ブリーダー通信 ㊳ 新発表 「翔馬」 の発売で 充実してきた タキイのニンジン! し ょ う ま ~最新産地向け品種育成状況~ タキイ研究農場 さか まき ゆう いち 坂巻 有一 1985年に発売した 「向陽二号」 は発売から今年で30年になります。 「向陽二号」 がロン グセラーになった背景には、当時の生産現場や流通・消費のニーズに適合した品種で あったこと、特に幅広い作型や土壌に適応できる栽培性・耐病性にすぐれていること があげられます。近年のニンジン産地は、作型がより細分化され、温暖化が要因と思 われる不安定な作柄状況から、今まで以上に高いレベルの特性が品種に求められてい ます。そのようなニーズに応えるべく、ニンジンの品種開発は 「向陽二号」 の特長であ る栽培性・耐病性を受け継ぎながら、各作型に適応した作りやすい品種育成に取り組 んできました。今号で掲載した新発表「翔馬」や、現在開発中の品種まで含めるとと ても充実したラインアップになってきました。産地向け品種の育成状況、販売状況を ↑秀品率が高く肌ツヤのよい「翔馬」 。 作型ごとにご紹介させていただきます。 作型別適品種の特性 今年新発表した 「翔馬」 は、肥大がよ では8月上旬、暖地では8月中下旬が く、尻詰まりにすぐれる夏まき専用種 適期です。 ●夏まき年内~冬どり です。発芽から初期生育が旺盛で作り 冬どりの 「優馬」 は、地上部が強健で この作型は国内のニンジン栽培にお やすく、エクボ症などの肩部障害や形 耐寒性にすぐれ、割れにくい緻密な肉 いて最も大きな面積を占める作型です。 状の乱れが少なくて秀品率が高いこと 質が特長です。そのため年明けの機械 また播種から収穫まで機械化が進み、 や、根色は芯まで赤く肌ツヤがよいこ 収穫において能力を発揮します。特に 経営が大型化している産地も少なくあ とが特長です。葉は立性で葉軸もしっ 降霜がきつく、葉の傷みやすい関東や りません。そのようなニーズに対応す かりしているので機械収穫にも適して 熊本県菊陽町を中心に販売、推進して るために、年内どりは 「翔馬」 、冬どり います。現在、千葉県、長崎県を中心 います。生育がじっくりしているので、 は「優馬」のリレー出荷をおすすめし に全国で導入が進み、概ねよい結果が 遅まきしすぎると肥大不足の原因にな ます。 得られています。播種時期は、中間地 ります。播種時期は、中間地では8月 しり ゆう ま ち みつ ニンジン特性表 品種名 適作型 根色 根長(㎝)根重(g) 早晩性 晩抽性 耐寒性 抽根性 恋ごころ 春夏兼用種 鮮やかな濃紅 18 200 Dr.カロテン5 春夏兼用種 鮮やかな濃紅 17 220 いなり五寸 早生 ◎ ○ ○ ◎ ○ ○ ◎ △ ○ ◎ ○ ◎ △ ○ ○ ○ ○ ○ 春まき種 濃橙 20 200 春夏兼用種 鮮紅 18 200 鮮やかな濃紅 18 200 濃鮮紅 20 250 陽州五寸 鮮紅 19 220 △ ◎ ○ 優馬 鮮紅 19 220 △ ◎ ○ 鮮紅 20 250 ○ ◎ ◎ 鮮やかな濃紅 20 300 △ ○ ○ オランジェ 濃鮮紅 19 220 △ ◎ ○ 京くれない 鮮やかな赤 20 220 △ ○ ○ 向陽二号 翔馬 夏蒔鮮紅五寸 陽明五寸 夏まき種 グランプリ 24 2015 タキイ最前線 夏号 中早生 早生 中早生 中生 中晩生 ↑「優馬」 は耐寒性にすぐれた冬どり種。 ↑割れにくく収量性にすぐれる「TCH-711」 。 ↑しみ症に強く、肌ツヤのよい「TCH-712」 。 上中旬、暖地では8月下旬~9月上旬 抽性、収量性、店もちのよさが重要で が適期です。 す。収量性に関しては、肥大性はもち ●トンネル春どり ろんのこと、しみ症などの根部病害に 春どり栽培においては、抽苔と根部 強いこと、割れないこと、クズが少な 病害であるしみ症、最近では出荷後に いことが高い歩どまりにつながります。 黒ずむ変色などが問題になります。そ 5月まきの夏どりは晩抽性と店もちに こでタキイでは、 「晩抽性・耐しみ症・ すぐれる 「向陽二号」 、5〜6月まき夏 耐変色」をキャッチフレーズに品種改 秋どりには 「TCH-756」がおすすめです。 良を行い、ようやく春のラインアップ 「TCH-756」は、晩抽性と割れにくさ、 が整ってきました。 高い歩どまりを目標に育成しています。 この作型は、3~5月どりに 「TCH- 北海道で3年目の試験栽培を行ってお 7 55 」 →5〜6月どりに「TCH-711」→ り、2年目までの結果では、晩抽性が 6〜7月どりに「TCH-712」 「向陽二号」 安定していること、肥大性にすぐれ、 のリレー栽培がおすすめです。収穫時 割れが少ないことを確認しています。 期が雨などで適期に収穫できないこと 今年は、初夏どりから夏秋どりまで試 があっても、安心して栽培していただ 験を拡大継続中です。 けると思います。 「TCH-755」は、低温着色性にすぐ 今号で紹介した新品種「オランジェ」 暖地の10~11月まき、中間地の1〜2 が新たにファイトリッチシリ-ズに加 月まきに適しています。昨年は徳島県、 わりました。リコピンとカロテンをバ いたしました。現在、各産地で2年目 の試験栽培を行っている状況です。 「TCH-711」は、割れにくくて収量 性にすぐれた品種です。暖地の12月〜 1月まき、中間地の2月まきに適して います。 「TCH-712」は、しみ症に強く、色、 肌ツヤのよい品種です。6〜7月は気 温が高く梅雨時期のため、特にしみ症 の発生が懸念されるので「TCH-712」 「向陽二号」が適しています。 ® ↑リコピンとカロテンの両方をバランスよく 含む「京くれない」 。 ファイトリッチシリーズ れ、尻詰まりの早い春どり専用種です。 千葉県で少量試験栽培を行い、商品化 ↑発売から30年のロングセラー品種「向陽二号」 。 きょう ランスよく含む赤色が美しい 「京くれな い」 と、カロテン含量が従来品種より50 ® %多く、濃いオレンジ色が特長の「オ ランジェ」を夏まき冬どり作型で選択 できます。 「オランジェ」は、葉の耐寒性にす ぐれ、じっくりと生育しながらカロテ ンを蓄積していきます。冬の寒さにあ たることで甘みも増しておいしくなり た こ まち ます。熊本県菊陽町、千葉県多古町な どの生産法人を中心に食味、品質面で 好評を得ています。 ●冷涼地夏~夏秋どり タキイは、今後もファイトリッチシ 北海道を中心としたこの作型は、晩 リーズの充実をはかっていく予定です。 ↑濃いオレンジが見た目に鮮やかな「オランジ ェ」 。 ※記事中紹介している「TCH-711」 「TCH-712」 「TCH-755」 「TCH-756」の育成品種は現在試作展開中の品種につき、通販や一般販売はして おりません。ご了承ください(編集部)。 ※成分データは全て当社調べ(成分の数値は栽培条件により変動する可能性があり、栽培での結果を保証するものではありません。) 2015 タキイ最前線 夏号 23
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