環境経済論 - 立命館大学 - +R 未来を生みだす

環境経済論
第14回目(最終回)
市場は地球環境を救えるか
その5: 排出量取引(キャップ・アンド・トレード)の実際
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排出量取引と企業
排出割当の配分
企業A
(高削減コスト)
企業B
(低削減コスト)
価格シグナル
自前の削減より排出割当を
購入した方が安上がり
目標以上に削減して余剰
を売却することで利益
購入
売却
排出割当市場
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排出量市場の価格形成
• 個々の排出源における
限界削減費用曲線(MC)
の水平方向の和が社会
的限界排出削減費用曲
線(MSC)
• 排出量取引の結果、排出
割当価格は総削減量Q*
におけるMSCの値、p*に
最終的に落ち着く
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排出割当の初期配分
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排出割当の初期配分
1. 無償配分(過去の排出実績に応じて配
分する=grandfathering)
2. オークション
3. grandfatheringとオークションの組み合
わせ
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グランドファザリング
• 過去の排出実績が基準
例:1990年水準に対して6%削減が必要な場合、各社の1990年排出実績
の94%に相当する排出割当を配分する
• 長所
– 企業の負担がオークションに比べて少ない
– 政治的に受け入れられやすい
• 短所
– 不公平感を伴う(成長企業に不利、衰退企業に利益)
– 新規の起業に対して禁止的
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オークションによる配分
• 排出割当をオークション(競売)で有償配分
– 企業は予定排出量だけオークションで割当を購入し、後で過
不足分を排出量市場における取引で調整する
• 排出割当のオークション配分は本質的には環境税と
同じ働き
– 環境税の税率に相当するのがオークション価格(市場価格)
– 均衡では、オークション価格p*=社会的限界削減費用MSC
• 右辺は防止的観点での社会的外部費用
• 左辺は排出量あたりの排出源企業から政府への支払い額
• 結局排出量あたり限界外部費用を課すピグー税と同じ機能を
果たす
• ピグー税の税率にあたるオークション価格は市場が
決定する
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グランドファザリングと
オークションの組み合わせ
• 発行割当の3~10%程度をオークションで販売
– 売上げは政府の事務経費に充当する
• 残りはグランドファザリングで無償配分
• 米国、SO2排出量取引制度(酸性雨プログラム)
で採用される
• 政府歳入確保と企業負担最小化の組み合わせ
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バンキング
Banking
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排出割当のバンキング
• 排出削減の超過達成分を売
却する代わりに貯めておい
て将来年度に備えるために
繰り越す
• 逆に、不足分を貯めておい
て将来返却するのがボロイ
ング(borrowing)
・・・ボロイングは排出削減を遅ら
せる口実に使われる可能性が
あるので注意が必要
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バンキングの効果
• 時点間で割当の移転が可能となるため、
同一規制の下では市場価格の変動が平
準化する
• もし将来、規制が厳しくなり削減費用が高
騰するなら、削減を早めに実施して超過達
成分をバンキングすることが企業にとって
望ましい(削減前倒しの効果)
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排出量商品
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排出量商品の種類
1.
排出割当(allowance)
政府から配分された割当を取引する
2. 排出削減クレジット
プロジェクトによる削減量を公式に認定したもの
3. 自主削減量
法的効力のない削減量。個人、企業のイメージ向上に
使われる
4. デリバティブ
排出割当などの先物、オプションなどの派生商品
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排出削減クレジット
• 対象プロジェクトによる排出削減量を「クレ
ジット」として認定
排出削減クレジット=ベースラインー実績排出量
• 政府または指定の認定機関が認定し、プ
ロジェクト実施者に与える
• 排出割当と同等の効力
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排出削減クレジットの概念
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ベースライン
• ベースラインとは「プロジェクトを実施しな
かったとした場合の当該年の排出量」
• ベースラインの設定によってクレジットとし
て認定される量は大きく変わる
• ベースラインの定義の仕方は議論の余地
が多く、検討の余地が数多く残る
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京都メカニズム
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京都メカニズムとは
• 温室効果ガス排出削減目標達成の柔軟措置
– 排出量取引 (先進国同士)
– 共同実施 (先進国同士)
– クリーン開発メカニズム(先進国と途上国)
• 京都議定書(国連気候変動枠組み条約の第3回
締約国会議COP3)に規定された
• 対象ガス=6種CO2,CH4,N2O,HFC,PFC,SF6
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京都メカニズムの排出枠
国の排出枠
=
初期割当量(AAU) 日本は1990年比6%の削減
+
吸収量(RMU)
+
共同実施(ERU)、CDM(CER)獲得
+
排出枠(AAU、RMU、ERU、CER)
の購入(+)または売却(-)
「排出量取引」
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共同実施
Joint Implementation
• 先進国(付属書Ⅰ国)同士
が協力して排出削減プロ
ジェクトを実施する
• 投資国が資金を出しホスト
国でプロジェクトを実施する
• 結果として生まれた排出削
減量の一部をクレジット
(Emission Reduction Unit,
ERU) として投資国に移転
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クリーン開発メカニズム (CDM)
Clean Development Mechanism
• 先進国(付属書Ⅰ国)と途上国
(非付属書国)が協力して途上
国内で排出削減プロジェクトを
実施する
• 投資国が資金を出しホスト国
でプロジェクトを実施する
• 結果として生まれた排出削減
量のクレジットを投資国とホス
ト国で分け合う
• クレジット(Certified Emission
Reduction, CER)の認定は
CDM理事会が行う
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排出量取引(キャップ・
アンド・トレード)の実証
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排出量取引(キャップ・アンド・
トレード)のこれまでの歩み
1981年、New Zealand、漁業資源管理に譲渡可
能漁獲割当(ITQ)制度を導入
1991年、米国Acid Rain Program (Clean Air
Actに基づく)によるSO2排出量取引の開始
2002年、イギリスで温室効果ガス排出量取引ス
キーム発足
2008~2012 京都議定書の遵守期間
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開かれた排出量取引市場
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市場のアクター
• 排出量取引には誰でも参入できる
–
–
–
–
排出源
ブローカー、商社、金融機関
個人、NGO、研究者など
取引が活発であればあるほど価格形成は早くて的確
• 一方で、グループによる囲い込みも容認
(=バブル)
– 排出源グループを設定し、全体で削減目標を達成する
– 個別目標達成の過不足はバブル内で調整が可能
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排出量市場の発展
• 国際市場の形成
– 現在は、一部の国、自治体の制度と京都メカニズムの
制度による萌芽的市場が見られるのみ
– 実際の取引の多数は制度的裏づけのない「自発的」取
引
– 将来は次第に国際市場に統合の方向
• デリバティブの形成
– 排出量先物、オプションなど、リスク・ヘッジに利点
– 将来の規制の政治的動向に大きく左右される
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排出量を買い上げるNGO
(その1)
• Clean Air Conservancy(米国)
– 1992年設立
– 排出割当を買い上げ、汚染排出には使わないため、
総排出枠を縮小させる効果がある
– SO2, NO2の排出量取引に参加
• 実績=SO2を1350トン、 NO2を2900トン買い上げ
– 市民から募金して、金額に応じて証明書(Clean
Air Certificate)を発行する
• $28.25 … SO2 250ポンド(110kg)
• $27.00 … NO2 10ポンド(4.5kg)
• $ 7.00 … CO2
1トン
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排出量を買い上げるNGO
(その2)
• Acid Rain Retirement Fund
– 大学生が設立(1996年)
– シカゴ取引所でSO2をオークション購入
• 1999年、12トン
• 2000年、163トン
– 募金協力者にはARRFの証明書を発行
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環境経済論
終わり
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