電子線ホログラフィーを用いた界面領域の磁性の研究

日本金属学会誌 第 79 巻 第 5 号(2015)233242
オーバービュー(解説論文)
電子線ホログラフィーを用いた界面領域の磁性の研究
村 上 恭 和
東北大学多元物質科学研究所
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 5 (2015), pp. 233
242
 2015 The Japan Institute of Metals and Materials
OVERVIEW
Magnetism of Interface Regions Studied by Electron Holography
Yasukazu Murakami
Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials, Tohoku University, Sendai 9808577
This overview article reports on the electron holography studies about the magnetism of interface regions in metallic alloys.
Recent progress of electron holography enabled pinpoint analysis of the magnetic flux density from nanometerscale interface
regions; e.g., antiphase boundaries (APBs) produced in ordered alloys, and the amorphous grainboundary phase in sintered magnets. The observations have demonstrated magnetism that is amplified by structural disorder within APBs produced in Fe70Al30,
which appears in contrast to the traditional understating. With respect to the ultrathin grainboundary phase in a NdFeB magnet, the electron holography study determined the magnetic flux density at 1.0 T (±0.1 T). The result provided useful information for deeper understanding of the coercivity mechanism in the NdFeB sintered magnet. [doi:10.2320/jinstmet.J2015001]
(Received January 6, 2015; Accepted February 23, 2015; Published May 1, 2015)
Keywords: electron microscopy, electron holography, magnetic domain, interface magnetism, ordered alloy, permanent magnet,
antiphase boundary, grain boundary
ごく一般的に観察される“天然の界面”について,その磁気
1.
は じ
め に
的性質に言及する. APB 自体の観察には,透過電子顕微鏡
法(TEM )による回折コントラストの利用が不可欠で,この
界面領域の磁気的な特異性・異常は,材料工学だけでなく
点,TEM ベースの手法である電子線ホログラフィーがある
物性物理,無機化学,スピントロニクスなど多くの分野で注
意味で独壇場となる.一方,焼結体の粒界相(粒界位置に生
目を集めている重要課題である.例えば過去数年の間に発表
じる薄いアモルファス相)の解析については,後述する Nd
された論文に限っても,絶縁体同士が接触する界面で誘発さ
FeB 磁石のように強い漏洩磁場が存在する環境では,電子
れる強磁性や超伝導の観測13),界面領域で起こる反強磁性
線ホログラフィーによる局所領域の磁束密度解析は決して容
スピンのねじれに関する精密な解析4)など,多くの興味深い
易でない.しかし,観察する結晶粒の方位の厳選,電子の分
報告がなされている.金属材料の分野でも,後述する Nd 
離照射13) など新しい技術の活用と位相検出感度の向上,さ
FeB 焼結磁石の粒界相の磁性と保磁力機構の問題5,6)など,
らには複雑な三次元磁場分布を考慮した電子位相変化の計算
界面磁性がからむ複数の課題が注目を集めている.
など,実験・解析の工夫や技術の進展によって粒界相の精緻
界面領域の磁性を研究する手段としては, X 線磁気円二
な解析を行える段階に至った.以下,手法としての電子線ホ
色性分光(XMCD)7,8),スピン偏極走査電子顕微鏡法(スピン
ログラフィーの説明を第 2 節で行った上で,続く第 3 節,
SEM )9) ,電子線ホログラフィー10) ,走査 SQUID 顕微鏡法
第 4 節で上記の研究トピックスに言及する.
(SQUID は superconducting quantum interference device の
略)1) ,偏極中性子の利用11) ,接触抵抗の測定に基づく方
法12) な どいくつ かの選択 肢がある .それぞ れの手法 が長
2.
電子線ホログラフィーを用いた磁束密度解析の概
要
所・短所を有しているが,注目する領域を数 nm オーダーの
分解能でピンポイント観測するためには,やはり電子レンズ
次節以降で述べる研究トピックスに先立ち,局所領域の磁
の機能を活用できるスピン SEM や電子線ホログラフィーが
束密度解析のツールとなる電子線ホログラフィー1416) につ
有効となる.このうち本稿では,電子線ホログラフィーを用
いて説明する. Fig. 1 ( a )の電子光線図(電子線ホログラフ
いた最近の研究事例を紹介しながら,逆位相境界
ィーの実験の模式図)が示すとおり,薄片化した試料を電子
(Antiphase Boundary: APB)や結晶粒界など,金属材料では
が透過するという出来事を考える.この試料を透過した電
子,すなわち物体波の状態は次式で記述される.
現在九州大学(Present address: Kyushu University)
q(r )=a(r )exp(iq(r ))
(1)
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内部ポテンシャルによる位相変化は,試料の厚さが急激に変
化する場合は特に顕著で,しばしば第二項の磁場由来の成分
の解析を妨げる.
それでは磁場情報を正確に求めるにはどうしたらよいであ
ろうか
方法はいくつかある.例えばキュリー温度以上で
ホログラムを得れば,そこには温度依存性のない平均内部ポ
テンシャル由来の位相情報のみが含まれる17,18).低温側(強
磁性状態)で得た位相データとの差し引きにより,不要な内
部ポテンシャル成分を除くことができる.その他に,電子の
入射方向を 180 度反転させた上で同じ試料から一対のホロ
グラムを取得し,その位相情報を解析する手法も有効であ
る19,20).電子の入射方向の反転は,スカラーポテンシャルが
関わる式( 2 )第一項の負号を変えることはない.しかし,
ベクトルポテンシャルが関わる式( 2 )第二項には負号変化
Fig. 1 Principle of electron holography. (a) Geometric configuration for forming an electron hologram. (b)(d) Analytical
process to extract phase information.
を与える.この性質を利用して必要とする磁場由来の位相変
化,あるいは電場由来の位相変化のみを抽出することができ
る.また,集束イオンビーム(FIB: Focused Ion Beam)を用
いて均一な厚さの試料を調製できれば,式( 2 )の右辺第一
a(r )と q(r )は,それぞれ,試料の存在によって生じた振幅
項の積分形態から自明なとおり,xy 面内の 2 点間では平均
と位相の変化を表す. r は電子線に垂直な平面内( x y 平面
内部ポテンシャルに起因する相対的な位相変化を無視できる
内)の座標を示す.後述するとおり,物体波の位相を変化さ
ため,磁場成分の解析には好都合となる.
せる原因は試料の電磁場である.つまり q( r )を実験で求め
電子線ホログラフィーの分解能と感度についても簡単に述
れば,注目する試料の磁場や電場の分布を明らかにすること
べておきたい.まず空間分解能は,電子線ホログラムにおけ
ができる.実験では,バイプリズムという装置が作る静電場
る干渉縞の間隔に依存する15,16).上述のとおり,位相情報の
を利用して,上記の物体波を,位相変化を受けていない参照
抽出過程でフーリエ変換図形にマスクを施す関係で,分解能
となる電子(参照波)と干渉させる.その干渉パターンである
の目安は干渉縞ピッチの 3 倍程度となる.狭い界面領域の
「電子線ホログラム」には, Fig. 1 ( b )に例示するように,
磁性を問題とする場合は,フリンジピッチを細かく設定する
q ( r )の情報が干渉縞の変調という形で記録される.このよ
ことが有効で,例えば後述する Fig. 4 下段に示す Fe70Al30
うな周期変調の解析にはフーリエ変換の技術が有効である.
合金の APB の観察では,0.8 nm ピッチの干渉縞を利用して
具体的には Fig. 1 ( b )~( d )が示すとおり,ディジタル画像
位相変化を解析した21) .一方,磁場検出の感度は,電子の
化したホログラムに対してフーリエ変換を施した後,基準と
位相変化をどれだけ精度よく計測できるかに依存する.その
なる周波数からのズレ具合を解析するためのマスキングと,
ためには電子線ホログラムの鮮明度を向上させる必要があ
位相変化を実空間で表示するためフーリエ逆変換を行う.こ
る.ホログラムの鮮明度を本質的に向上させるには,最近
の作業を通して,注目する視野に対する位相再生像を取得で
Tanigaki ら13) が考 案した 分離照射 という 技術を 使って ,
きる.Fig. 1(d)の位相再生像では,抽出した位相変化を cos
ビームの照射範囲と輝度を適切に調整することが有効であ
q(r )という形で表示しており,等高線の間隔は位相変化 2 p
る10,21) . 後 述 す る 実 験 で は , い ず れ も 位 相 分 解 能 と し て
の分量に相当する.仮に電場による位相変化を無視できる場
0.01 rad のオーダーを達成している.また,再生した位相
合,位相再生像の等高線は磁束線( x y 面に投映した磁束成
データのノイズを低減するために,同一視野から取得した複
分の分布)を表す.また等高線の間隔と試料厚さを基に,注
数のデータを加算・平均化処理することも効果的である.
目する領域の磁束密度を決定することができる15,16).
一般的には,電子線ホログラフィーで求められる位相変化
は,次式が表すとおり,電場由来の位相成分(右辺第一項)と
磁場由来の位相成分(右辺第二項)の足し合わせの形となって
いる14,15).
3.
3.1
Fe
Al 合金の逆位相境界における強磁性の増強
研究の背景
逆位相境界( APB )は規則合金に導入される面欠陥の一
f
q(r )=s
f(x, y, z )dz-
2 pe
h
g
A(x, y, z )ds
(2)
種である. B2 型の規則合金を例に, APB の構造的特徴を
Fig. 2(a)に示す.A2 型の不規則状態では見られない超格子
ここで s は相互作用定数,f(x, y, z )は電位(スカラーポテン
(規則的な原子配列)の幾何学的位相が, APB を境にして半
シャル), e は素電荷, h はプランク定数, A ( x, y, z )は磁束
周期ズレれている.このような APB は特異な材料機能を誘
B ( x, y, z )のベクトルポテンシャルを表す.電子線照射によ
発する実体として,エンジニアリングとしても重要視されて
る帯電現象を無視できる金属系試料の場合,実質的に f ( x,
いる.例えば FeAl 合金や FeGa 合金の変形では,超部分
y, z )は結晶の平均内部ポテンシャルに相当する.右辺第一項
転位の移動によって拡張した APB のエネルギーが,試料の
の z 方向(入射電子の方向)に沿った積分が表すとおり,平均
形状回復を促す駆動力となり,マルテンサイト変態を伴うこ
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強するという例外的なケースがある.その一つが B2 型の
Fe Al 合金である.この合金では, A2 型に不規則化する
と,強磁性の発現に寄与する Fe Fe 第一近接原子対の割合
が高まるため,観測される磁化の値が顕著に増加す
る3337) .この不規則化による磁化の増大は,加工誘起の不
規則化を施した試料の磁化測定38,39),メスバウアー分光40),
第一原理等の計算33,35) など種々の方法で実証されている.
(その他にも,不規則化に伴う局所的な原子間距離の変化に
よって Fe の部分状態密度が変化することも一因という報告
がある35,40) ).このような関係を考えると, Fe Al 合金の熱
処理過程で生じた APB は局所的に磁化を「強める」,つま
り従来の認識とは異なるタイプの APB が生じるということ
が予想される.そのような APB の存在を実証することは,
スピン偏極率の低減をはじめ,格子欠陥としての避けられな
い性質と向き合ってきた従来のエンジニアリングに対して,
Fig. 2 Antiphase boundaries (APBs) observed in Fe70Al30.
(a) Schematic representation about the structure of thermally
induced APBs. (b) TEM image (brightfield image) revealing
the locations of APBs. (c), (d) Electron diffraction patterns observed in the electron incidence [001] and [011], respectively.
Reprinted with permission from ref. 21).
新たな知見を与える契機にもなる.こういった点も意識しな
がら,以下に,B2 型の Fe70Al30 合金の熱処理過程で生じた
APB の構造と磁性を電子顕微鏡で調べた結果を紹介する21).
3.2
電子線ホログラフィーを用いた FeAl 合金の解析
Fig. 2(b)~(d)に,1473 K, 12 h の熱処理後に氷水焼き入
となく擬弾性が実現する22,23).磁気的な特性については,規
れした Fe70Al30 合金の TEM 像と電子回折図形を示す.Fig.
則合金に生じる APB は磁壁移動に対するピン止めサイトと
2(c)では B2 型構造の凍結を表す 100 超格子反射が明確に観
なり得るため2427) ,磁石材料にとっても重要な研究要素と
察され, TEM 像では典型的な APB のコントラストを確認
言える.合金に限らず,Fe3O4 のような遷移金属酸化物でも
できる.なお化学量論組成からズレた本合金では, Fig. 2
APB による磁壁のピン止めが観察される28).一方,スピン
(d)に示すとおり 100 超格子反射の他にも,D03 型の構造を
トロニクス等の応用分野では APB が厄介な問題を招く場合
示す微弱な反射が観察された.しかし後者は散漫散乱のレベ
もある.例えば一部のホイスラー合金では,格子欠陥である
ルであり,D03 型構造は僅かに短範囲秩序として存在するも
がスピン偏極率を損なう原因となってくる29) .しか
のと判断される.この点も考慮し,本研究では B2/A2 型の
し,ホイスラー系も含め,規則合金から APB を完全に取り
規則不規則変態に伴う APB (Fig. 2(b)に示す APB)に的を
除くことは難しく,結局のところ APB をうまく使いこなす
絞った.
APB
ことが得策となる.このように APB は良くも悪くも材料工
学の重要な研究対象である.
以下,本節では合金の熱処理過程で生じた APB の磁気的
薄片化した試料の投映図である TEM 像では, APB の面
が入射電子線に対して大きく傾いた場合, APB コントラス
トは幅拡の状態となる.一方, APB 面と入射電子線が概ね
性質に的を絞って議論を進める.上述のとおり, APB に関
平行な部分では,例えば Fig. 2(b)の枠線で示すように APB
わる典型的な機能の一つは磁壁のピン止め効果である.この
コントラストは狭まり,熱的に生じた APB が示す元々の幅
ピン止め効果を理解するため,以下の二点に言及する.一つ
を大まかに検証することが可能となる.この枠線部分を
は,熱処理過程で生じた APB には若干の厚さ(幅)があると
HAADFSTEM(Highangle annular darkfield scanning
いう点である27,3032).合金の規則不規則変態を記述する際
transmission electron microscopy)で観察した結果を Fig. 3
の主要な秩序変数は,異種原子の配列に関わる規則度であ
(a)に示す.ここでは B2 型格子を[001]方向から観察してい
る.規則度の揺らぎを考慮した自由エネルギーを考えると,
る . 像 強 度 が 原 子 番 号 の 2 乗 に 概 ね 比 例 す る HAADF 
APB の部分で第一近接の環境が急激に変化するよりは,た
STEM 像では,強い輝点は Fe が占有するコラム(B2 型格子
とえ有限の幅を費やすことになっても規則度のなだらかな変
の Fe サイト),弱い輝点は Fe と Al が混在するコラム( B2
化を実現する状況が好ましく,その結果 APB に若干の幅が
型格子の Fe/Al サイト)を表す.同図の X1Y1 線に対して測
生じる幅の見積もりは後で述べる.もう一つは磁性と原子
定した強度プロファイルを Fig. 3 ( b )に示す.規則化した
配列の関係である.多くの合金では,原子配列の不規則化は
matrix 領域(matrix 1 と matrix 2)では,Fe サイトと Fe/Al
強磁性秩序の抑制,結果的には自発磁化の減少を招く.つま
サイトが交互に配列している様子が一目瞭然である.一方,
り,局所的に原子配列の規則度が低下した APB 領域では,
これら二つの matrix に挟まれた APB の部分では,原子配
十分に規則化された matrix 領域に比べて強磁性秩序が弱ま
列の不規則化を反映して,上述した二種類のサイトの識別が
る.その結果,磁壁のエネルギー密度は APB の位置で極小
難しくなっている.このピーク強度の変調が観測される領域
となり,磁壁に対する強固なピン止め効果が発現する2428).
の拡がり具合は,その端部を決定する曖昧さを考慮すると,
一方,上記の性質とは異なり,合金の不規則化が磁化を増
概ね 2~3 nm となる.加えて,観察した APB が入射電子線
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に対してどれだけ平行かという不確かさも抱えてはいるもの
温度以下の状態にある Fig. 4( a)~(d )では, APB の位置を
の,熱的に生じた APB の幅の上限値として 2~3 nm という
なぞるようにしてコントラストの変調が確認される.この結
値を評価できる.
果は, APB 領域で起こる何らかの磁性の変化を,ローレン
続いて APB が示す磁気的な特異性を TEM の立場から調
ツ力による電子線偏向の乱れとして捉えたものである.しか
べた結果を示す.まず Fig. 4 の上段には, Fig. 2(b )と同一
し,このコントラストを見る限りはどのような磁性の変化が
視野を, 293~ 703 K の温度域にわたってローレンツ顕微鏡
生じているか,つまり APB 領域で磁化が強くなっている
法(ディフォーカス法)16) で観察した結果を示す.キュリー
か,弱くなっているかを直ちに識別することは難しい.
一方,Fig. 4 の下段には同視野を電子線ホログラフィーで
観察した結果を示す.式( 2 )の右辺第一項が示す平均内部
ポテンシャルの効果は,キュリー温度の上下で取得した位相
情報の演算を通して除去しており,Fig. 4 下段のデータは磁
場情報のみを反映している.ここでは,各温度の試料におけ
る磁束の面内成分を電子線ホログラフィーで決定し,その磁
束の方向と強さ(磁束密度)を挿入したカラーホイールに従っ
た色調で表している.例えば Fig. 4( f )の状態では,試料は
概ねカラーホイールの緑色が表す方向(紙面の下向き)に磁化
されている.APB と matrix における磁束密度の違いを検証
するために,加熱に伴う磁束密度マップの変化に注目してみ
たい. 293 K では背景色を与える matrix の磁化が比較的強
く, Fig. 4 ( f )のカラー表示では APB と matrix の識別が難
しい状況にある.加熱を進めると matrix の磁化が弱まるた
Fig. 3 Atomic disorder observed in the APB region. (a)
Highangle annular darkfield scanning transmission electron
microscopy (HAADFSTEM) image, observed in the electron
incidence [001]. (b) Intensity profile observed for the X1Y1
line shown in (a). Reprinted with permission from ref. 21).
め,その領域は次第に暗くなる.一方, APB 領域は実効的
な キ ュ リ ー 温 度 が matrix 領 域 に 比 べ て 高 い た め に , 573
K,あるいは 613 K といった高温でもはっきりと認識できる
色が残っている.特に 613 K では, matrix 領域では強磁性
Fig. 4 Magnetic imaging of APBs. (a)(e) Change in the Lorentz microscopy images upon heating. The view field is identical to
that shown in Fig. 2 (b). (f)(j) Mapping of the phase gradient revealed by electron holography. The results were collected from the
same area as that shown in Figs. 4(a)(e), at 293 K, 513 K, 573 K, 613 K, and 703 K. FM and PM represent ferromagnetic and
paramagnetic, respectively. Reprinted with permission from ref. 21).
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が消えかかっている一方, APB 領域ではなおも残存してい
B 磁石の解析では二次関数を利用した10).)その傾きを解析
る状態にある.試料を 703 K まで加熱すると APB 領域でも
することで,matrix の磁束密度を Fig. 5(d)の黒点のように
決定した.例えば 293 K では 0.56 T という結果で,その値
磁性は消失し,試料全域が暗い状況となっている.
APB 領域で増強される強磁性の様子を,もう少し定量的
はバルク試料の磁化測定から予測される数値(約 0.5 T)41)と
に評価してみたい. Fig. 5 ( e )に,入射電子線とほぼ平行な
概ね一致している.一方, matrix 1 領域の外挿線と, APB
APB を含む TEM 像を示す.この APB を横切る X3 Y3 線
領域の終端で観測される位相とのズレ Dq をもとに,狭い
に対して電子の位相変化曲線を求めた結果を Fig. 5(a)~(c)
APB 領域の磁束密度を算出したところ, 293 K では 0.92 T
に示す.平均内部ポテンシャルの影響を無視できる状況であ
という値となり, matrix に比べて 1.6 倍も磁束密度が増加
れ ば,式( 2 )を書き 換えることで ,観測される 位相変化
することが判明した. Fig. 5 ( d )の白抜きプロットが示すと
q ( x )と面内磁束密度 By ( x )の関係を以下のように記述でき
おり,高温域でも APB 位置で高い磁束密度が残存している
る15,21)
ことがわかる.また同図から,実効的なキュリー温度が
q(x )=-
f
f
2 pe
h
By(x )dxdz
(3)
APB と matrix で大きく異なっていることも自明である.以
上の実験を通して, APB によって強磁性秩序が増強すると
x と y は面内座標( Fig. 4 ( a )に添えた座標系を参照), By は
いう,これまでの観察結果とは異なる事例を実証することが
磁束の面内成分( y 方向の成分)を表す.Fig. 5(a)~(c)の結
できた.
果を見ると,いずれの測定温度でも APB 領域で位相曲線の
傾きが増しており, matrix に比べて磁束密度が高くなって
い る こ と が わ か る . matrix 1 領 域 の 磁 束 密 度 を 反 映 す る
データとして,同領域の位相曲線にカーブフィッティングを
Nd
Fe
B 焼結磁石における粒界相の磁束密度
4.
4.1
研究の背景
施した結果を点線で示している.ここでは,解析対象である
よく知られたとおり,正方晶系の Nd2Fe14B 相は高い結晶
X3Y3 線の範囲で,試料の厚さ変化が十分に小さいことを考
磁気異方性(~ 4.5 MJ / m3 )と飽和磁束密度( 1.6 T )を兼ね備
慮し, matrix 領域の位相曲線を一次関数で近似した.(な
え,これを主相とする NdFeB 焼結磁石は優れた磁石とな
お,なだらかな厚さ変化等を考慮する場合には二次関数を使
る5,6,42) .磁石の性能を表す最大エネルギー積は 400 kJ / m3
ったフィッティングがより効果的となる.後述する NdFe
を超え,部品の小型化が可能なことから,モーターやアクチ
Fig. 5 Determination of magnetic flux density in the APB region. (a)(c) Plots of the phase shift measured along the X3Y3 line
(shown in (e)) at 293 K, 573 K, and 653 K, respectively. (d) Temperature dependence of the magnetic flux density determined for
the APB and matrix. (e) TEM image (brightfield image) revealing the location of the APB. The view field is identical to that indicated by the rectangle in Fig. 2 (b). Reprinted with permission from ref. 21).
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ュエーターなど様々な用途で利用がなされている.一方,
本節では,電子線ホログラフィーを用いて NdFeB 永久磁
NdFeB 焼結磁石は高温域での利用に課題を抱えている.
石の粒界相の磁束密度を実測した研究成果10) を紹介する.
例えばハイブリッド・電気自動車の駆動モーターの利用環境
電子線ホログラフィーの研究と期を同じくして, XMCD8)
である 470 K 近辺では,室温で約 1.2 T を示す保磁力は 0.2
やスピン SEM9) を使った解析も行われており,いずれの研
T 程度にまで低下する.この問題の対策の一つが Nd と Dy
究でも粒界相は従来の認識とは異なり強磁性という結論が導
の元素置換である.例えば Nd の約 30 を Dy で置換する
かれている.
と,主相の異方性磁界の向上を通して,室温での保磁力は 3
T 程度にまで増加する5,43,44) .しかし, Dy は希土類のなか
でも希少な元素の一つである.また Dy は Fe と反強磁性的
な結合を示すため,元素置換によって最大エネルギー積が減
4.2
電子線ホログラフィーを用いた Nd Fe B 焼結磁石の
解析
本研究では,最適化熱処理を施した商用磁石を FIB で薄
少するという問題もある5).このような諸問題を背景に,現
片化してホログラフィーの実験に用いた.試料は Fig. 6(a)
在, Dy フリーの Nd Fe B 磁石の性能を高める試みが積極
に示す 9 個の結晶粒を含んでいた.電子回折とエネルギー
分散型 X 線分光( EDS )により,結晶粒 A ~ E は Nd2Fe14B
的になされている.
磁石性能を向上させる手法の一つは,微細構造の最適化で
相,F と G は NdOx 相(x の値は酸化の度合いに応じて変化),
ある.例えば磁性を担う Nd2Fe14B 相の結晶粒を非磁体で覆
H は NdFe4B4 相,は a Nd 相と同定された.主相である
い,粒間の磁気的結合を分断すれば,磁壁移動を阻止する上
Nd2Fe14B の他はすべて非磁性相である.この後の解析で
で好都合な組織となる4551).従来,焼結磁石の
Nd2Fe14B 結
は,磁化容易軸である c 軸が粒界面と概ね平行な,結晶粒 A
晶粒を覆っている薄い「粒界相」は非磁性と考えられてきた.
と B を隔てる粒界相(特に R
S 線が横切る部分)に注目する.
ら52) はアトムプ
Fig. 6(a)に添えた xyz 座標系に対して電子回折で決定した
ローブと分析電子顕微鏡を用いた精緻な組成解析を行った.
c 軸の方向余弦は,粒子 A が[0.077, -0.961, -0.267],粒
彼らの報告によると,粒界相での Fe 濃度は 60以上と予想
子 B が[0.103, -0.965, -0.242]であり,その方位差は僅
外に高い.実際に,アトムプローブで決定した組成を持つ疑
かに 2.1°
である.また,後述する Fig. 7(c )の模式図が示す
似試料を成膜し,磁化測定を行うと強磁性の特徴が確認され
傾いていた.こ
とおり,この粒界相は試料面から u2= 33.7 °
た.この報告を契機に,従来は非磁性と目されてきた粒界相
のような条件のもと,主相から, 3 nm 幅の粒界相に漏れ出
の磁性を,より直接的な方法で評価する必要性が高まった.
す磁場の強さは高々 0.02 T と計算された.この値は漏れ磁
この粒界相に関して,最近 Sepehri Amin
Fig. 6 Thinfoil specimen of NdFeB permanent magnet used in the electron holography study. (a) TEM image showing crystallographic microstructure. (b), (c) Lorentz microscopy images observed in the demagnetized state and the remanent state, respectively. Small arrows indicate magnetization vectors. The arrow labeled by ``H'' shows the direction of applied magnetic field, which
was used to remove the magnetic domain wall from the grain boundary between grains A and B. (d) Enlarged TEM image of the area
indicated by the rectangle in (a). (e), (f) Reconstructed phase images of the area shown in (d), observed in the demagnetized state
and the remanent state, respectively. Reprinted with permission from ref. 10).
第
5
号
電子線ホログラフィーを用いた界面領域の磁性の研究
239
場として十分に小さく,粒界相自身が磁化を持つか否かを検
(1)結晶粒 A の磁束密度,(2)粒界相の磁束密度,(3)結晶粒
証する実験(粒界相そのものが示す磁束密度を求める実験)に
B の磁束密度という三成分の合成に依存する.このうち,粒
は好都合の条件である. Fig. 6 ( b )に本試料のローレンツ顕
界相の部分が仮に非磁性であるとすれば,GB 領域で観測さ
微鏡像を,また Fig. 6(e)に注目する結晶粒 A と B を含む領
れる位相曲線の傾きは最も小さくなる.逆に,粒界相が強磁
域の位相再生像を示す.なお参考のため, Fig. 6( d )には位
性で大きな磁束密度を持つ場合は,GB 領域で観察される傾
相再生像の観察領域に対応する TEM 像を添えている.ロー
きは,主相領域の傾きと比べてあまり変わらない状況となる.
レンツ顕微鏡像が示すとおり,熱消磁状態では明線,暗線と
GB 領域で観察される傾きを評価するために,本研究では
して観察される磁壁16) の一部が,注目する粒界相をなぞる
( d )の模式図が示すとおり,結晶粒 A のみが存在する部分
ように存在する. Fig. 6 ( e )の位相再生像でも,粒界を境に
( A 領域)の位相曲線を領域外まで外挿した.この外挿線を
反転している.後述する
して磁束線(等高線)の方向が 180°
基準として,GB 領域で実測される位相曲線がどの程度ズレ
ように,本研究では粒界相領域の位相変化を電子線ホログラ
ているかを評価した(d )に記すズレ Dq の測定.繰り返し
フィーで正確に求め,その磁束密度を決定する.しかしスピ
になるが,粒界相の磁束密度が小さいほど,主相との違いが
ン回転を伴う磁壁が粒界相に重畳すると,電子線ホログラフ
顕在化してくるため, GB 領域で観測される Dq の値は大き
ィーでは検出が難しい垂直磁化成分(z 成分)が解析部分に生
くなる.
じるため,粒界相本来の磁束密度の決定が困難となる27) .
注目する粒界相(Fig. 6 の主相 A と B を隔てる粒界)をま
この問題を回避するため,試料を磁化させた後,その残留磁
たぐ RS 線に沿って,残留磁化状態の試料から収集した位
化状態を同様の手法で観察した. Fig. 6 ( c ), Fig. 6 ( f )に示
相曲線を, Fig. 8 ( a )に灰色の点でプロットした.同図に添
すとおり,残留磁化状態では粒子 A と粒子 B は同方向に磁
えた黒線は,主相のみを含む A 領域に対するカーブフィッ
化されており,粒界相にあった磁壁は消失している.
ティングの結果を表す.(前述のとおり,NdFeB 磁石の解
電子 線ホロ グラ フィー によ る粒界 相の磁 束密 度解 析は
析では,試料厚さのなだらかな変化や,着磁した試料が示す
Fig. 7 に示す方法で行った.( a )の断面模式図が示すとお
漏洩磁場が参照波を変調させる効果を考慮し, A 領域の位
り,仮に試料が単結晶で,紙面と垂直な y 方向に磁化され
相曲線を二次関数で近似した10).)Fig. 8(b)の拡大図が示す
ている場合,RS 線上で観測される位相変化は(b)のとおり
とおり,主相のみを含む A 領域と GB 領域の境界付近で
単調に増加する形となる.一方,(c)が示すとおり,二つの
は,実測値とフィッティング( A 領域に対する外挿線)の差
結晶粒 A と B を分ける形で,3 nm 幅の粒界相が膜面に対し
はほとんど見られない.一方,Fig. 8(c)が表すように,GB
て斜めに導入された場合,主相との磁束密度の違いを反映し
領域の終端付近,つまり主相のみから成る B 領域との境界
て,粒界相が存在する部分((d)の GB という領域)で位相曲
付近では,はっきりと位相差 Dq が観測される.この Dq 成
線の傾きが小さくなる.より詳細を述べれば,(d)の GB 領
分を抽出し,RS 線に対してプロットしたものが Fig. 8(d)
域における位相曲線の傾きは,この部分に重なって存在する
である.主相と粒界相の磁束密度の違いを反映して,Dq 成
Fig. 7 Methods of the magnetic flux density analysis from the grainboundary (GB) phase. (a) Schematic crosssectional view of a
thinfoil specimen composed of only one Nd2Fe14B grain, A. (b) Phase shift of an electron wave (schematic representation) observed
along the line connecting points R and S in (a). (c) Schematic crosssectional view of a thinfoil specimen containing two Nd2Fe14B
grains, A and B, and a thin GB phase. (d) Phase shift of an electron wave (schematic representation) observed along the line connecting points R and S in (c). When electron holograms were acquired, the specimen was inclined by (u1=) 16.9°around the yaxis, and
by 6.8°around the xaxis, to suppress undesired diffraction contrast. Reprinted with permission from ref. 10).
240
第
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
79
巻
Fig. 8 Phase shift observed in the grainboundary (GB) region. (a) Phase shift observed along the RS line shown in Fig. 6. (b)
Enlarged portion of the plot, for the area indicated by the lowerleft rectangle in Fig. 8(a). (c) Enlarged portion of the plot, for the
area indicated by the upperright rectangle in Fig. 8(a). (d) Difference between the observations and the fitting curve, which determined the phase shift due to the GB phase to be -0.34 rad at the border of area GB. Reprinted with permission from ref. 10).
分は GB 領域の端部に至るまで単調な減少を示す.その終端
確な予測を試みた10).)
部で計測される位相差は Dq =- 0.34 rad (± 0.08 rad )であ
R S 線上で観測し得る位相曲線を,粒界相の磁束密度を
った. B 領域に至ると,結晶粒 A と B の僅かな c 軸方位の
様々な値に設定しながら算出した.その上で,GB 領域の終
違いを反映して Dq 成分は増加傾向を示している.なお,B
端で観測された Dq =- 0.34 rad という値は,どの程度の粒
領域に対する外挿線を基準にしても,原理的には粒界相由来
界相磁束密度を仮定すれば説明できるかという観点で,実験
の位相ズレを評価することができる.しかし今回用いた試料
データと計算結果を比較した.Fig. 9(a)には RS 線に対し
では,結晶粒 B の領域の一部に酸化物の痕跡が認められた
て実測された Dq 曲線(青点)と,粒界相の磁束密度を 0 ~
ため,より素性のよい結晶粒 A を基準とする解析を行った.
1.2 T の種々の値で仮定した場合の計算結果を示す.また
ところで前節で議論した FeAl 合金と異なり, NdFeB
Fig. 9(b)には,粒界相の磁束密度と,GB 領域の終端で観測
永久磁石の場合は試料の外側にも強い漏洩磁場が存在する.
される Dq の値(実測値は- 0.34 rad )の関係をプロットし
この場合,例えば物体波は,試料内部の磁束だけでなく,試
た.アトムプローブの実験から導かれる粒界相の組成はおよ
料上下の空間に存在する漏洩磁場によっても位相の変化を被
凡そ Nd33Fe63B3Cu1 となる52) .原子散乱因子から予想され
る.上記の Dq の実測値も,試料内部の磁束に加えて,試料
る主相との平均内部ポテンシャルの違いは 3 V 程度,位相
の外側に存在する磁束の影響を受けている.したがって,粒
変化に換算して 0.09 rad 程度となる.これらの点を総合的
界相固有の磁束密度の算出にあたっては,これら漏洩磁場の
に考慮すると,実測された位相差 Dq =- 0.34 rad を最もよ
効果も加味する必要がある.そのため,本研究では Fig. 6
く説明する粒界相の磁束密度は 1.0 T (± 0.1 T )と求められ
(a)に示す試料の形状と厚さ,すべての結晶粒の形と結晶方
た.以上の解析を通して,最適化熱処理を施した NdFeB
位等を TEM で決定し,同試料が示す漏洩磁場の分布を三次
商用磁石における粒界相は,磁束密度 1.0 T の強磁性相であ
元的に計算した.この漏洩磁場分布と,試料内部の磁束(主
るという結論を導いた.
相と粒界相の磁化に由来する成分)のもとで,電子線ホログ
ラフィーで観測されるべき位相変化,つまり Fig. 8( a)の実
5.
お
わ
り
に
験データに相当する位相曲線を,式( 3 )に基づいて算出し
た.(永久磁石の場合,実際には試料を透過する物体波だけ
本稿では,電子線ホログラフィーを用いた金属材料の界面
でなく,真空領域を通過する参照波も漏洩磁場によって位相
磁性の研究に関わる最近の研究事例を紹介した.電子線ホロ
の変調を受けてくる.つまり,厳密に言えば, Fig. 8 ( a )の
グ ラ フ ィ ー は TEM の 明 視 野 ・ 暗 視 野 法 , 電 子 回 折 ,
実験データは,漏洩磁場で幾分の位相変調を被った参照波に
HAADF STEM, EDS 等の周辺技術との併用が可能である
対して,物体波の位相がどれだけ変化したかを表している.
ため,複雑な組織を示す金属試料に対しても,構造・形態や
実験データと計算結果を忠実に比較するため,本研究では上
組成が十分に解析された微小領域から,磁気情報をピンポイ
記の三次元漏洩磁場分布を基に,参照波の位相変調も式
ントで収集することができる.最近の技術的な進展の結果,
( 3 )を使って計算し, R S 線上で観測し得る位相曲線の正
電子線ホログラフィーによる磁気微細構造の解析は,空間分
第
5
号
電子線ホログラフィーを用いた界面領域の磁性の研究
文
Fig. 9 Determination of magnetic flux density due to the
grainboundary (GB) phase. (a) Observation and calculations
of Dq, which stands for difference between the observed phase
shift and the fitting curves for area A. (b) Relationship between
Dq and magnetic flux density due to the GB phase. Reprinted
with permission from ref. 10).
解能と,位相検出精度(磁束検出の感度に関係する指標)の両
方で進展を遂げ,本稿で紹介したように 3 nm 以下の狭い界
面領域から十分な精度で磁束密度を決定できる段階に至っ
た.特に,本稿で取り上げた FeAl 合金の APB や NdFe
B 磁石の粒界相は,熱処理過程で生じるいわば天然の界面で
あり,その形態は複雑である.このような天然の界面に対し
ても,その構造的・形態的な特徴を TEM で把握しながら,
電子線ホログラフィーによる磁気情報の精緻な解析を実施で
きる.組織制御,とりわけ界面状態の制御は金属材料の機能
開拓における極めて重要な手法であり,電子線ホログラフ
ィーを用いた(モデル試料でなく)実試料の直接的な解析は今
後も活用が期待される.
本稿で紹介した研究は,東北大学の進藤大輔教授,貝沼
亮介教授,新津甲大博士(現 (国研)理化学研究所),竹野
株 日立製作
雄夢氏,(国研)理化学研究所の谷垣俊明博士(現 
所),朴賢洵博士(現 韓国・東亜大学),(国研)科学技術振興
機構の松田強博士,および(国研)物質・材料研究機構の
佐々木泰祐博士,大久保忠勝博士,宝野和博フェローとの共
同研究として行われたことを記す.
241
献
1) B. Kalisky, J. A. Bert, B. B. Klopfer, C. Bell, H. K. Sato, M.
Hosoda, H. Hikita, H. Y. Hwang and K. A. Moler: Nat.
Commun. 3(2012) 922.
2) A. Brinkman, M. Huijben, M. Van Zalk, J. Huijben, U. Zeitler,
J. C. Maan, W. G. Van der Wiel, G. Rijnders, D. H. A. Blank and
H. Hilgenkamp: Nat. Mater. 6(2007) 493496.
3) J. A. Bert, B. Kalisky, C. Bell, M. Kim, Y. Hikita, H. Y. Hwang
and K. A. Moler: Nat. Phys. 7(2011) 767771.
4) Y. Shiratsuchi, H. Noutomi, H. Oikawa, T. Nakamura, M.
Suzuki, T. Fujita, K. Arakawa, Y. Takechi, H. Mori, T.
Kinoshita, M. Yamamoto and R. Nakatani: Phys. Rev. Lett. 109
(2012) 077202.
5) K. Hono and H. SepehriAmin: Scr. Mater. 67(2012) 530535.
6) J. M. D. Coey: Scr. Mater. 67(2012) 524529.
7) S. Tsunegi, Y. Sakuraba, K. Amemiya, M. Sakamaki, E. Ozawa,
A. Sakuma, K. Takahashi and Y. Ando: Phys. Rev. B 85(2012)
180408.
8) T. Nakamura, A. Yasui, Y. Kotani, T. Fukagawa, T. Nishiuchi,
H. Iwai, T. Akiya, T. Ohkubo, Y. Gohda, K. Hono and S.
Hirosawa: Appl. Phys. Lett. 105(2014) 202404.
9) T. Kohashi, K. Motai, T. Nishiuchi and S. Hirosawa: Appl.
Phys. Lett. 104(2014) 232408.
10) Y. Murakami, T. Tanigaki, T. T. Sasaki, Y. Takeno, H. S. Park,
T. Matsuda, T. Ohkubo, K. Hono and D. Shindo: Acta Mater. 71
(2014) 370379.
11) B. J. Kirby, J. W. Lau, D. V. Williams, C. A. Bauer and C. W.
Miller: J. Appl. Phys. 109(2011) 063905.
12) K. F. Eid, B. Paudel, G. Riley, D. Dahliah, X. Liu and J. K.
Furdyna: Appl. Phys. Lett. 100(2012) 212403.
13) T. Tanigaki, Y. Inada, S. Aizawa, T. Suzuki, H. S. Park, T.
Matsuda, A. Taniyama, D. Shindo and A. Tonomura: Appl.
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1999) pp. 78132.
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1999) pp. 125200.
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17) Y. Murakami, J. H. Yoo, D. Shindo, T. Atou and M. Kikuchi:
Nature 423(2003) 965968.
18) Y. Murakami, H. Kasai, J. J. Kim, S. Mamishin, D. Shindo, S.
Mori and A. Tonomura: Nat. Nanotech. 5(2010) 3741.
19) A. Tonomura, N. Osakabe, T. Matsuda, T. Kawasaki, J. Endo,
S. Yano and H. Yamada: Phys. Rev. Lett. 56(1986) 792795.
20) Y. Takeno, Y. Murakami, T. Sato, T. Tanigaki, H. S. Park, D.
Shindo, R. M. Ferguson and K. M. Krishnan: Appl. Phys. Lett.
105(2014) 183102.
21) Y. Murakami, K. Niitsu, T. Tanigaki, R. Kainuma, H. S. Park
and D. Shindo: Nat. Commun. 5(2014) 4133.
22) H. Y. Yasuda, K. Nakano, T. Nakajima, M. Ueda and Y.
Umakoshi: Acta Mater. 51(2003) 51015122.
23) H. Y. Yasuda, M. Aoki and Y. Umakoshi: Acta Mater. 55(2007)
24072415.
24) K. D. Belashchenko and V. P. Antropov: Phys. Rev. B 66(2002)
144402.
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253273.
26) S. P. Venkateswaran, N. T. Nuhfer and M. De Graef: Acta
Mater. 55(2007) 26212636.
27) Y. Murakami, K. Yanagisawa, K. Niitsu, H. S. Park, T.
Matsuda, R. Kainuma, D. Shindo and A. Tonomura: Acta
Mater. 61(2013) 20952101.
28) Y. Murakami, A. Ohta, A. N. Hattori, T. Kanki, S. Aizawa, T.
Tanigaki, H. S. Park, H. Tanaka and D. Shindo: Acta Mater. 64
(2014) 144153.
29) K. Inomata, N. Ikeda, N. Tezuka, R. Goto, S. Sugimoto, M.
Wojcik and E. Jedryka: Sci. Tech. Adv. Mater. 9(2008) 014101.
30) S. M. Allen and J. W. Cahn: Acta Metall. 27(1979) 10851095.
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3594.
33) M. Fri áak and J. Nuegenauer: Intermetall. 18(2010) 13161321.
34) M. J. Besnus, A. Herr and A. J. P. Meyer: J. Phys. F: Metal
Phys. 5(1975) 21382147.
242
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
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31(2003) 167177.
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第
79
巻
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