GCM による月降水量変動幅および日降水量強度の将来変化 京都大学防災研究所 ○道広有理・佐藤嘉展・鈴木靖 1. はじめに 地球温暖化の影響は,気候の平均的な変化にとどまらず,洪水や渇水の頻度や規模が変化すると考えられ ている.気候変動の定量的な影響評価には,世界各国の機関で開発された GCM(Global Climate Model, 全球気候モデル)が用いられているが,モデルにより実験結果が異なるため相互に比較することが不可欠で ある.本研究では,IPCC の第 4 次評価報告書に用いられた CMIP3 の 24 モデルと,気象研の超高解像度 大気モデル MRI-AGCM(3.1S および 3.2S の 2 モデル)の実験結果を解析し,日本国内における降水量特 性の将来変化について検証した. 2. 対象とした GCM と解析手法 2.1 収集したデータ 月降水量および日降水量について,表 1 に示すとおり収集した.気象庁のアメダス観測値は,GCM によ る現在気候の再現性を検証するために利用する.GCM の将来気候は A1B シナリオ(大気中の温室効果ガス 濃度が 21 世紀末頃に 20 世紀末の約 2 倍)による実験結果である. 2.2 地域一次メッシュ単位のデータ整理 表 1 に示したデータは,それぞれ解像度が異なるため,地図情報として標準的に用いられている地域一次 メッシュ(緯度差 40 分,経度差 1 度の約 80 km 四方)単位で整理する.CMIP3 の GCM は一次メッシュよ りも解像度が低いため,直近の 4 格子の値を平均して用いた.一次メッシュより解像度の高い MRI-AGCM およびアメダスは,一次メッシュ内に含まれる格子点あるいは観測点を全て平均した. 2.3 降水量特性の解析手法(月降水量変動幅および日降水量強度) 渇水の深刻化に直結する月降水量の変動幅について,現在および将来の各 20 年間について月降水量の標 準偏差を月別に求め,温暖化による影響を検討する.一方,洪水に関しては日降水量強度の増大に着目し, 月別に 20 年間の日降水量データの上位 2%(11~12 日間に相当)の日降水量強度の将来変化を調べる.い ずれについても一次メッシュ単位で整理したデータを用いて求めるが,渇水はある程度広域的な現象である ことから国内を 6 区域(気象庁の長期予報区分を参考にし,北日本,東日本,西日本をそれぞれ日本海側と 太平洋側に区分)に分割し,該当する一次メッシュごとの標準偏差を平均して区域の代表値とした.洪水に ついては現象のスケールは小さいため,国内の主要な都市に該当する一次メッシュを抽出して比較した. 表1 収集したデータ(月降水量および日降水量) 種 別 CMIP3 24 モデル(日降水量は 17 モデル) MRI-AGCM3.1S,3.2S アメダス観測値 水平格子間隔 約 125~444 km 現在気候 将来気候 2080~2099 年 ※CMIP3 の日降水量のみ 1980~1999 年 約 20 km 2081~2100 年 観測密度 20 km 前後 - 3. 解析結果 3.1 月降水量の変動幅 アメダス観測値による月降水量の標準偏差を真値とした場合,MRI-AGCM の再現性は CMIP3 の各 GCM よりも高く,3.1S よりも 3.2S の方がより良好であった.標準偏差の将来変化については,個々の GCM に よりばらつきがあるものの,CMIP3(24 モデル)および MRI-AGCM(2 モデル)のそれぞれの平均では, 全般的に拡大する傾向にあった.地域的もしくは季節的に顕著な特徴はみられない.図 1 に例として北日本 日本海側および西日本太平洋側における標準偏差の将来変化率を示す.どの区域でも CMIP3 と MRI-AGCM の平均は概ね同程度であり,標準偏差は年平均で 1~2 割程度増大している. 3.2 日降水量の強度 現在および将来気候の各 20 年間について,上位 2%の日降水量強度を比較すると,CMIP3 と MRI-AGCM で異なる傾向を示した.図 2 に例として札幌および大阪に該当する一次メッシュの日降水量強度の将来変化 率を示す.CMIP3 はモデルによりばらつきはあるものの,季節的には北海道では 1 月,その他では 7 月の 日降水量強度の増大が大きく,北に行くほど平均的な増大率が大きい傾向にあった.一方,MRI-AGCM で は強度変化率の月々の変動が大きく CMIP3(17 モデル)の予測幅を超えているケースもあることに加え, 3.1S と 3.2S の結果の差も非常に大きい結果となった. 4. おわりに 複数の GCM の結果から,月降水量の変動幅と日降水量の強度は将来的に増大傾向にあり,渇水や洪水が 深刻化する可能性が示唆された.月降水量の標準偏差の将来変化については,CMIP3 および MRI-AGCM の 結果が概ね一致している.一方,日降水量の強度については,MRI-AGCM の 2 モデルで結果が大きく異な り,予測の不確実性が非常に大きい.CMIP3 についても,日降水量強度を議論するにはモデルの解像度が 250% CMIP3_ave MRI‐AGCM3.1S MRI‐AGCM3.2S 200% 北日本日本海側 150% 100% 月降水量の標準偏差の変化 月降水量の標準偏差の変化 不十分である懸念がある.今後は他の評価手法の検討や,GCM など新たなデータ収集を行う予定である. 50% 250% CMIP3予測幅 150% 100% 50% Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 図1 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 月降水量の標準偏差の将来変化率(該当する一次メッシュにおける値を平均) 200% 札幌 150% 100% CMIP3平均 MRI‐AGCM3.1S MRI‐AGCM3.2S 50% Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 図2 日降水量上位2%の将来変化 日降水量上位2%の将来変化 200% 謝辞: 西日本太平洋側 200% 大阪 150% 100% 50% CMIP3予測幅 Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov Dec 日降水量上位 2%の降水強度の将来変化率(左:札幌,右:大阪,に該当する一次メッシュ) 本研究の一部は環境省地球環境研究総合推進費 S-5-2 および文部科学省 21 世紀気候変動予測革新 プログラムの支援により実施された. キーワード: 気候変動,GCM,降水量変動,降水強度,不確実性
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