1271 原著おたふくかぜ・風疹2種混合生ワクチン接種および水痘生ワクチンとの同時接種の成績東京都立駒込病院小児科,千葉県血清研究所高山直秀木所稔鈴木一義森田迫夫 (平成3年2月18日受付) (平成3年4月9日 Key words: mumps-rubella varicella 受理) bivalent vaccine, seroconversion rate, vaccine 要旨主として麻疹ワクチン接種済みの小児を接種対象とする,おたふくかぜ・風疹2種ンを製造し,その有効性を検討した.接両抗体同時陽転率は95%であった.おあり,それぞれを単味で接種したときと同様に,抗大な副反応も見られなかった.MRワクチの抗体同時陽転率は97%で疹体価の上昇クチンはすでに麻疹に罹患したり,麻疹ワクチンを接種した小児に有効かつ安全に接種できるワクチンであると判断された.さ同時接種した小児での3種混合(MR)ワ疹抗体がともに陰性であった小児でのたふくかぜ抗体陰性児でのおたふくかぜ抗体陽性率は97%,風抗体陰性児での風疹抗体陽転率は99%では良好であった.重種前におたふくかぜ,風あり,MRとらに水痘ワクチンを水痘ワクチンは抗体陽転率の低下なしに同時接種できることが判明した. 緒 1989年4月に安定剤として乳糖,D-ソ言より麻疹・おたふくかぜ・風疹3種混合(MMR)ワルビトール,L-グルタミン酸ナトリウムおよびゼラチンを加えて凍結乾クチン1)2)が定期接種に組み入れられ,生後18ヵ月の小児を対象として全国で接種が行われている.しかし既に麻疹ワクチンの定期接種を受けた小児は接種対象から外れるので,風疹ワクチンとおたふくかぜワクチンは,それぞれを任意接種として受けなければならない.この不便燥して,MRワクチンを作製した.MRワクチン中の最終ウイルス濃度は,風疹TCRB-19株ルスが104.25TCID50/ml,おウイルスが106.25TCID50/mlであった. 1988年11月から1989年10月までの間に本ワクチンの接種を希望した健康小児を対象とし,保護者を解消するために,我々はおたふくかぜ・風疹の同意を得たのち,ワ (MR)2種を行った.採血はワクチン接種直前と6∼8週混合ワクチンを製造し,その有効性をクチン接種と血中抗体検査後に行った.風疹抗体価および麻疹抗体価はHI法検討した. で,おたふくかぜ抗体価は補体添加中和反応(C'- ワクチンと接種対象すでに単味ワクチンとして認可されている風疹ワクチソTCRB.19株3)と NK-M46株4)のウイたふくかぜNK-M46株おたふくかぜワクチン原液を希釈したのち混合し,さ別刷請求先:(〒113)文平成3年10月20日高山球凝集反応(IAHA)5)に直秀よって測定した.抗体価の判定は,風疹,麻疹抗体価については8倍以上を, おたふくかぜ,水京区本駒込3-18-22 東京都立駒込病院小児科ら NT)2)によって,また水痘抗体価は免疫粘着赤血陽性とした. 痘抗体価については4倍以上を 1272 高山直秀他副反応調査は保護者に接種後28日間の健康記録り,陽転した者は,63名表を配布して,記入を依頼し,その記録に基づい転率は97%(63/65)とて行った. かぜC'-NT抗結果名の小児がMRワ MRワクチンの接種を受けた.そのうたふくかぜ抗体陽なった.接種後のおたふく体価の分布は128倍以上が23名,64 倍が11名,32倍〔接種希望者および希望理由〕上記期間中に95 で,おが16名であった(Table 1). クチン接種前に風疹抗体もおたふくかぜ抗体も陰性であったものは,おたふくかぜと診断ち接種前後のペァ血清が得られた83名をワクチンされた2名効果判定の調査対象とした. が陰性でおたふくかぜ抗体が陽性であったものがを除き,81名中59名(A群),風疹抗体対象小児の年齢分布をみると,範囲は1∼14歳であり,2,3,4歳がそれぞれ22名,20名,19 名でピークを形成し,以下1歳が8名,5歳名,6歳が4名,7歳 2名であった.まが2名たMRワ Table 1 Distribution of antibody titers to rubella, mumps, varicella and measles viruses in subjects received mumps-rubella bivalent vaccine with or without varicella vaccine が6 と続き,10歳以上がクチン接種希望理由は,すでに麻疹に罹患した4名を除いた79名すべてが麻疹ワクチンをすでに接種したためであった. 〔抗体陽転率〕接種前に風疹HI抗体が8倍未満で陰性と判定されたものは83名中76名おり,ワクチン接種6∼8週後に8倍以上となった(陽転した)者は75名で風疹抗体陽転率は99%であった . 接種後の風疹HI抗体価は76名中59名が128倍以上であった(Table 1). 接種前におたふくかぜC'-NT抗体が4倍 a Antibody 未満 tion b Antibody で陰性と判定された者は83名中67名おり,接種3 , 4日後から耳下腺が腫脹し,臨床的におたふくかぜと診断された2名(野 bivalent c Number 外株の感染によると考え d Numbers られる)を除き,接種6∼8週 Table 後に4倍以上にな 2 Antibody a Seroconversion rate b Pre-vaccination antibody responses was titers examined titers before at 6-8 weeks after vaccina injection of mumps-rubella vaccine of subjects in parentheses indicate subjects who had been infected with wild measles before vaccination to mumps-rubella bivalent vaccine positive 感染症学雑誌第65巻第10号おたふくかぜ風疹2混 15名(B群),風疹抗体が陽性でおたふくかぜ抗体が陰性であったものが6名(C群)あ 1273 ワクチン接種成績 Table 3 Clinical reactions observed after vaccination り,風疹,おたふくかぜともに抗体陽性のもの(D群)は1名であった(Table 2). 両抗体がともに陰性であった61名のうち,おたふくかぜ発症例2名を除いた59名中,接種後に両抗体ともに陽転したものは56名であり,A群内での風疹,おたふくかぜ両抗体同時陽転率は95%であった.残る3名中2名は風疹抗体だけが,他の a Days after vaccination 1名はおたふくかぜ抗体だけが陽転した.風疹抗体もおたふくかぜ抗体も陽転しなかったワクチン被接種児は見られなかった.B群の接種前風疹抗体陰性者15名は全員が接種後風疹抗体陽性となり,またC群チンを右腕に接種し,さに接種した.83名らに水痘ワクチンを左腕中38名がMR-水痘ワクチンの同時接種を受けた.これらのうち34名が接種前血の接種前おたふくかぜ抗体陽性者6 名も接種後にすべておたふくかぜ抗体陽性となっ清で水痘IAHA抗た(Table 例がワクチン接種後にIAHA抗 2). 〔副反応〕接種前におたふくかぜ抗体,風疹抗体が陰性であった.これらの全なり,抗体獲得率は100%で以上にあった.また風疹,お体がともに陰性であった61名中,健康調査表を回たふくかぜ,水収できた者は56名であった.ワであった33名中,接種後3種クチン接種4∼21 体が8倍痘に対する前抗体が3種とも陰性の抗体がすべて陽転日後に37.5℃ 以上の発熱をみたものが56名中13名した者は32名であり,3抗であり,そのうち3名なり,水痘ワクチン単独接種後の成績に劣らなは上記期間内に2回の発熱をみたため延べ発熱件数は16件となった.16件の発熱のうち,医師の診断で感冒による発熱と判定されたものが7件,咽 2件,お頭炎が3件,急たふくかぜが2件性胃腸炎がであった.残る2件は調査表の記載からワクチンによる発熱を否定できなかった.それらは接種8日日後に発熱した2件あった(発後および接種13∼16 で,いずれも37.5∼37.9℃ でしたが,おたふくかぜ抗体は陰性であった. 〔麻疹抗体価〕得られたペア血清について,麻疹HI抗体価を調べた.MRワクチン接種前に麻疹に罹患した者も麻疹ワクチンを接種した者もすべて麻疹HI抗体が8倍以上で,陽性であった (Table 1). 考に(発疹発現率8%)お脹が1名(発かった10).残る1名は風疹抗体と水痘抗体は陽転熱率3.6%). 現率1.8%)に察ワクチン接種前に風疹抗体およびおたふくかぜほかに,風疹ワクチンによると考えられる,発疹が5名体同時陽転率は97%とよびリンパ節腫みられ,おたふくかぜ抗体が陰性であった者における両抗体同時陽転率は95%であり,風疹抗体陽性者でのおたふくかぜワクチンによると思われる両側性耳下腺部腫脹が抗体陽転率は6/6(100%)で,お 1名(発陽性者における風疹抗体陽転率15/15(100%)で現率1.8%)にみられた.こと発疹がみられた者が1名,発のうち,発熱疹,耳下腺部腫脹, リンパ節腫脹が発現した者が1名あった.これらの成績は単味風疹ワクチン11),単味おたふくかぜワクチン12),MMRワあった(Table たふくかぜ抗体クチン接種1)による成績に劣らぬものであった. 3). 〔MR-水痘ワクチンの同時接種例〕すでに MMR-水痘4種混合ワクチン6)7)やMMRと水 MRワクチン接種によると思われる重大な副反応は見られなかった.川上はMRワクチン接種後痘ワクチンの同時接種8)9)が試みられているので, の発熱率が0%で水痘ワクチン接種も希望したものにはMRワしたものと同種の風疹ワクチン,おたふくかぜワ平成3年10月20日クあったと報告しているが,混合高山直秀他 1274 クチンの単独接種では,発 3.0%で熱率がそれぞれ7.7%, あったと記している13).したがって,我のMRワクチンによる発熱率3.6%ははないといえる.発の開発に関する研究I. 々高いもので疹および耳下腺部腫脹の発現率は,単味風疹ワクチン11),単味おたふくかぜワクチン12),MMRワクチン接種後1)と大差なかった . また水痘ワクチンとの同時接種も安全に,かつ抗体陽転率の低下なしに行えることが判明した.したがって,MRワクチンはすでに麻疹ワクチンを接種した小児,あるいは麻疹に罹患した小児に対して十分安全に,かつ有効に使用できるワクチンであるといえる. 稿を終えるにあたり,水痘IAHA抗体を測定して下さった,大阪大学微生物病研究所高橋教授に深謝いたします . 文 1) 杉浦昭: クチン. 最新医学, 2) 43: 合ワ 494-497 , 1988. 杉浦昭, 宍戸亮, 川名林治, 平山宗宏 , 木村三生夫, 磯村思元, 川上勝朗, 植田浩司, 高橋理明, 牧野慧, (MRM)三松山繁夫: 幹夫, 壮, 平山宗宏: ンについて. 斉加志津子, 沢重克, 久子, 堀内 419-426, 加藤昌子, 稔, 大井 22: 287 , 1972. 工藤博史, 山中隆也, 清, 橋爪岡部信彦, 篠崎立彦, 高山直秀, 田中信介, 荘, 宮村紀阿部敏明, 渡辺言夫, 弱毒生おたふくかぜワクチン(千吉竹末葉血清) の開発とその 13: 367-375, 5) Wong, C. L., Castriciano, S., Chernesky, M.A . & Rawls, W. E.: Quantitation of antibodies to varicella-zoster virus by immune adherence hemagglutination. J. Clin. Microbiol., 7: 6-11, 1978. 6) Arbeter, A.M., Baker, L., Starr, S.E., Levine, B. L., Books, E. & Plotkin, S.A.: Combination measles, mumps, rubella, and varicella vaccine . Pediatrics, 78(Suppl.): 742-747, 1986. 7) Brunell, P. A., Novelli, V. N., Lipton, S. V. & Pollock, B.: Combined vaccine against measles, mumps, rubella, and varicella. Pediatrics, 81: 779-784, 1988. 8) Englund, J. A., Suarez, C.S., Kelly, J., Tate , D.Y. & Balfour, H. H. Jr.: Placebo-controlled trial of varicella vaccine given with or after measles-mumps-rubella vaccine. J. 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The seroconversion rates for rubella and mumps viruses in subjects having no antibody to rubella or to mumps virus were 99% (75/76) and 97% (63/65), respectively, at 6-8 weeks after vaccination. The seroconversion rates for both rubella and mumps in vaccinees initially seronegative to both viruses were 95%(56/59). Immune responses after MR vaccine injection were comparable to those after administration of monovalent rubella or mumps vaccine. Clinical reactions observed in some subjects who received MR vaccine were mild fever (3.6%), examthem (8%),lymphadenopathy (1.8%),and swelling of the parotis region (1.8%).MR vaccine could be simultaneously injected with varicella vaccine at the opposite site producing no adverse effect on immune response. Our results indicate that MR vaccine is a safe and effective vaccine, especially for children who have had wild measles or who have received measles vaccine. 平成3年10月20日