租税判例等研究会報告 - 東京富士大学

東京富士大学総合研究所プロジェクト報告
租税判例等研究会報告
−Research Activities on the Cases of Japanese Tax Laws−
東京富士大学経営学部 准教授
東京富士大学総合研究所 副所長
石塚 一彌
東京富士大学総合研究所は、新たな経済社会環
すことなく灘や西の宮の酒造家に直接販売をしたこと
境に対応した多様な研究に取り組み、経営の実践と
や藩札取扱い両替屋に兌換のための基金を預け置
地域社会の活性化に寄与し、学術や実務の向上・深
き、
これの預ヶ金利子を取得したりして、藩財政原資
化に貢献することをその活動目的としています。
「租
を安定化したこと等、様々なものがある。
税判例等研究会(税務会計部門)」は、本学出身税
これらの業績を打ち立てた栄一の原点性を解明す
理士並びに本学教員と大学院修了生の特別研究員
るに当たり、彼が江戸に出て海保漁村の塾へ入る前
をその主たる構成員として、
当研究所の活動の一環と
の、14歳頃から21歳頃までの、豪農家の長男として取
して併設されています。当研究会では、租税に関する
り組んだ商業体験をこそ決定的に重視するべきなの
基礎研究から実務研究まで幅広くテーマを求め、適
か、
それともパリ万博参加時に見聞した1867年1月か
宜、関連分野の研究、情報交換及び親睦会等の活
ら1868年11月までの約2年弱の行動体験にウエイトを
動を行っています。
おくべきなのかを考える。
今後とも大学内外を問わず、租税会計に関心ある
方の参加を広く求めていきたいと考えております。
なお、定例研究会は、夏季休暇中と税務繁忙期を
●平成 24 年 5 月研究会 報告者・後藤孟司
除き、基本的に毎月第2木曜日の午後6時から2時間
報告テーマ・吸収合併により企業価値の増加が生じ
程度で開催しておりますが、平成24年度におけるそ
ない場合の株式買い取り請求にかかる
“公正な価格”
の概要は次の通りです。
の一考察 企業の吸収合併劇の一断面における
“適法性”
より
●平成 24 年 4 月研究会 報告者・藤井 直
報告テーマ・渋沢栄一論の試み
(上)
も重要とも思われる
“公正性”概念につき、株式会社
USENを株式交換完全親会社とする株式交換に反
対したYの株主であるXらが、会社法786条2項に基
渋沢栄一についてパリ万博参加時の西欧見学体
づき公正なる価格の決定の申し立てをした事案を通
験と血洗島村での商業体験のどちらが渋沢のその後
して
“公正な価格”
の意義について考察したものであ
を規定することになったと考えるべきかという問題を立
る。
て、明治初期から昭和六年に至る、
日本で傑出したビ
旧商法において「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ
ジネスマンとしての彼のビヘビア原理を解明しようとす
公正ナル価格」
と定められていたものが現行会社法
るものである。
では単に「公正な価格」
と改められた点からみても、
一橋藩官僚としての彼の業績には、播磨の國の所
「公正な価格」は裁判所の裁量に委ねられているとみ
領の年貢米の廻米の方法を改め、大坂米市場を通
る。現に、今回の事例では、株式交換の計画公表前
— 59 —
の株価を参照しつつ、回帰分析的手法により補正を
消費税の増税が、26年4月1日からは8%、27年から
加え、基準日における「ナカリセバ価格」を算定した原
は10%と決定されており、生活に直結する問題として
判決は、回帰分析的手法を用いた初めての裁判例
何故消費税の増税が必要かという論題を取り上げ
であった。
た。
加えて、基準日についての見解は多様であり、買取
国家予算における公債収入が年間30〜40兆円と
請求期間満了日説や買取請求権行使日説に対する
なる現在、10%に税率をアップしても、増収額は約10
反対意見もあり、買取請求期間満了日説や組織再編
兆円であり焼石に水の状態であるが、国民の生活を
効力発生日説をとることもあってよいといっている。
この
無視しても故、
この消費税を増税するのか。財政赤字
ように、
「公正な価格」決定には、普遍的原則論的方
解消の名のもと、国民の間では、消費税を上げるのは
法論があるとは思えず、今後の学問的研究課題と思
やむをえない、我々も応分の負担をしなければならな
うものである。
いという世論の風潮となっている。
しかし実際には、
その分を法人税の減税に回すこと
●平成 24 年 6 月研究会 報告者・藤井 直
報告テーマ・渋沢栄一論の試み
(中)
になっており、
この法人税の減税は、消費税増税の一
年前に可決されている。
これに対する
「国民向けの説
明」は、世界の主要国に比較し、我国の法人税率は
渋沢栄一の年少・青年期における商業体験を通し
高く、法人の海外流出を防ぐために法人税率を下げ
て、彼が、
どのようにその持てる能力を実務上発揮し
るべきとされている。
しかし、法人が海外へ行くのは、
てきたかを検証・考察するものである。
円高のためであって、
どの企業も、海外に比べて日本
特に、栄一が6歳の頃から始めた手習いは11、12
歳の頃からは『大学』、
『 中庸』、
『 論語』、
『 孟子』の四
の法人税額の負担が高いから海外に流出しているわ
けではない。
これまでの一連の動きの中で、米国の長い間のドル
書と
『易経』、
『 書経』、
『 詩経』、
『 礼記』、
『 春秋』の五
経を始めとして、
『 文選』、
『 左伝』、
『 史記』、
『 漢書』、
の印刷、たれ流しのため、
ドルの価値が下落し、加え
『 十八史略 』、
『 元明史略 』等の他『 国史略 』、
『日本
て24年6月1日からは円と元が直接取引(以前はドルを
史』、
『日本政記』等にも広く触れていた。その意味で
一旦介在させていた。)
できるようになり、益々ドルが不
は塾や道場で出会うことになった同じ遊学の面々との
要となり、それは世界経済を混乱させてしまうことでも
議論の機会には、臆することのない教養の同質性を
ある。米国にとってはこれを防ぐためにも、
日本を米国
具現し得ていたと思われる。
の経済圏に取り込み、米国経済復活のための米国か
さらに、本百姓長男の栄一にとって、村年貢の皆
らの圧力という見方もできないことはないのである。
済、村入用費の賦課、代払い等に伴う利子計算、訴
訟関係の書類、村役取扱い案件の出現に応じて、即
時に計算、記帳、帳簿作成、検算、文書作成、立会い
●平成 24 年 10 月研究会 報告者・上国晴美
等が実行可能である能力を整えておくという心得は
報告テーマ・弁護士業の必要経費/弁護士会役員の
至極あたりまえの修業目標となっていたのである。一
交際費等
橋家に仕え、農民兵募集の任に就いた時、
また、徳川
本件は、弁護士業を営み、仙台弁護士会会長や日
民部大輔昭武のパリ万博展覧派遣随行の際、
さらに
本弁護士連合会(以下「日弁連」
という。)副会長等
は帰国後においても一貫して、栄一の能力は十二分
の役員を務めた原告が、
これらの役員としての活動に
に発揮・活用されたのである。
伴い支出した懇親会費等を事業所得の金額の計算
●平成 24 年 7 月研究会 報告者・高橋節男
報告テーマ・何故、消費税の増税が必要か
上必要経費に算入し、
また、消費税等の額の計算上
課税仕入れに該当するとして、所得税及び消費税等
の確定申告をしたところ、仙台中税務署長が、
これら
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の費用については、所得税法に規定する必要経費に
超えて、
「 商業体験」
とは、資本活動が人格化されると
算入することはできず、
また、消費税法に規定する課
ころにあると考えられる。
税仕入れには該当しないなどとして、平成16年と17年
の所得税及び消費税等の更正処分並びに過少申告
加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、原告が、
●平成 24 年 12 月研究会 報告者・石塚一彌
これらの支出の大部分が事業所得の金額の計算上
報告テーマ・興銀事案にみる
「一般に公正妥当な会
必要経費に当たり、
また、消費税等の額の計算上課
計処理」について
税仕入れにも該当すると主張して、上記各処分の一
興銀訴訟事案(最高裁平成16年12月24日第二小
部の取消を求めた事案である。判決は、原告の請求
法廷判決)
とは、
日本興業銀行(現みずほコーポレート
をいずれも棄却するというものであった。
銀行)の住宅金融専門会社に対する不良債権の処
発表の段階では納税者の主張と税務当局の主張
を報告し、納税者の主張、考察を述べるにとどまった。
理にあたって金銭債権に係る貸倒損失の損金算入
の要件として「債権者側の事情、経済的環境等も踏
本事案は、納税者の主張が東京地裁で棄却、東
まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきも
京高裁で一部認容された後、最高裁へ上告受理の
の」
という
“社会通念基準”
により貸倒損失を認めた最
申立てがされている。その後東京高裁は9月19日、納
高裁判決である。本事案は、一審が興銀(原告)勝
税者の主張を一部認容した。
訴、控訴審(被告)が課税庁勝訴、
さらに最高裁にお
いては興銀(原告)勝訴という劇的な展開をした事案
●平成 24 年 11 月研究会 報告者・藤井 直
報告テーマ・渋沢栄一論の試み
(下)
「 商業体験」の
であり、貸倒金額も約3,760億円という巨額なもので
あった。本判決により国は納税者に対して約1,500億
円の納税額を返還し、約1,000億円の還付加算金を
射程
支払う結果となり、返還額や還付加算金の大きさから
渋沢家の商業活動は、藍玉製造という生産過程
みても重大な判決であった。当該判決においては、所
を、原料商品である乾藍葉を、生産農家を廻って買
謂“住専法による
“公的資金の投入”問題が背景に
付け購入する過程と、製品藍玉の需要家である紺屋
あったため、その判決の帰趨にも注目が集まるという
を廻って掛売り販売する過程との間に挟んで、資本
特異な事案でもあった。
さらに、当事案の背景には、
回転する、見掛けのうえでは産業資本のような蓄積
「貸倒損失計上のための税務上の「条件成就の可
能性」
という論点以外に、
「 一般に公正妥当な会計処
様式をもつ資本活動をしていたと考えられる。
『雨夜譚』
を手がかりに栄一の業務関与から、
「商
理」をめぐる公認会計士の判断如何という重要な問
業体験」の意味を拾ってみると、肝要だと思われるこ
題があった。結論的には、興銀以外の金融機関に対
とに、原料商品購入の際の品質の鑑識力や投入資
し、相反する判断を示した監査法人の会計監査に一
本の回収過程としての売掛回収および売込みの際の
貫性、信頼性が欠けていたことを指摘する。
得意先別売掛与信限度の設定についての的確性の
確保などがあろう。原料商品購入時期の季節性など
にも規定される、
自己資本の一部の遊休化に対処す
●平成 25 年 1 月研究会 報告者・米田敏子
るものとして、資金の金貨資本的運用とか、その反対
報告テーマ・
「事業所得と給与所得の区別について」
に売掛回収との関係で資金逼迫期での、外部資金
報告者最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決
の調達と、
その際の金利選択など、総じて自己資本の
の判決事例(他・日本フィルハーモニー事件」最高裁
姿態変換の円滑化を、内面化して行動できることが
第三小法廷判決昭和53年8月29日等)
を通して、今ま
要請されているといえるであろう。各変換局面個有の
でに租税訴訟で問題となった「事業所得と給与所得
慣習的技術的対応力についての習熟とかの経験を
の区別」案件を検証・考察したものである。
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上記裁判においては、上告人は、係争年分の所得
税につき次に掲げる報酬が給与所得であるとして確
定申告を行ったが、被上告人はこれを事業所得と認
定して更正を行い、その後に一部を給与所得と認定
して再更正を行った。上告人は審査請求を経由して
当該更正等の取消を求めて出訴した。
一審横浜地裁は上告人の請求棄却、二審東京高
裁も上告人の控訴を棄却したので上告した。最高裁
では、本件顧問料収入は、次の理由により、所得税法
上、給与所得ではなく事業所得にあたると認めるのが
相当であるとして、上告を棄却した。
すなわち、顧問料収入は、一般的抽象的に事業所
得又は給与所得のいずれかに分類すべきものではな
く、その顧問業務の具体的態様に応じて、その法的
性格を判断しなければならない。その場合の判断の
一応の区別の基準としては、次のように区別するのが
相当である。事業所得とは、
自己の計算と危険におい
て独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復
継続して遂行する意志と社会的地位とが客観的に
認められる業務から生ずる所得である。給与所得と
は、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者
の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用
者から受ける給付をいう。給与支給者との関係にお
いては、何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続
的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その
対価として支給されるものであるかどうかが重視され
なければならない。
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