Ti 6Al 4V 合金の機能性および強度に及ぼす 複合

日本金属学会誌 第 79 巻 第 4 号(2015)195202
Ti6Al4V 合金の機能性および強度に及ぼす
複合処理の効果
津 田 千 嘉1,
森 田 辰 郎1
刈 屋 翔 太1,
加賀谷忠治2
1京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科機械システム工学部門
2中部大学
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 4 (2015), pp. 195
202
 2015 The Japan Institute of Metals and Materials
Effect of Combination Treatment on Functionalities and Strength of Ti
6Al
4V Alloy
Chika Tsuda1,
, Tatsuro Morita1, Shota Kariya1,and Chuji Kagaya2
1Department
of Mechanical and System Engineering, Graduate School of Science and Technology, Kyoto Institute of Technology,
Kyoto 6068585
2Chubu
University, Kasugai 4878501
This study was conducted to comprehensively investigate the effect of combination treatment on the wear resistance, corrosion resistance, mechanical properties and fatigue strength of Ti6Al4V alloy. The combination treatment was composed of
plasma nitriding, shorttime heat treatment and fineparticle bombarding (hereafter, FPB). Plasma nitriding was performed at
1123 K. The obtained results were compared with those of the previous study concerning the combination treatment in which
plasma nitriding was performed at 1023 K. A thick hardened layer (thickness: 200 mm) was formed by plasma nitriding. The substrate was strengthened by shorttime heat treatment. The surface brittle compound layer was eliminated by FPB, and high compressive residual stress was introduced at the same time. The combination treatment improved wear resistance without the deterioration of corrosion resistance. Moreover, the combination treatment improved tensile strength and fatigue strength although
it markedly reduced ductility. The comparison with the results obtained in the previous study showed that the combination treatment in which plasma nitriding was performed at 1023 K was more effective to improve the functionalities and strength of Ti
6Al4V alloy. [doi:10.2320/jinstmet.J2014059]
(Received November 21, 2014; Accepted December 15, 2014; Published April 1, 2015)
Keywords: titanium6aluminum4vanadium, combination treatment, hybrid surface treatment, wear resistance, corrosion resistance,
mechanical properties, fatigue strength
合金の耐摩耗性および疲労強度は同時に改善された.特にプ
1.
緒
言
ラズマ窒化と FPB 処理を複合化した場合には,疲労強度が
47改善された.
Ti 6Al 4V 合金は,高い比強度,優れた耐食性および良
上記の複合表面処理材では,表面からのき裂発生が強く抑
好な生体適合性を併せ持つ代表的な a+b 型チタン合金であ
制され,疲労き裂の発生起点は硬化層下に位置していた.こ
る.このチタン合金は,航空宇宙産業や医療機器分野を中心
のことは,同材の母材強度を改善すれば,さらなる疲労強度
に広く使用されており,上記の産業分野が盛んな米国では全
の改善が可能であることを示唆した.そこで,著者らが別途
50以上を占めている1).その一方で,
開発した短時間熱処理(加熱時間合計 100 s)13,14)と複合表
Ti 6Al 4V 合金は他のチタン材料と同様,耐摩耗性に劣る
面処理を組合せて Ti6Al4V 合金に施した.その結果,耐
という問題を有するため,しゅう動部品への使用は一般に困
摩耗性の改善と同時に引張強度が 36 上昇し,さらに疲労
難である.
強度の改善率は 59と顕著に高い値に達した15).
チタン使用量の実に
窒化等の表面硬化処理により,チタンの耐摩耗性は改善可
上述の複合処理では,組織成長を抑制する目的でプラズマ
能であるが26) ,化合物層に生じる割れや母材部の組織成長
窒化を 1023 K で施した.そのため,形成された硬化層は薄
に起因して疲労強度が低下する48).この点を考慮し,著者
かった.しかし,処理温度を高めてより厚い硬化層を形成さ
らはプラズマ硬化処理(浸炭,窒化)および微粒子衝突処理
せても,その後に短時間熱処理を施せば,プラズマ窒化時に
(以後, FPB 処理)から構成される複合表面処理の効果につ
生じる組織成長の影響は無効化されると予測された.
いて検討を行った912).その結果,同処理により Ti6Al4V
そこで本研究では,前報15)で用いた処理温度よりも 100 K
高 い 1123 K で Ti 6Al 4V 合 金に プ ラ ズ マ 窒化 を 行 っ た
京都工芸繊維大学大学院生(Graduate Student, Kyoto Institute
of Technology)
後,短時間熱処理および FPB 処理を施した.基礎的知見を
蓄積するため,以上により作製した複合処理材と比較材であ
196
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
る未処理材,プラズマ窒化材および複合表面処理材(プラズ
マ窒化+FPB 処理)について,微視組織,硬さ分布,残留応
2.2
第
79
巻
実験方法
硬さ分布測定および EBSD( electron back scatter diffrac-
力,耐摩耗性,耐食性,機械的性質および疲労特性を系統的
tion )分析のため,ボタン型試験片を平面部と垂直に切断
に調べた.
し,切断面を鏡面に仕上げた.硬さ分布は,マイクロビッ
2.
供試材および実験方法
2.1
供試材および処理条件
カース硬さ計を用いて表面から深さ 10~300 mm の範囲で調
べた.その際,試験力 245 mN ( 25 gf )の条件で各深さで 3
点測定した値の平均値を測定値とした.
Table 1 に,本研究で用いた Ti6Al4V 合金圧延丸棒(直
EBSD 分析は,上記の鏡面に仕上げた切断面をクロール
径 10 mm)の化学成分を示す.この材料に 1023 K,3.6 ks,
氏液により腐食して加工層を除去してから実施した.この分
空冷の条件で焼鈍を行った後,Fig. 1 に示す 3 種類の試験片
析を通じて,表面近傍および母材部で IQ (image quality)マ
形状に機械加工した.ボタン型試験片(a)の試験部(平面部)
ップ, IPF ( inverse pole figure )マップおよび Phase マップ
は,エメリ研磨およびバフ研磨(二酸化シリコン懸濁液)によ
をそれぞれ取得し,各位置での組織形態等を詳細に調べた.
り鏡面に仕上げた.また,引張試験片(b)および疲労試験片
X 線回折, X 線残留応力測定および摩耗試験は,ボタン
(c)の試験部は,エメリ研磨および電解研磨により鏡面に仕
型試験片の試験部(平面部)で行った. X 線回折は, CuKa
上げた.以後,この材料を未処理材(AN 材)と称する.
線,回折角 2u=30°
~45°
,測定刻み 0.01°
,走査速度 0.02°
/
プラズマ窒化材( PN 材)は, AN 材に 1123 K , 14.4 ks の
s の条件で行った. X 線残留応力測定は, CuKa 線,回折
条件でプラズマ窒化を施すことにより作製した.複合表面処
,c 角c=10, 20, 30, 35,
面(213)面,回折角 2u=142.0°
理材(PN /FPB 材)は, PN 材に下記の FPB 処理を施すこと
,揺動± 3 °
,応力定数 K =- 258.2 MPa /°
の条件で行っ
40 °
により作製した. FPB 処理では,まず SiC 微粒子(直径 75
た.
mm,噴射圧 0.3 MPa)を用いて化合物層を除去した後,ハイ
摩耗試験は,ボールオンディスク型試験機を用いて,相手
ス鋼微粒子(直径 69 mm ,噴射圧 0.6 MPa )により本処理を
材 Al2O3 球(直径 4.8 mm ),試験力 2.94 N (300 gf),回転直
行い,さらに表面粗さを低減するため, Al2O3 微粒子(直径
径 3 mm,しゅう動速度 40 mm/s,環境無潤滑,室温・大
69 mm ,噴射圧 0.4 MPa )による仕上げを行った.ボタン型
気中の条件で行った.この試験をしゅう動距離 100 m まで
試験片については,上記の FPB 処理を各 10 s 間施した.ま
行った後,摩耗痕の様相を走査型電子顕微鏡( SEM )により
た,引張試験片および疲労試験片については, 0.1 Hz の速
観察した.
度で試験片を回転させた状態で各 30 s 間施した16).
耐食性試験は,恒温槽を用いて 358 K に保持した 0.9生
複合処理材(PN/HT/FPB 材)は,PN 材に下記の条件で短
理食塩水中へボタン型試験片を全浸漬し,最長 4.84 Ms( 56
時間熱処理を施した後,前記の FPB 処理を施すことにより
日)間保持することにより行った.その際,浸漬前および浸
作製した.短時間熱処理は 2 段階処理であり,第 1 段階処
漬開始から 605 ks(7 日),1.21 Ms(14 日),2.42 Ms(28 日),
理は 1223 K , 60 s 間加熱後急冷の条件で,また第 2 段階処
3.63 Ms ( 42 日)および 4.84 Ms ( 56 日)の時点で,化学天秤
理は 823 K,40 s 間加熱後空冷の条件でそれぞれ施した.
により試験片質量を測定するとともに,表面様相を SEM に
より観察した.なお,腐食環境の劣化を避けるため,塩水は
1.21 Ms(14 日)ごとに交換した.
引張試験は,精密万能試験機を用いて室温・大気中で行っ
Table 1
Chemical composition of Ti6Al4V alloy.
(mass)
た.この試験は各材 2 本の試験片について行い,それらの
平均値を測定値とした.破断した試験片については,破断部
Al
V
Fe
O
H
C
N
Ti
近 傍 の 側 面 お よ び 破 面 を SEM ( scanning electron micro-
6.14
4.17
0.220
0.200
0.0043
0.004
0.003
Bal.
scope)により観察した.疲労試験は,繰返し速度 25 Hz,応
力比 R =- 1 ,室温・大気中の条件で行った.疲労破面は
SEM により観察し,き裂発生部を詳細に調べた.
実験結果および考察
3.
3.1
微視組織
Fig. 2 に,各材の表面近傍および母材部で取得した IQ マ
ップ, IPF マップおよび Phase マップをまとめて示す.ま
た Fig. 3 には,各材の X 線回折結果を示す.
Fig. 2 に示す Phase マップから理解されるように,AN 材
の組織は等軸 a 相(赤色)と斑点状の b 相(緑色)から構成さ
Fig. 1 Configurations of specimens (mm): (a) button specimen; (b) tensile specimen (JIS Z2241, No. 14); (c) fatigue
specimen (JIS Z2274, No. 2).
れていた.同材では,表面近傍と母材部の組織に差異は認め
られなかった.
第
4
号
Ti
6Al
4V 合金の機能性および強度に及ぼす複合処理の効果
197
PN 材の X 線回折結果( Fig. 3 )には, TiN および Ti2N に
プラズマ窒化による窒素の拡散により,a 相の回折線は AN
対応する回折線が認められた.この結果は,上記の窒化物か
材の場合よりも低角度側へ移動した17) .また,窒素は a 安
ら構成される化合物層が表面に形成されたことを意味した.
定化元素であるため,表面近傍には a 相のみの領域が認め
Fig. 2
Results of EBSD analysis obtained: (a) near the surfaces; (b) in the substrates.
198
第
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
Fig. 4
Fig. 3
79
巻
Hardness distributions.
Xray diffraction profiles.
した窒素が散逸したためと推察される.
PN /HT / FPB 材(◆)の場合,硬化層厚さは上記 2 材料の
られた(Fig. 2,Phase マップ).PN 材の母材部組織は,AN
場合と同じ 200 mm であった.しかし, PN / FPB 材の場合
材の場合と同様に a 相および b 相から構成されていた.た
と同様,表面から深さ 20 mm までの硬さは PN 材の場合よ
だし,前報15) より高い温度で実施したプラズマ窒化時の熱
りも低かった.その一方で,旧 b 相に生じた先述の組織変
履歴により,組織には成長が認められた.
化のため,母材部の硬さは顕著に高い値を示した.
PN /FPB 材の場合, FPB 処理により化合物層が除去され
当初, PN / HT / FPB 材では窒素の拡散による硬さ上昇と
たため,X 線回折結果に TiN および Ti2N に対応する回折線
短時間熱処理による硬さ上昇が独立に生じ,Fig. 4 中に破線
は認められなかった(Fig. 3).また,FPB 処理による表面組
で示す硬さ分布になると予想された.実際には, PN / HT /
織の顕著な微細化にともない16,18,19) ,回折線幅が大となっ
FPB 材の硬さ分布は上記の予想線よりも高い水準に位置し
た.その一方で,上記の組織微細化のため,表面付近では
ていた.原因として,プラズマ窒化時に拡散した窒素(a 安
EBSD 分析結果(Fig. 2)が得られなかった.なお,FPB 処理
相の生成を
定化元素)が短時間熱処理時に旧 b 相における a′
の影響は表面近傍に限定され, PN / FPB 材の母材部組織は
促進したことが考えられる.以上のように,プラズマ窒化と
PN 材の場合と同じであった.
短時間熱処理の組合せは,硬化層の形成に関して相乗効果を
Fig. 3 に示す PN/HT/FPB 材の X 線回折結果には,PN/
FPB 材の場合と同様, TiN および Ti2N に対応する回折線
は認められなかった.また,表面組織の微細化により回折線
示した.
3.3
耐摩耗性および耐食性
幅が大となるとともに,表面付近では EBSD 分析結果(Fig.
Fig. 5 に,摩耗試験後に観察した各材の摩耗痕の様相をま
2 )が得られなかった.それより内部の組織は,等軸 a 相と
とめて示す.この図から理解されるように,AN 材の場合と
旧 b 相(黒色)から構成されていた.旧 b 相の体積は短時間
比較して PN 材,PN/FPB 材および PN/HT/FPB 材の摩耗
熱処理(第 1 段階)により増大し,また同相中には急冷時に
痕幅は減少し,硬化層の形成により耐摩耗性の改善が認めら
微細な針状の a ′
マルテンサイト相が生成された.同材で
れた.ただし, PN 材における表面近傍の硬さが PN / FPB
は,先述のように a 安定化元素である窒素が表面から拡散
材および PN / HT / FPB 材の場合よりも高かったため( 3.2
したため,等軸 a 相の体積率は母材部よりも表面近傍にお
節),PN 材の耐摩耗性は他材よりも良好であった.
いて高かった.
3.2
硬さ分布
Fig. 4 に,各材の硬さ分布をまとめて示す.この図から理
解されるように,PN 材(○)には窒素の拡散により厚さ 200
mm の硬化層が形成された. PN / FPB 材の硬さ分布(▲)は
Fig. 6 に,生理食塩水中へ全浸漬した各材の質量変化をま
とめて示す. Fig. 7 には,浸漬前(0 日)および 4.84 Ms ( 56
日)後に観察した各材の表面様相を代表例として示す.な
お,理解を容易にするため,両図では SI 単位外であるが
「日」を時間単位として用いた.
Fig. 6 から理解されるように,すべての材料で 56 日まで
PN 材の場合と同じであったが,表面近傍(表面から深さ 20
質量変化は生じなかった.また,Fig. 7 に示すように,FPB
mm まで)の硬さは PN 材の場合よりも低かった.上記の硬
処理を施した PN / FPB 材および PN / HT / FPB 材の表面に
さの低下は, FPB 処理時に表面が比較的高温に達し,固溶
Fe およびその酸化物の移着(黒色部)が認められたが,その
4
第
号
199
Ti
6Al
4V 合金の機能性および強度に及ぼす複合処理の効果
後,浸漬 56 日までピットなどの顕著な腐食の発生を示す痕
それらの破断部近傍で観察した試験片側面および破面の様相
跡は認められなかった.以上のように,本研究で調べた各処
をまとめて示す.Table 2 には,残留応力値および疲労強度
理材は,塩水環境中で AN 材と同等の耐食性を示した.
を併せて示すが,これらは次節で参照する.
3.4
Table 2 から理解されるように,ヤング率は各処理により
機械的性質
変化しなかった.PN 材および PN/FPB 材の静的強度(降伏
Table 2 に,各材の機械的性質を示す.また Fig. 8 には,
強度,引張強度)は,プラズマ窒化時の組織成長にともない
低下したが,低下幅は比較的小さかった.一方, PN / HT /
FPB 材の静的強度は,短時間熱処理にともなう先述の組織
変化により顕著に上昇した.
各処理材の延性値(断面収縮率)は,AN 材の水準から大き
く低下した.特に,硬化層硬さが高かった PN/HT/FPB 材
で延性値の低下が顕著であった.Fig. 8 に示すように,各処
理材の破面(母材部)には AN 材の場合と同様にディンプル
が認められ,延性的な様相を呈していた.しかし,それらの
破断部近傍の側面には,比較的大きな硬化層の割れが認めら
れた.以上より,プラズマ窒化温度を上昇させて厚い硬化層
Fig. 5 Features of wear tracks (test force: 2.94 N, sliding
distance: 100 m).
Fig. 6 Relationship between immersion time and mass
(temperature: 358 K, concentration of salt water: 0.9).
Table 2
AN
PN
PN/FPB
PN/HT/FPB
Fig. 7
days.
Surface features before corrosion test and after 56
Mechanical properties, residual stress and fatigue strength of each material.
Young's modulus,
E/GPa
Yield strength,
sy/MPa
Tensile strength,
st/MPa
105
111
115
116
981
918
906
1196
1032
998
1018
1352
Fracture occurred at the outside of the test section.
Elongation
()
15
12
10
2
Reduction in area
()
Residual stress,
sr/MPa
Fatigue strength,
sw/MPa
47
21
20
6
-115±6
122±29
-672±105
-626±240
620
600
640
840
200
第
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
Fig. 9
79
巻
SN curves.
とを意味しており,実際,疲労寿命は大幅に延長された.し
かしながら,前記のようにき裂発生部に a 粒程度の大きさ
のファセットが観察されたことから,プラズマ窒化による組
織成長が材料内部でのき裂発生を容易にしたと考えられる.
そのため, PN / FPB 材における疲労強度の改善は限定的で
Fig. 8
Features of tensile fracture surfaces and side surfaces.
あった.
上記の PN / FPB 材と同様, PN / HT / FPB 材には硬化層
(Fig. 4)が形成されるとともに高い圧縮残留応力が表面に付
を形成させた今回の材料では,母材部の変形に追従できずに
与された(Table 2).その結果,Fig. 10 に示すように,き裂
生じた硬化層の割れが,延性値の顕著な低下を招いたと考え
発生起点は母材部に位置していた.さらに, PN / HT / FPB
られる.
材の母材強度は短時間熱処理により改善されたことから,同
3.5
疲労特性
Fig. 9 に,各材の SN 曲線を示す.Fig. 10 には,それら
の疲労強度近傍の繰返し応力水準で破断した試験片の破面を
まとめて示す.
以前の研究によれば6),窒化にともないチタン表面に化合
材の疲労強度は大幅に改善された.
3.6
プラズマ窒化温度の影響
Table 3 に,前報15)で得られた PN 材,PN/FPB 材および
PN/HT/FPB 材(プラズマ窒化温度 1023 K)の各特性値を,
本研究で調べた各材(プラズマ窒化温度 1123 K)の値ととも
物層が形成されると疲労強度が低下した.また,化合物層が
にまとめて示す.この表に示す数値は,AN 材の値でそれぞ
厚いほど疲労強度の低下は顕著であった.一方,本研究で調
れ基準化してある.なお,前報および本研究における FPB
べた PN 材の場合,3.1 節で説明したように X 線回折結果は
処理および短時間熱処理は基本的に同条件で施しており,相
化合物層の形成を示唆したが,同層の厚さは薄かった.その
違点はプラズマ窒化温度のみである.
ため,Fig. 9 から理解されるように,PN 材の疲労強度の低
下幅は比較的小さかった.
残念ながら,窒化温度を高めて硬化層を厚くしても, PN
材および PN/HT/FPB 材における耐摩耗性の改善程度は同
Fig. 10 に示すように, AN 材ではき裂は表面から発生し
じであった. PN / FPB 材の場合には,かえって耐摩耗性が
た後,内部へ向かって放射状に進展した.一方,PN 材では
悪化した.このことは,チタンの耐摩耗性が硬化層厚さだけ
き裂が表面近傍を優先的に進展した後,内部へ向かってい
でなく,組織的な影響を強く受けることを示唆した.
た.これらに対して, PN / FPB 材ではき裂は硬化層下で発
プラズマ窒化温度の上昇は,引張強度に顕著な影響を及ぼ
生した後,放射状に進展した様相が認められた.同材のき裂
さなかった.しかしながら,形成された厚い硬化層の割れに
発生起点には,a 粒程度の大きさを有する平面的なファセッ
起因して,延性値(断面収縮率)に著しい低下が生じた.一
トが認められた.
方,プラズマ窒化温度を上昇させた場合,疲労寿命および疲
PN / FPB 材における疲労破壊形態は,上記のような内部
労強度は改善されたものの, Ti 6Al 4V 合金の疲労特性が
起点型であった.このことは,硬化層の形成(Fig. 4),FPB
組織に敏感であるため20),PN/FPB 材および PN/HT/FPB
処理による化合物層の除去および高い圧縮残留応力( Table
材における疲労強度の改善率を低下させた.以上のように,
2 )の付与により,表面からのき裂発生が強く抑制されたこ
Ti6Al4V 合金では前報15)で用いたプラズマ窒化温度(1023
4
第
号
201
Ti
6Al
4V 合金の機能性および強度に及ぼす複合処理の効果
Fig. 10
Table 3
Features of fatigue fracture surfaces.
Comparison between the characteristic values normalized by those of each annealed material.
PN/FPB
PN
Temperature of
plasma nitriding
Wear resistance
Tensile strength
Reduction in area
Fatigue strength
PN/HT/FPB
1023 K
(previous study15))
1123 K
(present study)
1023 K
(previous study15))
1123 K
(present study)
1023 K
(previous study15))
1123 K
(present study)
◯
94
82
68
◯
97
45
97
◎
96
76
133
◯
99
43
103
◯
136
69
159
◯
131
13
135
Fatigue life was markedly improved.
K )の方が各種特性値の改善上,有効であることが明らかと
マ窒化を施すことにより,厚さ 200 mm の硬化層が形成され
相が形成
た.その後,短時間熱処理を施すと旧 b 相中に a ′
なった.
され,母材部の硬さは上昇した.同時に,プラズマ窒化と短
結
4.
言
時間熱処理の相乗効果により,硬化層の硬さが上昇した.




Ti 6Al 4V 合金に 1123 K , 14.4 ks の条件でプラズ
複合表面処理材および複合処理材では,最終処理であ
る FPB 処理により化合物層が除去された.両材の表面近傍
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日 本 金 属 学 会 誌(2015)
第
79
巻
の硬さは, FPB 処理にともない若干低下したが,表面には
高い圧縮残留応力が付与された.


プラズマ窒化,短時間熱処理および FPB 処理は Ti 
6Al4V 合金の耐食性に影響を及ぼさなかった.


プラズマ窒化材および複合表面処理材では,静的強度
が若干低下したが,その低下幅は小さかった.複合処理材で
は,短時間熱処理により静的強度は大幅に改善された.一
方,各処理材の延性値は比較的厚い硬化層に割れが生じたた
めに低下した.


複合表面処理材および複合処理材では,疲労寿命およ
び疲労強度が改善された.


献
プラズマ窒化材,複合表面処理材および複合処理材で
は,硬化層の形成にともない耐摩耗性が改善された.


文
本研究で得られた結果を前報で実施したプラズマ窒化
温度が低い材料群と比較した結果,窒化温度が低い方が各種
特性値の改善上,有効であることが明らかとなった.
独 科学技術振興機構 研究成果展開
本研究は,平成 25 年度
事業,研究成果最適展開支援プログラム ASTEP フィージ
ビリティスタディステージ(探索タイプ)の補助の下で実施さ
れた.関係各位に謝意を表します.
1) G. L äutjering and J. C. Williams: Titanium, (SpringerVerlag,
Berlin, 2003) p. 7.
2) E. Rolinski: Mater. Sci. Eng. A 108(1989) 3744.
3) T. Bell, P. H. Morton and A. Bloyce: Mater. Sci. Eng. A 184
(1994) 7386.
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