新規抗てんかん薬によるてんかん治療 ―「てんかんだから仕方ない」をなくすために― 【演者】聖隷浜松病院 院長補佐/てんかんセンター長 山本 貴道 先生 山本先生には、てんかんの薬物治療の流れをご紹介いただくとともに、新規 抗てんかん薬の投与意義や、今後増加が予想される高齢発症てんかんに対 する薬物治療戦略、てんかん難治例に対する対処法(新規抗てんかん薬、外科 的治療など) についてもお話しいただいた。 てんかんの薬物治療の流れ ―新規抗てんかん薬の有用性、併用するタイミング― ・発作が初めて見られた場合、初回発作後5年以内の再発率は35%、2回目の発作後1年以内の再発率は75%である。初回発作時か ら薬物治療を開始した場合と、2回目の発作後に薬物治療を開始した場合とでは長期予後に大きな差はなく、薬物治療の開始は2回 目の発作後からが一般的である。ただし、脳波異常や神経学的異常、画像所見、 てんかん家族歴を有する場合は、初回発作時でも薬物 治療の開始を考慮する。 ・部分発作に対する薬物治療は、 日本神経学会の『てんかん治療ガイドライン2010』 によると、 カルバマゼピンが第一選択薬、 フェニト インとゾニサミドが第二選択薬として推奨され、 バルプロ酸も候補となり得る。新規抗てんかん薬についてはラモトリギン、 レベチラセ タム、 トピラマートの順に併用することが推奨されている。 ・従来の抗てんかん薬で発作コントロールが不十分な場合は、その薬剤の増量をやみくもに継続せずに、早期のうちから新規抗てんか ん薬の併用開始を考慮すべきと私は考えている。増量の継続は、眠気や認知機能、妊娠への悪影響などが懸念されることから、副作用 軽減のためにも新規抗てんかん薬の投与意義は大きい。新規抗てんかん薬の中でも、 ラモトリギンは眠気1)や認知機能2)に影響を及 ぼしにくく、選択しやすい薬剤といえる。 ・抗てんかん薬の各種組み合わせの有用性を比較検討した最近の報告によると、 ラモトリギン+バルプロ酸併用療法は発作頻度を前治 療の0.52倍に有意に低下させる、発作抑制効果の良好な治療法であることが示されている (図1) 。当併用療法については、我々も高 い効果を実感しており、薬物血中濃度や薬疹発現に注意すれば、難治例に対して十分試みる価値のある治療法と考えている。 1 図1 各種てんかん薬物治療法の発作抑制効果(単剤療法および併用療法) 海外データ 症例数 発作頻度比※1<1 薬物治療法 発作頻度比※1>1 発作頻度比※1(95%信頼区間) p値※2 LTG+VPA 40 0.52(0.40-0.66) 0.000003 LTG+CBZ 28 1.25(0.90-1.73) 0.18 LTG+PHT 20 0.99(0.76-1.29) 0.94 LTG+TPM 16 1.06(0.75-1.49) 0.74 LTG+LEV 15 0.77(0.33-1.78) 0.51 LTG+VPA+TPM 13 0.46(0.20-1.06) 0.07 LTG+VPA+PHT 11 0.98(0.71-1.37) 0.91 CBZ 66 1.06(0.82-1.37) 0.66 CBZ+VPA 54 1.08(0.83-1.40) 0.56 CBZ+PHT 38 1.20(0.88-1.64) 0.24 CBZ+TPM 15 0.53(0.26-1.08) 0.08 CBZ+VPA+PHT 11 1.02(0.54-1.93) 0.93 VPA 50 1.20(0.91-1.59) 0.18 VPA+PHT 41 1.10(0.85-1.41) 0.47 VPA+GBP 18 1.40(0.93-2.12) 0.10 VPA+TPM 11 0.81(0.46-1.42) 0.42 PHT 33 1.21(0.81-1.80) 0.34 PHT+GBP 10 1.04(0.53-2.05) 0.90 発作頻度比※1 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 CBZ:カルバマゼピン GBP:ガバペンチン LEV:レベチラセタム LTG:ラモトリギン PHT:フェニトイン TPM:トピラマート VPA:バルプロ酸 対 象 知的障害を有する米国の成人難治てんかん患者148例(平均51.1歳) 方 法 1980年から30年間にわたる診療記録から、 抗てんかん薬による薬物治療状況と1ヵ月あたりの発作頻度に基づいて、 各薬物治療法別の発作頻度比※1を算出し、 発作抑制効果を比較検討した。 ※1:個々の患者における、 評価する薬物治療法でみられた発作頻度/その症例が以前行っていた薬物治療法で見られた発作頻度の平均値の比。 ・1未満:その治療法の発作抑制効果が、前治療法よりも大きい(前治療法よりも発作頻度が減少) ・1以上:その治療法の発作抑制効果が、 前治療法よりも小さい (前治療法よりも発作頻度が増加) ※2:両側t検定(vs. 前治療法での平均発作頻度) [Poolos NP et al:Neurology 78(1) :62-68, 2012より作図] 高齢発症てんかんに対する薬物治療戦略 ・近年の高齢化社会に伴って高齢発症てんかんが増加しており、特に、痙攣を来さない複雑部分発作が多い。そのため、高齢発症てんか んと他疾患を鑑別する際は、 「失神」 との鑑別が特に重要となる。 ・高齢者のてんかんは、初回発作後の再発率が66∼90%と高く、再発によって骨折や誤嚥性肺炎などによるQOLの低下が見られる可 能性があるため、初回発作時でも薬物治療の開始を考慮すべきといえる。今後増加が予想される高齢てんかん患者に対しては、 “slow titration” と “low dose” が薬物治療のポイントと考えている。 ・高齢てんかん患者における各種抗てんかん薬の12ヵ月服薬継続率は、 ラモトリギンが約80%と高率を示した3)。新規抗てんかん薬 の中でも、 ラモトリギンは使いやすい印象がある。 2 てんかん難治例に対する対処法 ―新規抗てんかん薬、外科的治療への期待― ・新規発症のてんかん患者において、1剤目の抗てんかん薬の有効率は47%である一方、36%は難治例であった (図2) 。即ち、新規発 症例の半数以上(53%) は、併用療法または外科的治療が期待される対象と考えられる。 ・英国NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)のガイドラインによると、①抗てんかん薬による治療を2 年間実施してもコントロール不良な症例、②2剤の併用療法を実施してもコントロール不良な症例、③2歳以下の小児、④忍容できな い強い副作用がある、⑤一側病変を有する症例、⑥精神医学的合併症を有する症例、⑦診断が疑わしい症例―などに対しては、紹介に よる早めの精査が推奨される。 ・難治例では外科的治療が奏効する場合もある。 したがって、一定の投与量と投与期間でも発作抑制に至らない症例に対しては、早めに 見極めて、外科的治療や迷走神経刺激療法(VNS)の導入も検討すべきである。 ・外科的治療が可能なてんかんは、内側側頭葉てんかん、器質病変が検出された部分てんかん、器質病変を認めない部分てんかんなど であり (図3) 、中でも側頭葉てんかんに対する外科的治療の有用性が高い4)。当院で行っているVNSは、極めて難治のてんかん症例 (30例程度) を対象としているが、50%以上の発作減少は53%、発作消失については16%で確認されている。 図2 新規発症てんかん患者における治療法別の治療成功率 図3 外科的治療が可能なてんかん 海外データ 1剤目で発作消失 2剤目で発作消失 3剤目または併用療法で 発作消失 難治てんかん ●内側側頭葉てんかん ●器質病変が検出された部分てんかん 36% 47% ●器質病変を認めない部分てんかん 4% ●一側半球の広範な病変による部分てんかん 13% (n=470) ●失立発作をもつ難治てんかん 併用療法、外科的治療が 期待される対象(53%) ●日常生活のQOLが障害されていることを重要視 ●術後に機能障害が起こる可能性が高い症例や MRI所見を認めない症例では、適応を慎重に判断 [Kwan P, Brodie MJ:N Engl J Med 342 (5) :314-319, 2000より作図] [聖隷浜松病院 院長補佐/てんかんセンター長 山本 貴道 先生] 1) Placidi F et al:Acta Neurol Scand 102 (2) :81-86, 2000 2) Meador KJ et al:Neurology 56 (9) :1177-1182, 2001 3) Arif H et al:Arch Neurol 67 (4) :408-415, 2010 4) Wiebe S et al:N Engl J Med 345 (5) :311-318, 2001 本セミナーの内容には、 一部、 本邦で承認されているラモトリギンの「効能・効果」および 「用法・用量」 とは異なる試験成績が含まれています。 詳細は製品添付文書をご覧ください。 【ラモトリギンの効能・効果】 ・他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の下記発作に対する抗てんかん薬との併用療法 部分発作(二次性全般化発作を含む)、強直間代発作、Lennox-Gastaut症候群における全般発作 〔成人〕ラモトリギン錠25mg、錠100mg 〔小児〕ラモトリギン錠小児用2mg、 錠小児用5mg、 錠25mg、 錠100mg ・双極性障害における気分エピソードの再発・再燃抑制 〔成人〕ラモトリギン錠25mg、錠100mg 【ラモトリギンの使用上の注意】 高齢者への投与 高齢者では、一般に生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら慎重に投与すること。 ラモトリギンの「警告・禁忌を含む使用上の注意」 等については製品添付文書をご参照ください。 3
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