第13章 インフレ税とハイパー・インフレー ション 1 AとBのどちらの金融商品が良いか? • 吉本佳生『金融広告を読め』光文社新書、2005年。お薦め • インフレの恐怖⇒中途解約できない商品Aではインフレが起 きたときに大損する可能性がある。商品Bは中途解約が可 能である。 2 ねずみ講再考 • ねずみ講では、「親」以外の全て参加者は、 自分自身もねずみ講組織へのなんらかの支 払をしないと、ねずみ講組織から利益を受け 取る可能性が無い。 • 「親」だけはねずみ講組織から一方的に利益 を受け取ることができる。 – 教科書p.182図10-1で確認のこと。 • これは「信用貨幣経済」(という一種のねずみ 講組織)でも同じこと! 3 「信用貨幣経済」=一種のねずみ講 • 信用貨幣とは、貨幣に金や銀の裏づけの無 い貨幣のことである。 • 信用貨幣経済において、政府以外の全ての 者は財・サービスを提供することと交換に、初 めて財・サービスを受け取ることができる。 • (ねずみ講では)「親」にあたる政府だけは、 「信用貨幣」という紙切れを印刷して発行する ことと交換に財・サービスを受け取ることがで きる。この特権をシニョレッジという。 4 インフレ税の仕組み • (ねずみ講では)「親」にあたる政府だけは、 「信用貨幣」という紙切れを印刷して発行する ことと交換に財・サービスを受け取ることがで きる。この特権をシニョレッジという。 • このことを「インフレ税(Inflation Tax)」という概 念を使っても説明することができる。 5 政府が「道路」建設をする事例① • 政府は「道路」をつくりたい。当然、財やサー ビスを購入するお金が必要になる。 • 1国で生産される財・サービスのうち「半分」が 道路建設に必要だと仮定しよう。 • 一つのやり方は、民間の所得から「徴税」す ること。民間の「貨幣所得」から税をとって、民 間には1国で生産される財・サービスの「半 分」だけ購入できるようにする。政府は残りの 「半分」を購入することができる。 6 政府が「道路」建設をする事例② • もう一つの方法は、政府が新たに貨幣を発行 して、1国で生産される財・サービスの「半分」 を購入してしまうことである。 • このとき、民間経済主体の手元には、以前か らの貨幣残高に加えて、新たに発行された貨 幣が残されるが、政府が「半分」を購入してし まったので、この貨幣によって購入できる財・ サービスは、今までの「半分」でしかない。 7 インフレ税① • 貨幣残高はたくさん増えたのに、これまでより 少ない財・サービスしか購入できないのであ れば、1単位の貨幣で買える財・サービスの 量は減少する。 • このことを「貨幣価値の低下」と表現する。 • 裏から見ると、1単位の財・サービスを購入す るのに必要な貨幣の量が大きくなる。 • つまり、物価が上がる、インフレが起こった。 8 1国経済 道路建設なし 財・サービスの生産 徴税の場合 貨幣発行の場合 財・サービスの生産 50 100 50 道路建設 財・サービスの生産 50 50 道路建設 貨幣発行 所得 所得 100 50 50 税金 50 50 貨幣所得 貨幣受取 9 インフレ税② • 政府から見ると、貨幣を発行して、インフレを 起こして、民間の所有する貨幣残高の価値を 減少させることによって、「徴税」と同じ効果を 達成することから、この方法のことを「インフレ 税」と呼ぶ。 • インフレ税という、実際にそういう税金の項目 があるわけではない。 10 インフレ税と徴税の違い① • 「インフレ税」は安易な政策手段である。徴税 は税率を変えるのは議会の承認が必要であ るが、インフレ税はただ印刷機を回して紙幣 を刷ればよいだけである。 • 法律上は、貨幣発行権限は「中央銀行」に属 するので、政府は中央銀行に国債を買っても らい、紙幣を手に入れるという手続きをとるが、 中央銀行が政府に従属している国では手続 きだけの問題である。 11 インフレ税と徴税の違い② • 「インフレ税」は安易な政策手段であるために 濫用される危険があり、濫用されると大きな 経済損失が生じる。へたをすると、貨幣経済 が崩壊する。徴税ではせいぜい脱税が横行 するぐらいである。 • したがって、政府は通常は「インフレ税」では なく「徴税」を選ぶ。しかし、財政上の非常事 態が生じた場合には、政府が「インフレ税」を 大々的に用いる場合がある。 12 政府にとっての財政上の非常事態 • 財政上の非常事態とは、①「緊急で巨額な財 政支出を行う必要」が起きた場合、もしくは② 「財政収入の急落」が起きた場合を指す。 • 財政収支(収入-支出)は赤字になり、その 赤字を(民間もしくは外国からの)借り入れに よって早急に埋めることができなければ、政 府には中央銀行からの借り入れ、つまり「イン フレ税」しか頼る道がなくなる。 • 典型的な例は戦争である。 13 戦争とインフレーション • 戦争に関わった国には、戦前・戦中・戦後に 大きな財政支出の必要が生まれる。 • 「戦費」、「戦後の復興費」、「敗戦した場合の 賠償金」など。 • 戦中は、戦争のために人員が動員されるの で生産は大幅に落ち込み、税収も低下する。 敗戦すると、政府の信用は落ち、民間や外国 から借り入れができない。そこで、インフレ税 が大々的に使われる。 • ハイパー・インフレーションへ! 14 歴史的ハイパー・インフレーション • ハイパー・インフレーションとは高率のインフ レのこと。 • 教科書p.232表13-1を参照のこと。 • 第一次世界大戦敗戦後のドイツの事例が史 上もっとも有名なエピソードである。 – バスに乗るのに数十億マルク、2本のソーセージ に演奏会の報酬の半分を支出、翌日には残りの 半分を使ってもソーセージ1本も購入不可能! 15 ドイツの財政悪化原因 • ①戦争により生産が低下し、課税範囲が縮 小したこと。緊急な財政支出が増加。 • ②敗戦による賠償金の支払義務。 • ③債務の累積により利子支払いの増加。 – 雪達磨式に借金の増加 • ④インフレ率の増加により、実質税収の減少。 – 税金の徴収頻度が小さいことが原因。 16 物価上昇の原因 • 貨幣恒等式 物価水準(P)×実質国民所得(Y) =貨幣供給量(M)×貨幣流通速度(V) ハイパー・インフレーションが起きると、Vが高く なる。理由は、自分の持っている紙幣をモノと 交換に誰かに押し付けることで自分の損を小 さくできるから。(ねずみ講と一緒の心理) 17 ハイパー・インフレーションの停止 • 理由は三つ: – 賠償金の支払停止 – 増税と財政支出の削減による、財政収支の改善 – 独立した中央銀行の設立 • これらの政策がドイツ国民のインフレ心理を 打消しした為、インフレが終焉した。 • インフレ心理の根拠を解消する政策を打てば、 インフレは解消される。 18 発展途上国経済とハイパー・インフ レーション • 発展途上国では現在も時々、ハイパー・イン フレーションが起きる。理由は: – 「戦争」 – 「経済体制の転換」:ロシア、東欧 – 「債務危機」:ラテン・アメリカ • 長期化するケースが多い。 – 理由は、経済が「インフレ対応型」に変化すること – このとき、物価と為替レートの連動性が高まる 19 為替レートと物価の連動性 • 物価スライド制の導入 • 為替レートは、最近のものが瞬時に手に入る データであるから、利用される。 • ゆえに、為替レートと物価が連動することにな る。 • ハイパー・インフレーションが起きると、貨幣 経済は崩壊せず、ドルのような「代用通貨」の 経済になる。ドル化 20 貨幣の碇(いかり) • ハイパー・インフレーションが深刻化した国で 物価安定化をはかるために、「対ドル為替 レートの固定化」という手段が考えられる。 • 為替レートを「貨幣の碇(Monetary Anchor)」 にすると言う。 • 究極に進めると、カレンシー・ボード (Currency Board)という考え方になる。中央 銀行を無力化するという政策。 21 政府のシニョレッジへの依存度 • • • • • 説明要因: ①「産業・貿易構造」:鉱工業の比率 ②「経済発展段階」:徴税システム ③「都市化率」:都市住民は課税しやすい 政治要因 – ④「政治の不安定さ」 – ⑤「政党間の意見対立の激しさ」 • ⑥「中央銀行の独立性」 22 貨幣を面白く扱った古典:ファウスト • ドイツの文豪ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe ヨハン=ウォルフガ ング=フォン―)ドイツの詩人、小説家、劇作家。フランクフルトに生まれ、 ライプチヒ、ストラスブールなどの大学に学んだのちシュトルム‐ウント‐ド ラングの芸術運動に参加。「若きウェルテルの悩み」で一躍名声を博し、 詩、小説、戯曲などに数々の名作を生んだ。政治家としても活躍。かたわ ら自然科学も研究。代表作は「西東詩集」「詩と真実」「ヘルマンとドロテ ア」「ウィルヘルム=マイスター」「ファウスト」など。(一七四九~一八三 二))。ちなみに、漫画家手塚治虫はファウストが大好きだった。 23 マークシートのアンケート (HBの鉛筆を使用します) 書き込んでください。 解答に使用します。 学年とクラスの指定を無視して、 10桁の学籍番号を左から埋めてください。 間違った場合には出席になりません! 24 問題① • 「信用貨幣経済」をねずみ講にたとえると、政 府は○○の立場になります。 1.親 2.子 3.孫 4.どれでもない 5.(空欄) 問題番号の1の下の1~4までの選択肢から一 つをマークしてください。 25 問題② • 次の文章のうち、誤っているものを選べ。 1.インフレを起こすのは困難なので、「インフレ税」 よりも「徴税」のほうが安易な手段である。 2.インフレ税を利用すると、経済主体が自国通貨 による貨幣経済から離れて、モノ経済やドル通貨 の利用になることがある。 問題番号の1の下の1~2までの選択肢から一 つをマークしてください。 26 問題③ • ハイパー・インフレーションでは○○が大 きくなることが知られている。 1.実質国民所得 2.貨幣の流通速度 3.財政収入の実質価値 4.自国通貨の貨幣価値 問題番号の1の下の1~4までの選択肢 から一つをマークしてください。 27 マークシート用紙を後ろから集 めてください 28
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