道徳教育(他学部) 4月20日(金)4限 第一回 「徳は教えられるか①」 前回の感想から① • 私の経験した道徳の授業は、まず「相手を傷つけないこと」 を説くだけでいまいち理解が深まりませんでした。この授業 を受ける以上、何か自分で道徳というものについて主張をも てるようになりたいと思います。教え込まれるのではなく、 そうした主張をもつ相手と戦わせるというもっと激しいもの によってのみ争いは収集するのではないかと考えてきました。 このような考え自体にも変化が出るか、楽しみです。(文学 部 史学科) • 例えば友情にまつわる文章を読んで、自分の考えたことを発 表するという授業があるとします。多くの生徒は友だちと仲 良くすることの大切さを主なトピックとし、教師も特に思う ところなく授業をすすめるでしょう。私は本来そのような道 徳の授業では「そもそもなぜ友だちと仲良くしなければなら ないのか」を考えなければいけないと思います。根本的なと ころから「なぜ」と問い、考える方が教師にとっても生徒に とっても面白い授業になるはずです。(文学部 行動科学科 哲学講座) 前回の感想から② • 小学校では担任の先生によってやる内容、概要が様々だった ので、自分の道徳に対するイメージは「自由」です(先生 が)。思うに、他の教科では教える内容は生徒の学年により ますし、朝の会、帰りの会もやることは、先生のお話以外変 わりませんから、道徳ほど担任の“地”が出る機会もないので はと思います。(理学部 生物学科) • 道徳についてイメージするのは孔子の教えです。高校時代少 し勉強した程度ですが、孔子の教えは道徳教育をするときに 参考になると思います。(文学部 史学科) • 『心のノート』のような教科書の形をとった教育ではなく、 教える教師自身も子どもたちと一緒になって道徳を身につけ ていくような授業が将来できたらいいなと思っています。 (文学部 国際言語文化学科) 前回の感想から③ • 当時から学校の教師のほとんどが「勉強しなさい」としか言 わない環境に疑問を持っていました。普段から道徳的な話を してなかったせいか、たまに誰かが話をして下さっても自習 をしているたくさんの友だちを見てきました。私立の学校 だったので、進学実績を上げたい先生方の気持ちはわからな くはないですが、教育は勉強を教えるだけではないと思って います。(理学部 数学科) • 私立の中高に通っていたせいか、中高時代は道徳の時間とい うことで、道徳学?を学びませんでした。キリスト教系で、 聖書の授業があったのですが、聖書がいわゆる道徳教育に なっていたのかもしれないと思いました。公立の中高では道 徳の時間というものはあるのでしょうか?もしも特にないの ならば、中高の教職の免許を得るために道徳教育という科目 が必修科目になっているのはなぜか、不思議です。(園芸学 部 応用生命化学科) 前回の感想から④ • 高校で学んだ倫理が大好きで、人間とは何かとか正義とは何 かとか、そういうことをとりとめもなくグダグダと考えるの が好きです。私はこういう問題には答えがないから、いつま でも考えていられるのが楽しいのではないかと思います。で すが、やはりときどき“答え”が欲しくなりますね。どのよう に生きるのが理想的なのか、誰かが答えをくれたら楽なので すが、私はそんな答えを受け入れられない自信があるので、 もっとグダグダと考えたいと思います。(理学部 生物学 科) • 現時点で自分の考える「道徳」とは周囲に意識を配ることだ と思っています。すなわち、「公共資本は譲り合う」などの 具体的なものや、そこから「他人の嫌がることはしない」な どに発展する、その一連の流れ全てを「道徳」だと考えてい ます。(理学部 数学科) 前回の感想から⑤ • 決まった国境がない日本で道徳を考え、教えていくのはとて も難しいと思います。他国はどうかまだ知りませんが、なぜ これをこうするとよくて、こうしてはいけないのかとったこ とを神様がいったからというように日本で教えることはでき ません。では、道徳の授業で何を伝えていけばいいか、この 授業を通して考えていきたいです。(教育学部 中学校教員 養成課程 家庭科教育分野) • 中学校の時の道徳の授業が好きでした。色々な話を読んだり 聞いたりするのはすごく面白くて、議論も充実していました。 でも、小学校の時はいくら議論をしてもその優劣がつかない ことが受け入れられなくて、先生が必ず、最後に色んな考え 方があるね。みたいなニュアンスで締めくくるのを少し退屈 に思っていました。(次のスライドに続く) 前回の感想から⑥ • 自分は道徳の授業で部落差別の問題を扱ったことを覚え ています。小学校の時は、それを扱わなければ知ること はなかったから普通につき合えたのに、差別されている 地区があると知ったために変に意識して違和感を覚えま した。いい意味で忘れかけられている部落差別の問題を 探り返して、教育現場で扱うことに意味があるのか、と 昔考えました。(教育学部 理科) • 自分が子どもの時の徳を学んだ教材は「仮面ライダー」 です。正義の概念も徳の内ですよね?今でも好きです。 子どもの頃は道徳の授業は退屈そのものでした。改善さ れるべきだと思います。何が原因だったか知ることがで きたらそれはそれで面白いかと思います。(理学部) 前回の感想から⑦ • サッカー部でサッカーだけではなく、人として成長させてい ただき、その成長した部分が道徳という言葉と関係があると 考えています。入部したての頃は「ちわ!」と90度頭を下 げて挨拶するように上級生から指導されていたのですが、そ の頃は上級生のほとんどが反応してくれず、逆に仲良くなっ ていって、軽く頭を下げて「ちわ!」と笑顔で挨拶した方が 絡んでくれるし、もっと仲が深まるという感じで、そっちの 方が人との関係で道徳が築かれていっているなと感じました。 (理学部) • 中学校に入ってからの道徳教育は少し特徴的だったように思 います。校長先生が自ら時間を割いて授業をしてくれました。 校長先生は校長兼理事長だったのでかなり忙しかったと思い ますが、授業をしてくれました。一応教科書はあった気がし ますが、一度も使わず、いつも先生が話したいことを話して くれました。先生は教養が深くて本当に頭のよいひとで、 様々なことについてのものの考え方を教えてくれました。 (理学部) 前回の感想から⑧ • 大学に入ったので、数学のさらに深いところも見られると期 待していましたが、イプシロン・デルタ論法を2年次までや らないと本日3現に聞かされ、早くもしょんぼりしています。 仕方ないので自分で勝手にやろうと思います。(理学部 数 学・情報数理学科) • 小さいころから年下の子の面倒を見たり、一緒に遊んだりす ることが好きでした。高校のとき、通っていたダンス教室で 幼稚園~小学校低学年の子たちのレッスンの手伝いを行って おり、子どもたちと接していく中で、自分の中では当たり前 だと思っていたことを改めて一から考え、伝えていくことが 楽しく感じたので、教職を取ろうと思いました。(園芸学部 緑地環境学科) • 小学校から中学、高校と出会っていた先生方が皆素敵な先生 で、自分たちのことを考えてくれていて、私にとって出会っ てきた先生方はあこがれの存在でした。そんなこともあって 文学部ですが、英語の教職の免許を取ろうと思いました。 (文学部 国際言語文化学科) グループワーク① • 今日と来週は「徳は教えられるか?」という テーマについて考えてみたいと思います。 • 始めに、近くの人と3~4人のグループを作り、 「徳は教えられるか?」ということについて、 自由に意見を交換してみて下さい。 プラトン『メノン』 • プラトンが師であるソクラテスと、メノンとの対話を書 き記した著作。 • ソクラテスとメノンの対話のテーマは「徳は教えられる か?」 • 結局、「徳は教えられるか?」というテーマに答えは出 ない。大事なのは、その中で「徳とは何か?」、「学ぶ とはどういうことか?」、「教えるとはどういうこと か?」といったことについて、考えが交わされること。 ソクラテスという人物について① • 紀元前470年~紀元前399年 • 古代ギリシアのアテネで活動した哲学者。 • 書物は一つも書き残していない。対話(人間と 人間の接触)による知識の探究を重視し、書物 に記された言葉を死んだ言葉として軽蔑してい た。 • 従って、ソクラテスについては、彼の同時代人 や弟子の記録を通してしか知ることができない。 ソクラテスという人物について② • ソクラテスの友人のカイレフォンがデルフォイ の神殿で「ソクラテス以上の賢者があるか?」 と神に問うたところ、「ソクラテス以上の賢者 は一人もいない」という神託が告げられた。 • ソクラテスはこのことを確かめるために、賢者 と呼ばれる色んな人をたずね、その理由を「無 智の知」、つまり、自分が何も知らないという ことを知っていることにあることを発見する。 ソクラテスという人物について③ • ソクラテスは「無智の知」を大事にし、人間の 悪を自分で知らないことを知っていると信じる ことから生じると考えた。 • ソクラテスはアテネ市民と対話を交わす中で 「無智の知」を自覚させ、逆に智恵に向かう姿 勢(魂の世話をすること)を促そうとした。 • しかし、こうしたプロセスの中で既存の価値観 を疑うことを奨励したソクラテスは社会の秩序 を乱した罪で告発され、処刑されてしまう。 徳とは何か? • メノンはソクラテスに対して、「徳は人に教え られるか?」という問いを投げかける。 • それに対して、ソクラテスは自分はそもそも徳 というのがわからないと言い、逆にメノンに 「徳とは何であるか?」と問い返す。 • ここで使われている「徳」という言葉はギリシ ア語のアレテー。そのものを優れたものとする 特質のこと。卓越性とも訳される。いわゆる道 徳的な徳性のみならず、知的な習熟をも含んだ 概念。 徳は一つか?たくさんあるのか? ① • メノンは、ソクラテスの問いに、男には男の徳 があり、女には女の徳があり、子どもには子ど もの徳がありetc、という形で、答える。つ まり、徳はその担い手によって異なるというこ と。 • また、徳には「正義」、「節制」、「知恵」、 「度量の大きさ」など、多くの種類があると答 える。 徳は一つか?たくさんあるのか? ② • ソクラテスは徳がたくさんあると答えたメノン に対して、「一から多を製造する」のは止めな さいと反論する。 • 例えば、「形とは何か?」と聞かれたら「円」 や「三角形」とは答えないように、「徳とは何 か?」と聞かれたら、徳の種類ではなく、徳の 本質を答えなければいけない。 徳は一つか?たくさんあるのか? ③ • そこで、メノンは徳の本質を「よいものを欲求して これを獲得する能力があること」と定義しようとす る。 • しかし、それが悪いと知っていて悪いものを欲求す る者はいないので、この定義の前半部は意味を成さ ない。 • そこで、定義の後半部に移るが、よいもの(金、銀、 名声etc)を獲得するという場合に、ただ獲得す るだけでは駄目で、正義や節度といった要素が必要 になってくる。(不正に金を獲得するのは徳ではな い) • 結局、徳の本質を定義の中に徳の種類が含まれてし まうという矛盾に陥る。 知らないからこそ探求する • メノンは、自分は今まで徳とは何かを知っていたつ もりになっていたのに、ソクラテスと話す中でそれ が何なのか、わからなくなってしまったと白状する。 • ソクラテスは、自分自身も徳が何であるかを知らな いこと、知らないからこそ探究しなければならない と言う。 • ここに教師としてのソクラテスの姿勢が表れている。 相手に何かを教えるのではなく、「無智の知」を自 覚させ、自分もともに探究する者となる。 • 一方、メノンは教師に正しい答えを教えてもらうこ とに慣れていて、わからないことを探求することに 耐えられない。 メノンのパラドクス • メノンはソクラテスに対して、知らないものを 探究することはできないと主張する。 • 知っているものを探究することはありえない。 なぜなら知っているので、探究する必要がない から。 • 知らないことを探究することもありえない。な ぜなら、その場合は、何を探究すべきかも知ら ないから。 ソクラテスの想起説 • 魂は不死であり、何度も生まれ変わっている。 だから、あらゆるものを見てきて、全てのこと を知っている。 • 人間が何かを「学ぶ」というのは、魂が知って いることを「想い起こす」ことである。 • 普通、「教える」といわれている行為は、魂が 知っていることを「想い起こさせる」というこ とがあるだけである。 • ここにソクラテスの教師としての別の側面(産 婆術)を見ることができる。 中間まとめ • 「徳は教えることができるか?」を考えたいな ら、まず「徳とは何であるかを?」を知らなけ ればならない。 • ところが、「徳とは何であるか?」がわからな い。 • では、それを探究したいのだが、そもそも知ら ないことを探究することができるという前提自 体もあやしい。(ソクラテスは想起説を使って できると主張するが・・・) グループワーク② • 3~4人のグループで話し合ってみて下さい。 • 「徳は一つなのか?たくさんあるのか?」と いうことについて、あなたはどう思います か?一つならそれは何ですか?たくさんある ならそれは何ですか? • あなたならメノンのパラドクスにどう答えま すか? • その他、今日の話の中で気になったこと、質 問してみたいことを自由に話してもらっても 構いません。 感想シート • 今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループ ワークの中で話し合ったこと、授業に対する要望、なん でもかまいません。 • 必ず、名前、所属、学籍番号を書いて出してください。 (所属は空きスペースに分かるように書いてください) • 授業中に伝えきれなかった質問、意見はメール、もしく はブログを利用してください。 [email protected] http://moral-education.seesaa.net/
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