Bertrand の仮説の証明 特に 16 以上の任意の整数 n に対するもの 風あざみ 2015/07/16 目次 1 記号の説明編 2 2 Bertrand の仮説とは 2 3 証明の準備編 3 4 証明の準備編 (とくに二項係数に関するもの) 5 5 素数の個数の上限編 7 6 関数の増減編 8 7 Bertrand の仮説の証明編 8 8 参考にしたサイト 10 1 1 記号の説明編 [x] を x を超えない最大の整数を意味する。 また整数 n と素数 p に対して、n が pl で割り切れ pl+1 で割り切れないとき l = vp (n) と書くことにする。 また、c < p ≤ d をみたす素数 p の積を以下のように書くことにする。 ∏ p c<p≤d log x は自然対数、e をその底とする。 π(n) を、n 以下の正の整数のうち、素数であるものの個数とする。 2 Bertrand の仮説とは Bertrand の仮説とは以下の命題である。 任意の正の整数 n に対して、n < p ≤ 2n をみたす素数 p が必ず存在する。 2 3 証明の準備編 命題1:x, y を実数とするとき、[x + y] − [x] − [y] = 0, 1 がいえる。 証明:[x + y] − [x] − [y] < (x + y) − (x − 1) − (y − 1) = 2 [x + y] − [x] − [y] > (x + y − 1) − x − y = −1 [x+y]−[x]−[y] は整数だから、[x+y]−[x]−[y] = 0, 1 となる。 □ 命題2:素数 p を任意にとる。 このとき、以下が言える。 vp (n!) = ∞ ∑ n [ i] p i=1 証明:1 以上 n 以下の整数で vp (m) = i となるものの個数 =(pi の倍数の個数-pi+1 の倍数の個数)・i より vp (n!) = ∞ ∑ ∑ n n n ] − [ i+1 ]) = [ i] i p p p i=1 ∞ i・([ i=1 □ 命題3:m を 20 以上の正の整数とすると、以下の不等式が成立する。 ( ) 2m + 1 < 4m−1 m 証明:m = 20 のとき ( ) 41 = 269128937220, 419 = 274877906944 より正しい。 20 m = c のとき、命題3が正しいと仮定する。 (2c+3) (2c+3)! (c+2)!·(c+1)! (2c+1)! (c+1)!·c! 2c + 3 2c + 2 2c + 3 · =2· より c+2 c+1 c+2 ( ) ( ) 2c + 1 2c + 3 c−1 2c + 3 2c + 3 · <2· · 4 がいえる。 =2· c+2 c c+2 c+1 2c + 3 1 ここで、 =2− < 2 がいえるから c+2 c+2 2c + 3 c−1 2· ·4 < 2 · 2 · 4c−1 = 4c c+2 したがって、m = c + 1 のときも、命題3が正しいことがいえた。 c+1 (2c+1 ) c = = したがって命題3が正しいことが言えた。 3 □ 命題4:m を 20 以上の正の整数、p を素数とすると、以下の不等式が成立 する。 ∏ p < 4m−1 m+1<p≤2m+1 証明:二項定理と整数の整除に関する基本性質を用いる。 ( ) 2m + 1 (2m + 1)! を m + 1 < p ≤ 2m + 1 をみたす素数 p は = m m!(m + 1)! ( ) 2m + 1 割り切るから、それらの積も を割り切る。よって m ( ) ∏ 2m + 1 p≤ がいえる。また命題3より m m+1<p≤2m+1 ( ) 2m + 1 < 4m−1 がいえるから、命題4がいえた。 □ m 命題5:n を 9 以上の正の整数、p を素数とする。以下の不等式が成立する。 ∏ p< 1<p≤n 4n 9n2 証明:数学的帰納法を用いる。 n = 9 のとき ∏ p = 210, 1<p≤9 49 = 359.59 · · · だから正しい。 729 k を 10 以上の整数とする。 ∏ 4n 9 ≤ n < k のとき、 p < 2 が成立すると仮定する。 9n 1<p≤n n = k のときを考える。 k が合成数のとき ∏ ∏ p= p< 1<p≤k 1<p≤k−1 4k 4k 4k−1 = < 9(k − 1)2 9(2k − 2)2 9k 2 k が 11 以上かつ 37 以下の素数のとき ∏ 411 = 3851.51 · · · k = 11 のとき p = 2310, 1089 1<p≤11 k = 13 のとき ∏ p = 30030, 1<p≤13 k = 17 のとき ∏ p = 510510, 1<p≤17 4 413 = 44121.54 · · · 1521 417 = 6605101.57 · · · 2601 k = 19 のとき ∏ p = 9699690, 1<p≤19 k = 23 のとき ∏ 419 = 84603849.47 · · · 3249 p = 223092870, 1<p≤23 k = 29 のとき ∏ p = 6469693230, 1<p≤29 k = 31 のとき ∏ 423 = 14780244523.76 · · · 4761 429 = 38080377348620.92 · · · 7569 p = 200560490130, 1<p≤31 k = 37 のとき ∏ p = 7420738134810, 1<p≤37 431 = 533204534446454.83 · · · 8649 437 = 1533111430198732315.13 · · · 12321 k が 41 以上の素数のとき 20 以上の整数 m を用いて k = 2m + 1 とかける。よって、命題4より ∏ ∏ ∏ 4m+1 p= p· p< · 4m−1 9(m + 1)2 1<p≤k 1<p≤m+1 m+1<p≤2m+1 m+1 4 42m+1 4k · 4m < = 2 2 2 9(2m + 2) 9(2m + 1) 9k k ∏ 4 p < 2 がいえる。 いずれにせよ、 9k = 1<p≤k したがって、任意の 9 以上の正の整数 n に対して、 ∏ p< 1<p≤n 4n が 9n2 証明された。 4 □ 証明の準備編 (とくに二項係数に関するもの) 命題6:n を 2 以上の正の整数とすると、以下の不等式が成立する。 ( ) 2n 4n > √ n 2 n 証明:n = 2 のとき ( ) √ 4 42 = 6, √ = 4 2 = 5.6568 · · · より正しい。 2 2 2 √ √ (また、 2 < 1.42 より、4 2 < 4 · 1.42 = 5.68 としてもよい。) n = c のとき、命題6が正しいと仮定する。 (2c+2) (2c+2)! 2c + 2 2c + 1 2c + 1 (c+1)!·(c+1)! (c+1 ) = = · =2· より 2c (2c)! c+1 c+1 c+1 c c!·c! 5 ( ( ) 2c + 1 2c 2c + 1 4c · >2· · √ がいえる。 c+1 c c+1 2 c 2c + 1 4c 2c + 1 4c · √ =2· √ となる。 また、2 · · √ c+1 2 c c(c + 1) 2 c + 1 2c + 2 c+1 ) =2· 2c + 1 2 4c(c + 1) + 1 2c + 1 (√ ) = > 4 より √ > 2 がいえるから c(c + 1) c(c + 1) c(c + 1) 2c + 1 4c 4c+1 4c 2· √ >2·2· √ = √ · √ 2 c+1 2 c+1 c(c + 1) 2 c + 1 したがって、n = c + 1 のときも、命題6が正しいことがいえた。 したがって命題6が正しいことが言えた。 □ 命題7:n を正の整数、p を素数とする。すると vp ( ( ) ∞ ∑ 2n 2n n )= ([ i ] − 2[ i ]) n p p i=1 証明:命題2より ( ) ∞ ∞ ∞ ∑ ∑ ∑ 2n 2n n 2n n vp ( )= [ i ]−2· [ i] = ([ i ] − 2[ i ]) n p p p p i=1 i=1 i=1 命題8:n を正の整数、p を素数とする。vp ( (2n) n □ ) = jp とおくと、pjp ≤ 2n が成り立つ。 n 証明:a = [logp 2n] とおく。i > a のとき、[ 2n pi ] = [ pi ] = 0 がいえる。 よって命題1と命題7より jp = ∞ a a ∑ ∑ ∑ 2n n 2n n ([ i ] − 2[ i ]) = ([ i ] − 2[ i ]) ≤ 1=a p p p p i=1 i=1 i=1 よって、pjp ≤ pa ≤ 2n がいえた。 以降、簡単のため、vp ( (2n) n □ ) = jp と書くことにする。 命題9:n を正の整数、p を素数とする。p > √ 2n となるとき、jp ≤ 1 が いえる。 n 証明:i ≥ 2 のとき、pi > 2n となるから、[ 2n pi ] = [ pi ] = 0 がいえる。 よって命題1と命題7より jp = ∞ ∑ n 2n n 2n ([ i ] − 2[ i ]) = [ ] − 2[ ] ≤ 1 p p p p i=1 6 □ 命題10:n を 3 以上の整数、p を素数とする。 2n 3 < p ≤ n となるとき、 jp = 0 がいえる。 証明:p ≤ n < jp = vp ( 5 4n 3 < 2p ≤ 2n < 3p だから、vp ((2n)!) = 2, vp (n!) = 1 より (2n)! ) = vp ((2n)!) − 2vp (n!) = 2 − 2 = 0 n!n! □ 素数の個数の上限編 命題11:任意の正の整数 n に対して、以下の不等式が成立する。 π(n) < n +2 3 証明:n ≥ 25 のとき、1, 25 および、2 以外の偶数や、3 以外の 3 の倍数は素 数ではないので、 n n n π(n) ≤ n − 1 − ([ ] − 1) − ([ ] − 1) + [ ] − 1 2 3 6 n n n n < n − 1 − ( − 2) − ( − 2) + − 1 = + 2 2 3 6 3 だから正しい。 1 ≤ n ≤ 4 のとき n π(n) ≤ 2 かつ、 + 2 > 2 だから正しい。 3 5 ≤ n ≤ 6 のとき n 5 11 π(n) = 3 かつ、 + 2 ≥ + 2 = > 3 だから正しい。 3 3 3 7 ≤ n ≤ 10 のとき n 7 13 π(n) = 4 かつ、 + 2 ≥ + 2 = > 4 だから正しい。 3 3 3 11 ≤ n ≤ 12 のとき 11 17 n +2= > 5 だから正しい。 π(n) = 5 かつ、 + 2 ≥ 3 3 3 13 ≤ n ≤ 16 のとき n 13 19 π(n) = 6 かつ、 + 2 ≥ +2= > 6 だから正しい。 3 3 3 17 ≤ n ≤ 18 のとき 17 23 n +2= > 7 だから正しい。 π(n) = 7 かつ、 + 2 ≥ 3 3 3 7 19 ≤ n ≤ 22 のとき n 19 25 +2= > 8 だから正しい。 π(n) = 8 かつ、 + 2 ≥ 3 3 3 23 ≤ n ≤ 24 のとき n 23 29 π(n) = 9 かつ、 + 2 ≥ +2= > 9 だから正しい。 3 3 3 よって命題11はいえた。 6 □ 関数の増減編 命題12:x ≥ e のとき下記の関数は単調減少である。 f1 (x) = log x x 証明:f1 (x) を x で微分すると f1′ (x) = 1 − log x x2 x > e のとき明らかに f1′ (x) < 0 である。このことは f1 (x) が x ≥ e のとき、 単調減少であることを示している。 □ 命題13:x ≥ 2 のとき下記の関数は単調増加である。 f2 (x) = 4x x2 証明:f2 (x) を x で微分すると f2′ (x) = 4x · x log 4 − 2 2 log 4 − 2 log e log 4 − log 3 ≥ 4x · > 2 · 4x · >0 x3 x3 x3 よって x ≥ 2 のとき f2′ (x) > 0 がいえる。このことは f2 (x) が x ≥ 2 のとき、 単調増加であることを示している。 7 □ Bertrand の仮説の証明編 定理14:n を 14 以上でかつ、ベルトランの仮説が成立しない正の整数と すると、以下の不等式が成立する。 24n+9 < (2n)2 √ 2n+3 証明:p を素数とすると、n < p ≤ 2n をみたす素数が存在しないことより ( ) ∏ ∏ ∏ 2n = pjp = pjp · pjp (1) n √ √ 1<p≤2n 1<p≤ 2n 8 2n<p≤n 命題8と命題11より ∏ √ 1<p≤ 2n pjp ≤ ∏ 2n ≤ (2n)π([ √ 1<p≤[ 2n] √ 2n]) < (2n) [ √ 2n] +2 3 ≤ (2n) √ 2n 3 +2 (2) 命題9と命題10より ∏ √ 1<p≤[ 2n] p· ∏ √ [ 2n]<p≤n pjp ≤ ∏ √ 1<p≤[ 2n] p· ∏ √ [ 2n]<p≤[ 2n 3 ] ∏ p= p (3) 1<p≤[ 2n 3 ] [ 2n 3 ] ≥ 9 だから、命題5と命題13より ∏ 2n 1<p≤[ 2n 3 ] 4n 4[ 3 ] 23 p< ≤ 2 2 (2n) 9([ 2n ]) 3 (4) √ ここで、[ 2n] ≥ 5 より ∏ √ 1<p≤[ 2n] p ≥ 2 · 3 · 5 = 30 > 22 = 4 (5) 式 (3) と式 (4) と式 (5) より 4n ∏ jp √ [ 2n]<p≤n p 2 3 (2n)2 22 < 2 3 −2 (2n)2 4n = (6) 式 (1) と式 (2) と式 (6) より ( ) 4n √ 2n 2n 2 3 −2 < (2n) 3 +2 · n (2n)2 (7) n ≥ 14 だから、命題6より 2n 2 ( ) 4n √ √ 3 −2 √ 2n 2n + 52 2 3 < 2 · (2n) =4 <2 n· · n (2n)2 = (2n) n √ 2n 1 3 +2 ·2 4n 3 3 −2 √ よって、212n < (2n)2 √ 以上より、24n+9 < (2n)2 2n+3 2n+3 · 28n−9 がいえる。 がいえた。 □ √ 定理14の n をとると、24n+9 < (2n)2 2n+3 がいえる。 √ 自然対数を取ると、(4n + 9) log 2 < 2 2n log 2n + 3 log 2n √ √ よって、4n log 2 < 4 2n log 2n + 3(log 2n − 3 log 2) がいえるから √ √ n 4n log 2 < 4 2n log 2n + 3 log がいえる。 4 9 √ log 2n 3 log n4 したがって、2 √ + > log 2 16 n4 2n がいえる。ところが n ≥ 16 のとき、上記の不等式は後述の定理15 に反する。このことは、n ≥ 16 のとき、ベルトランの仮説は正しい ことを意味している。 √ log 2n 3 log n4 ここで、g(n) を g(n) = 2 √ と定義すると、以下の + 16 n4 2n 定理15が言える。 定理15:n ≥ 16 のとき、g(n) < log 2 がいえる。 証明:命題12より、n ≥ 2 ここで、 e2 e2 2 かつ、n ≥ 4e のとき g(n) は単調減少である。 = 3.694 · · · かつ 4e = 10.873 · · · がいえる、したがって n ≥ 11 の とき、g(n) は単調減少であることがいえる。 √ √ log 32 3 log 4 5 2 3 g(16) = 2 √ + = log 2 + log 2 16 4 8 32 32 √ 20 2 + 3 20 · 1.42 + 3 31.4 = log 2 < log 2 = log 2 < log 2 32 32 32 だから、n ≥ 16 のとき、g(n) ≤ g(16) < log 2 であることがいえた。 □ 1 ≤ n ≤ 15 のときは、2, 3, 5, 7, 13, 23 をみれば、べルトランの仮説を確かめ ることができる。 8 参考にしたサイト http://www.geocities.jp/ikuro_kotaro/koramu/1428_s1.htm http://www.chart.co.jp/subject/sugaku/suken_tsushin/76/76-8.pdf 10
© Copyright 2024 ExpyDoc