現代制御論 平成19年度 数理工学コース 3回生向 山本 裕 http://www-ics.acs.i.kyoto-u.ac.jp [email protected] 今年のテーマ 制御は面白い どう面白いか? いろいろなものが自在に動かせる 物理世界と数理を結ぶものが見えてくる どこまで動かせるかが理論的に分かる 理論が難しいが だから面白い - 難しさを克服することによっ て表面的な現象の奥にあるものが見えてくる 古典制御理論と現代制御理論 古典制御理論 Watt→Maxwell→ Black, Bode, Nyquistの系譜 周波数応答による特性の静的把握と設計法 Bode線図,Nyquist線図,... 図式解法による直観的,経験的設計法 現代制御理論 この講義のテーマ 古典制御理論と現代制御理論II 現代制御理論 状態の概念と微分方程式 より理論的かつ数学的にエレガント 数学的理論により,より普遍的 制御可能かそうでないか: 定性的解答 可能なとき,どの程度の性能が達成できるか? 定量的解答 最適化による理論的設計法: 2次最適化レギュレータ H1 最適化設計法 この講義の計画 導入: 歴史,行列微分方程式のまとめ 状態空間モデルの導入 概念と例,等価(同値)なモデル 可制御性と可観測性,判定条件 標準形 極配置問題 最適レギュレータの設計 制御の歴史 システムとは? 入力 S 出力 ・ チャンネル,変数間の相互作用 ・ 因果的な変化 ・ ダイナミカルシステム 制御とは何か,システムとは? システムとは? 複雑な要素の相互作用する全体 ダイナミカルシステム: 因果的な相互作用をす る;ほとんどすべてのシステムはダイナミカル 因果性: 過去に依存して未来が定まる 制御とは? システムの状態,挙動を希望のものに近づける いつでも出来るのか? でなければどのようなとき,どのようにして? Watt→Maxwell→古典制御論 Watt:遠心調速器 (Centrifugal Governor) Wattの蒸気機関の問題点 比例制御のため,外乱,負荷変動があると オフセット偏差が残る欠点 これを取り除くため経験的に積分補償器を 導入(PI制御) しかしこれによって閉ループ系の次数が増 大 → ハンティングと呼ばれる不安定現象 不安定現象の解析→ Maxwell “On Governors” 古典制御理論の成立 Maxwell: On Governors, 1868 制御系の安定性判別の方法を与えた Routh-Hurwitzによる一般化, 1895 20世紀 高速トラッキングとサーボ系 電気工学と定常応答 遠距離通信とフィードバックアンプ Black: feedback amplifier 古典制御理論の形成 Nyquist, Bode ー Bell研 その達成と問題点 周波数領域における定常応答解析(交流理論) Fourier-Laplace 変換 Wiener filtering → Wiener-Hopfの積分方程 式 本質的に1入出力システムの解析 多入出力システムへの対応が不可能 チャンネル相互の干渉の問題 隠された不安定性の問題 非定常過程への対応 現代制御理論の成立 R. E. Kalman (1978) photo by Y. Yamamoto 現代制御理論の成立(cont’d) 状態空間モデルと現代制御理論の成立 Kalmanフィルタリング,Trans. ASME,1957 On the general theory of control systems, 1st IFAC Congress, Moscow, 1960 Despite the appearance and effective resolution of many new problems, our understanding of fundamental aspects of control has remained superficial. The only basic advance so far appears to be the theory of information created by Shannon. Our ultimate objective is to answer questions of the following type: What kind and how much information is needed to achieve a desired type of control? What intrinsic properties characterize a given unalterable plant as far as control is concerned? 1. 2. 3. 4. 5. 状態空間法の定式化 可制御性,可観測性の概念 最適レギュレータとフィルタリング 制御と観測の双対性 サンプル値による離散時間制御 現代制御理論の成立とロバスト 制御 状態空間モデル d x(t ) F (t ) x(t ) G (t )u (t ) dt y (t ) H (t ) x(t ) システム= ( F (t ), G(t ), H (t )) 可制御か,可観測か - 構造的関心 WienerフィルタとKalmanフィルタ Wienerフィルタ: 伝達関数; 時不変系; 積分方程式による解 非定常過程へのむなしい拡張の試み Kalmanフィルタ: 状態空間モデル; 状態 空間モデルによる解; 非定常過程 可解性条件: 可制御性,可観測性 試行錯誤的な古典理論での制御系設計法から 数理モデルを基礎とした設計への転換 Before 1960 one could speak of control theory as a field with a clear practical relevance, scattered results, little cohesion, and with a diffuse scientific and mathematical basis. By 1970 this had completely changed. In 1970 we could speak of a discipline. --- Jan C. Willems パラダイムの転換 出力を整定する - 古典制御 状態を制御する - 制御と観測の分離 - 2乗評価規範による分離原理 (separation principle) デッドビート制御における成果 サンプル点間応答に対する1つの回答 Kalman-Bertramによる0次ホールド等価離散 時間モデル 達成されたもの 多変数制御系 ラプラス変換から線形代数へ Lyapunovの安定論 最適制御 Pontryagin, LaSalle, 変分法 LQG問題 存在と一意性: 可制御性と可観測性 その特徴 個別性より一般論 代数的性格ー図式解法よりアルゴリズム Ad hoc な設計より系統的解析と最適化 モデルベース設計 Trial and Errorより構造論 ) 理論の数学化,概念化 その後:ロバスト制御の成立ー システムの不確定性への対応 すべてを完全にモデル化することは不可能 不確定性の上界をモデルに取り込み,その 族全体を制御するーG. Zames (1980) 不確定のもののうちの最悪性能(H∞ノルム) を最小にする(min-max問題) 1980-1987: 完全な解答ーMatlabによる 設計ソフトウェア 制御で何が出来るのか 実例 ALFLEX サンプル値制御によるディジタル信号処理 1.サンプル値制御 サンプル値制御=ディジタル制御 コントローラは ディジタル ー離散的に動作 制御対象は連続時間で動作 問題点 多彩な制御動作が可能 しかし連続時間と離散時間が混在 →モデルが極めて複雑 連続時間ベースの性能は保証出来なかった 1950年代以降の大きな問題であった 普通に起こる例:サンプル点の 間が暴れる サンプル点上では上のように整定している 連続時間信号のリフティング f(t) f 0 ( ) f1 ( ) f 2 ( ) f 3 ( ) 関数の離散時間系列にする システムのリフティング 離散時間システム! 新手法による成果:時間応答 従来法 新設計法 その後の展開 サンプル値制御系の設計CAD(MATLAB SDC ツールボックス日経2005年1月17日 掲載ー次ページ)ー原,山本,藤岡 新しいディジタル信号処理(音響,画像)へ の応用 ー Part 2にて 2005年1月17日 日本経済新聞 2005年01月17日 MATLABサードパーティー製品 Sampled-Data Control Toolbox 国内販売開始のお知らせ PDF版 (167KB) ~ ディジタル補償器を用いたロバスト制御のための解析・設計ツール ~ サイバネットシステム株式会社(東証第一部、本社:東京、資本金:9億9500万円、代表取締役 社長:井上惠久、以下“サイバネットシステム”)は、東京大学 原教授、京都大学 山本教授、藤 岡助教授らで構成される開発グループ(以下“SDCグループ”(エスディーシー・グループ))が開 発した、Sampled-Data Control Toolbox(サンプルド-データ コントロール ツールボックス、以 下“SDC Toolbox”(エスディーシー ツールボックス))の国内販売を平成17年(2005年)3月1日よ り開始することをお知らせいたします。 SDC Toolboxは、汎用数値解析プログラムMATLAB(マットラブ)上で動作するサードパーティー 製品のアドオンモジュールで、純粋な連続時間/離散時間系をその特別の場合として含むサン プル値制御系の解析・設計のためのアルゴリズムをMATLAB上で実現したソフトウェア製品とな ります。サンプル値制御とは、連続時間で動作する制御対象に対し、連続時間で動作するディ ジタル補償器(コントローラ)によって制御を行うものです。 サイバネットシステムでは、産学連携プロジェクトとして、学術機関で培われた最先端のテクノロ ジーをソフトウェア製品として産業界へ展開するという形で、技術移転の支援に取り組んでいま すが、このような形でサイバネットシステムの取り扱うMATLABのアドオンモジュールとして国内 販売されるのはSDC Toolboxが国内初となります。 2.ディジタル信号処理への応用 ディジタル信号処理の課題 サンプリングにより高周波(音なら高 音;画像なら細部情報)が失われる サンプリング ! エイリアシング サンプル点間情報が失われる(高周波と低周波 が混同) 最低周波(上図の緑のグラフ)のみで復元 →Shannon の定理 現在のディジタル信号処理の基本原理 ディジタル化→連続時間信号の サンプリング 0 h 2h 3h 4h 5h 6h 7h このままでは音は 聞えない 0 h 2h 3h 4h 5h 6h 7h アホ ナー ロル グド 信回 号路 にを 戻通 すし て 0 h 2h 3h 4h 5h 6h 7h 古いCDプレーヤー オーバーサンプル DA変換器 0 h 2h 3h 4h 5h 6h 新しいCDプレーヤー 7h 0 h 2h 3h 4h 5h 6h 7h 0 h 2h 3h 4h 5h 6h 7h 高音が聞こえない? サンプル値制御理論の適用 サンプル値制御理論によりサンプル点間の 高周波情報を最適復元 細部情報の回復 ディジタルズームへの適用例 原画像(これを2倍にズーム) バイキュービックフィルタ(従来法)による2倍ズーム サンプル値制御による2倍ズーム 音響処理への応用 サンプル値制御を用いることにより,失わ れた高域補正が出来る 三洋電機にてMD(ミニディスクプレーヤ), MP3,携帯電話などにて商品化;ICチップ 出荷中 松下へのOEM出荷 MD向け高域補正効果の一例(周波数スペクトル) 三洋電機 LSIチップ製品化 MDLP4(66kbps) サンプル値制御フィルタ 処理後 原音の周波数スペクトルを できるだけ忠実に補間 高域をより原音らしく 忠実に補間 •JPOP系の音楽(現在は宇多田ひかる、SMAP、平井堅などで実験)には非常に効果的(広がりが出る、 打楽器の抜けが良くなるなど) •今回行った2種類のスピーカ両方で効果が確認された。 これまでに300万石(MP3,携帯電話用)出荷 三洋電機提供 民生用ICチップ組み込み 松下電器ホームページ http://panasonic.jp/pmd/mj500/index.html より(10月1日発売) まとめ いずれも商品化に結びついている 理論から発展したまったく新しい技術であり, それが製品の形をとったことに意義がある
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