咽頭―扁桃摘出術

小児耳 2011; 32(3): 276281
第6回
日本小児耳鼻咽喉科学会
シンポジウムⅡ
小児耳鼻咽喉科疾患に対する手術療法の選択
咽頭―扁桃摘出術
新 谷 朋 子1,2),氷 見 徹 夫1),宮崎総一郎3)
1) 札幌医科大学耳鼻咽喉科
2) とも耳鼻科クリニック
3) 滋賀医科大学睡眠学講座
アデノイド・扁桃摘出術は小児耳鼻咽喉科のなかではチューブ挿入術に次ぎ,多く行われ
ている手術である。反復性扁桃炎,睡眠時無呼吸症候群,IgA 腎症が手術適応である。
以前は反復性扁桃炎による手術例が多かったが抗菌薬の発達と免疫学的な機能を重視する
ようになり1970年以降は手術例が減っている。反復性扁桃炎では,1 年間に 8 回以上,2 年
間,年に 45 回の扁桃炎では手術が勧められる。睡眠時無呼吸症候群は無呼吸,いびきに加
えて夜尿や注意欠陥多動性障害様学業上の問題が注目されている。扁桃摘出術による睡眠時
無呼吸症候群の改善率は6680のため,手術後の非改善例や肥満例や合併疾患がある場合
は,終夜睡眠ポリグラフィで評価することが必要である。病巣性扁桃炎としての IgA 腎症に
対するステロイドパルス療法と扁桃摘出術を組みあわせたは小児でも有効であると報告がみ
られる。
術後の出血や疼痛の管理,扁桃の免疫機能,リスクを上回る効果を考慮して扁桃摘出術を
行うことが必要である。
キーワード扁桃摘出術,反復性扁桃炎,睡眠時無呼吸症候群
.
はじめに
アデノイド・口蓋扁桃摘出術は小児耳鼻咽喉
科の中でもっとも多く行われている手術であ
る。以前は反復性扁桃炎のため扁桃摘出術を受
けることが多かったが抗生剤の発達と,免疫学
的な機能の重要性が考えられて安易に摘出を行
うべきではないという傾向となり手術数は減っ
てきた。近年はアデノイド肥大,口蓋扁桃肥大
による睡眠時無呼吸症候群( sleep apnea syndrome : SAS )のために手術適応となる症例が
多くなっている。また,病巣性扁桃炎として
とも耳鼻科クリニック(〒0600061
( 276 )
IgA 腎症に対するステロイドパルスと扁桃摘出
術は腎症の寛解や長期腎生存率に有効で,小児
例でも寛解率が高いことが報告されている1)。
扁桃摘出術の問題点として術後の出血の危険
性や疼痛や扁桃の免疫系における働きを考慮し,
risk-beneˆt を十分勘案した上で行うべきであ
るとの慎重な意見も小児科医から聞かれる2)。
本稿では小児の扁桃摘出術の適応と周術期の問
題について述べる。
.
扁桃の機能と病態
扁桃が肥大する要因として感染や個々の免疫
札幌市中央区南 1 条西16丁目 1
246)
― 42 ―
小児耳 2011; 32(3)
咽頭―扁桃摘出術
表
小児扁桃摘出術のガイドライン2011年 American Academy of Otolaryngology-Head and Neck Surgery
(文献 3 より)
Strong Recommendation
1. 術中に 1 回 デキサメサゾンの静注を 1 回行う。(術後の嘔気,嘔吐,疼痛の軽減のために)
2.
周術期に抗生剤はルーチンに行わない
Recommendation
1. 経過観察年に 7 回未満,2 年間に 5 回未満,3 年間に 3 回未満ののどの炎症(throat infection)
(throat infection は溶連菌感染,急性扁桃炎,咽頭炎,アデノイド炎・扁桃炎,扁桃咽頭炎を含む)
2.
抗生剤アレルギーや耐性,周期熱,アフタ様咽頭炎,扁桃周囲膿瘍を伴う扁桃炎は上記以外でも対象となる。
3.
保護者に扁摘後に成長障害,学習障害,夜尿,行動面の問題が改善する可能性があることを伝える。
4.
保護者に扁桃肥大で SDB(睡眠時呼吸障害)のある小児は扁摘で改善することを伝える。
(SDB はいびき,無呼吸,口呼吸など睡眠中の呼吸の異常が特徴,日中の症状は過眠,注意不能,集中力不
足,多動と関連)
5.
保護者に扁摘後も症状が残存したり,再燃することもある,と説明する
6.
疼痛管理をおこなうこと(保護者にも評価してもらう)
。
7.
扁桃摘出術の術者は毎年,自分の術後出血の頻度を記録する。
Options
扁桃摘出術を勧めるのは
反復性のどの炎症年に 7 回以上,2 年間に 5 回以上,3 年間に 3 回以上で,診療記録で
以下の項目が 1 つ以上みられる38.3度以上の発熱,頸部リンパ節炎,扁桃膿栓,溶連菌感染
能や素因・遺伝,加齢,内分泌,環境,薬物な
どの影響がある。扁桃の機能は細菌,ウイルス
などにたいして感染防御機能を有する上気道免
疫機能の役割と炎症を契機とした肥大による閉
塞症状,習慣性扁桃炎や扁桃病巣感染症を引き
起こすというように免疫臓器と感染臓器の二面
性を有する。
扁桃陰窩には種々の連鎖球菌やインフルエン
ザ菌,肺炎球菌が常時存在し扁桃はいわゆる細
菌のリザーバであり感染の場となる。その一方
で様々な上気道感染症の起炎菌に対する粘膜免
疫応答をつかさどることによって上気道感染を
防御するとともに扁桃内の細菌の侵入を防ぎ扁
桃炎の発症も防いでいる。
このような均衡が失われると扁桃炎が発症
し,過剰な免疫応答によって扁桃肥大が起こ
り,自己抗体の産生によって IgA 腎症などの
病巣感染がもたらされるので病的状態が扁桃摘
出術の適応となる。
. 北米における扁桃摘出術のガイドライン
2011年 AAOHNS(American Academy of
Otolaryngology-Head and Neck Surgery)より
小児の扁桃摘出術のガイドラインが示された2)
(表 1)。北米では扁桃摘出術は,小児の耳鼻咽
喉科手術のなかで,チューブ挿入術に次いで多
く, 15 歳以下の小児で毎年 53 万件の扁桃摘出
術が行われている。このガイドラインは小児の
みに限られていることと,手術適応に睡眠時呼
吸障害( sleep disorder breathing : SDB )を加
えていることが特徴である。手術適応疾患は反
復性ののどの炎症(溶連菌感染,急性扁桃炎,
咽頭炎,アデノイド炎・扁桃炎,扁桃咽頭炎を
含む)と睡眠時の呼吸障害( SDB )を挙げ,
一般臨床医へ扁桃摘出術適応の理解,周術期の
マネジメント,扁摘を考えている両親への説明
(カウンセリングと教育),不適切・不必要なケ
アをなくすこと,つまり術後出血や痛みなどに
適切な対処をすることをこのガイドライン作成
の目的としている。
.
反復性扁桃炎
反復性扁桃炎では,急性炎症を繰り返して高
熱,咽頭痛や扁桃肥大による睡眠障害によっ
て,学校の欠席,家庭内の伝播,看病のため保
護者が仕事を休むなど社会的・経済的な影響が
ある。扁桃摘出術を行うと発熱の回数は激減す
るので有効な治療法である一方で, 2027は
自然寛解するといわれており,手術群と非手術
群を比較で 2 年目までは有意差があるが 3 年
― 43 ―
( 277 )
小児耳 2011; 32(3)
新谷朋子,他 2 名
目からは差は見られない3)ことから,どのくら
いの回数罹患した場合に保存的に抗菌剤の投与
か扁桃摘出術を行うかが問題となる。
AAO HNS のガイドラインでは,扁桃摘出
術の適応となるのは年に 7 回以上, 2 年間に 5
回以上,3 年間に 3 回以上ののどの炎症,ただ
し抗生剤アレルギーや薬剤耐性のある例,周期
熱,アフタ様咽頭炎,扁桃周囲膿瘍を伴う扁桃
炎は上記以外でも手術の対象とすることを勧め
ている。
本邦では,氷見らが行ったアンケート調査に
よると反復性扁桃炎の手術適応として,耳鼻科
医は年に 4 回,小児科医は年に 6 回以上と考
えていることが多い2)。 Fujihara は社会的,経
済的,影響を考慮した扁桃炎インデックス
( tonsillitis index : TI )( 1 年あたりの扁桃炎罹
患回数×扁桃炎罹患年数)が 8 以上を扁桃摘出
術の適応と妥当であるとしている4) 。前述の
AAO HNS のガイドラインにおける,年に 7
回以上, 2 年間に 5 回以上, 3 年間に 3 回以上
と比較し,ほぼ扁桃インデックス( TI )と同
じ程度の回数である。
.
睡眠時無呼吸症候群
SAS は い び き , 無 呼 吸 , 努 力 性 呼 吸 , 寝
汗,夜尿,頻回の中途覚醒,咳,が特徴で日中
の症状は成人と異なり明らかな日中傾眠は少な
いが, ADHD (注意欠陥多動性障害)様とさ
れる注意散漫,攻撃的行動,学業上の問題が注
目されている。また長期の努力呼吸,開口習慣
によって,アデノイド様顔貌,口呼吸,胸郭変
形をきたすので,成長過程にある小児では,成
人に比べて速やかな対応が必要になる。
SAS はアデノイド・扁桃肥大が主な原因で
ある。 AAO HNS のガイドラインで示されて
いる扁桃肥大の評価法(表 2 )ではグレード 3
+ , 4 +が多く,アデノイド切除術,扁桃摘出
術が小児 SAS 治療の第一選択である。
アデノイド切除術・扁桃摘出術切除術の
SAS の改善率は合併症のない小児の改善率は
systematic review, meta-analysis , 昨 年 北 米 6
施設,ヨーロッパ 2 施設の多施設の報告で改善
率 は 66 80  と , ほ と ん ど の 症 例 が 治 癒 す
る6,7) 。保護者には扁桃摘出術で成長障害,学
( 278 )
表
扁桃肥大の分類(文献 5 より)
グレード
0
扁桃は見えない(口蓋弓に達しない)
1+
扁桃は前口蓋弓間の口腔のスペースの 25
以下をしめる
2+
扁桃は口腔のスペースの 25 から 49 を
しめる
3+
扁桃は口腔のスペースの 50 から 74 を
しめる
4+
扁桃は口腔のスペースの 75 以上をしめ
る
習障害,夜尿,行動面の問題が改善することを
説明する一方,扁摘後も症状が残存,再燃する
可能性も伝える2)ことが必要である。改善しな
い症例については,多施設研究の 578 人(平均
6.9 ± 3.8 歳)の検討によると, 7 歳以上,肥満
例,非肥満例の重症 OSAS 症例,および気管
支 喘 息 例 は 改 善 率 が 低 い た め , 術 後 の PSG
(終夜睡眠ポリグラフィ)による評価を勧めて
いる7)。
我々の 144 名の検討の年齢別の手術症例で全
体的な改善率は78であるが,7 歳以上になる
と改善率は低い8) 。その要因として SAS の経
過が長いと,長期の上気道狭窄による顔面形態
の異常,肥満の影響で気道が十分拡大しないこ
とが考えられる。CPAP(持続気道陽圧呼吸療
法)が治療の主体となる成人の SAS へとつな
がることを予防する点からも小児では 6 歳まで
の手術が勧められる。
本邦でも肥満の小児は増加傾向である。 9 
11 歳が顕著で,昭和 51 55 年は男児の 8.4 が
肥 満 で あ っ た の に 対 し て , 平 成 8 12 年 で は
15.0 と増加している。小児期の肥満は思春
期・成人の肥満に移行しやすいので生活習慣の
見直し,予防が必要となる。
肥満例でも治療の第一選択はアデノイド・扁
桃 摘 出 術 だ が , 改 善 率 は 40  程 度 と 低 い た
め,非改善例は CPAP を使用する。術前から
使用することにより術後の呼吸器合併症が予防
できる8)。
SAS 診断のゴールドスタンダードは PSG で
あるが,検査コストや施設不足,小児の検査ス
トレスなどのために普及していない。 AAO 
HNS のガイドラインで PSG の施行が勧められ
― 44 ―
小児耳 2011; 32(3)
咽頭―扁桃摘出術
表
OSA18
小児睡眠呼吸障害アンケート1)
記入日
年
歳
年齢
年
小学
月
・
日
カ月
幼稚園
・
保育園
・どこにも通っていない
1 から 7 の数字で答えてください。
(1 なかった,2 ほとんどなかった,3 ときどきあった,4 よくあった,5 結構あった,6 大分あった,7 いつもあ
った)
あなたのお子様は過去 4 週間の間にどのくらい・・・
大きないびきをかいていましたか
夜中に息をこらえたり,息が止まったりしていましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
寝ている間にのどに物を詰まらせたような音をさせたり,あえいだりしていましたか (1・2・3・4・5・6・7)
頻繁に寝返りを打ったり,たびたび夜中に目を覚ましたりしていましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
鼻が詰まるせいで口をあけて息をしていましたか
鼻水が出ていましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
食べ物が飲み込みづらそうでしたか
(1・2・3・4・5・6・7)
感情的に不安定でしたか
攻撃的であったり,はしゃぎすぎたりしていましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
反抗的でしたか
(1・2・3・4・5・6・7)
昼間にひどく眠たそうでしたか
集中力に欠けたり,集中できる時間が短かったりしましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
朝起きる時にぐずったりしましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
たびたび風邪をひいたりしましたか
過去 4 週間の間に,以上のようなお子様の症状により・・・
お子様の健康状態に不安を抱きましたか
お子様が十分に息を吸えていないのではないかと思われましたか
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
(1・2・3・4・5・6・7)
あなたの日常生活に支障をきたしましたか
あなたをイライラさせましたか
るのは,肥満やダウン症,顎顔面形態異常,神
経筋疾患,ムコ多糖症など合併症のある例で,
3 歳以下,重症な SAS(AHI〔無呼吸低呼吸指
数〕が 10 以上,最低酸素飽和度が 80 以下)
では術後も症状が改善しない症例があるため,
麻酔科医にも情報を伝え,周術期と術後の注意
深いケアが必要である3)。
簡易検査では簡易モニターやパルスオキシ
メーターを行うが,その信頼性は感度が低いた
めビデオ記録,いびき音録音,などを併用,パ
ルスオキシメーターでは最低酸素飽和度が 90
以上であれば小児 SAS は否定できる11)。
問診として OSA 18 が使用されている(表
3 )。これはイギリスなど PSG が普及していな
い地域で用いられており,保護者による評価で
特に QOL を反映しているので有用である11)。
我々の施設でアデノイド,扁桃摘出術を行った
30 例の結果でも, AHI が 5 以下の軽症例でも
保護者の不安は強く,手術後の改善が見られて
いたので,保護者とのコミュニケーションをと
る際参考になる。
小児 SAS の手術適応案として我々は AHI>
 以下の症
5 ,または 5 > AHI > 1 の場合は ◯
状を伴う吸気中に胸郭が内方へむかう異常な
― 45 ―
( 279 )
小児耳 2011; 32(3)
新谷朋子,他 2 名
行動,体動覚醒,発汗,睡眠中の首の過伸展,
日中の過度眠気,多動,または攻撃的な行動,

成長の遅延,朝の頭痛,続発性の夜尿症 ◯
OSA
18 60点以上を適応として考えている6)。
.
手術手技と術後の注意点
手術方法は,従来の剥離子などのコールドナ
イフを使用し結紮を行う方法と電気メスの併
用,コブレーション,ハーモニックスカルペル
や電気メスのみを用いるホットナイフなど施設
によって様々な方法が行われている。米国小児
耳鼻科医の扁桃摘出術の方法はモノポーラ電気
メ ス単 独 が過半 数 を占 めて いる 。 systematic
review でコールドナイフ+結紮法とホットナ
イフによる手術法を比較したところ後出血や疼
痛に差がない3)。
後出血は術後早期 primary bleeding(24時間
以内)は 0.2 2 にみられ,手術手技も影響す
る。術後 5 10 日でみられる後出血 secondary
bleeding は 0.1 3  で , 出 血 の リ ス ク は , 男
児,年齢,扁桃周囲膿瘍の既往があると高くな
る。
咽頭痛があると嚥下回数が減るため創部に厚
い白苔がついて脱落時に出血がみられる。脱水
を予防するためにも術後は注意深く観察して保
護者に痛みの程度をきくようにあらかじめ説明
し,NSAIDs(nonsteroidal anti-in‰ammatory
drugs)を数日処方する,
AAO HNS の ガ イ ド ラ イ ン で は 術 後 の 嘔
気,嘔吐,疼痛の軽減を目的として術中に 1 回
デキサメサゾンの静注を行うこと,エビデンス
がないため周術期に抗生剤はルーチンに行わな
いこと,術者のスキルアップのために,術者は
毎年,自分の術後出血の頻度を記録することを
勧めている3)。
扁桃摘出術では特に年少児への免疫への影響
が懸念されるが,扁桃炎では,本来の局所免疫
や上気道の分泌型免疫系が機能しないので扁桃
摘出術は有効と考えられている3)。血液や組織
の免疫グロブリンの低下が報告されているが,
扁桃摘出術は全身の免疫システムに臨床的な影
響を及ぼしていない。一時的に免疫グロブリン
の低下はみられても有意差はなく,2 歳未満の
症例でも長期的に脱落症状は経験されない12)。
( 280 )
工藤は乳幼児の SAS は重症化しやすく,反
復する上気道炎,反復する,肺炎,不明微熱が
続く,反復する扁桃炎・溶連菌感染症,陥没呼
吸,哺乳障害体重増加不良,肺高血圧,右心
不全。乳幼児でも扁摘効果はあるが,未手術例
でも自然寛解例があり,未発見の先天性疾患が
術後に判明,アレルギー性疾患の憎悪がありえ
るので慎重に検討することが必要であると述べ
ている12)。
2 歳以下の小児の扁桃摘出術では術後呼吸器
合併症をきたしやすく,術出血がおこりやすい。
扁桃が柔らかく視野が狭いので,ある程度の経
験を積んだ術者が手術をすべきで,気道が狭い
ので,術後 ICU 管理を考慮する。
米国麻酔科学会におけるアデノイド・扁桃摘
出術の周術期の管理として術後に SAS が残存
することが考えられる先天性疾患,顎顔面形態
異常,肥満,下気道疾患などを有する場合は術
前に PSG を行うことが望ましいため,専門の
医療機関で手術を行こと,術前から, PAP 管
理などが望ましく,術後は小児科,麻酔科と連
携すること,手術時間を短く,手術侵襲を少な
くすること,および手術創の炎症や浮腫を抑制
するためにステロイドの全身・局所投与を推奨
している14)。
. IgA
腎 症
IgA 腎症は小児でも成人でも最も頻度の高い
慢性腎臓病である。その多くが学校検尿,職場
検診などで無症候性血尿,蛋白尿で発見され予
後は良好であると考えられていたが,無治療で
2040が進行性に経過して透析が導入される
など重症の腎障害をきたすことがわかってき
た。成人では年単位での長期観察で IgA 腎症
扁摘群では非扁摘群に比較して腎生存率,寛解
率は有意に高率であり,Hotta は扁桃摘出術と
ステロイドパレス治療の併用療法をより早い時
期に行うことが有効であると述べている1)。小
児でも有効性が報告されており,今後手術療法
も検討されることと思われる15)。
ま
と
め
扁桃摘出術の適応として,反復性扁桃炎,
SAS,IgA 腎症があげられる。
― 46 ―
小児耳 2011; 32(3)
咽頭―扁桃摘出術
反復性扁桃炎の手術適応として, 1 年間に 8
回以上,2 年間,年に 45 回の扁桃炎の既応例
では手術が勧められる。
SAS は い び き , 無 呼 吸 に 加 え て 夜 尿 や
ADHD 様の行動異常,顎顔面形態の異常など
長期的な影響が考えられるので,速やかな手術
が必要である。
病巣性扁桃炎としての IgA 腎症に対するス
テロイドパルスと扁桃摘出術は小児でも有効で
ある。
術後の出血や疼痛の管理,扁桃の免疫機能,
リスクを上回る効果を考慮して扁桃摘出術を行
う。
文
献
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218(1)1116.
別刷請求先
〒 060 0061
246
札幌市中央区南 1 条西 16 丁目 1 
ANNEX レーベンビル
とも耳鼻科クリニック
2F
新谷朋子
Surgery for the tratment of choice in pediatric otorhinolaryngology.
Selection of surgical procedure for pediatric otolaryngology
―Tonsillectomy―
Tomoko Shintani1,2), Tetsuo Himi1), Soichiro Miyazaki3)
1) Dept. of Sleep Medicine, Sapporo Medical University
2) Tomo ENT Clinic
3) Dept. of Sleep Medicine, Shiga University of Medicine
Key words: tonsillectomy, recurrent tonsillitis, sleep apnea
― 47 ―
( 281 )