電離放射線取扱者の健康管理 長崎大学先導生命科学研究支援センター 松田 尚樹 平成16年度長崎県産業医研修会 2005.2.20 電離放射線取扱者の健康管理 法的規制 放射線防護の基礎と実際 低線量放射線の健康リスク 法的規制 電離放射線取扱者の安全管理に関連する法令 放射線障害防止法(RI法、文部科学省) 放射線による障害を防止し、公共の安全を確保するため 電離放射線障害防止規則(電離則、厚生労働省) 放射線業務に従事する労働者の安全・衛生を確保するため 電離放射線取扱者の安全管理 環境管理 作業管理 モニタリング 施設能力の維持 安全取り扱い 放射線防護 健康管理 被ばく管理 健康診断(特別定期健康診断) 健康診断 RI法 電離則 放射線業務従事者(一時 対象 的に管理区域に立ち入る 者を除く) 放射線業務に常時従事す る労働者で管理区域に立 ち入るもの 初めて管理区域に立ち入 る前 雇入れ又は当該業務に配 置替えの際 時期 管理区域に立ち入った後 その後6月以内ごとに1回 は1年を越えない期間ごと 健康診断 RI法 • • 時期 • • RIを誤って吸入摂取し、又は経口摂取したとき RIにより表面密度限度を超えて皮膚が汚染さ れ、その汚染を容易に除去することができない とき RIにより皮膚の創傷面が汚染され、又は汚染 されたおそれのあるとき 実効線量限度又は等価線量限度を超えて放射 線に被ばくし、又は被ばくしたおそれのあるとき 健康診断 RI法 • • 問診 放射線の被ばく歴の有無 被ばく歴を有するものについては、 作業の場所、内容、期間、線量、 放射線障害の有無その他放射線 による被ばくの状況 電離則 • • • 被ばく歴の有無 自覚症状の有無 被ばく歴を有するものについては、 作業の場所、内容及び期間、放 射線障害の有無その他放射線に よる被ばくに関する事項 健康診断 RI法 • 検 査 又 は 検 診 管理区域 立入前 • • • 管理区域 立入後 末しょう血液中の血色素量又 はヘマトクリット値、赤血球数、 白血球数及び白血球百分率 皮膚 眼(医師が必要と認める場 合) 医師が必要と認める場合、上 記項目 電離則 • • • • • 白血球数及び白血球百分率 赤血球数及び血色素量又は ヘマトクリット値 白内障(使用する線源の種類 等に応じて省略可) 皮膚 前年1年間に受けた実効線量 が5mSvを超えず、かつ、当 該健康診断後の1年間にうけ る実効線量が5mSvを超える おそれのないものに対して、 医師が必要と認めないときは 上記検査は要しない。 実効線量限度 100mSv/5年 妊娠可能な女子 ただし50mSv/年を越えないこと 5mSv/3月 妊娠中の女子 1mSv/出産まで(内部被ばく) 実効線量の実態 平成15年4月~平成16年3月 ガラスバッジ(千代田テクノル社)測定結果より 年平均実効線量(mSv) 0.4 0.3 男性 女性 0.2 0.1 0 医療 工業 研究教育 全分野 男性 281,000人 女性 64,000人 被ばくが疑われる場合 外部被ばく線量の推定 放射線測定具(ガラスバッジ等)による測定 線源及び被ばく状況からの推定 内部被ばく線量の推定 Bioassay Whole Body Counter 放射線防護の基礎と実際 放射線防護の目標(ICRP) 利益をもたらすことが明らかな、放射線被ばくを伴う行 為を不当に制限することなく人の安全を確保すること 個人の確定的影響の発生を防止すること 確率的影響の発生を制限すること 確定的影響と確率的影響 しきい値 確定的影響 しきい値を越えて被ばくした 場合に現れる 骨髄、皮膚、眼、胎児への 影響 確率的影響 しきい値が存在せず、線量 の増加とともに影響の発生 確率が増加する がん、遺伝的影響 頻度 100 (%) 50 0 発生 確率 (%) 線量 10 5 0 線量 確定的影響ー 胎児への影響 胎生期 胎齢 影響 しきい値 着床前期 受精〜9日 胚死亡・流産 0.05〜0.1Gy 器官形成期 2週〜8週 奇形 0.1Gy 胎児期 9週〜出生 精神発達遅延 0.12Gy〜 0.2Gy リスク係数 (/Sv)* 1〜4x10-1 *子宮内で原爆に被爆した胎児のデータより推定 確率的影響ー がん死のリスク評価 4 x 10-2 / Sv 20mSv(年平均実効線量限度)を40年間被ばくしたと仮定すると 4 x 10-2 x 20 x 10-3 x 40 = 3.2 x 10-2 名目確率係数 年間被ばく線量 24%(24x10-2) 自然がん死率 年数 27.2%(27.2x10-2) 被ばくによるリスクを加えたがん死率 放射線防護体系(ICRP) 行為の正当化 Justification of practice 防護の最適化 Optimization of protection As low as reasonably achievable: ALARA 個人の線量限度 Dose limitation 放射線防護の対象 外部被ばく 密封線源 非密封線源 放射線発生装置 内部被ばく 非密封線源 放射線発生装置(誘導放射性核種が生成するもの) 外部被ばくの防護 施設としての防護 管理区域の設定 十分なしゃへい能力の達成 放射線量のモニタリング 作業者による防護 作業時間の短縮 適切なしゃへい物の使用 線源との距離の確保 在宅医療におけるX線撮影装置の安全な仕様について 平成10年6月30日 医薬安発第69号 X線撮影に必要な医療従事者以外は、X線撮影管 容器および患者から2m以上離れて待機すること。 患者の家族、介護者および訪問者は、X線撮影管 容器および患者から2m以上離れて待機させること。 散乱線の空間線量 胸部 190μSv 0.14μSv 0.1μSv 腹部 1100μSv 0.90μSv 0.5μSv 1.5 m 自然放射線 6.6μSv/日 2.0 m 内部被ばくの防護 施設としての防護 管理区域の設定 空気中放射能濃度の制限 汚染、放射性廃液、排気のモニタリング 作業者による防護 手袋の着用 フード、マスクの使用 汚染検査 低線量放射線の健康リスク PNAS 100, 13761-137661, 2003 がん発生の上昇を示す疫学的証拠が得られる最小 線量は? 急性被ばく 広島、長崎の原爆被爆者データから推定 慢性被ばく 原子力産業関係者、核実験被ばく者、放射線診断・治療患者の データから推定 原爆被爆者の被ばく線量域とがん発生のリスクとの関係 がん発生の上昇を示す疫学的証拠が得られる最小線量 急性被ばく 慢性被ばく 線量(mSv) 全身被ばく 10~50mSv 50~100mSv 局所被ばく 0.15 胸部単純撮影 0.19 胸部撮影(移動式) 1.1 腹部撮影(移動式) 2 胃透視 2.4 自然放射線/年 5 女子線量限度/3月 20 平均線量限度/年 50 最大線量限度/年 100 胎児影響 10~100mSv以下の低線量放射線の影響を推定 する最も適切なモデルは何か? a b c d e しきい値なし直線モデル 下向きカーブ 上向きカーブ しきい値あり直線モデル ホルミシスモデル 現時点では、放射線発がん の機構にフィットするか否か という点で、しきい値なし直 線モデルを超えるものはな いようである。 朝日新聞 2004年2月11日 Lancet 363, 345-351, 2004 世界各国のX線診断頻度 (UNSCEAR Report 2000) イギリスおよびフィンランドのX線診断における組織被ばく線量 イギリスのX線診断における年齢および性別分布 世界各国のがん発生数およびがんによる致死数 適用 広島、長崎の原爆被爆者のデータから推定されるリスク計算 モデル 計算 推定値 国 日本 クロアチア ドイツ オーストラリア ノルウェー 15ヶ国平均 年間X線診断回数 寄与リスク /1000人 1,477 (1,573) 903 1,254 565 708 819 年間がん 発生数 3.2 7,587 (4.4) (10,432) 1.8 169 1.5 2,049 1.3 1.2 1.2 431 77 1,239 日本のCT検査頻度データはないため、本論文では健康管理レベル1の国々の平 均値を日本のデータとして採用している。日本のCTスキャナ台数は他国平均の3. 7倍多いことよりCT検査頻度も3.7倍多いとすると、カッコ内の数値となる。 診断X線の頻度と寄与リスクの関係 リスクについて 患者を追跡調査した結果ではなく、理論的なリスク推定値で ある。 75歳までの間の毎年、診断X線の平均線量を受けた場合の結 果である。 多くの仮定に基づいている。 しきい値なし直線モデル X線診断受診者と非受診者で死亡率は同じ X線診断によるがんのリスクは一生残る これらの仮定に誤りがあると、リスクは最大で約50%減少する。 日本のデータについて 上部消化管撮影と胸部直接撮影の頻度が他国と比べ高い。 日本 上部消化管撮影 胸部直接撮影 健康管理レベル1各国平均 8.0% 5.7% 42.0% 25.0% UNSCEAR REPORT 2000 CT検査件数はさらに増加傾向にある。 他国よりも突出して高い事実を否定する要素は見当たらない。 電離放射線取扱者の健康管理 法的規制 放射線防護の基礎と実際 低線量放射線の健康リスク
© Copyright 2024 ExpyDoc