人口経済論 第5回 2006年5月22日(月) [email protected] 1 人口減少に関する書籍類:参考 M.S.タイテルボーム,J.M.ウインター著『人口減少:西欧文明衰退への不安』 多賀出版,1989. 古田隆彦+(株)西武百貨店IDFプロジェクト室編著『人口減少ショック:社会が 変わる内需が変わる』PHP研究所 ,1993. 厚生省大臣官房政策課監修(人口問題審議会編) 『人口減少社会、未来への 責任と選択:少子化をめぐる議論と人口問題審議会報告書』 ぎょうせ い ,1998. 藤正巖,古川俊之著『ウェルカム・人口減少社会』文藝春秋,2000. 原田泰著『人口減少の経済学:少子高齢化がニッポンを救う!』PHP研究 所,2001. 松谷明彦,藤正巖著『人口減少社会の設計:幸福な未来への経済学』中央公 論新社,2002. 松谷明彦著『「人口減少経済」の新しい公式:「縮む世界」の発想とシステム』 日本経済新聞社,2004. 大西隆著『逆都市化時代:人口減少期のまちづくり』 学芸出版社,2004. 小林陽太郎,小峰隆夫編『人口減少と総合国力:人的資源立国をめざして』日 本経済評論社 ,2004. 2 人口増加と持続可能な発展 1. 2. 3. 4. 持続可能な発展議論のはじまり 「持続可能な発展」の概念と人口増加 持続可能な発展に向けた戦略と人口増加 の抑制 地球温暖化に見る人口増加と持続可能な 発展のシナリオ:地球の人口扶養力 3 1.持続可能な発展議論のはじまり:1 持続可能な発展又は開発(sustainable development)に近い概念は昔から議論されてき た。 人口との関係で最初にこの議論が始まったのは、 1798年のマルサス(T.R.Malthus)の『人口論』。 マルサスの主張 人口と食料のアンバランスな増加率が食糧の不足 をもたらし、持続可能な条件をなくしてしまう。 →ローマクラブの『成長の限界』1972年へつながる 議論 4 1.持続可能な発展議論のはじまり:2 「持続可能な発展」の概念が広く普及したの は1980年ごろ。国際自然保護連合(IUCN) が最初に「持続可能な発展」というキーワー ドを用いた。 5 1.持続可能な発展議論のはじまり:3 1987年に「環境と開発に関する世界委員会 (通称ブルントラント委員会)」がまとめた報 告書「われら共有の未来(our common future)のキャッチフレーズとなり特に広まる。 この報告書での定義:「将来の世代が自ら のニーズを充足する能力を損なうことなく、 現在の世代のニーズを満たすような発展」 6 1.持続可能な発展議論のはじまり:4 この概念が普及してきた背景には、 1.環境問題が先進国中心の議論が発展途上 国を含めた議論に移り、経済発展を促すこと により環境問題や人口問題を解決していこう とする現実的路線が、環境政策の主流となっ たこと 7 1.持続可能な発展議論のはじまり:5 2.地球問題に対する政治的関心が高まり、こ れにより超長期の人類の発展のあり方そのも のが政策決定の中で論じられるようになった こと 3.冷戦構造の崩壊により、先進諸国から途上 国への外交政策の転換が求められるように なり、経済援助の性格が軍事的安全保障外 交から環境外交や人権外交に重点をおいた ものに変化していったこと 8 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:1 持続可能な発展の概念の類型 1.強調する観点による分類 ・自然条件から設定する概念 (ピアスD.Pearceなど) ・世代間の公平性を強調する概念(ノーガード R.B.Norgaardなど) ・南の貧困や社会的正義を強調する概念(環境と開 発に関する世界委員会World Commission on Environment and Development) 9 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:2 持続可能な発展の概念の類型 2.学問分野のアプローチによる分類 ・経済学的アプローチ ・生態学的アプローチ ・社会文化的アプローチ 10 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:3 経済学的アプローチ ソロー(R.M.Solow1986)などによって提唱 所得を生み出す資本のストックを維持した 上で得られる所得のフローを最大化するこ とを持続的発展の基本とする 環境は所得を生み出す資本の一部とみな され、人口増加は労働供給の観点から評 価されて、あくまでも経済的効率性の概念 が重視される。 11 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:4 生態学的アプローチ ペリングス(C.Perrings1991)などによって提唱 生物的及び物理的な系の安定性に焦点をあてて、 全ての計を地球規模で安定させるために危険が 目前に迫っているサブシステムを取り上げ、その 維持可能性を特に重視する。そして生物学的多 様性を中心的な評価視点とし、理想的な情的状 態を保全するよりも、回復力や変化に適応するシ ステムの動学的能力の保存を強調し、その許容 範囲内で人口収容力や増加のスピードが決定さ れる。 12 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:5 社会文化的アプローチ UNEP(1990)が提唱 社会システム及び文化システムの安定性の維持 を追及する 現時点の公平性や世代間の公平性を重視し、世 界の文化的多様性の保存、少数派の文化に見ら れる持続可能な監修に関する情報の活用を強調 する。 ここでは人口の量的概念よりも質的概念が重要 視される 13 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:6 持続可能な発展という概念の問題点 この理念を元に具体的な政策を立てようとす るとあいまいな点が多く残されている。 1.持続可能性を如何に定義し、計量できるか 2.将来の世代のニーズとは一体どのようなも のなのか 3.持続可能性という理念のもとで我々が資 源の利用等を制限しなくてはならないのか明 らかでない 14 2.「持続可能な発展」の概念と人口増加:7 持続可能な発展とは、経済開発を止め、ゼ ロ成長を意味するのか? クズネッツ(S.Kuzunets)曲線 環境悪化の程度 一人あたり所得水準 15 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増 加の抑制:1 持続可能な発展のための戦略 デイリー(H.E.Daly)の4原則 1.環境容量の範囲内に人間の活動を抑える 2.効率を上げる方向で技術を進歩させる 3.再生可能資源は維持しながら最大の利益 を生むように使う 4.再生不可能な資源の利用は、再生可能な 代替資源を創出した範囲に抑える 16 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増 加の抑制:2 世界銀行の途上国援助に際しての戦略(1994年 報告) 1.人材開発への投資や効率の向上によって、開発 と環境の間にプラスの相互作用を作り出すこと 2.環境への投資、環境計画の支援及び知識ベース の構築などにより、途上国の環境管理を支援する こと 3.アセスメントの徹底、強制移住問題への配慮、貧 しい弱者への配慮などによって、環境への悪影響 を軽減すること 4.地球規模及び広域の問題に配慮すること 17 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増 加の抑制:3 人口増加と経済成長の間には負の相関関 係があるのか? 負の相関があるというの考え方: 経済状態が良くなると出生率が低下し、結果 として人口増加率が低くなるというものである。 関係する見方として、人口増加は資源及び資 本の制約をもたらし、その結果1人あたりの GDPが減少するというもの。(Dixon and Steer 1994) 18 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増 加の抑制:4 人口増加と経済成長の間には負の相関関係があ るのか? 正の相関があるという考え方: 急速な人口増加は高い経済成長を伴う(あるいは穏 やかな人口増加は低い経済成長を伴う)という見方 もある(byボズラップ:E.Boserup、1981) ボズラップは、人口密度が高いと社会的生産基盤に 対する投資が高まり、技術的な発展と金融制度の 発展を刺激するとした。 19 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増 加の抑制:5 人口増加と経済成長の間には負の相関関係があ るのか? 相関がないという考え方: 発展途上国における最近の調査によれば、経験的 な証拠によって正の相関、負の相関のどちらも裏付 けることができず、多くの国における出生率は、どの 経済指標よりも女性の教育レベルと家族計画プログ ラムの存在に関係している。 (byUnitedNations1987、Luts1994) 20 3.持続可能な発展に向けた戦略と人口増 加の抑制:6 人口増加と経済成長の間には負の相関関係がある のか? 少なくとも人口と所得の関係は文化によって異なり うる 両者の相互関係は、実際には社会の発展の異 なった段階に対応して見られる可能性がある。 人口増加の要因は経済や文化など他の要因との 相互見解の中で総合的に描かれるのが最近の傾向 21 4.地球温暖化に見る人口増加と持続可能な発展 のシナリオ:地球の人口扶養力 有限な地球と成長の限界 ローマクラブの『成長の限界』 人口扶養力の試算例 22
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