第14章 銀行業と信用創造 1 信用創造のプロセス • 貨幣=決済手段 • 市中銀行の創造する「信用」も「貨幣」の一部 として含めることができる • 政府が発行する「現金」を基礎に、市中銀行 が信用創造を行い、貨幣供給が増える 2 信用創造のプロセス • ある個人が銀行から 1000万円の住宅ロー ンを借り入れる。この金 額は、個人名義の預金 口座に振り込まれる。 A銀行 住宅ローン 預金(久松) 1000万円 1000万円 久松 預金 1000万円 住宅ローン 1000万円 3 信用創造のプロセス • 個人はこのローンを使って、住宅建設の費用 を建設会社に支払う。 • 振込みで行う。 • 建設会社はこの1000万円を、ちょうど支払う ことになっていたセメント会社への支払に使う ことにした。 • これまでの金融取引(計3000万円)で一回も 現金は利用されていない! 4 銀行預金の 利用 A銀行 住宅ローン 預金(久松) 1000万円 1000万円 預金(建設会社) 1000万円 預金(セメント会社) 1000万円 久松 預金 1000万円 住宅ローン 1000万円 建設会社 預金 1000万円 セメント会社 への借金 1000万円 セメント会社 預金 建設会社 1000万円 への融資 1000万円 5 すべてが銀行取引で行われるなら • 経済取引はキャッシュレス(現金無し)で行わ れることになる。 • ところが、現金が必要になるときもある。 • セメント会社が給料の支払を現金で行えば、 現金が必要になる。 • 銀行は現金の準備が必要になる。 6 銀行の預金準備 • 銀行の準備は、銀行の金庫に納められる(現 金準備)か、中央銀行の金庫に納められる (中央銀行預金)のどちらかで、この二つを 「預金準備」と呼ぶ。 • 銀行の経営からすると、利子のつかない預金 準備は少なくしておきたい(融資にまわせば 利子収入が稼げる)。 • 困った! 7 銀行間信用もしくはコール・ローン • 預金準備は少ないほうが望ましいが、預金準 備が少なすぎると現金需要の応えられないか もしれない。 • そこで、「銀行間信用」もしくは「コール・ロー ン」という、他の銀行からの短期の借入を利 用するという知恵が生まれた。 8 現代経済の信用貨幣の創造 • 2段階のプロセス – ①政府がただの紙切れに信用を賦与して、「現 金」とする段階 – ②預金準備を保証として、市中銀行が信用を創 造する段階。 • その際、「現金」と市中銀行の「中央銀行預金」とが創 造する銀行信用の保証となるので、「現金」と「市中銀 行預金」を合計したものを「マネタリー・ベース」もしくは 「ハイパワード・マネー」と呼ぶ。 9 1836年~60年自由銀行時代(米国) • この時代には、アメリカの多くの州が銀行の 設立を自由に認め、どの銀行も「銀行券」を 発行することができた。 • 全米で3000種類以上もの貨幣が供給された。 • しかし、銀行券と貴金属の交換(兌換)が保 証されていた為に、銀行の信用の綿密な審 査ができ、そのため、貨幣経済の崩壊はおこ らなかった(Gorton (1996))。 • 悪い銀行だったら金に替えておけばよい。 10 もし銀行経営に疑いを持ったら、、、 • 「預金」を引き降ろして「現金」に換えればよい • 銀行は、そういう預金者の行動原則を計算に 入れて、経営の安全に努力する • ところが、もし限度を超えて、銀行にたいして 現金への交換が殺到すると、別の問題を生 むのである。 • 預金額の一部しか現金準備をもっていないの で、100%の兌換は不可能だからだ。 11 取り付け騒ぎ • 預金者が、一斉に預金の現金への交換を求 めることを取り付け騒ぎ(bank run)と言う。 • 取り付け騒ぎを研究した理論としてはダイア モンド=ディビッグ(1983)が有名である。 12 取り付け騒ぎ(Bank Run)が出てくる映画 『素晴らしき哉、人生!』 It’s a Wonderful Life • フランク・キャプラ監督 • ジェームス・スチュワー ト主演 • クリスマス映画として米 国では大変有名 13 3つのタイプの資産 収益性 安全性 流動性 現金 ゼロ 高い 高い 銀行預金 中 高い 中 低い 低い 証券(株、債 高い 券) 流動性: どれだけ低いコスト(費用)で決済手段に変換できるか 14 ダイアモンド=ディビッグ(1986) • 世の中には、時間をかけて待つと収益が上 がる投資先がある。 • しかし、人々には突然の現金需要が出てくる 場合もある。 • そこで、銀行預金(流動性に強み)と証券(収 益性に強み)の間でトレードオフが存在する。 15 ダイアモンド=ディビッグ(1986) • 銀行側は、すぐに預金をおろして現金化する 人が少なければ、その分だけ現金を用意して おけばよい。 – 預金者が「取り付け騒ぎ」が起きないと予想する 場合には実際に「取り付け騒ぎ」は起きない。 • ところが、すぐに預金をおろして現金化すると いう預金者が全てであれば、銀行はそれだけ の準備をもっていないので、対応できない。 – 預金者が皆が取り付けに行くと予想すると、取り 付け騒ぎはおきてしまう。 16 実際に噂で取り付け騒ぎは起きる • 1973年12月豊川信用金庫 • 電車の中で主婦のグループが「こんな時勢で は豊川信金でも危ない」と噂していた。 • 豊川信金は全く安全であったのに、乗客が聞 いて、噂が広まり、取り付け騒ぎにまで発展し た。 • 噂(=他人に対する予想)は、信用経済を揺 るがす場合がある。 17 取り付けへのセーフティ・ネット • 取り付けが生じたさいの窓口業務の停止 • 最後の貸し手である中央銀行からの緊急融 資 • 預金保険による預金保護 • 「良い銀行」も風評被害によって潰れることを 抑えることを目的とする 18 では、取り付けは非合理的な行動? • 銀行が潰れるのは「根も葉もない噂」による のだろうか?それとも、やはり銀行の中身が 悪いからなのだろうか? • カロミリス=メーソン(1997)の研究は1932年 のシカゴで起きた取り付け騒ぎについて調べ ている。 19 カロミリス=メーソン(1986) • 噂の取り付け騒ぎ理論が正しければ、 – 「良い銀行」も「悪い銀行」も同じように潰れるは ずである。 • きちんと、預金者が噂に惑わされず、「良い銀 行」と「悪い銀行」を区別していれば、 – 「良い銀行」は生き残る可能性が高く、「悪い銀 行」が潰れる可能性が高いはずである。 • 答えは、後者であった。 20 ということで、 • 取り付け騒ぎが起こっても、健全な銀行まで 無差別に潰れるわけではないということがわ かった。 • そうであれば、銀行業への公的なセーフティ・ ネット(=保護)をすることには慎重な議論が 必要である。 • 保護をすると、銀行側が怠ける可能性が出て くる。 21 怠ける銀行 • 1980年代のアメリカにおける貯蓄貸付組合 (S&L)はその最たる例であった。 • 預金に公的な保険がついていたために、経 営が悪化したS&Lは安全を重視しなった。 – 危険な資産(発展途上国への投資)をして、もし 成功すれば経営が回復する。 – もし失敗しても、預金は政府により保護されてい るので、損はない。 • モラル・ハザードと言う。 22 危険を好む金融業の見本 • 映画「ウォール街」 • 1987年 • 監督:オリバー・ストー ン • 出演:マイケル・ダグラ ス、チャーリー・シーン、 ダリル・ハンナ 23 危険と共存していた金融業の見本 • 映画『金融腐敗列島 呪縛』 • 1999年 • 監督:原田真人 • 出演:役所広司、椎名 桔平、風吹ジュン、若 村麻由美、仲代達矢 24
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