ムンプスワクチン接種後に発症 した無菌性髄膜炎の 臨床 - J-Stage

226
臨
床
ム ン プス ワクチ ン接 種後 に発 症 した無 菌 性髄 膜 炎 の
臨 床 ウイル ス学 的 検 討
(財)田 附興風会医学研究所
森
田端
北野病院小児科
勇
鳥居
昭三
欠 田
泰之
長藤
洋
文子
浜本小児科
浜
本
芳
(平成2年5月2日
彦
受付)
(平成2年7月lO日 受理)
Key
words
:
aseptic
meningitis,
1. は じめ に
mumps
vaccine
身 性 の 強 直 性 痙 挙 が 約2分
小 児 の ム ン プ ス ウイ ル ス感 染 症 は 中 枢 神 経 系 の
を 受 け た.3月31日
合 併 症 が 多 く,大 部 分 は 無 菌 性 髄 膜 炎 で 脳 炎,脊
症 状 を 指 摘 さ れ た.内
髄 炎,時
な つ た が 発 熱,頭
に聴 力 障 害 等 も見 られ る.そ の 発 生 防 止
の た め に弱 毒 ム ン プ ス ワ ク チ ン の 開 発 が 始 ま り,
持 続,某
服薬 のみで嘔吐 は認め な く
痛 は 続 き,4月1日
い
家 族 歴:
特 記 事 項 な し.
で1989年4月
疹
既 往 歴:
熱 性 痙 挙(9ヵ
疹,ム
ン プ ス,風
入 院 時 現 症:
は あ つ た.胸
い もの とさ れ て い る が,接 種 後 の ム ン プ ス髄 膜 炎
深 部 腱 反 射 正 常.項
の報 告 例 が 内外 で 相 次 い で い る.今 回,我
を 認 め た.
々は ム
生 物 学 的 検 討 を 加 え い くつ か の 問 題 点 を 提 起 した
mg/dl,髄
い.
た.髄
〔症 例1〕s.K.4歳5ヵ
主 訴: 発 熱,頭
痛,嘔
吐,痙 挙.
現 病 歴: 平 成 元 年3月14日,ム
(MU308)の
.
ンプス ワクチン
別 刷 請 求先:(〒530)大
日朝,突
然,全
阪市 北 区 神 山 町13-3
(財)田 附 興 風会 医 学 研 究所
北 野病 院 小
児科
森
勇
胞 数2,120/3/
核 球480),糖54mg/
dl,蛋
mm3
白50
液,咽 頭 よ り ム ン プ ス ウ イ ル ス を 分 離 し
研)に
ChainReaction)法
お け るPCR
立予防
(Polymerase
で の 検 討 の 結 果,ワ
で あ る こ と が 判 明 し た.頭
接 種 を受 け,15日 後 に発 熱 と と も に頭
痛 を 訴 え嘔 吐 も頻 回 に あ つた.翌
髄 液;細
液 か ら の 分 離 株 に つ い て は 後 日,国
衛 生 研 究 所(予
月,女 児(Fig.1)
部 硬 直 お よ び ケ ル ニ ッ ヒ兆 候
入 院 時 検 査 所 見:
(単 核 球1,640,多
例
月).
腹 部 に 理 学 的 異 常 所 見 は な か つ た.
例 を 経 験 し,ウ イル ス学 的,血 清 学 的 さ ら に分 子
2. 症
月,4歳0ヵ
傾 眠 状 態 で 問 い か け に対 す る応 答
(MMR)ワ
クチ ンが 実 施 され て い る.現 在 市 販 の
ム ン プ ス お よびMMRワ
クチ ンは副反 応 は少 な
ン プ ス ワク チ ン接 種 後 に発 症 した 無 菌 性 髄 膜 炎5
当科を紹 介
さ れ 入 院 と な っ た.
わ が 国 で も1981年 よ り任 意 接 種 が 開 始 され,つ
か ら は,麻
病 院にて診察
近 医 を受 診 し軽 度 の 髄 膜 刺 激
部CT上
ク チ ン株
異常 は認め な
か つ た.
経 過:当
初,ヘ
ル ペ ス 脳 炎 の 疑 い も あ り Acy-
clovirを
用 い た.6病
し た.入
院 中 痙 挙 は な か っ た.17病
日 に 頭 痛 消 失,9病
日に 解 熱
日に髄 液 中 ム
ン プ ス 抗 体IgG.S-ELISA*(1+)0.463,
ELISA**(3十)0.899と
IgM-G
な つ た が,
感 染 症 学 雑誌
Herpes
第65巻
Sim第2号
ム ン プス ワク チ ン接 種 後 の無 菌 性 髄膜 炎
Fig. 1
plex
Virus
IgM-C-ELISA
type
1 (HSV1)
Case 1. S.K., 4Y5M, Girl
IgG-S-ELISA,
見 な く,皮
陰 性 で ヘ ル ペ ス脳 炎 は否 定 され
た.
膚 に 発 疹 を 認 め な か つ た.項
主 訴:
月,女
現 病 歴:
チ ン(Lot.No.不
明)の
に 発 疹 が 出 現,1日
り悪 心,20日
抗 体IgG-S-ELISA(1+)0.475で
特 記 事 項 な し.
平 成 元 年5月18日,近
接 種 を 受 け,10日
で 消 失 し た.接
某 病 院 へ 入 院.3日
(4,312/3/mm3,翌
経 過:
医 でMMRワ
目39℃ の 発 熱,そ
疹,風
後 顔面
8月21日
の 髄 液 で は ム ン プ ス 抗 体IgG-S-
目よ
後解熱 せず
日 最 高8,064/3/mm3(単
核 球
判 明 し 抗 生 剤 も投 与 さ れ た が 細 胞 数 の 減
少 が 充 分 で な く,1ヵ
月 の 経 過 に も 関 わ ら ず136/
3/mm3あ
院 へ 転 院 し た.ム
ン プ ス患
児 と の 接 触 は 認 め な い.
初 診 時 現 症:
ELISA
腹部 に理学的異常所
Immunosorbent
Assay)
* IgG -S-ELISA (IgG-Solid-ELISA method)
** IgM-C-ELISA (IgM -Capture-ELISA method)
平成3年2月20日
清 の ムン
疹 抗 体 価 の 推 移 を 示 す(Table1)
(2十)0.692,IgM-C-ELISA(2十)0.606に
.
ELISA
達 しそ
の 後 も 陽 性 が 持 続 し た.そ の 後,本 文 脱 稿 時 に 行 つ
た 再 度 の ウ イ ル ス 分 離 は 陰 性 で あ つ た.
〔症 例3〕S.S.3歳2ヵ
主 訴:
発 熱,頭
現 病 歴:
38∼39℃
痛,嘔
月,男
.
吐.
接 種 を 受 げ11日 後 発 熱,四
で 消 失 し た.接
台 の 発 熱 と 頭 痛,嘔
受 診 し た.ム
児(Fig.3)
平 成 元 年10月27日,MMRワ
(MMR-004)の
疹 を み た が1日
意 識 清 明,胸
(Enzyme-Linked
そ の 後 の 経 過 観 察 中 の 髄 液,血
プ ス,麻
種 後19日
の3日
液
あ つ た.
ク
目 に高 度 の 髄 液 細 胞 増 多
っ た た め,当
来 院 時 髄 液 細 胞 数166/3/mm3,髄
の ウイ ル ス 分 離 は陰 性 で あ つ た が 髄 液 中 ム ン プ ス
髄 液 細 胞 増 多 の 遷 延.
家 族 歴 ・既 往 歴:
99%))が
児(Fig.2).
部硬直 お
よ び ケ ル ニ ッ ヒ兆 候 は 認 め な か つ た.
検 査 所 見:
〔症 例2〕YJ.2歳2ヵ
227
種 後20日
ク チ ン
肢 に発
目 よ り
吐 が 続 き翌 日当 科 を
ン プ ス 患 児 と の 接 触 は な か っ た.な
お 発 症 の 当 日,頭 部 打 撲 し脳 外 科 を 受 診 し て い た .
家 族 歴:特
記 事 項 な し.
森
228
Fig. 2
既 往 歴:
Case 2. Y.I., 2Y2M, Girl
(MU210)の
熱 性 痒 挙(2歳).
入 院 時 現 症:
意 識 清 明 で 咽 頭 発 赤 を 認 め,深
腱 反 射 は 正 常,項
部
部 硬 直 お よび ケル ニ ッ ヒ兆 候 は
入 院 時 検 査 所 見:
髄 液;細
胞 数290/3/mm3
4病
核 球2),糖62mg/dl,蛋
入 院 後,3病
白26mg/
日 に は 頭 痛,嘔
胞 数 が1,522/3/mm3(単
日 に30/3/mm3と
(+)1,450,IgM-C-EIA
,
は,
疹で
発 熱,頭
家 族 歴 ・既 往 歴:
現 病 歴:
月,男
痛,嘔
児(Fig.4)
23).
特 記 事 項 な し.
ム ン プ ス ワク チ ン
EIA (Enzyme Immunoassay)
*** IgG-S-EIA (IgG-Solid-EIA method)
**** IgM -C-EIA (IgM-Capture-EIA method)
3/ mm3
ンプス
日,予
(-)
液 よ り ム ン プ ス ウ イ ル ス が 分 離 さ れ,後
研 に お け るPCR法
経 過:入
で の検 討 に よ り ワ ク チ
院 後 ま も な く嘔 吐 は 消 失,湿
聴 取 し な く な っ た.8病
痛 消 失 し た.10病
日 に 解 熱 し10病
主 訴:
発 熱,嘔
現 病 歴:
(MMR-004)の
22日,40℃
性 ラ音 も
日に は頭
日に は 髄 液 中 ム ン プ ス 抗 体
IgM-C-ELISA(2+)0.540と
な つ た.
月,女
吐,発
家 族 歴 ・既 往 歴:
吐.
昭 和60年12月21日
胞 数2,952/
抗 体IgG-S-ELISA(-)0.085,IgM-C-ELISA
〔症 例5〕H.S.1歳11ヵ
あ っ た.
〔症 例4〕M.K.4歳4ヵ
主 訴:
疹 で0.103,風
髄 液;細
核 球88),糖51mg/dl,ム
部硬直 お
ン 由 来 で あ る こ と が 判 明 し た.
(+)
体 の 髄 液/血 清 比(EIAC/S比)
ム ン プ ス に つ い て は0.563,麻
0.131で
核 球152)
(+)3.72
(単 核 球2,864,多
0.111,髄
日 に は 髄 液 中 ム ン プ ス 抗 体lgG-S-
血 清 中IgG-S.EIA
意 識 清 明 で 咽 頭 の 高 度 発 赤 あ り,
dl,
な り退 院 し
EIA***(+)816,IgM-C-EIA****
の 後 も軽 快 せ ず 咳 漱 も
よ び ケ ル ニ ッ ヒ 兆 候 は 明 か で な か っ た.
日に 一旦 髄 液 細
痛,
科 入 院 と な っ た.
肺 野 に 湿 性 ラ 音 を わ ず か に 聴 取 した.項
気 は 消 失,
核 球1,370,多
と 上 昇 し た が,15病
7.39,IgG抗
出 現 し,当
入 院 時 検 査 所 見:
日 に は 解 熱 傾 向 を み た.3病
た.7病
頻 回 の 嘔 吐 も 出 現 し た.そ
の17日 後 発 熱,頭
(単
ウ イ ル ス は 分 離 さ れ な か っ た.
経 過:
接 種 を 受 げ,そ
入 院 時 現 症:
認 め な か つ た.
核 球288,多
勇 他
児.
疹.
特 記 事 項 な し.
平 成 元 年6月12日MMRワ
接 種 を 受 け た.そ
の 発 熱,嘔
ク チ ン
の40日 後 の7月
吐 を 認 め 当科 受 診 した が そ
の 後 も 解 熱 せ ず,7月26日
背 部 に 発 疹 出 現,咳
も 来 し た た め 当 科 入 院 と な つ た.
感 染 症 学 雑誌
第65巻
第2号
軟
ム ン プス ワク チ ン接 種 後 の無 菌 性 髄膜 炎
Table
1
Viral
antibody
titers
229
in the CSF and the serum
of case 2
入 院 時 現 症:意 識 清 明 で 咽 頭 発 赤 を 認 め,胸 腹
経 過: 全 身 状 態 良 好 で翌 日に は 解 熱 し,入 院 後
部 に異 常 所 見 は な か った.体 部 に散 在 す る紅 色 小
に生 じた 頭 痛 は3日 で 消 失 し,発 疹 も数 日で 徐 々
丘 疹 を認 め た.深 部 腱 反 射 正 常,項 部 硬 直 を 認 め,
に消 退 した.退
ヶル ニ ッ ヒ兆 候 は な か った.
入 院 時 検 査 所 見: 髄 液;細
核 球212,多
ス抗 体IgG-S-EIA,IgM-C-EIAは
胞 数212/3/mm3(単
核 球0),糖54mg/dl,蛋
髄 液,咽 頭,便,尿
た.
平成3年2月20日
院 時(13病
白30mg/dl,
か ら ウイ ル ス は分 離 され な か っ
後 日,患 児 の 母 親 がMMRワ
日)の 髄 液 で は ム ン プ
陰 性 で あ った.
クチ ン の 副反 応 と し
て 髄 膜 炎 が 生 じた の で は な い か と 自 ら保 健 所 へ 届
出た 症 例 で あ る.
森
230
Fig. 3
3. 考
以 上 第1例
した.第1例
か ら第4例
と第4例
を ム ン プ ス髄 膜 炎 と診 断
で は髄 液 よ りウ イ ル ス が 分
体, IgM抗
と第3例
は髄 液 中
体 を確認 しムンプス
髄 膜 炎 と考 え られ た.症 例5は
3. S.S., 3Y2M, Boy
ム ン プ ス ウイ ル ス に よ る神 経 合 併 症 の 発 生 頻 度
察
離 さ れ 診 断 は 確 定 した.第2例
に ム ン プ スIgG抗
Case
勇 他
ウ イル ス 分離
髄
は報 告 に よ りか な りの差 が あ るが,髄
が 耳 下 腺 炎 例 の65%以
液細胞増 多
上 に 及 ぶ と い う記 載 も あ
る1)∼3).また ム ン プ ス ウ イ ル ス は 無 菌 性 髄 膜 炎 の
病 因 と して最 も重 要 で あ る4).
ワ ク チ ン の 副 反 応 の多 くは 微 熱,耳
下腺腫脹 で
液 中 の 抗 体 共 に陰 性 で ム ン プス 髄 膜 炎 と診 断 す る
あ る が5)無菌 性 髄 膜 炎 の 報 告 例 の 急 増 は 注 目 に 値
根 拠 は な か っ た.ま た 発 症 まで の 日数 が40日 と遅
す る6)∼9).厚
生 省 の 全 国調 査 に よ る と,平 成 元 年4
く,7月
月 か ら7ヵ
の 発 症 と相 ま っ て他 の ウ イ ル ス に よ る無
月 間 にMMRワ
ク チ ン を 接 種 し た63
菌 性 髄 膜 炎 と考 え られ る.尚,MMRの
接 種 を受
万 人 の うち311名 が 臨 床 的 に無 菌 性 髄 膜 炎 と診 断
け た3例 全 て に 発 疹 を認 め た が,第5例
につ いて
され,79件
は ワ ク チ ン接 種 か ら発 疹 の 出 現 ま で の 日数 は44日
れ,予
で あ った.耳
定,3件
下 腺 腫 脹 を 合 併 し た例 は な か っ た.
の 髄 液 か ら ム ン プ ス ウ イル ス が 分 離 さ
研 でPCR法
に よ り67件 が ワ ク チ ン株 と判
が 否 定 され た10).なお第1例
感染症学雑誌
と第4例
につ
第65巻 第2号
ム ン プス ワク チ ン接 種 後 の無 菌 性 髄 膜炎
Fig. 4
い て は こ の67件 に 含 ま れ て い な い.海
MMRワ
Case 4. M.K., 4Y4M,
外では
ク チ ン後 の 脳 炎,片 麻 痺,運 動 麻 痺,て
ん か ん8),聴 力 障 害11)12)などの 報 告 が あ る.
さ て,無 菌 性 髄 膜 炎 の 発 生 頻 度 に関 して は 種 々
報 告 され て い る が9)10)13)14),国
内 外 の デ ー タの 単 純
231
Boy
ク チ ン特 にMMRワ
ク チ ンの 接 種 年 齢 が1,2歳
の 幼 若 層 で あ る こ とを 考 え る と,非 典 型 例 の 脱 落
の 予 想 か ら し て実 際 の 発 生 頻 度 は も っ と高 い もの
で は な い か と考 え られ る.
ム ン プス 髄 膜 炎 の 診 断 は 髄 液 か ら ム ン プ ス ウ イ
な比 較 は,そ れ ぞ れ の 国 の 医療 事 情 や 社 会 的 背 景
ル スが 分 離 され れ ば確 定 す る が,そ
が あ り意 味 づ け は難 しい.戸 所 ら14)によ る と,前 橋
は 他 の部 位 か ら分 離 され,髄 液 中 の ム ン プ ス抗 体
市 の 調 査 で 接 種 後 髄 膜 炎 の 発 生 頻 度 は217人 に1
の 上 昇 ま た はIgM抗
人,PCR法
2は 当 科 来 院 時 す で に発 症 後44日 が 経過 し,適 当
に て ワ クチ ン株 を証 明 した 症 例 に 限 っ
て も723人 に1人
と高 率 で あ った.野 生 株,ワ ク チ
うで な い場 合
体 の 証 明 が必 要 で あ る.症 例
な検 体採 取 の時期 を逸 し ウイル ス は分離 され な
ン株 の 間 の 発 生 頻 度 の 比 較 に は接 種 ワク チ ン別 の
か った.そ の 後 髄 液 中 の ム ン プ スIgG抗
母 集 団 の 大 き さ を正 確 に 把 握 し,ム ン プ ス髄 膜 炎
抗 体 を 追 跡 した が 長 期 に わ た り陽 性 で あ った.症
の 診 断 基 準 に照 ら して 真 の ム ン プ ス髄 膜 炎 例 の み
例3も
を 抽 出す べ きで あ る15).一方1,
液 中 ム ン プ スIgG抗
2歳 の 幼 若 乳 児 で
体,IgM
髄 液 か ら ウ イ ル ス は 分 離 さ れ な か った が髄
体,IgM抗
体 が確 認 され た.
は 髄 膜 刺 激 症 状 を呈 す る症 例 は少 な く,髄 液 の検
森 島18)は血 清 学 的 な 診 断 に は ウ イ ル ス 抗 体 の 髄
索 が 脱 落 す る可 能 性 が 高 い16)17).自然 感 染 と して
液/血 清 比(C/S比)が
の ム ン プ ス 髄 膜 炎 の場 合 と は異 な り,ム ン プ ス ワ
強 さを 示 す 指 標 と し て重 要 と し て い る.症 例3に
平 成3年2月20日
脳 内での抗体 の局所産生 の
森
232
関 し7病
日 に お け るIgG-S-EIAのC/S比
る とム ン プ ス につ い て は0.563で,麻
を求め
疹 の0.103,
勇 他
は 不 適 当 と 考 え られ る に 至 っ た24).今 回 山 田,菱 山
らに よ っ て 開 発 され た ム ン プ ス ウイ ル ス に関 す る
風 疹 の0.131と 比 べ 高 値 で あ った.ち な み に,症 例
PCR法
2に つ い て85病 日に お け るC/S比
こ の 鑑 別 に 応 用 で き る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る.
ン プ ス で1.155,麻
あ った.症
疹 で0.013,風
例4に つ い て5病
ス に関 す るC/S比
を求 め る とム
疹 で0.196未 満
日の 時 点 で の ム ン プ
は0.246,症
例5に
つ い て13病
日 の 時 点 で の ム ン プ ス に 関 す るそ れ は0.046未 満
で あ っ た.症 例1で
は 髄 液 と血 清 の 検 査 日が 一 致
せ ず,こ の値 を 求 め て い な い.Table1の
CF法,NT法
ご と く,
で の髄 液 中 ム ン プ ス抗 体価 は
ELISA法,
EIA法
に比 べ る と一 般 的 に 感 度 が低
い と いわ れ て い る よ うに,著 者 らの 成 績 も 同様 で
あ った.吉
田 ら19)はIgG捕 捉ELISA法
を用 い 髄
一 方
は 簡 便,迅 速 に か つ か な り の 精 度 を も っ て
,ム ン プ ス ウ イ ル ス が 分 離 さ れ な か っ た 場 合,
ど の よ う に そ の 鑑 別 を 進 め る べ き か と い う問 題 も
今 後 の 課 題 で あ ろ う.
本 論 文 の要 旨は 平成2年3月4日
日本 感 染症 学 会 中 日本 地 方 会 に おい て 口演 した.本 論 文 で
のELISA法
及 びEIA法
分 離 はSRL社
高 くな く,こ の よ うな技 術 の 応 用 も重 要 で あ る.
ム ン プ ス髄 膜 炎 の病 因 が 野 生 株 に よ る の か ワ ク
チ ン株 由来 か は 重 要 な 問題 で あ る.安 田 ら20)は,野
生 株 に よ る ム ン プ ス髄 膜 炎 は 他 の病 因 に よ る無 菌
性 髄 膜 炎 よ り も 臨 床 像 は 重 い 傾 向 に あ る が,
MMRワ
ク チ ン接 種 後 の もの は前 二 者 よ りも軽 い
を 施行 して 頂 き種 々御教 示 頂 いた 国立 予 防 衛
生 研 究所 麻 疹 ウイ ル ス部 山 田章 雄,菱 山美 智 子 両博 士 に も
そ れ ぞ れ深 謝 致 します.
文
い.症 例2は
p. 1628-1632, W.B. Saunders, Philadelphia,
1987.
2) Hall, R. & Richards, H.: Hearing loss due to
mumps. Arch. Dis. Childh., 62 : 189-191, 1987.
3) Phillips, C.F. : Mumps (Epidemic parotitis). In
Textbook of Pediatrics 13th ed. (Behrman, R.
E., Vaughan, V.C., Nelson, W.E., ed.), D. 673
-675
部 で のPCR法21)22)に
果,ム
4)
p.1-15,
よ る分 子 生 物 学 的 検 討 の 結
ン プ ス ウ イ ル スP遺
伝 子 に 対 す るcDNA
の制 限 酵 素 に よ る切 断 パ タ ー ンか らは ワ ク チ ン株
で あ る可 能 性 が極 め て 高 い と考 え られ た.症 例4
の 分 離 株 に つ い て は 以 前,Vero細
胞 を 使 用 した
ウイ ル ス力 価 及 び プ ラ ー クサ イ ズ で の比 較 試 験 の
結 果 野 生 株 と考 え報 告 した23)が,今 回PCR法
に
よ る検 討 の結 果 ワ ク チ ン株 で あ る と判 明 した の で
こ こに 訂 正 す る.従 来Vero細
胞 上 に形 成 され る
プ ラ ー クが 野 生 株 の そ れ よ り有 意 に小 さい こ とが
ワク チ ン株 の根 拠 と して 採 用 され て きた.し
かし
最 近 ワ クチ ン株 の プ ラ ー ク サ イ ズ の 安 定 性 に つ い
て 再 検 討 の 結 果,Vero細
, W.B.Saunders,
鳥 居 昭 三:
胞 上 の プ ラ ー クの 大 き
髄 膜 脳 炎.
1987.
小 児神 経 学
日本 小 児 神 経 学 会 卒 後 教 育 委 編,
診 断 と治 療 社,
東 京,
1982.
5) Immunization Practice Advisory Committee :
Recommendation
of the immunization practices advisory committee on mumps prevention. M.M.W.R., 38 : 388-400, 1989.
6) Gray, J.A. & Burns, S.M. : Mumps meningitis
following measles, mumps, and rubella immunisation. Lancet, 2 : 98, 1989.
7) Murray, M.W. & Lewis, M.J. : Mumps meningitis after measles, mumps, and rubella
vaccination. Lancet, 2 : 677, 1989.
8) Ehrengut, W.: Mumps vaccine and meningitis. Lancet, 2 : 751, 1989.
9)
(財) 阪大 微 生 物 病研 究 会(編)二 文献 集 ム ン プス
及 びMMRワ
ク チ ン接 種 後 の 副 反 応. (主 に無 菌
性髄 膜 炎 に つ い て), 1989.
10) 厚 生省 保 健 医療 局. 結核 ・感 染 症対 策 室 予 防 接種
係長(事 務 連 絡): 乾 燥 弱毒 生 麻 しん おた ふ くかぜ
風 し ん混 合 ワ クチ ン の接 種 に つ い て. 別 紙1,
さ は必 ず し も安 定 した 遺 伝 学 的 性 状 とは認 め られ
MMRワ
ず,そ
平成2年1月18日.
れ に よ り ワ クチ ン株 か 野 生 株 か を論 ず るの
Philadelphia,
無 菌 性 髄 膜 炎,
の 進 歩, 第11集,
そ の 傾 向 を示 して い る.症 例1と4
は ム ン プ ス ウ イル ス が 分離 され 予 研 麻 疹 ウ イ ル ス
献
1) Brunell, P.A. : Mumps. In Pediatric Infectious
Disease, 2nd ed. (Feigin, R.D., Cherry, J.D., ed.),
傾 向 を 認 め て い る.し か し髄 液 細 胞 数 は ワク チ ン
後 髄 膜 炎 群 に 最 多 で 必 ず し も臨 床 像 とは 一 致 しな
に よ る抗 体 測 定 並 び に ウ イ ル ス
ウイル ス部(畠 野靖 子 部 長)で 行 なわ れ た.
また,PCR法
液 中 に お け る ム ン プ ス特 異 抗 体 の局 所 産 生 を証 明
し うる と して い る.髄 液 か らの ウイ ル ス分 離 率 は
第3回 近 畿 小 児科 学 会
にお い て 口演 した.ま た 症 例4は 昭 和61年10月18日 第29回
クチ ン接 種 後 の無 菌 性 髄膜 炎 につ い て.
感染症学雑誌 第65巻 第2号
ムン プ ス ワク チ ン接 種 後 の 無菌 性 髄膜 炎
11) Herly, C.E. : Mumps vaccine and nerve deafness. Am. J. Dis. Child., 123 : 612, 1972.
12) Nabe-Nielsen, J. & Walter, B.J. : Unilateral
deafness as a complication of the mumps,
measles, and rubella vaccination. Brit. Med. J.,
297 : 489, 1988.
13)
高 橋 理 明:
43:
14)
MMRワ
751-758,
戸 所 正 雄,
ク チ ン の 現 状.
中 田 益 允,
山).
17)
由 上 修 三,
八 木 秀 明:
第64回
感 染 症 誌,64:
鳥 居 昭 三:
新 生 児 ・乳 児 初 期 の 無 菌 性 髄 膜 炎.
131-139,
滞.
18)
神 経 進 歩,
森 島 恒 雄:
33: 454-462,
第15集,
委 編,
p.154-167,
吉 田
晃,
野 靖 子:
21)
山 田 章 雄,
山 内 寿 靖,
東 京,
畠
山).
感 染 症 誌,
竹 内
DNA増
齋,
櫻井
薫,
棚林
第64回
64:
清,
日本感 染 症
192, 1990.
菱 山 美 智 子,
杉
殖 法 を用 い た ム ン プ ス ウ イル ス
ウ イ ル ス の 同 定 ―.
小 児 感 染 免 疫,
2:
23-25,
22) Yamada, A., Takeuchi, K., Tanabayashi, K.,
Hishiyama, M. & Sugiura, A.: Sequence variation of the P gene among mumps virus strains.
Virology, 174 : 374-376, 1989.
欠 田 文 子,
長藤
洋,
鳥 居 昭 三,
他:
ム ン プス ワ
ク チ ン接 種 後 に 発 症 し た ム ン プ ス髄 膜 炎(会
24)
昭:
ゆ み,
抄).
61: 727, 1987.
菱 山 美 智 子,
浦
のVero細
1986.
引 地 一 昌,
神谷
1990.
1989.
診 断 と治 療 社,
槻 館 由 美 子,
昭:
感 染 症 誌,
日本 小 児 神 経 学 会 卒 後 教 育
庵 原 俊 昭,
ム ン プ ス 髄 膜 炎 の 自然 感 染 及 び ワ ク チ ン 後 発
株 の鑑 別 ― ワク チ ン接種 後 の 無 菌性 髄 膜 炎 の原 因
23)
ウ イ ル ス に よ る脳 炎 ・髄 膜 炎 ・小 児 神
1986.
二 井 立 恵,
学 会 総 会(松
新 生 児 ・乳 児 の ウ イ ル ス 感 染 と発 育 遅
経 学 の 進 歩,
19)
小
1986.
体 の 検 出 法 に つ い て. 臨 床 と ウ イ
469-475,
症 髄 膜 炎 の 臨 床 的 検 討(会 抄).
日本 感 染 症 学
192, 1990.
14:
安 田 尚 樹,
實:
前橋
児 科,
鳥 居 昭 三:
20)
ク チ ン接 種 後 に 発 症 した 無
15) Nalin, D.R. : Mumps vaccine complications :
Which strain ? Lancet, 2 : 1396, 1989.
27:
ル ス,
浦
菌 性 髄 膜 炎 に つ い て(会 抄).
16)
局 所 産 生IgG抗
1990.
市 に お け るMMRワ
会 総 会(松
小 児 科 臨 床,
233
竹内
薫,
棚林
法,
山 田 章 雄,杉
おた ふ くかぜ ワ クチ ン株 ブ ラー クサ イ ズ
胞 継 代 に よ る 変 化 に つ い て.
医学 の あ
(印 刷 中).
単純 ヘル ペ ス ウイル ス脳 炎 患 者 の髄 液 中
Virological Evaluation
of Mumps Meningitis Following Vaccination
against Mumps
Isamu MORI, Shozo TORII, Yoshihiko HAMAMOTO, Ayako KANDA,
Yasuyuki TABATA & Hiroshi NAGAFUJI
Department of Pediatrics, The Tazuke Kofukai Foundation Medical Research Institute Kitano Hospital
1) We report 5 cases of aseptic meningitis following vaccination against mumps. Of the 5 cases, 4
cases were diagnosed as mumps meningitis. 2 cases recieved monovalent mumps vaccine and the other
2 MMR vaccine. They consisted of 2 boys and 2 girls, aged 2 years and 2 months to 4 years and 5
months. The period between vaccination and symptoms ranged from 15 days to 20 days (mean 18
days). Cerebrospinal fluid of the cases contained 507 to 2688 cells/mm3. Eruption was observed in the 2
cases who recieved MMR vaccine, while parotid swelling was not seen in any case.
2) In all 4 cases, IgM antibody to mumps virus in the cerebrospinal fluid was detected by the
ELISA or EIA methods. Causative organism of the fifth case was obscure.
3) PCR (Polymerase Chain Reaction) tests revealed that mumps virus isolated from 2 cases were
of vaccine strain origin.
4) To evaluate the frequency of mumps meningitis following vaccination, it seems important to
investigate carefully the number of children who recieved the vaccine and to exclude the cases of
aseptic meningitis caused by other agents. On the other hand, cases of young infants tend to be
overlooked because of atypical signs.
平 成3年2月20日