マクロ経済動向分析 4月

マクロ経済動向分析 4月
景気回復は緩やか、穏健な金融政策続く
慶應義塾大学
駒形哲哉研究会
1. 4月のポイント
2013年第1四半期のGDP成長率は7.7%に
鈍化
投資・貿易好調
しかし、反腐敗運動の影響で消費伸び悩
み
政府当局は穏健な金融政策を継続
しかし、様々な懸念もあり金融政策は難
しい局面に。
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マクロ記事分析4月
2
2. 4月の目次
生産・消費
p.4
四川省地震
物価・金融
p.19
p.10
中国経済
対日関係
投資
p.17
p.12
貿易
p.15
2015/9/30
マクロ記事分析4月
3
3-1.生産・消費
投資・輸出好調も消費は伸び悩む
図1
12
10.7
国内総生産(GDP)成長率の推移(単位:%)
10.4
10
9.7
9.6
9.4
9.3
8.1
8
輸出・投資好調
6
7.8
7.7
7.8
7.7
2012.1-12
2013.1-3
消費伸び悩み
・第1四半期の固定資産投資は前年同 ・第1四半期の消費総額は前年同期比
期比20.9%増
12.4%増にとどまる(反腐敗運動の影響)
・第1四半期の輸出は前年同期比18.4%
・企業生産活動の鈍化
増
・人民元の対ドル相場が上昇
・日中関係の悪化
4
2
0
2010.1-9
2010.1-12
2011.1-3
2011.1-6
2011.1-9
2011.1-12
2012.1-3
2012.1-6
2012.1-9
(出所)国家統計局
成長鈍化の背景
⇒輸出・投資好調も、消費の伸び悩みをはじめとするいくつかの要
因が影響
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4
3-1.生産・消費
投資・輸出好調も消費は伸び悩む
• 第1四半期の都市部の求人倍率は1.1倍と前
年同期比0.02ポイント上昇
• 中国人民銀行周小川総裁「2013年第1四半
期のGDP成長率は合理的な水準であり、中国
経済が好調なスタートを切った」
⇔成長率が8%を割ると雇用不安の発生
GDP成長鈍化も政府は緩和的な政策を維持
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5
3-1.生産・消費
3月の製造業景況感、前月水準を上回る
図2
54
製造業購買担当者指数(PMI)の推移(単位:%)
53.1 53.3
53
52
51
50.5
51
50.4
50.2 50.1
49.2
50
49.8
50.2
50.6 50.6 50.4
50.9
50.1
49
48
47
2012.1
2012.2
2012.3
2012.4
2012.5
2012.6
2012.7
2012.8
2012.9
2012.10
2012.11
2012.12
2013.1
2013.2
2013.3
(出所)国家統計局
6ヶ月連続で景気の拡大と後退を判断する節目となる50を上回る。
2015/9/30
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6
3-1.生産・消費
3月の製造業景況感、前月水準を上回る
• 新規受注指数:2.2ポイント上昇し52.3
• 輸出向け新規受注指数:3.6ポイント上昇し
50.9
• 生産指数:1.5ポイント上昇し52.7
10ヶ月ぶりの高水準となり、大企業、中堅企業、小規模経営のすべ
てで改善
⇒中国経済が緩やかな回復傾向にある。
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3-1.生産・消費
反腐敗運動で買い控え広がる
図3
20
18
18.3
18.4
16
16.3
社会消費品小売総額の推移(単位:%)
16.8
17
17.1 14.8
14.4 14.1
14.3
14
12
12.4
・企業や公的機関などの消費の伸びが全体の消費の伸びを
下回る。
・2000万元以上の飲食業の売上高も2.6%減
・欧州の高級ブランドが中国の地方都市への出店を相次いで
凍結
10
8
6
4
2
0
2010.1-9
2010.1-12
2011.1-3
2011.1-6
2011.1-9
2011.1-12
2012.1-3
2012.1-6
2012.1-9
2012.1-12
2013.1-3
(出所)国家統計局
2012年の14.3%増に届いていない。
⇒反腐敗運動の倹約徹底が幅広い分野へ影響
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3-1.生産・消費
反腐敗運動で買い控え広がる
個人所得
の伸び悩
み
所得格差
の大きさ
倹約令
消費
低迷
反腐敗運動による買い控え、個人所得の伸び悩み、所得の格差が要因となり不
動産販売や投資が堅調な中、消費は盛り上がりに欠ける結果となった。
2015/9/30
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3-2.物価・金融
物価は安定、金融緩和継続の余地
図4
消費者物価指数(CPI)の推移(単位:%)
5
4.5
4.5
4
3.6
3.5
3.2
3
3.4
3.2
3
2.5
2.5
2.2
2
1.8
1.5
2
1.9
1.7
2
2.1
2
1
0.5
0
2012.1
2012.2
2012.3
2012.4
2012.5
2012.6
2012.7
2012.8
2012.9
2012.10
2012.11
2012.12
2013.1
2013.2
2013.3
(出所)国家統計局
生鮮野菜、卵、肉、鳥など主要食品の価格が低下
⇒CPIの上昇率が前月より大きく低下
2015/9/30
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3-2.物価・金融
物価は安定、金融緩和継続の余地
CPI・PPIの
伸び率鈍化
景気支援のため
の穏健な金融政
策継続の余地
・3月の人民元融資の新規増加額は1兆600億元となり、1月以
来、2ヶ月ぶりに1兆元を超えた。
・月末時点での通貨供給量も前年同期比15.7%増の103億
6100元となり、事前の予想であった14.6%を超え、初めて100
兆元を突破
中国経済を支援するために潤沢な資金が供給されていることが示
された。
2015/9/30
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3-3. 投資
不動産市況は過熱傾向続く
2012年景気低迷
公共投資の活発化
貨幣供給量の増加
不動産市況の加熱
・第1四半期の不動産開発投資は前年同期比20.2%増
・3月の不動産販売は前年同月比46.5%増
・第1四半期の不動産販売は前年同期比61.3%増
景気が本格的に回復する前に不動産市況が先に過熱する形となった。
2015/9/30
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3-3. 投資
不動産市況は過熱傾向続く
• 好調な不動産販売と住宅価格の上昇により
住宅市場が過熱することへの懸念もある。
不動産バブル懸念の要因
・政府のインフラ投資の認可ペースの加速による都市開発の促進
・日欧米の大規模な金融緩和の促進による投機的資金の流入の加速
⇒抑制策を出すも不動産市況の過熱傾向に
更に拍車をかける結果に。
不動産バブルへの懸念を考えると金融政策は難しい局面にあると
思われる。
2015/9/30
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3-3. 投資
理財産品拡大と不良債権問題、対応迫られる銀行
• 銀行が高利回りの「理財産品」と呼ばれる投資商品
の取り扱いを増加
・大手銀行4行の理財産品の取り扱残高は2012年末時点で3兆元を超え、これら4行で中国の銀行
の預金残高の8割以上を占めるため理財産品は預金残高の7%に相当
・集められた資金は通常の方法では融資を受けにくい所を中心に投資されるためデフォルトが起き
る可能性が高くなるが、銀行と投資家のどちらが責任を持つのかも曖昧なまま
• 1990年代から2000年代にかけて深刻化した銀行の
債務問題が再浮上
リスクの高い理財産品の取り扱いと銀行の債務問題の再浮上
⇒中国の銀行は理財産品に加えて不良債権への対応にも迫られ
る。
2015/9/30
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14
3-4. 貿易
輸出好調もマイナス要因抱える
図5
輸出伸び率の推移
図6
40
45
35
40
30
25
20
34
31.3
26.525.8
22.7
20.3
15
35
30
18.4
42.4
38.7
32.6
27.626.7
24.9
20
7.69.2 7.47.9
10
25
輸入伸び率の推移
15
8.4
10
5
5
0
0
6.9 6.7 4.8
4.3
(出所)中国商務部
第1四半期における対外貿易は輸出が前年同期比18.4%増の5088億ドル、輸入
が前年同期比8.4%増の4657億ドル
⇒前年同期比2億1000万ドル増の430億7000万ドルの貿易黒字であり、輸出は好
調である。
2015/9/30
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3-4. 貿易
輸出好調もマイナス要因抱える
• 3月単月での輸出は10%増、輸入は14.1%増
⇒しかし、貿易収支は8億8000万ドルの赤字
• 1-2月の世界の主な市場の貿易は予想を下回る
⇒主な先進国の需要が好転する可能性は小さく貿易
拡大の原動力は不足
第1四半期の輸出は好調だったが、貿易拡大の原動力の不足や国
内の企業経営コストの高さ、周辺国の競争力向上など中国の貿易
は様々なマイナス要因を抱えている。
2015/9/30
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3-5. 対日関係
日中関係なお貿易に影響、日系企業の苦戦続く
• 対外貿易は好調だったが、対日輸出は前年
同期比3.6%減、輸入は16.6%減、日中の貿易
総額は10.7%減の708億7000万ドル
日中貿易低迷が続いている要因
・尖閣諸島をめぐる対立の影響
・円安の進行で価格変動の影響を受けやすい繊維や服飾などの労働集約型の
輸出が減少
中国の対外貿易が好調の反面、日中貿易はなお低迷
⇒日中両国の関係が政治・経済の両面で悪化する「政冷経冷」によ
る貿易低迷が続いていることを示す結果
2015/9/30
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3-5. 対日関係
日中関係なお貿易に影響、日系企業の苦戦続く
• 大手自動車メーカー4社の2013年3月の中国
での新車販売台数は前年同期比で各社10%
前後減少
中国における新車販売台数減少の要因
・日本との緊張関係による日本車を避ける傾向
・主力車のモデル刷新による旧型の出荷停止
・中国国内メーカーの技術力の向上
中国における2013年3月の新車販売台数が過去最高を記録してい
るだけに、尖閣諸島をめぐる関係悪化の影響での日本勢の苦戦が
続いていることがうかがえる。
2015/9/30
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18
3-6. 四川省地震
四川省でマグニチュード7.0、経済的影響は限定的
• 今回の地震はこれまでの状況から中国経済
への影響は限定的と考えられる。
中国への影響が限定的と考えられる理由
・雅安市は四川省の経済の中心ではない。
・市のGDPが省全体のGDPに占める割合が小さい。
・2008年の四川大地震後の経験に基づくとインフレについても今回も影響は限定的と見込まれる。
・4月22日の株価は地震に絡む支払いが利益率を圧迫するとの懸念から保険株が下落したが、あ
る程度の期間は災害後の復興再建が医薬産業やインフラ産業など一部の産業に発展のチャンスを
もたらすとの見方もあるため地震が相場に与える影響は限定的
今回の地震は中国が低成長、インフレリスクへの対応に努めている
最中に発生したが、これまでの状況から中国経済への影響は限定
的と考えられる。
2015/9/30
マクロ記事分析4月
19
4. 4月のまとめ
四川省雅安市蘆山県で4月20日に
マグニチュード7.0の地震が発生し
たが、地震の中国経済への影響は
限定的
生産・消費
p.4
四川省地震
物価・金融
p.18
p.10
対外輸出好調も「政冷経冷」により日中
貿易は低迷
中国経済
主要食品の価格低下のためCPIの
上昇率が大きく低下
CPI,PPI低下により金融緩和継続の
余地
対日関係
投資
p.16
p.12
貿易
輸出は好調だが様々なマイナス要因も
抱える。
2015/9/30
PMIは4ヶ月ぶりに先月の水準を上
回ったが、消費は低迷
p.14
マクロ記事分析4月
政策により不動産市況加熱
不動産バブルを懸念し抑制策を出
すも裏目に出る結果
20
5. 参考文献
•
•
•
•
•
•
•
朝日新聞
産經新聞
新華社
日本経済新聞
毎日新聞
ロイター通信
海関総署
2015/9/30
• 中国国家統計局
• 中国商務部
• 中国財務部
• 中国人民銀行
マクロ記事分析4月
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