土木学会論文集B2(海岸工学) Vol. 66,No.1,2010,806-810 津波来襲時のコンテナ群漂流・水没シミュレーション Numerical Simulation on Drifting and Submerging Containers driven by Tsunami 1 2 3 3 4 5 後藤仁志 ・五十里洋行 ・柴田卓詞 ・小倉和己 ・殿最浩司 ・志方建仁 Hitoshi GOTOH, Hiroyuki IKARI, Takuji SHIBATA, Kazumi OGURA Koji TONOMO and Takemi SHIKATA A huge tsunami attack with run-up may cause scattering of containers, which can be a danger for navigating ships. Although some of hydraulic experiments and numerical simulations to track drifting containers in a tsunami attack have been executed previously, not plural floating bodies but a single one was treated in previous studies. In this study, a numerical simulation to predict drifting behavior and submerged area of containers driven by tsunami is carried out. Containers are driven by the fluid force based on the Morison's formula in which the drag coefficients are assumed with taking their rectangle shape into account. Local velocity field is calculated by the nonlinear long wave theory. によって行う.連続式および x, y 方向の運動方程式はそ 1. はじめに れぞれ, 陸上遡上津波によって海域に落下したコンテナが航路 …………………………… (1) 上に沈没すると,船舶の安全な航行を阻害する危険性があ る.したがって,あらかじめ湾内を来襲する津波の規模と 漂流物となり得るエプロン上のコンテナ群の挙動を予測 …………(2) し,有効な対策を講じておくことは非常に重要である. 津波来襲時のコンテナの漂流挙動については,これま でに水理実験や数値解析などで数多く検討されてきた (例えば,水谷ら,2005;熊谷ら,2006;安野ら,2007; ……………(3) 後藤ら,2009など) .しかし,既往の研究においては,単 体の漂流物を扱った例が多く,多数の漂流物を同時に追 跡した例はあまり多くない.これは現象の素過程に注目 ………………… (4) した研究が多いためであるが,言うまでもなく実際には 多数の漂流物が相互に干渉しながら運動するので,複数 と書ける.ここで, η :水面の鉛直変位量,D :全水深 の漂流物の同時追跡も不可欠である.特に,漂流コンテ (= h+η(h :水深)),M, N : x, y 方向の単位幅当たりの流 ナが沈没し着底するまでの過程を追跡することを考えた 量,g :重力加速度,fc :海底摩擦損失係数,n :マニン 場合には,広範囲に渡って拡散することが予想されるの グの粗度係数である. で,数値シミュレーションの導入が必須である. そこで,本研究では,陸上に配置されたコンテナ群が (2)コンテナの挙動追跡 a)運動方程式 遡上津波によって漂流の後に水没し,海底に停止するま 本研究では,コンテナを複数の要素の集合体として記 での全過程をシミュレーションする.これにより,コン 述し,各要素において計算された外力の和を用いてコン テナの回収や航路安全の確保等の迅速な復旧の計画策定 テナの運動を計算する.コンテナの並進と回転の運動方 のためのコンテナ群の到達位置の推定が可能となる. 程式は,それぞれ 2. 数値解析の概要 (1)津波計算 ……………………………………(5) ………………… (6) 津波の計算は,一般的に用いられる非線形長波理論式 1 2 3 4 5 正会員 正会員 正会員 正会員 非会員 博(工) 博(工) 工修 博(工) 工修 京都大学教授 工学研究科社会基盤工学専攻 京都大学助教 工学研究科社会基盤工学専攻 関西電力 (株) 土木建築室計画グループ (株) ニュージェック 港湾・海岸グループ (株) ニュージェック 港湾・海岸グループ ……………………… (7) と表される.ここに,Mcont :コンテナの質量,acont :コ ンテナ重心の加速度ベクトル,Ncont :コンテナを構成す 807 津波来襲時のコンテナ群漂流・水没シミュレーション る要素数,F i :要素 i に作用する外力ベクトル,F h :外 力ベクトル F の水平方向成分ベクトル,f f :流体力ベク ……………………………………(17) トル,fcol :接触力ベクトル,fb :浮力ベクトル,ffr :陸 上底面摩擦力ベクトル, δ :底面摩擦力に関するデルタ と書ける(ここで,kn,ks :法線および接線方向のバネ定 関数(底面と接していれば δ =1),m :要素 1 個の質量, 数,c :ダッシュポット定数,d :要素径,rij :要素間相 g :重力加速度ベクトル,Icont :コンテナの鉛直方向軸周 対位置ベクトル,rij0 :初期接触時の相対位置ベクトル,µs, りの慣性モーメント,ωcont :コンテナの鉛直方向軸周り µk :静止摩擦係数および動摩擦係数であり,添え字eは要 の角加速度ベクトル,ri :要素 i の位置ベクトル,rG :コ 素間の接触を示す) .一方,fcolw に関しては,(13)∼(17)式 ンテナの重心位置ベクトルである.なお,回転について において,dj=0,rij を陸域セル境界上にある接触点との相 は,簡単のために水平面内のみを扱う.以下に,右辺各 対位置ベクトル,rij0 を初期接触点との相対位置ベクトル, 項の詳細を記す. uj=0とそれぞれ置き換えて計算する.式中の各パラメータ b)流体力項 については,計算が安定して収束するようにチューニン 各要素に作用する流体力は,モリソン式によって計算 グし,kne=kse=2.49 × 104(kg/s2),knw=4.98 × 104(kg/s2), ksw=0.0,ce=cw=7.48×104(kg/s) ,µs=0.5,µk=0.3と決定し される.流体力ベクトルは, ………………(8) . た(添え字wは要素と陸域セル境界との接触を示す) d)その他の項 と記述される.ここで,ρ :流体の密度,CD :抗力係数, 要素が浮上しておらず,かつ陸域セルに存在する際に ui :要素 i の速度ベクトル,As :要素の水没部分の投影面 作用する底面摩擦力については,静止摩擦力と動摩擦力 ,Vs :要素の水没部分の体積 積,CM :慣性力係数(=1.0) に分けて取り扱う.静止摩擦力については,以下のよう である.なお,抗力係数については,安野ら(2007)の に記述する. 実験式 …………………………………(9) … (18) ……………………………………(10) にしたがい,コンテナの長軸と流向との間の角度に依存 ここで,fcolh は,接触力ベクトルの水平方向成分である. して変化させた(ここで,C Dξ :コンテナの長軸方向の 一方,動摩擦力は, 抗力係数,CDζ :コンテナの短軸方向の抗力係数,θ :コ …………………………………(19) ンテナの長軸方向と流向との間の角度). と記述できる. c)接触力項 コンテナの各要素においては,他のコンテナ構成要素 浮力については, あるいは陸域セル境界と接触した際にそれぞれ接触力が …………………………………………(20) 作用するものとし,接触力は個別要素法と同様のバネ-ダ ッシュポットモデルを用いて推定する(例えば,後藤, 2004) . と書ける. e)コンテナ質量の増加 ……………………………………(11) コンテナ内部への浸水が生じると,コンテナの見かけ の質量が増加する.本研究では,熊谷ら(2008)と同様 ここで,fcole :他のコンテナ構成要素との接触力ベクトル, にコンテナの漂流経過時間 tfloat に依存して,コンテナ構 fcolw :陸域セル境界との接触力ベクトルである.fcole は, 成要素の質量を増加させた.コンテナ構成要素の初期質 …………………………………(12) 量からの増分は, …………………………… (21) ………………… (13) と書ける(ここで,V :コンテナ構成要素の体積, σ : ……………… (14) . コンテナ構成要素の初期密度,tlim :漂流限界時間) 3. コンテナ群の漂流・水没シミュレーション ………………………………………(15) (1)計算領域・計算条件 ……… (16) 本計算で用いた津波の波源モデルは,中央防災会議に 808 土木学会論文集 B2(海岸工学),Vol. 66,No.1,2010 図-1 図-2 図-3 初期地盤変動量分布 コンテナ初期配置 ふ頭中央における津波浸水深および遡上流速 よって想定された東海・東南海・南海地震モデルであ る.図-1 に,本波源モデルにおける初期地盤変動量を示 す.計算領域は,6 段階にネスティングを行い,図-2 上 図に示す格子幅 12.5m で区切られる太平洋沿岸のモデル 地域をコンテナ漂流計算に用いる.図-3 は,図-2 下図に 示したモデルふ頭中央における津波浸水深および遡上流 図-4 コンテナ群の漂流(漂流限界時間20 分) 速である.計算開始から 1.4 時間の間に 3 度,そして,計 コンテナは,40ft 型の空コンテナを想定し, σ =51.49 算開始 3.6 時間後に,比較的大きな津波がふ頭に来襲す (kg/m3),一辺の長さ 2.44 m の立方体形要素を 5 個直列に る.最高浸水深は約2.5 m で,最高遡上流速は約 3.5m/sで 並べて構成する.コンテナの初期位置はモデルふ頭の北 あった. 側沿岸であり,図のように規則的に5×20 個配置される. 津波来襲時のコンテナ群漂流・水没シミュレーション 809 (2)計算結果 a)漂流限界時間 20 分のケース 図-4 に,漂流限界時間 20 分のケースのコンテナ位置分 布を示す.黒色のコンテナは,水没して海底に停止した コンテナを示す.また,図中のベクトルは流速を示し, 陸域の淡い色の領域は,津波遡上域を示す.まず,ふ頭 北岸から遡上した津波によって,コンテナ群はいったん 南方へ流されるが(t=28min),南護岸からの反射波によ って,ふ頭西護岸沿いに流される.このとき,一部はふ 頭北岸より海域へ落下する(t=32min).海域に落下した コンテナ群は,ふ頭西沖へと流され,海底に沈没する (t=52min).t=78min では,3 度目に来襲したふ頭北岸か らの遡上津波によって,ふ頭に留まっていたコンテナ群 がふ頭南側の海域へ落下する.ここで落下したコンテナ は,ふ頭西沖あるいは南沖へ漂流し,水没する(t=100 min).本ケースでは,コンテナ群の大半がふ頭西沖 50 ∼ 500m の範囲内で沈没する結果となった. b)漂流限界時間 1 時間のケース 図-5 に,漂流限界時間 1 時間のケースのコンテナ位置 分布を示す.本ケースでも,ふ頭北岸より漂流し始めた コンテナ群は,ふ頭西沖で南北に分かれるが(t=54min), 水没までの時間が長いので,さらに北西沖および南沖へ と漂流する(t=60min).また,一部のコンテナは,ふ頭 南東のコの字型の湾内へと侵入し,再上陸するものもあ る.図には示していないが,先程のケースと同じように t=78min でふ頭に残存していたコンテナ群が南岸から海 域へ落下し,ふ頭西沖あるいは南沖へ漂流を始める (t=116min).t=250min には,ほぼすべてのコンテナが海 底に水没するが,先述のケースと異なり,コの字型湾と 人工島に挟まれたふ頭南沖の海域に多く沈没した.ふ頭 南西角と人工島北東角の間から人工島南東にかけての海 域は,周期的に流れの方向が変わるので,漂流コンテナ はこの海域に引き込まれ易い. c)漂流限界時間 2 時間のケース 図-6 に,漂流限界時間 2 時間のケースのコンテナ位置 分布を示す.本ケースでは,最初の来襲津波によって漂 流を始めたコンテナ群の一部は,ふ頭北西の防波堤沿い 図-5 コンテナ群の漂流(漂流限界時間1時間) に西へ移動し(t=58min),人工島から北西方向に伸びる 別の防波堤との間を通ってさらに北上する(t=78min). モデルふ頭の西岸および南岸には,それぞれ護岸が設置 また,漂流限界時間 1 時間のケースと同じく,コの字型 されているものとし,地盤高を約1m ほど高く設定した. 湾内で再上陸するコンテナも見られる.t=152min では, 本研究では,3 ケース(20 分,1 時間,2 時間)の漂流 ふ頭北沖でいくつかのコンテナが水没しているが,これ 限界時間を想定したシミュレーションを実施した.なお, らは,ふ頭西沖の防波堤間を通って,一度図の表示領域 津波によって漂流したコンテナは,水没して海底に接し よりもさらに北まで漂流した後,汀線沿いに南下したも た時点で計算を打ち切る. のである.t=500min では,かなり広範囲に渡ってコンテ ナが散在している.主たる水没領域は,ふ頭西沖,さら にその北西沖,コの字型湾内,人工島南沖であった. 810 土木学会論文集 B2(海岸工学),Vol. 66,No.1,2010 図-7 最終水没位置 が,漂流限界時間がさらに長ければ外洋まで漂流するこ ともあり得る. 4. おわりに 本研究では,津波来襲時のコンテナ群の漂流挙動を海 底に水没するまで追跡できる数値モデルを開発した.シ ミュレーションは,空コンテナが浸水して水没するまで の漂流限界時間を変えて行い,コンテナの水没位置範囲 の違いを確認した. 本モデルでは,広範囲の解析を目的としたため,現象 の詳細については簡略化して扱っている.したがって, 本モデルからは,コンテナと構造物との衝突力を直接に は評価できない.しかし,本モデルによってコンテナの 移動速度を推定した後,著者ら(2009)が昨年実施した 三次元計算を行えば移動するコンテナと構造物との衝突 力の評価も計算が可能である. 参 考 文 献 図-6 コンテナ群の漂流(漂流限界時間2 時間) 図-7に,各ケースにおけるコンテナ最終水没位置を示 す.当然ながら,漂流限界時間が長いケースほど遠方に 到達する結果となった.初期位置からの水没位置までの それぞれのケースにおける最大距離は,約 0.8km,約 1.7km,約 2.6 km であった.今回実施した 3 ケースでは, コンテナ群はほぼ汀線に沿って漂流したので,最大でも せいぜい汀線から 2km 程度沖までしか到達しなかった 熊谷兼太郎・小田勝也・藤井直樹(2006):津波によるコンテ ナの漂流挙動シミュレーションモデルの適用性,海岸工 学論文集,第53 巻,pp. 241-245. 熊谷兼太郎・小田勝也・藤井直樹(2008):コンテナの沈没挙 動測定の現地実験と港湾における漂流数値シミュレーシ ョン,海岸工学論文集,第 55巻,pp. 271-275. 後藤仁志(2004):数値流砂水理学,森北出版株式会社,223p. 後藤仁志・五十里洋行・殿最浩司・柴田卓詞・原田知弥・溝 江敦基(2009):粒子法によるエプロン上のコンテナ漂流 挙動追跡のシミュレーション,土木学会論文集 B2(海岸 工学) ,Vol.B2-65,No.1,pp.261-265. 水谷法美・高木祐介・白石和睦・宮島正悟・富田孝史(2005): エプロン上のコンテナに作用する津波力と漂流衝突力に関 する研究,海岸工学論文集,第52巻,pp.741-745. 安野浩一朗・西畑 剛・森屋陽一(2007):浮体特性を考慮し た漂流シミュレーションの適用性に関する研究,海洋開 発論文集,第23 巻,pp.87-92.
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