生課
におりてもらい,ささ
やかながら入った
予算であった
8
家庭奉仕員制度の変遷Ⅱ
1962(S37)年「老人家庭奉仕事業」国庫補助事業
1963(S38)年「老人家庭奉仕員派遣事業」法制化
1967(S42)年「身体障害者家庭奉仕員派遣事業」
1969(S44)年「ねたきり老人家庭奉仕員事業」
1970(S45)年「心身障害児家庭奉仕員派遣事業」
1972(S47)年「老人家庭奉仕員事業」,「ねたきり
老人家庭奉仕員事業」を統一
1976(S51)年 老人・身体障害者・心身障害児の
家庭奉仕員派遣事業を統合
9
1967(S42)年5月23日衆議院
内閣委員会
身体障害者相談員という制度を設けまして、いろいろな相
談、必要な援助を行なわせる。都道府県知事が委託し、
民間のボランティア活動として、全国に2千人配置する予
定です。これはボランティア活動ですので月に3百円程度
の実費弁償を差し上げたい。
市町村は、日常生活を営むのに非常に支障のある身体障
害者、重度の身体障害者に対していわゆる家庭奉仕員を
派遣する制度を新たに設けます。予算案は,260人
これは先ほどの身体障害者の相談員とは違いまして、月に
1万6千5百円の俸給をお払いしてお願いします。
10
肢体不自由児に
家庭奉仕員派遣ボランティア事業
1966(S41)年 新潟県肢体不自由協会
事業内容;学習指導,留守番,家事手伝い,その他(散歩・遊び)
1967(S42)年 (財)兵庫県肢体不自由児協会
最近,肢体不自由児に対する理解が深まり,諸政策や各種施設
も充実されつつあるが,重症心身障害児の場合は適当な施設や
学校も少なく,家庭で 療育を行っているケースが多い現状であ
る。 そのためボランティアの協力をえて,ホームヘルパーを在
宅の重症児の家庭に派遣して各種のサービスを行ない,児童の
療育について援助しあわせて楽しい家庭環境づくりに寄与する
11
ことを目的とする。
在宅身体障害者調査結果その1
しののめ展実行委員会・東京都社会福祉協議 1970年
(対象500枚郵送中292枚回収)
介助者としては,9割近くまでが親・兄弟・配偶
者等の肉親である。その他で家庭奉仕員が介
助する場合もある。
介助を必要とする
在宅身体障害者の
41%が家庭奉仕員
の来訪を望んでい
る。
調査時点での
家庭奉仕員の
来訪は、
6%にすぎない。
12
在宅身体障害者調査結果その2
しののめ展実行委員会・東京都社会福祉協議 1970年
【介助を必要とするか】
必要
としな
い
37%
必要
とする
20%
多少
必要
とする
43%
【介助が必要な時】
(複数回答)
食事
会話
4%
11%
外出
43%
用便
16%
入浴
26%
13
大阪市における
身体障害者世帯への派遣状況
1970(S45)年
※世帯数,( )は%
肢体障害者
視力障害者
1級
2級
3級
計
1級
2級
その他
計
15
(12.0)
18
(14.4)
13
(10.4)
46
(36.8)
60
(48.0)
8
(6.4)
2
(1.6)
70
(56.6)
聴覚言語障害者
2級
3級
3
(2.4)
5
(4.0)
その
他
合計
内部障害者
計
8
(6.4)
1級
3級
1
(0.8)
その
他
計
1
(0.8)
14
125
(100.0)
1970(S45)4月8日参議院予算員会公聴会
宮尾公述人(両上下肢機能障害一級)
家族に気兼ねをするあまり,医師を呼ばなかったために手おく
れのようなことになって死亡した人は,リュウマチで28年間寝た
きりでした。
その人が生前書いた文章の一部でございます。
「大きな期待と注目された家庭奉仕員制度,(設置することが出
来る)と条文一行で軽く片付けられているだけで,地方自治体は
何の拘束も受けず,義務を課されていないのである。
それからあらぬか,地方都市の大部分が返上という。理由は金
がない,予算がないのきまり文句。が,果たして本当か・・・・」
この人が死亡したのは去年でありますが,見舞いに行った人の報告に
よると,建て出しの二畳あまりの部屋で,しみだらけの布団にくるまった
まま,枯れ枝のように細くなっていたということでした。
死因はリュウマチの進行が原因の腎不全。
15
家庭奉仕員の人員・報酬等の変遷
年度
1964
1965
1966
1967
1968
1969
1970
1971
1972
1973
1974
1975
1976
設置市町村
160
229
316
451
638
1,960
2,223
2,533
2,728
2,940
3,049
3,106
3,129
人員(人)
611
673
855
1,108
1,338
4,145
4,746
5,586
6,233
7,278
8,173
8,549
8,821
手当年額(円)
活動費を含む(A)
180,000
198,000
213,600
230,400
254,400
286,800
444,000
540,000
660,000
855,600
948,000
月平均
(A)/12ヵ月
16
12,000
15,000
15,000
16,500
17,800
19,200
21,200
23,900
37,000
45,000
55,000
71,300
79,000