社会的課題の解決に向けた 数学と諸分野の協働

JST さきがけ研究領域
社会的課題の解決に向けた
数学と諸分野の協働
∼27年度の研究提案の募集説明会∼
研究総括
國府寛司
(京都大学・大学院理学研究科・数学教室)
1.領域の発足の背景
科学,技術,経済などの
社会の諸活動の発展
従来の科学技術の延長では
なかなか解決できない
新たな社会的・人類的課題
複雑,不規則,不安定,多様,
膨大,急激,突発的.....
斬新な発想に基づく新たな解決法が求められている
数学のポテンシャルをもっと活かせないか?
戦略目標
「社会における支配原理・法則が明確でない諸現象を数学的に記述・解明する
モデルの構築」
「分野を超えたビッグデータ利活用により新たな知識や洞察を得るための革新
的な情報技術及びそれらを支える数理的手法の創出・高度化・体系化」
【さきがけ数学領域】
社会的課題の解決に向けた数学と諸分野の協働
従来の科学技術の延長では
なかなか解決できない
社会的・人類的課題
現代の数学から幅広い
アイディアや方法を取
数学的問題として取り上げる
り入れた斬新な発想に
よる解決
純粋数学(代数・幾何・解析),応用
数学,統計数学,離散数学など
2.領域概要
さきがけ研究領域とは
科学技術イノベーションの源泉を生み出すネットワーク型研究 (個人型)
研究総括の運営の下、研究者同士が交流・触発しつつ独創的・挑戦
的な研究を推進することで、科学技術イノベーションの源泉となる
成果の創出と将来の研究リー ダーの輩出を目指す
本研究領域では、従来の科学技術の延長では解決が難しい社会的・
人類的課題に対し、数学・数理科学のアイデアをもって取り組み、
新しいブレークスルーを起こすことともに、その過程で数学自体の
発展をも目指します
領域アドバイザー
数学・数理科学の様々な分野の専門家に加えて物理学者,企業研究者を含む
石井 志保子
東京大学 大学院数理科学研究科 教授
大島 利雄
城西大学 理学部数学科 教授
楠岡 成雄
(元)東京大学 大学院数理科学研究科 教授
坂上 貴之
京都大学 大学院理学研究科 教授
高田 章
旭硝子株式会社 中央研究所 特任研究員
田崎 晴明
学習院大学 理学部 教授
土谷 隆
政策研究大学院大学 政策研究科 教授
長山 雅晴
北海道大学 電子科学研究所 動的数理モデリング研究分野 教授
藤重 悟
京都大学 数理解析研究所 特任教授
宮岡 礼子
東北大学 大学院理学研究科数学専攻 教授
研究提案の例
□ 極めて複雑、大規模、多様であるために、通常の数理的取り扱いが困難な
ものに対し、新しい数理的アイディア・手法による解決の方法を開拓する
研究
(大規模・複雑なデータや情報から本質的な意味や構造を抽出する研究など)
□ 非常に重大な影響をもたらす現象だが、局所的、一過性、再現困難、測定
困難などの理由により、現象の発生や規模、影響が予測できないものに
対して、数理的発想によりその予報・予知のための技術を進展させる研究
(大規模な災害や事故を予見したり,その被害を抑えるための研究など)
□ 現象に対する従来の見方や方法に対して、斬新な数理的発想や方法により、
その理解や記述を格段に進展させることで、新しい解析や制御の方法を
与える研究
(従来の現象の記述や解析方法と全く異なる発想に基づく数理的アプローチの提案など)
*もちろん、これらに限定されるものではありません
研究の推進について
数学・数理科学からの斬新で大胆な着想に基づく意欲的・挑戦的
な研究提案を歓迎します
数学・数理科学の研究者が諸分野の理論や実験の研究者と連携する形
と共に、諸分野の研究者が数学分野に参入して課題解決に取り組む形
も可能です。
(諸分野:広く自然科学、情報科学、工学、生命科学、社会科学など)
社会的・人類的諸問題に対し、研究者自らが現場に入り込んで課題を
認識し、その解決に向けたアプローチを意識して基礎研究を推進する
ことが望まれます。
従来の科学技術の延長ではなかなか解決できない
「現場に入り込む」とは?
社会的・人類的課題
純粋数学(代数・幾何・解析)
応用数学,統計数学,離散数学
さきがけ
など
研究者
数学的問題として取り上げる
ブレークスルー
現代の数学から幅広いアイディア
対象とする問題を扱っている や方法を取り入れた斬新な発想に
他分野の研究者や企業の活動の場
よる解決
さきがけ研究者
対象課題に詳
しい他分野の
研究者
十分な情報
収集と議論
目指すべき解決の方向性や現場での困難などを十分に把握する
緊密に情報交換や議論ができる他分野の研究者と連携する
研究課題に関係する研究者や企業などを訪問して議論する,など
応募するからには,「現場に入り込む」という意欲はしっかりと
持っていただきたいと思いますが,その一方で,研究提案の段階
で既に現場との結びつきができていることを,条件とする訳では
ありません
応募者なりの現場に入り込む意欲や姿勢や,現場に入り込む方策に
ついての考えが,仮にその方策が,現場を良く知らないために多少,
無理のあるものであったとしても,そのことを理由として提案を不採
択とはしません
その研究提案が良ければ,アドバイザーの方々からの助言も得て,
採択後により妥当な形で現場に入り込んで行くことを支援したいと考
えています
領域運営について
領域の研究者が相互に影響し合い、異分野横断・融合的な視点で問題
解決に取り組む姿勢を重視します。
これにより、新しい数理科学の分野の形成や牽引の担い手となる将来
の世界レベルの若手研究リーダーの輩出を目指します。
年に2回の領域会議
第1期生は H27年2月に第1回を実施,7月に第2回を予定
2泊3日程度の合宿形式で,研究状況の発表と共に相互交流を図る
CREST数理モデリング領域など関連領域との研究交流
H26年11月に合同キックオフミーティングを開催
第1回領域会議では旧さきがけ数学領域OB・OGとの交流も実施
旧CREST数学領域の若手交流会を3領域合同若手交流会にも参加
アウトリーチ活動も積極的に実施
領域の公開講演会などの開催
旧さきがけ領域でのアウトリーチ活動(数学キャラバンなど)も継承
3.H26年度の応募・採択の状況
数学・数理科学分野だけでなく、物理学や生物学・生命科学、工学な
どの幅広い分野から、合計111件の応募がありました
10名の領域アドバイザーの協力により選考を行い、18件を面接選考
対象としました
領域の趣旨に合致している提案の中で、数理的アイデアや方法が斬新であり、
それが社会的/人類的課題の解決につながると期待できる提案や、社会的/人
類的課題の解決のための数理的方法の有効性を、これまでにない新しい形で
明確に示す提案を重視しました
また、応募課題の利害関係者の選考への関与がないことや、他の助成金など
との関係にも留意し、公平・厳正に選考を行いました
最終的に、26年度の採択課題数は9件としました
採択に至らなかった提案の中にも、重要な社会的/人類的課題を取り上げた
もの、独自性の高いアイデアに基づくものなど、優れた提案も数多くあり
ました
しかしながら、優れた発想に基づく提案であっても、
・数理的発想や方法の有用性や斬新性が足りないと思われるもの
・対象とする社会的/人類的課題の解決に向けて現場と連携する意欲が不十分
と思われるもの
・個人研究である「さきがけ」の趣旨に合致しないもの
などは不採択としました
不採択となった研究提案者にも、不採択理由を踏まえて研究提案を練り直し、
ぜひ再応募していただきたいと思います
氏名
神山 直之
小谷 潔
小林 景
鈴木 大慈
田中(石井)
久美子
所属機関
九州大学 マス・フォア・
インダストリ研究所
東京大学 先端科学技術研
究センター
情報・システム研究機構
統計数理研究所
東 京 工業 大学 大学 院情
報理工学研究科
九州大学 大学院システム
情報科学研究院
役職
准教授
准教授
助教
准教授
教授
富安(大石)
高エネルギー加速器研究
特任助
亮子
機構 物質構造科学研究所
教
中野 直人
北海道大学
理学研究院
東北大学 原子分子材料科
さきがけ
助教
専任
数学専攻
学高等研究機構
縫田 光司
(独)産業技術総合研究所
国立研究開発法人 産業技
ゲノム情報研究センター
術総合研究所 高機能暗号
(兼セキュアシステム研
研究グループ
究部門)
パックウッド・ダ 東北大学 原子分子材料科
ニエル
学高等研究機構
主任研
究員
助教
課題名
都市・社会システム最適化のための離散的数学理
論の深化
時間遅れ多体系フロケ理論の構築と脳の持つ‘弱
いリズム’の機能解明
データ空間の幾何学的特徴を活用する解析手法
と統計理論
統合的統計モデリングの数理基盤と方法論
言語の計測可能な不変量の探求
結晶学的位相問題の解を列挙する理論とソフト
ウェアの開発
包括的な数学的手法による気象予測プロセスの
確立
大規模ゲノム情報の安全な統合分析を実現する
超高機能暗号
数理モデルでグラフェン合成の制御
-次世代
の電子材料に向けて-
(五十音順に掲載)
H26年度に採択した研究提案の例
非可換群を用いた高機能で安全な暗号技術の研究
昨今普及しつつある個人ゲノム情報の解析サービスでは、情報流出事故の際に甚大な
プライバシー被害が起こり得ます。情報流出を暗号化で防ぎつつ情報分析を行う完全
準同型暗号技術は、現状では非効率的であり巨大な個人ゲノム情報を扱えません。
本研究では、従来の暗号技術とは全く異なる数学的構造「非可換群」を用いて、
実用的な情報分析を実現する高機能性とゲノム情報に適用可能な高い効率性を兼備す
る暗号技術を研究します。
データ空間の幾何的特徴を用いた新しい統計解析手法の開発
球面などの図形(データ空間)上にデータが分布するとき、その統計解析にデータ
空間の曲率が影響を及ぼすことが数学的に知られています。一方、近年ビッグデータ
と呼ばれるような複雑なデータに関しても、データ空間に着目して統計解析の精度を
向上させる手法が研究されています。
本研究ではデータ空間の曲率など幾何学的な量を理論的に評価し、さらにデータ
空間を積極的に変形させることにより新しい統計解析手法を開発します。
包括的な数学的手法による気象の長期予測理論の確立
本研究では、データ解析(高次元系の理解)から数理モデリング(支配原理の抽
出)を通じ、最終的にはデータ同化を用いた予測(効率的な未来予測)までの一連
のプロセスを数学によってつなぐことで、新たな予測理論の確立をめざします。
対象とする社会的課題は気象などの長期間予測です。これを、本研究で提案する
新たな予測プロセスを用いて、気象学者との綿密な連携を通じて達成することがね
らいです。
結晶学的位相問題の解決
結晶の回折像から物質構造を復元する際の「位相問題」は、数学・理論上の課題が
残されており、結晶学の中心的なテーマとなっています。この解決に向けて、数学
分野からのさらなる貢献が望まれています。
本研究では、「位相問題」を解決し、解析の核となる部分のソフトウェア開発を
行うことで、実験科学分野の研究者にも理論の実効性を分かりやすい形で示すこと
を目指します。
4.応募方法
研究提案の受付方法
「府省共通研究開発管理システム(e-Rad)」により受け付けます。
府省共通研究開発管理システム(e-Rad)
https://www.e-rad.go.jp/
注意:27年度より申請までに研究倫理教育プログラムの受講が必須です
研究提案の募集スケジュール
研究提案の募集開始:3月24日(火)
研究提案の受付締切:5月12日(火) 正午 <厳守>
※例年、受付時間直前での応募によるトラブルが相次いでおります
ので、〆切に余裕をもって応募いただけるようお願い致します
面接選考会:7月25日(土)・26日(日)
注意:26年度より1ヶ月程度,募集スケジュールが前倒しになっています
研究の提案にあたっては
どのような(社会的・人類的)課題を対象とするか?
どのように課題の現場に入り込むか?
既に現場に入っている場合は,それをどのように活用・発展させるか?
どのような数学的/数理的方法を用いるか?
それによってどのように課題の解決を図るか?
どのような結果を目指すか?/期待されるか?
を明確にして練り上げていただくと良いと思います.
数学・数理科学からの斬新で大胆な着想に
基づく,意欲的・挑戦的な研究提案が数多く
寄せられることを期待しています