県内の空き家対策の現状と課題

調査
県内の空き家対策の現状と課題
空き家の増加が問題となっている。総務省統計局「住宅・土地統計調査」によると、2013年10月時点の
全国の空き家数は820万戸、総住宅数に占める割合は13.5%と過去最高を記録した。空き家の増加は、住宅
ストックの有効活用が図られないだけでなく、放火・不法投棄の危険性が増す等、周囲の住環境に悪影響を
及ぼす。
空き家が増加する背景の一つに、国内の住宅市場が長年、新築住宅中心に拡大してきたことが挙げられる。
国内の全住宅流通量に占める中古住宅のシェアは14.8%(12年)と、おおむね5割超の欧米諸国と比較し低
い水準にあり、国でも20年までに現在の市場規模から倍増を目指し、中古住宅・リフォーム市場の活性化に
向けた取り組みを実施している。
都市への人口集中や世帯構成の変化に加え、ますます高齢化や人口減少が進む中、今後、空き家問題は一
層深刻化していくことが予想される。
本号では、県内の空き家の実態と対策の課題、方向性について調査する。各種統計データ、地域の現状、
行政の取り組みを整理したうえで、空き家の利活用や中古住宅市場の活性化に関する事例ヒアリングをもと
に、本県における効果的な空き家対策の実施のために、各主体に求められる役割について考える。
第1章 県内の空き家の現状
1.空き家の定義と種類
(図表1-1)。
はじめに、空き家の定義について確認する。総務
空き家は、さらに、種類別に別荘等の「二次的住
省統計局「住宅・土地統計調査」では、空き家は、
宅」、借り手や買い手のない「賃貸用の住宅」、「売
「居住世帯のない住宅のうち、建築中の住宅及び一
却用の住宅」、本来個人の居住用であるものの何ら
時現在者のみの住宅※を除いたもの」と定義される
かの理由で居住者のいない「その他の住宅」の4つ
図表1-1 住宅世帯構成及び各戸数(茨城県)(13年)
総住宅数
1,268,200
居住世帯
のある住宅
1,076,100
居住世帯
のない住宅
192,100
(単位:戸)
に分けられる(図表1-2)。
図表 1-2 「住宅・土地統計調査」における空き家の種類と概要
空き家の種類
別荘
建築中
1,900
(1)二次
的住宅
一時現在者
のみ※
5,500
空き家
184,700
※昼間だけ使用している、あるいは何人かの
人が交代で寝泊まりしている等、そこにふ
だん居住している者が 一人もいない住宅
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査」
(2)賃貸用の住宅
(3)売却用の住宅
二次的住宅
8,500
(4)その他の住宅
賃貸用の住宅
104,100
総務省統計局ホームページをもとにARC作成
売却用の住宅
4,900
2.県内の空き家の概況
その他の住宅
67,200
空き家数、空き家率ともに年々上昇
全国同様、県内の空き家数、空き家率(空き家数
’
15.4
12
その他
概要
週末や休暇時に避暑・避寒・保養などの目的で使用さ
れる住宅で、ふだんは人が住んでいない住宅
ふだん住んでいる住宅とは別に,残業で遅くなったと
きに寝泊まりする等、たまに寝泊まりしている人がい
る住宅
新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になってい
る住宅
新築・中古を問わず、売却のために空き家になってい
る住宅
上記以外の人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・
入院等のため居住世帯が長期にわたって不在の住宅
や、建て替え等のために取り壊すことになっている住
宅等(注:空き家の区分の判断が困難な住宅を含む。)
/ 総 住 宅 数 ) は と も に 年 々 上 昇 し て お り( 図 表
住宅」が104,100戸と最も多く、全体の6割弱を占
1-3)、13年時点で空き家数は184,700戸、空き家率は
める。全国と比較しても、その割合は高い。次に、
14.6%に達する。98年以降、空き家率は全国を上
「その他の住宅」が67,200戸で続き、
「賃貸用の住宅」
回って推移している。
と合わせると全体の9割以上となっている。
03 ∼ 13年の推移をみると、
「その他の住宅」の占
図表1-3 空き家数及び空き家率の推移(茨城県)
(単位:戸)
200,000
空き家数
(左軸)
180,000
160,000
空き家率
(右軸)
140,000
空き家率(全国)
(右軸)
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000 2.5
20,000
1.6
0
63 68 73 78 83 88
(単位:%)
16.0
める割合が高まっている。
14.6
14.0
13.5 12.0
図表1-5 空き家の種類別構成内訳(茨城県)
(03∼13年)
10.0
8.0
184,700
6.0
4.0
2.0
93
98
03
0.0
13
(年)
08
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査
(13年)
」
0
10
20
30
40
03年
(n=146,700) 13,500
50
60
70
308,200
4,292,300
二次的住宅
賃貸用
67,200
4,900
104,100
全国(13年) 412,000
(n=8,196,400)
55,900
6,900
107,200
売却用
(単位:%)
90 100
42,700
4,700
85,700
08年
8,400
(n=178,400)
13年
(n=184,700) 8,500
80
3,183,900
その他の住宅
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13年)」
(注)グラフ中の数字は戸数
現状が続くと今後も空き家は増加の見込み
県内の総住宅数は、長年、総世帯数を上回って推
移している(図表1-4)。13年の県内の総住宅数は約
127万戸である一方、総世帯数は約108万戸となって
いる。
建て方別では共同住宅が過半数を超える
県内の空き家を建て方別に確認すると、空き家全
体では、
「共同住宅」が5割超、
「一戸建」が4割強
総住宅数と総世帯数の差は年々拡大しており、世
となっている(図表1-6)。
帯当たり住宅数は、13年は1.18に達した。これまで
空き家の種類別にみると、賃貸用を除くすべての
の様に新築住宅の供給数が総世帯数の増加分を上
種類で、「一戸建」の占める割合が約8割と最も高
回る状況が続くと、さらに多くの空き家の発生が見
く、「共同住宅」は2割程度にとどまる。
込まれる。
図表1-6 建て方別空き家数(茨城県)
(13年)
0
図表1-4 総住宅数及び総世帯数(茨城県)
(単位:戸・世帯)
1,400,000
1,200,000
1,000,000
(単位:戸/世帯)
1.20
総住宅数(左軸)※
総世帯数(左軸)
世帯当たり住宅数(右軸)
1.15
1.10
800,000
1.05
600,000
1.00
400,000
200,000
0.95
0
0.90
13(年)
63 68 73 78 83 88 93 98
※住宅以外で人が居住する建物は含まない
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13年)」
03
08
20
40
空き家総数
77,900
(n=184,000)
二次的住宅
(n=8,500)
空き賃貸用 10,700 7,400
(n=104,100)
売却用
(n=4,900)
その他の住宅
(n=67,200)
一戸建
60
9,000
80
(単位:%)
100
400
97,400
100 1,100
7,300
85,900
3,600
長屋建
100
56,300
共同住宅
1,100
9,200
1,400
300
その他
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13年)」
(注)グラフ中の数字は戸数
住宅の主要部分に破損のある空き家は全体の1/4
種類別では賃貸用が6割弱を占める県内
県内の空き家のうち、壁や柱等、住宅の主要構造
全国の空き家を種類別にみると、13年時点では
部分等に腐朽・破損のある住宅は26.0%であり、残
「賃貸用の住宅」が全体の5割強、続いて、
「その他
り74.0%(約137千戸)が、現に売却・賃貸用とし
の住宅」が4割弱となっている(図表1-5)。
一方、県内の空き家は、13年時点では「賃貸用の
て流通しているものを含め、中古住宅として流通・
利活用可能な住宅となっている(図表1-7)。
’
15.4
13
賃貸用物件の多い都市部で空き家数が多い
図表1-7 空き家の腐朽・破損の有無(茨城県)
二次的住宅
1,200
(2.5%)
(単位:戸)
腐朽・破損なし
136,600
(74.0%)
賃貸用
25,000
(52.0%)
腐朽・破損あり
48,100
(26.0%)
空き家の種類は、地域によって大きく異なる。し
かし、マンションやアパート数の多い水戸市や日立
市、つくば市等都市部では、総じて空き家数が多い。
売却用
1,000
(2.0%)
その他の住宅
20,900
(43.5%)
図表1-8 県内市町村の空き家率(13年)
北茨城市
13.4%
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13年)」
大子町
15.2%
腐朽・破損のある空き家について、種類別の内訳
常陸大宮市
14.2%
をみると、
「賃貸用」が52.0%で最も多く、
「その他
城里町
8.7%
の住宅」が43.5%で続く。
笠間市
12.4%
桜川市
11.5%
3.市町村別の概況
結城市
11.0%
市町村別では鹿嶋市が24.3%で最高
古河市
13.9%
市町村別の空き家率をみると、鹿嶋市が24.3%で
八千代町 下妻市
7.2% 15.0%
五霞町※
境町
10.8%
最も高く、美浦村が18.9%、鉾田市が18.2%で続く
(図表1-8,9)。
筑西市
16.8%
石岡市
14.0%
高萩市
10.9%
日立市
18.2%
常陸太田市
10.4%
那珂市
10.8%
水戸市
16.1%
利根町 12.6%
ひたちなか市
11.4%
大洗町
18.0%
茨城町
10.7%
小美玉市
12.0%
かすみがうら市
14.5%
土浦市
15.1%
常総市 つくば市
15.8% 15.8%
坂東市
14.5%
阿見町
つくば
16.6%
みらい市 牛久市
11.8%
8.7%
龍ヶ崎市
守谷市
取手市
12.0%
9.8%
13.1%
東海村
13.2%
美浦村
18.9%
行方市
8.5%
鹿嶋市
24.3%
稲敷市
15.1%
河内町※
潮来市
15.5%
図表 1-9 種類別空き家数及び空き家率(13 年)
(上位 10 市町村及び茨城県)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
水戸市
日立市
つくば市
土浦市
古河市
鹿嶋市
ひたちなか市
神栖市
筑西市
取手市
茨城県
全 国
22,190
17,010
16,940
10,930
8,190
7,780
7,770
7,260
7,230
6,310
184,700
8,196,400
売却用空き家数(戸)
つくば市
1,140
取手市
500
古河市
450
土浦市
330
水戸市
280
日立市
270
守谷市
210
鹿嶋市
170
龍ケ崎市
150
茨城町
110
茨城県
4,900
全 国
308,200
空き家率(%)
鹿嶋市
美浦村
鉾田市
日立市
大洗町
神栖市
筑西市
阿見町
水戸市
土浦市
茨城県
全 国
24.3
18.9
18.2
18.2
18.0
17.6
16.8
16.6
16.1
16.1
14.6
13.5
売却用空き家率(%)
つくば市
2.4
取手市
1.6
守谷市
1.2
古河市
1.2
茨城町
1.2
鹿嶋市
1.0
土浦市
0.9
かすみがうら市
0.9
阿見町
0.7
龍ケ崎市
0.7
茨城県
0.6
全 国
0.6
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
賃貸用空き家数(戸)
水戸市
14,810
つくば市
13,020
日立市
12,390
土浦市
7,010
筑西市
4,870
ひたちなか市
4,840
古河市
4,460
神栖市
4,270
鹿嶋市
3,290
取手市
2,940
茨城県
104,100
全 国
4,292,300
賃貸用空き家率(%)
常総市
44.5
坂東市
36.2
筑西市
35.1
下妻市
34.0
鹿嶋市
33.4
潮来市
32.2
小美玉市
31.1
日立市
30.6
阿見町
30.6
桜川市
29.7
茨城県
25.3
全 国
17.8
その他の住宅空き家数(戸)
水戸市
6,670
日立市
4,290
土浦市
3,240
古河市
2,890
取手市
2,830
つくば市
2,760
ひたちなか市
2,750
神栖市
2,540
筑西市
2,260
鹿嶋市
2,100
茨城県
67,200
全 国
3,183,900
その他の住宅空き家率(%)
美浦村
16.4
大子町
11.7
利根町
10.9
稲敷市
9.6
大洗町
9.2
常陸大宮市
8.7
常陸太田市
7.9
城里町
7.6
北茨城市
7.5
桜川市
7.2
茨城県
5.3
全 国
5.3
総務省統計局「住宅・土地統計調査」(13年)をもとにARC作成
※各空き家率はそれぞれ、米山 秀隆 2012「空き家率の将来展望と空き家対策」
『富士通総研経済研究所研究レポートNo.392』を参考に、
賃貸用空き家率(賃貸用空き家数/(賃貸用空き家数+借家数))、
売却用空き家率(売却用空き家数/(売却用空き家数+持家数))、
その他の住宅空き家率(その他の住宅空き家数/(その他の住宅空き家数+総住宅数))で算出。
’
15.4
14
20.0
15.0
10.0
5.0
鉾田市
18.2%
※人口 1.5 万人未満の町村
(河内町、
五霞町)
は公表対象外
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)」
空き家数(戸)
(%)
神栖市
17.6%
図表 1-11 【県北山間地域】空き家数及び空き家率(13 年)
4.県内地域別の空き家の状況
(単位:戸、%)
続いて、県内の空き家の状況を地域ごとにみてい
く。(※データが未公表の河内町、五霞町について
は対象外とする)
⑴ 県北中山間地域
「その他の住宅」が空き家の大部分を占める
空き家数
二次的住宅
賃貸用
売却用
その他の住宅
空き家率
賃貸用空き家率
売却用空き家率
その他の住宅
空き家率
常陸太田市
2,220
130
360
50
1,680
10.4
17.6
0.3
常陸大宮市
2,560
90
880
30
1,560
14.2
24.0
0.2
那珂市
2,250
40
1,050
50
1,110
10.8
28.8
0.3
大子町
1,210
100
170
−
930
15.2
24.3
−
7.9
8.7
5.3
11.7
総務省統計局「住宅・土地統計」(13年)をもとにARC作成
県北中山間地域の空き家率は、大子町を除き、県
平均(14.6%)よりも低い(図表1-10)。また、種類
図表 1-12 【県北中山間地域】高齢化率及びひとり暮らし
高齢者の割合(参考値)
別にみると、那珂市を除き、空き家の大部分を「そ
常陸太田市 常陸大宮市
(単位:%)
の他の住宅」が占めている。特に、大子町は、「そ
の他の住宅」の空き家率が11.7%と、美浦村に次い
図表1-10 【県北中山間地域】空き家の種類別構成内訳(13年)
80
60
15.2
14.2
10.8
10.4
40
20
0
常陸太田市
常陸大宮市
二次的住宅
その他の住宅
那珂市
賃貸用
空き家率(右軸)
大子町
茨城県
33.0
32.5
28.4
40.0
26.1
10.6
8.9
5.2
13.0
8.0
茨城県統計課、長寿福祉課HPをもとにARC作成
(※1 15年1月1日現在、※2 14年4月1日現在の市町村からの報告による)
で県内で2番目に高い(図表1-9,11)。
(単位:%)
100
高齢化率
(65歳以上人口/全人口)※1
高齢者に占めるひとり暮ら
し高齢者の割合※2
那珂市
(単位:%)
16.0
18.0
14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
大子町
売却用
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)」
⑵ 県北臨海地域
日立市、ひたちなか市で「賃貸用」が6割超
県北臨海地域の空き家率は、日立市を除き、県平
均を下回る(図表1-13)
。種類別にみると、日立市、
ひたちなか市では「賃貸用」の割合が高い一方、そ
の他の市村では「その他の住宅」の割合が5割を超
えている。
図表 1-13 【県北臨海地域】空き家の種類別構成内訳(13 年)
高齢者の死亡や施設入居等で空き家が発生
県北中山間地域は、高齢化率が県平均よりも高
(単位:%)
100
80
(単位:%)
20.0
18.2
13.4
13.2
10.9
60
11.4
15.0
10.0
40
く、 ひ と り 暮 ら し 高 齢 者 の 割 合 も 高 い( 図 表
1-12)。行政関係者によれば、高齢者の死亡や介護
0
0.0
北茨城市
高萩市
二次的住宅
その他の住宅
施設等への入居のタイミングで空き家が発生する
ことが多い。また、空き家は、山間部に限らず、市
5.0
20
日立市
東海村
賃貸用
空き家率(右軸)
ひたちなか市
売却用
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)」
街地にも多い。
一方、水戸市に隣接する那珂市は、空き家率は
社会減が続く一方、新設着工数は増加する日立市
10.8%と低い。種類別にみると、空き家に占める「賃
13年の日立市の空き家数は17,010戸であり、水戸
貸用」の割合が5割弱、
「賃貸用」の空き家率が
市に次いで県内で2番目に多い(図表1-9,14)。ま
28.8%と、他市町と比較して高い(図表1-10,11)。
た、空き家は、前回調査(08年)から県内で最多と
なる4,260戸増加しており、そのうち4,250戸が「賃
貸用」である。
(注)本章では、行政区分上の県北地域(9市町村)のうち、臨海地域を「県北臨海地域」
、それ以外の市町を「県北中山間地域」として扱う。
’
15.4
15
図表 1-14 【県北臨海地域】空き家数及び空き家率(13 年)
(単位:戸、%)
空き家数
二次的住宅
賃貸用
売却用
その他の住宅
空き家率
賃貸用空き家率
売却用空き家率
その他の住宅
空き家率
北茨城市
2,570
150
960
20
1,440
13.4
21.7
0.2
高萩市
1,370
60
510
30
780
10.9
16.1
0.4
日立市
17,010
70
12,390
270
4,290
18.2
30.6
0.6
東海村
2,050
−
890
50
1,110
13.2
19.7
0.5
7.5
6.2
4.6
7.2
ひたちなか市
7,770
130
4,840
50
2,750
11.4
19.2
0.1
4.0
総務省統計局「住宅・土地統計」(13年)をもとにARC作成
日立市は、周辺市への人口移動等を主な背景に、
近年の人口減少が著しい。09 ∼ 13年の5年間の社
会動態はマイナスが続いている(図表1-15)。総務
省が2月に発表した14年の「住民基本台帳人口移動
く、賃貸住宅への需要も大きい、とみている。
図表 1-16 市町村別新設住宅着工戸数(09 ∼ 13 年度)
(単位:戸)
1
つくば市
13,214 16 行方市
2,020 31 桜川市
2
水戸市
12,217 17 笠間市
1,979 32 高萩市
1,008
997
3
ひたちなか市
6,756 18 那珂市
1,906 33 潮来市
778
4
日立市
6,738 19 東海村
1,856 34 境町
723
5
古河市
4,952 20 結城市
1,821 35 茨城町
713
6
土浦市
4,873 21 阿見町
1,790 36 稲敷市
613
7
つくばみらい市
3,536 22 常総市
1,711 37 八千代町
481
8
取手市
3,256 23 下妻市
1,432 38 大洗町
406
9
牛久市
3,110 24 坂東市
1,426 39 利根町
399
10 神栖市
3,064 25 小美玉市
1,394 40 城里町
394
11 筑西市
2,816 26 北茨城市
1,299 41 大子町
242
12 鹿嶋市
2,761 27 かすみがうら市
1,180 42 美浦村
202
13 守谷市
2,747 28 常陸大宮市
1,130 43 五霞町
174
14 石岡市
2,166 29 常陸太田市
1,074 44 河内町
15 龍ケ崎市
2,114 30 鉾田市
1,063
122
県 計
104,653
出所:茨城県住宅課「茨城県住宅着工データ」
報告」によると、転出超過数は1,590人と、2年連
続で全国2位となった。
⑶ 県央地域
しかし、社会減が進む一方で、住宅新設着工戸数
水戸市の空き家数は前回調査から減少
は増加している(図表1-15)。市内の不動産業者に
県央地域では、水戸市の空き家率が16.1%、大洗
よると、1960年頃から開発された市内丘陵部の住宅
町が18.0%とそれぞれ高い(図表1-17)。水戸市で
団地で空き家が発生しているものの、周囲に商業施
は、「賃貸用」の割合が7割弱に達するものの、そ
設がない等、生活利便性が低いために売却例は少な
の他の市町では5割に満たない。
く、駅から近い住宅に購入・賃貸ニーズが集中して
図表 1-17 【県央地域】
空き家の種類別構成内訳(13 年)
いるという。
図表1-15 日立市の新設住宅着工戸数及び社会増減数
(09∼13年)
(単位:戸、人)
2000
1500
1000
500
0
-500
-1000
-1500
-2000
1567
(単位:%)
100
16.1
80
18.0
12.4
(単位:%)
20.0
15.0
12.0
10.7
60
8.7
40
5.0
20
0
09
10
新設住宅着工戸数
11
12
13 (年)
水戸市
笠間市
二次的住宅
その他の住宅
△1,472
10.0
小美玉市
茨城町
大洗町
賃貸用
空き家率(右軸)
城里町
0.0
売却用
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)」
社会増減数(前年比)
出所:茨城県住宅課 HP、茨城県統計課「茨城県常住人口調査(09 ∼ 13 年)
」
水戸市の空き家数は、22,190戸で県内最多で、空
き家率は県内9位となっている(図表1-9,18)。ま
ひたちなか市の空き家率は11.4%にとどまる
ひたちなか市は、09 ∼ 13年度の新設住宅着工戸
た、前回調査から、空き家数は2,930戸減少し、空
き家率も2.9%減となった。
数が6,756戸で、つくば市、水戸市に次いで県内3
市内の空き家は「賃貸用」が大部分を占めるもの
位である(図表1-16)
。しかし、上位2市の空き家
の、不動産業者によれば、現在の賃貸物件の入居率
率はいずれも15%超であるものの、ひたちなか市は
は、以前と比較して大きく落ち込んでいないとい
11.4%にとどまっている(図表1-9,14)。
う。一方、市郊外や古くからの住宅地には、「その
市内の不動産業者は、大型商業施設が立地する
他の住宅」の空き家が数多く見られ、最近では空き
等、住みやすさを理由に日立市等からの転居者も多
家の周囲で不審火が発生する事例も相次いでいる。
’
15.4
16
図表 1-18 【県央地域】空き家数及び空き家率(13 年)
(単位:戸、%)
空き家数
二次的住宅
賃貸用
売却用
その他の住宅
空き家率
賃貸用空き家率
売却用空き家率
その他の住宅
空き家率
水戸市
22,190
420
14,810
280
6,670
16.1
22.5
0.4
笠間市
3,870
200
1,600
70
2,010
12.4
22.4
0.3
小美玉市
2,250
110
910
30
1,200
12.0
31.1
0.2
茨城町
1,280
−
360
110
810
10.7
21.6
1.2
大洗町
1,360
230
440
−
690
18.0
29.5
−
城里町
720
−
70
20
630
8.7
13.5
0.3
4.8
6.4
6.4
6.8
9.2
7.6
総務省統計局「住宅・土地統計」(13年)をもとにARC作成
め、民間賃貸住宅については、産業動向により需給
バランスが崩れる可能性がある。現在、地域の賃貸
用空き家率が高いのは、過去の大量供給が影響して
いると考えられる。
⑸ 県南地域
TX沿線地域では、空き家率は10%以下と低い
県南地域では、土浦市、つくば市、稲敷市、美浦
村、阿見町の5市村で空き家率が15%を超える(図
⑷ 鹿行地域
表1-21)。一方、TX沿線の守谷市、つくばみらい市
地域全体で総じて高い空き家率
では空き家率が10%を下回っている。
鹿行地域は、行方市を除く全ての市で、空き家率
種類別にみると、JR常磐線沿線の土浦市、牛久
が県平均を上回っている(図表1-19)。特に、鹿嶋
市、龍ケ崎市、TX沿線のつくば市、守谷市、工業
市の空き家率は24.3%と、県内で最も高い。
団地のある阿見町では、
「賃貸用」の割合が6割超
種類別にみると、「賃貸用」あるいは「その他の
住宅」が中心であるものの、他地域と比較して、
「二
と高い。また、美浦村、利根町では「その他の住宅」
が8割を超えている。
次的住宅」の割合が高い。特に鉾田市では、「二次
的 住 宅 」 が 全 体 の 5 割 超 を と な っ て い る( 図 表
1-19)。
図表 1-19 【鹿行地域】空き家の種類別構成内訳(13 年)
(単位:%)
100
24.3
80
(単位:%)
30.0
60
18.2
17.6
15.5
20.0
10.0
20
15.8
12.6 13.1 11.8
15.1
18.9
14.5
(単位:%)
20.0
16.6
15.0
9.8
12.6 10.0
8.7
龍
ケ
崎
市
取
手
市
牛
久
市
二次的住宅
その他の住宅
15.0
8.5
40
25.0
図表 1-21 【県南地域】空き家の種類別構成内訳(13 年)
(単位:%)
100
16.1 14.0
80
60
40
20
0
土 石
浦 岡
市 市
つ
く
ば
市
守
谷
市
稲 がか みつ 美
敷 うす らく 浦
市 らみ いば 村
市 市
賃貸用
空き家率(右軸)
5.0
阿
見
町
利
根
町
0.0
売却用
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)
」
5.0
0
鹿嶋市
潮来市
二次的住宅
その他の住宅
神栖市
行方市
賃貸用
空き家率(右軸)
鉾田市
0.0
売却用
移住者の増加に伴い不動産需要が高まるつくば市
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)
」
土浦市の種類別の構成は、「賃貸用」の空き家が
図表 1-20 【鹿行地域】空き家数及び空き家率(13 年)
(単位:戸、%)
空き家数
二次的住宅
賃貸用
売却用
その他の住宅
空き家率
賃貸用空き家率
売却用空き家率
その他の住宅
空き家率
中心となっているものの、「その他の住宅」が3,240
鹿嶋市
7,780
2,210
3,290
170
2,100
24.3
33.4
1.0
潮来市
1,850
20
980
30
820
15.5
32.2
0.4
神栖市
7,260
370
4,270
70
2,540
17.6
29.6
0.3
行方市
960
140
180
30
610
8.5
18.0
0.3
鉾田市
3,410
1,820
480
60
1,050
18.2
25.7
0.4
戸と、水戸市、日立市に次いで多い(図表1-9,22)
。
6.6
6.9
6.2
5.4
5.6
が開通した05年以降、転入超過が続いている(図表
総務省統計局「住宅・土地統計」(13年)をもとにARC作成
市内の不動産業者によれば、市街地、郊外ともに戸
建ての空き家が散在しているという。
つくば市の空き家数は、16,940戸で、水戸市、日
立市に次いで多い(図表1-9)
。しかし、同市ではTX
1-23)
。不動産需要の高まりを背景に、生活利便性
当地域では、鹿島臨海工業地帯の開発とともに、
の高い駅周辺を中心に、住宅地開発が進んでいる。
移住者のための住環境整備が行われてきた。このた
空き家の大部分を占める賃貸住宅についても、不動
’
15.4
17
図表 1-22 【県南地域】空き家数及び空き家率(13 年)
(単位:戸、%)
空き家数
二次的住宅
賃貸用
売却用
その他の住宅
空き家率
賃貸用空き家率
売却用空き家率
その他の住宅
空き家率
土浦市
10,930
350
7,010
330
3,240
16.1
24.7
0.9
石岡市
4,330
110
2,190
60
1,970
14.0
24.8
0.3
龍ケ崎市
4,440
70
2,830
150
1,390
12.6
25.8
0.7
取手市
6,310
50
2,940
500
2,830
13.1
21.6
1.6
牛久市
4,330
200
2,640
70
1,410
11.8
22.9
0.3
つくば市
16,940
20
13,020
1,140
2,760
15.8
22.6
2.4
守谷市
2,550
10
1,700
210
620
9.8
21.9
1.2
稲敷市
2,610
230
660
80
1,650
15.1
27.8
0.6
4.8
6.4
3.9
5.9
3.8
2.6
2.4
9.6
かすみがうら市 つくばみらい市
2,450
1,610
220
100
1,230
370
100
20
910
1,110
14.5
8.7
28.1
9.7
0.9
0.1
5.4
美浦村
1,620
120
70
30
1,400
18.9
4.2
0.6
阿見町
3,540
−
2,330
90
1,120
16.6
30.6
0.7
利根町
880
70
20
30
760
12.6
6.9
0.5
16.4
5.3
10.9
6.0
総務省統計局「住宅・土地統計」
(13年)をもとにARC作成
産業者は、現在のところ、大きな需給バランスの崩
⑹ 県西地域
れはないとみている。
県平均と比較し「賃貸用」の空き家率が高い
県西地域では、筑西市で16.8%、下妻市で15.0%、
図表1-23 つくば市の新設住宅着工戸数及び社会増減数
(05∼13年)
(単位:戸、人)
常総市で15.8%と空き家率が高い(図表1-24)
。種類
5000
別にみると、桜川市、八千代町、境町を除き、
「賃
4000
3438
貸用」の割合が5割を超えている。また、筑西市、
3000
2000
坂東市、下妻市、常総市は、賃貸用の空き家率が3
1,336
1000
0
割超となっている(図表1-25)
。
05
06
07
08
新設住宅着工戸数
09
10
11
12
13(年)
社会増減数(前年比)
図表 1-24 【県西地域】空き家の種類別構成内訳(13 年)
出所:茨城県住宅課 HP、茨城県統計課「茨城県常住人口調査(05 ∼ 13 年)」
(単位:%)
100
80
守谷市、つくばみらい市は空き家数も少ない
16.8
13.9
11.5
14.5
15.0
15.8
11.0
60
7.2
40
同じくTX沿線の守谷市では、
「賃貸用」の空き家
20
の割合は高いものの、全体の空き家数は2,550戸と
0
少ない。つくばみらい市も、新設住宅着工戸数が多
桜
川
市
筑
西
市
結
城
市
古
河
市
二次的住宅
その他の住宅
い 一 方 で、 空 き 家 数 は1,610戸 に と ど ま る( 図 表
坂
東
市
下
妻
市
八
千
代
町
常
総
市
賃貸用
空き家率(右軸)
(単位:%)
18.0
16.0
10.8 14.0
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
境
町
売却用
出所:総務省統計局「住宅・土地統計調査(13 年)
」
1-16,22)。
阿見町では、「賃貸用」の空き家が2,330戸と、戸
数ベースでみるとそれほど多くないものの、県南地
筑西市では「賃貸用」の空き家が急増
域で唯一、賃貸用空き家率が30%を超えている。
筑西市は、前回調査から空き家数が2,520戸増加
図表 1-25 【県西地域】空き家数及び空き家率(13 年)
(単位:戸、%)
空き家数
二次的住宅
賃貸用
売却用
その他の住宅
空き家率
賃貸用空き家率
売却用空き家率
その他の住宅
空き家率
桜川市
1,710
30
580
20
1,080
11.5
29.7
0.2
筑西市
7,230
70
4,870
40
2,260
16.8
35.1
0.2
結城市
2,130
30
1,310
10
790
11.0
26.0
0.1
古河市
8,190
390
4,460
450
2,890
13.9
25.9
1.2
坂東市
2,880
80
1,440
50
1,310
14.5
36.2
0.3
下妻市
2,570
30
1,760
10
770
15.0
34.0
0.1
常総市
3,670
40
2,600
30
1,000
15.8
44.5
0.2
八千代町
500
20
160
20
300
7.2
28.6
0.3
7.2
5.3
4.1
4.9
6.6
4.5
4.3
4.3
総務省統計局「住宅・土地統計」(13年)をもとにARC作成
’
15.4
18
境町
950
450
20
480
10.8
20.8
0.3
5.4
しており、その9割弱を「賃貸用」が占めている。
賃貸用空き家率が県内最高の常総市
市内の不動産業者によると、近年は人口の社会減が
古河市は、空き家率が13.9%、賃貸用空き家率が
続き(図表1-26)、駅周辺に集中的に建設されたア
25.9%と、周辺各市と比較するとそれほど高くな
パートの空室が目立っているという。
い。日野自動車の進出により、従業員向けのアパー
トが多く建設されているものの、需給バランスは保
図表 1-26 筑西市の社会増減数
(前年比)
(09 ∼ 13 年)
(単位:人)
0
△100
常総市は、賃貸用空き家率が44.5%と県内で最も
△200
高い(図表1-25)。法務省「在留外国人統計」によ
△300
ると、市内には14年6月末時点で4,152人の在留外
△400
△500
△565
△600
△700
△800
たれているとみられる。
国人が居住し、県内ではつくば市に次いで2番目に
多い。外国人の多くは中心市街地のアパートに居住
09
10
11
12
13 (年)
出所:茨城県統計課「茨城県常住人口調査
(09 ∼ 13 年)
」
しながら、市内の工場に勤務している。ブラジル人
等の外国人労働者は、職を求め全国を移動するケー
スが多く、市内の賃貸用空き家率の推移は、地域の
産業動向に左右されるとみられる。
【筑西市を中心とした県西地域の不動産業者の声】
県西地域の住宅市場について、不動産業者から以下の指摘があった。
地域の住宅市場は落ち込みが目立つ
い場合等において、親が亡くなった後に実家を
・人口減少が影響してか、新築住宅の着工数は、
処分せず、空き家になるケースが多い。
以前と比較し落ち込んでいる。
・住宅の購入・賃借希望者が、より利便性の高い
小山、つくば等の周辺地域を選択する例が増え
・子供が地元に就職していても、実家が生活に不
便な地域にある場合には、他の地域に出てい
き、土地と家を購入するケースも少なくない。
ている。
・結城市の国道50号線沿いは、商業施設が集中し
ていることもあり、人気エリアとなっている。
・賃貸住宅は、筑西市内の中心市街地等、一部の
エリアで供給過剰となっている。
住民が安心して生活できる環境づくりが必要
・空き家問題の解決には、地域の人口減少問題を
解決していくことが不可欠である。高度な専門
医療が可能な施設や、大型商業施設の誘致等、
住民が安心して生活できる環境づくりが求めら
利便性を求め他地域に移住し空き家となる
れる。
・親世帯のみで生活し、子世帯が地元には戻らな
’
15.4
19
第 2 章 行政の取り組み状況
本章では、国による空き家対策を整理するとともに、アンケートをもとに県内市町村の空き家対策の現状と
課題を確認する。
1.国による空き家対策の動向
中古住宅の建物評価手法の改善
国による空き家対策について、中古住宅の市場流
現在の中古住宅流通市場においては、築年数のみ
通促進及び流通を目的としない空き家の除却・利活
を基準とする評価(築後20 ∼ 25年で建物価値をゼ
用の2点から確認する。
ロとみなす)が一般的で、補修による劣化状態の違
い等を踏まえた評価を行うための基準がない。
⑴ 中古住宅の流通促進に向けた取り組み
「新成長戦略」(20年に市場規模を20兆円に)
06年の「住生活基本法」の制定により、国は、ス
トック重視の施策展開を打ち出した。政府は、「新
成長戦略」(10年6月18日閣議決定)で、20年まで
そこで、「中古戸建て住宅に係る建物評価の改善
に向けた指針」を設け、不動産・金融市場での評価
に係る考え方の定着を図っている。指針における評
価方法の基本的な考え方は以下のとおりである。
・住宅を基礎・躯体部分と内外装・設備部分に区
に中古住宅流通・リフォーム市場を現状(10年時点)
分し、それぞれを評価のうえ合算
の10兆円から20兆円規模に倍増させるとの目標を
・基礎・躯体は住宅診断の結果等をもとに、性能
掲げた。その後発表された「日本再生戦略」
(12年
に応じ20年より長い耐用年数(評価上の経過年
7月31日閣議決定)
、「日本再興戦略」
(13年6月14
数)を設定
日閣議決定)でも、この方針を引き継いでいる。
・基礎・躯体部分の性能が維持される限り、適切
な内外装・設備の補修等を行った場合、住宅の
「中古住宅・リフォームトータルプラン」
使用価値が回復・向上すると捉え評価に反映(図
市場規模の倍増に向け、国土交通省では12年3月
表2-1)
に「中古住宅・リフォームトータルプラン」を策定
した。プランでは、以下の5点から今後講ずる施策
を取りまとめている。
①中古住宅流通を促す市場の環境整備
②リフォーム市場の環境整備
③既存住宅ストックの質の向上の促進
④中古住宅流通・リフォームの担い手の強化
⑤住環境・街並みの整備
図表 2-1 評価のイメージ
︻
内
外
装
・
設
備
︼
残存
価値
︻
基
礎
・
駆
体
︼
残存
価値
部位A
部位C
部位B
部位D
基礎・駆体の機能が維持されてい
る限り、
何度でも補修等を行うことが可能
築年数 補修等による価値向上の効果を評
価にも反映
現状の市場価値は
20∼25 年でゼロに
築年数
適切な劣化対策や維持管理が行わ
れていれば、基礎・駆体の機能は
長期間維持
基礎・駆体の機能が維持される期間
出所:国土交通省 HP
プランの策定を受け、現在、国では、中古住宅市
場活性化に向け、
「中古住宅の建物評価手法の改善」
国では、この指針をもとに、15年中を目途に、宅
と、「ライフステージに応じた住み替えの促進」を
建業者や不動産鑑定士向けの評価ツールとなる「中
中心とした施策を展開している。
古住宅性能基準」
(仮)を設定する予定である。
’
15.4
20
ライフステージに応じた住み替えの促進
子育て世代、高齢者等、それぞれのライフステー
ジに応じた住み替えの円滑化に関しては、
(独)住
宅金融支援機構が、各種住宅ローンの供給支援を
いる。しかし、指導や調査権限の不足や、所有者の
特定が困難であること等から、十分な対策が採られ
ないケースも多かった。
こうした背景から、同法では、特定空家等※に対
する助言又は指導、勧告及び命令の措置や、措置の
行っている。
具体的には、若年層に対しては、証券化支援事業
実施に必要な立入調査の権限を市町村長に認めて
(フラット35)において、リフォームを含めた中古
いる。また、市町村長が、空家等の所有者を把握す
住宅の取得に対する融資を実施している。
また、住宅融資保険事業として、より利便性の高
るための固定資産税情報等を内部利用することも
可能としている。
い住宅等へ住み替えるシニア層に対し民間金融機
国は、法に基づき、空家等に関する施策を総合的
関が行うリバースモーゲージ型住宅ローンの支援
に実施するための基本指針を15年2月に策定した
(金融機関への付保)を実施している。
(図表2-2)。今後、各市町村で基本指針に即した「空
家等対策計画」を策定することとなる。
⑵ 空き家の除却・利活用に向けた取り組み
空家等対策の推進に関する特別措置法の制定
適切に管理されていない空き家等への措置の規
特定空家等に該当するか否かを判断する際に参
考となる基準や一連の手続きに関しては、国が別途
ガイドラインを定める予定である。
定を含む「空家等対策の推進に関する特別措置法」
固定資産税等に関する措置
が、14年11月に成立した。
14年10月時点で、全国の401の自治体が、空き家
現在の住宅用地の特例措置では、適切に管理され
の管理や所有者への指導等に関する条例を定めて
ていない空き家の敷地についても、固定資産税の軽
図表 2-2 空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針【概要】
「空家等対策の推進に関する特別措置法(平成 26 年法律第 127 号)」第 5 条に基づき、国土交通大臣及び総務大臣が定めることとされている。
一 空家等に関する施策の実施に関する基本的な事項
1 本基本指針の背景
⑴ 空家等の現状
⑵ 空家対策の基本的な考え方
①基本的な考え方
・所有者等に第一義的な管理責任
・住民に最も身近な市町村による空家対
策の実施の重要性 等
②市町村の役割
・空家等対策の体制整備
・空家等対策計画の作成、必要な措置の
実施 等
③都道府県の役割
・空家等対策計画の作成・実施等に関す
る市町村への必要な援助の実施 等
④国の役割
・特定空家等対策に関するガイドライン
の策定
・必要な財政上の措置・税制上の措置の
実施 等
2 実施体制の整備
⑴ 市町村内の関係部局による連携体制
⑵ 協議会の組織
⑶ 空家等の所有者等及び周辺住民からの
相談体制の整備
3 空家等の実態把握
⑴ 市町村内の空家等の所在等の把握
⑵ 空家等の所有者等の特定及び意向の把
握
⑶ 空家等の所有者等に関する情報を把握
する手段
・固定資産税情報の内部利用 等
4 空家等に関するデータベースの整備等
5 空家等対策計画の作成
6 空家等及びその跡地の活用の促進
7 特定空家等に対する措置の促進
・ガイドラインを参照しつつ、「特定空
家等」の対策を推進
8 空家等に関する対策の実施に必要な財
政上・税制上の措置
⑴ 財政上の措置
⑵ 税制上の措置
・市町村長による必要な措置の勧告を受
けた「特定空家等」に対する固定資産
税等の住宅用地特例の解除
二 空家等対策計画に関する事項
1 効果的な空家等対策計画の作成の推進
2 空家等対策計画に定める事項
⑴ 空家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空家等の種類その他の空家等
に関する対策に関する基本的な方針
・重点対象地区の設定、空家等対策の優先順位の明示 等
⑵ 計画期間
・既存の計画や調査の実施年との整合性の確保 等
⑶ 空家等の調査に関する事項
・対象地区、期間、対象など調査内容及び方法の記載 等
⑷ 所有者等による空家等の適切な管理の促進に関する事項
⑸ 空家等及び除却した空家等に係る跡地の活用の促進に関する事項
⑹ 特定空家等に対する措置その他の特定空家等への対処に関する事項
⑺ 住民等からの空家等に関する相談への対応に関する事項
⑻ 空家等に関する対策の実施体制に関する事項
・各部局の役割分担、組織体制、窓口連絡先などの記載 等
⑼ その他空家等に関する対策の実施に関し必要な事項
・対策の効果の検証、その結果を踏まえた計画の見直し方針 等
3 空家等対策計画の公表等
三 その他空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するために
必要な事項
1 空家等の所有者等の意識の涵養と理解増進
2 空家等に対する他法令による諸規制等
3 空家等の増加抑制策、利活用施策、除却等に対する支援施策等
出所:国土交通省 HP
※特定空家等とは、問題性が高く何らかの措置が必要とされる空き家等を指す。法律上は、①そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるお
それのある状態、②著しく衛生上有害となるおそれのある状態、③適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態、④その他
周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態 の4点が明記されている。
’
15.4
21
減対象となる(図表2-3)。この特例措置が、危険な
図表 2-4 空き家対策の実施
(n=43)
空き家が放置される要因の一つではないか、との指
0
5
10
15
20
25
30
実施している
摘がなされていた。
そこで、特措法に基づき、必要な措置をとること
実施していない
35
32
11
を勧告された特定空家等の敷地については、固定資
産税等の住宅用地特例の対象から除外されること
現在の対策は空き家の実態調査の実施が最多
となった(適用は15年度内を予定)
。これにより、
現在実施している対策については、「所有者情報
今後、特定空家等の所有者等の自発的な改善の意志
等、管内の空き家の実態調査の実施」が24市町村で
が促されることが期待される。
最も多かった(図表2-5)。次いで、「条例の制定」
が14市町村、
「空き家バンク等、利用希望者に対す
図表 2-3 現行の住宅用地特例
小規模住宅用地
(200㎡以下の部分)
一般住宅用地
(200㎡を超える部分)
1/6に減額
1/3に減額
固定資産税の課税標準
る空き家情報の提供」が9市町村、
「空き家に関す
る相談窓口の設置」が7市町村であった。
出所:国土交通省資料等をもとにARC作成
図表 2-5 現在実施している空き家対策(複数回答)
(n=32)
0
空き家再生等推進事業
国土交通省では、居住環境の整備改善を図る観点
20
14
条例の制定
9
7
空き家に関する相談窓口の設置
老朽した空き家除去に係る費用助成等の実施
30
24
空き家バンク等、利用希望者に対する空き家情報の提供
から、空き家等の除却・活用を促進する地方公共団
体の取り組みに対し、財政支援を行っている。
10
所有者情報等、管内の空き家の実態調査の実施
1
空き家居住者に対する家賃助成
15年度からは、市町村による「空家等対策計画」
他団体が実施する空き家を活用した事業への助成の実施
の策定に必要な、空家等の実態把握に要する費用が
その他
5
助成対象に加えられる予定である。
2.県内市町村の空き家対策
ここでは、県内市町村の空き家対策について、ア
ンケートの結果から確認する。
未実施の市町村の過半数で実態調査を予定
空き家対策を実施していない市町村が、今後取り
組みを予定する空き家対策は、「所有者情報等、管
内の空き家の実態調査の実施」が5市町村で最も多
⑴ アンケートの調査日・調査対象・調査方法
15年1月9日∼2月4日にかけて、県内44市町村
の空き家対策担当部署に、郵送によるアンケートを
かった(図表2-6)。続いて、「条例の制定」、「空き
家に関する相談窓口の設置」、
「その他」が3市町村
であった。
実施し、43市町村から回答を得た。
図表 2-6 今後予定する空き家対策(複数回答)
(n=11)
0
⑵ アンケート結果
施 し て い な い 市 町 村 は11市 町 村 で あ っ た( 図 表
2-4)。7割超の市町村が何らかの対策を実施してい
た。
3
3
空き家に関する相談窓口の設置
空き家バンク等、利用希望者に対する空き家情報の提供
1
老朽した空き家除去に係る費用助成等の実施
空き家居住者に対する家賃助成
他団体が実施する空き家を活用した事業への助成の実施
その他
3
特に空き家対策の実施は予定していない
3
’
15.4
22
4
6
5
条例の制定
対策を実施している市町村は7割超
空き家対策を実施している市町村は32市町村、実
2
所有者情報等、管内の空き家の実態調査の実施
「特に空き家対策の実施は予定していない」は、
3市町村であった。
町村で最も多かった(図表2-9)。次いで、「住民か
らの問い合わせや相談、情報提供はほとんどない」
が10市町村、
「週に数回程度、住民からの問い合わ
条例への記載項目は調査、指導、命令が上位
せや相談、情報提供がある」が4市町村であった。
14市町村が制定する条例のうち、所有者等への対
応に関する項目では、
「管理不全な空き家の実態調
図表 2-9 住民等からの問い合わせ、
情報提供等の状況
(n=43)
0
査」、
「管理不全な空き家の所有者に対する勧告、指
10
導」、
「管理不全な空き家の所有者に対する命令」が
週に数回程度、住民からの問い合わせや
相談、情報提供がある
全ての条例に記載されていた(図表2-7)。
図表 2-7 条例に含まれる所有者等への対応に関する項目
(複数回答)
(n=14)
10
15
管理不全な空き家の実態調査
14
管理不全な空き家の所有者に対する勧告、指導
14
29
13
命令に従わない所有者等の住所、氏名の公表
11
管理不全な空き家の立ち入り調査
8
放置が公益に反する等、やむを得ない場合の行政代執行
1
命令に従わない所有者等に対する過料の納付等の罰則
その他
10
住民からの問い合わせや相談、情報提供は
全くない
14
管理不全な空き家の所有者に対する命令
空き家の撤去に関する費用の補助
40
4
住民からの問い合わせや相談、情報提供は
ほとんどない
5
30
月に数回程度、住民からの問い合わせや
相談、情報提供がある
行政代執行の規定は、8市町村であった。
0
20
毎日、住民からの問い合わせや
相談、情報提供がある
1
衛生上の問題や景観悪化に関する相談が最多
住民等からの相談内容では、「空き家周辺での不
法投棄等、衛生上の問題、景観悪化に関する相談」
が26市町村で最も多かった(図表2-10)。続いて「空
き家周辺の不審者、不審火等、治安悪化に関する相
談」が18市町村、「空き家の利活用に関する相談」
条例に基づく指導件数は市町村によって差
が10市町村であった。
条例に基づく指導件数は、
「10 ∼ 49件」が4市町
図表 2-10 住民等からの問い合わせ、
相談内容
(複数回答)
(n=33)
村で最も多かった(図表2-8)
。
回答をみると、指導・調査件数が10件に満たない
市町村から、300件近い市町村まで様々であった。
図表 2-8 条例に基づく指導等の件数(調査件数も含む)
(n=14)
0
10
(周辺住民等から)空き家周辺の不審者、
不審火等、治安悪化に関する相談
18
(空き家利用希望者等から)空き家の利活用に
関する相談
10件未満
2
100∼149件
3
その他
30
26
10
(空き家所有者等から)空き家の処分
(売却、貸借含む)の手続きに関する相談
200件以上
2
150∼199件
1
20
(周辺住民等から)空き家周辺での不法投棄等、
衛生上の問題、景観悪化に関する相談
9
3
10∼49件
4
空き家の実態把握や関係課との連携に課題
50∼99件
2
今後の対策に係る課題は、「管内の空き家の実態
把握」が23市町村と最も多く、次いで「所内関係課
との連携」が21市町村、
「対応に係る対応職員数、
住民からの問い合わせは月に数回のペース
空き家に関する住民等からの問い合わせや相
談、情報提供については、
「月に数回程度」が29市
事業予算の不足」が19市町村であった(図表2-11)
。
なお、
「その他」の回答の大半は、
「所有者の特定」
であった。
’
15.4
23
図表 2-11 今後の対策に係る課題
(複数回答)
(n=43)
0
10
20
21
所内関係課との連携
対策に係る対応職員数、事業予算の不足
19
警察、自治会等、他団体との連携
15
11
対応課・対応窓口の決定
7
空き家バンク等への登録数の伸び悩み
7
その他
無回答
30
23
管内の空き家の実態把握
2
に上る。
・空き家対策として、空き家の実態調査や条例の
制定を行っている市町村が多い。また、対策未
実施の市町村の過半数が、実態調査の実施を予
定している。
・現在制定されている全ての空き家条例で、調査
の実施、所有者への指導、命令について規定さ
れていた。
・7割弱の市町村で、月に数回程度、住民等から
の空き家に関する問い合わせや相談が寄せられ
⑶ まとめ
る。相談内容は、衛生上の問題や景観悪化に関
市町村アンケートのポイントをまとめると、以下
の通りである。
・空き家対策に取り組む市町村は、全体の7割超
【Topics 1】
するものが多い。
・約半数の市町村が、管内の空き家の実態把握や
所内関係課との連携を今後の課題と考えている。
空き家バンクの実施状況と利用促進の課題
空き家バンクとは
空き家バンクとは、自治体や業界団体等が、空
全国で374市町村に達し、前回調査(09年度)から
129市町村増加した(図表2-12)。
き家の売却や賃貸を希望する所有者が登録した物
件情報をホームページ等で公開することによっ
図表 2-12 市町村における空き家バンクの実施状況
(全国)
(09 年度、
13 年度)
(単位:%)
0
て、新たな入居者や購入者を募集する制度である。
空き家の利活用だけでなく、移住・交流促進策
の一環として、他地域から新たな住民を呼び込む
ことにより、地域活性化につなげる目的で設置す
る自治体も多い。
自治体が設置する場合、空き家所有者と利用希
20
40
60
現在、実施している
現在、実施していないが、今後は
実施する計画がある
13.8
13.4
現在、実施しておらず、今後も
実施の予定はない
空白
80
54.4
(245)
62.9
(374)
30.9
23.4
0.9
0.3
09年度(n=450)
13年度(n=595)
出所:一般社団法人移住・交流推進機構「『空き家バンク』を活用した
移住・交流促進事業自治体調査報告書」(14年3月)
望者との連絡調整や、物件の売買、賃貸借に関す
る交渉、契約等の仲介は、自治体と協定等を締結
した業界団体等が行うことがほとんどである。
物件の登録件数、成約数は横ばい状態
一方、空き家バンクへの物件の登録状況につい
ては、
「登録件数はほとんど変わらず横ばいである」
全国で空き家バンクを実施する市町村が増加
一般社団法人移住・交流推進機構が、14年3月
が48.9%となっており、登録件数が全国的にあま
り増加していないことがわかる(図表2-13)
。
に全国の自治体を対象に実施した「『空き家バンク』
を活用した移住・交流促進事業自治体調査」によ
登録物件の成約数についても、13年度は「成約
ると、13年度に空き家バンクを実施した市町村は
件数はほとんど変わらず横ばいである」が57.5%
’
15.4
24
図表 2-13 市町村における空き家バンクへの物件の登録
件数の過去数年間の動向(全国)
(09 年度、
13 年度)
0
20
40
登録件数は増加傾向にある
17.6
17.1
7.3
3.2
0
成約件数は増加傾向にある
49.8
48.9
登録件数は減少傾向にある
空白・未記入
(単位:%)
60
25.3
30.7
登録件数はほとんど変わらず
横ばいである
図表 2-14 市町村における空き家バンク登録物件の成約に
至った件数の過去数年間の動向(全国)
(09 年度、13 年度)
09年度
(n=450)
13年度
(n=595)
出所:一般社団法人移住・交流推進機構「『空き家バンク』を活用した
移住・交流促進事業自治体調査報告書」(14年3月)
20
空白・未記入
60
(単位:%)
80
15.1
19.8
成約件数はほとんど変わらず
横ばいである
成約件数は減少傾向にある
40
56.7
57.5
16.7
15.5
11.4
7.2
09年度
(n=450)
13年度
(n=595)
出所:一般社団法人移住・交流推進機構「『空き家バンク』を活用した
移住・交流促進事業自治体調査報告書」(14年3月)
に達し、「成約件数は増加傾向にある」は19.8%に
リフォーム等に係る修繕費を助成する市町村もあ
とどまっている(図表2-14)。
る(図表2-15)。
県内市町村でも空き家バンクを設置する流れ
現在、県内でも笠間市や利根町等の市町村が空
き家バンクを実施している。しかし、各実施自治
体とも、全国同様に、登録物件数の伸び悩みが課
題となっている。
このため、空き家バンクの利用促進に向けて、
登録物件利用者への購入費・家賃や、登録物件の
図表 2-15 空き家バンク登録物件利用者等への支援例(笠間市)
・空き家バンク登録物件を取得する入居者等に対し、土地建物の購入費の3%
(30万円限度)を補助
・空き家バンク登録物件を貸借する入居者(新規転入者のみ)に対し、家賃2 ヶ
月分(10万円限度)を補助
※物件に5年以上居住すること
・登録物件の個人所有者、または物件の入居者(新規転入者のみ)に対し、
修繕費用の1/2(50万円限度)を補助
※市内事業者が修繕工事を実施する事
※登録物件の個人所有者は、空き家を自己の3親等内の親族に貸与又は譲渡
するときには、補助金を返還しなくてはならない
出所:笠間市HP
行政と連携し空き家対策を実施
各市町村と空き家バンクの媒介業務や物件情報提供に関する協定を締結し、行政と
連携して空き家対策を実施する、公益社団法人茨城県宅地建物取引業協会に、取り
組み内容や対策の課題について話を伺った。
公益社団法人 茨城県宅地建物取引業協会 会長 山田 守氏
県内不動産の流通の活性化に向け活動
当協会は、宅地建物取引業の適正な運営を確保
所有者把握や調査権限不足を課題とする市町村が
多数
するとともに宅地建物取引業の健全な発展を図る
県内の空き家の増加は、業界でも大きな課題と
ことを目的に67年に設立されました。会員業者に
して捉えられています。業者間においても、売買・
対する講習会の実施や、一般消費者向けに不動産
賃貸を問わず、中古住宅の対応に関する課題が山
無料相談所の運営等を行う他、上部団体の(公社)
積しています。
全国宅地建物取引業協会連合会と連携し、国に土
当協会では、まずは課題を明らかにしようと、
地や住宅に関する税制改正や政策提言を実施して
13年に空き家対策の現状について、市町村アン
います。
ケートを実施しました。
アンケートの結果からは、空き家の所有者の把
’
15.4
25
握や調査権限の不足について、多くの市町村が課
市窓口で市営住宅待機者等へ住宅情報を提供
題を抱えていることがわかりました。空き家条例
また、12年10月につくば市、13年9月には土浦市
を制定している市町村も一部ありましたが、まだ
とそれぞれ、
「民間賃貸住宅情報提供事業に関する
居住可能な物件も多いため、除却への対応をメイ
協定」を締結しました。これは、住宅確保要配慮
ンとした条例の制定だけでは解決できない、との
者や市営住宅への入居待機者等、安価な賃貸住宅
声も聞かれました。
を求める人に対して、市窓口で当会員業者が持つ
一方で、危機感を抱いていても、実際の対策に
賃貸住宅の空き室情報を提供するというものです。
ついては、まだ具体的に動くことができていない
市営住宅は、利便性の高い住宅や築年数の浅い
市町村が多いのが現状です。空き家問題は、多岐
住宅に申し込みが集中し、入居まで長期間待たな
に亘るため、行政だけでは解決が難しいのが実態
ければならないケースも少なくありません。民間
です。
の賃貸住宅を積極的に活用することで、入居希望
者の選択の幅を広げることができます。
15年2月現在で8市町村と協定を締結
当協会では、積極的に各市町村と「空き家バン
地域貢献の意味で空き家問題に取り組む
ク」の媒介業務や、不動産売却物件の情報提供に
空き家問題への取り組みは、不動産流通市場の
関する協定を締結しています。市町村によって協
活性化と地域経済の発展に貢献する意味があると
定の内容は様々ですが、原則として、当協会の会
考えます。行政との積極的な連携は、会員である
員である不動産業者が物件に係る契約交渉業務を
宅建業者のビジネスチャンスの拡大にもつなが
行います。15年2月現在で、協定締結数は8件に
り、中古住宅を活用して希望者に住んでもらうこ
達しました。
とで地域の人口流出を防ぐことができます。今後
とも他の主体との連携を強めながら、地域の空き
家問題の解決に向けて取り組んでまいります。
第 3 章 事業者等の空き家問題への取り組み
本章では、空き家関連ビジネスの現状や地域課題解決に向けた空き家対策等について、県内外の不動産業者や
NPO法人等にヒアリング調査を実施した。
1.空き家関連ビジネス実施事業者等
所有者ニーズに即した空き家相談サービスを実施
∼東急リバブル株式会社(東京都渋谷区)
経営企画部広報課長 櫻井 弘久氏
設立:1972年 資本金:13億9,630万円 従業員数:2,780名(連結)
東急電鉄沿線を中心に全国的に店舗を展開
当社は、72年に東急不動産㈱の流通部門が独立
し、設立されました。売買仲介を中心に、不動産ソ
リューションや不動産販売、新築販売受託等のサー
’
15.4
26
ビスを実施しています。対象エリアは東急沿線をは
試算金額を提示することです。売却については、手
じめとする首都圏が中心ですが、関西や地方都市に
数料や登記、譲渡税等の経費を差し引き、手元に残
も店舗を展開しています。
る資金まで示します。
賃貸についても、リフォーム費用等、市場に流通
13年7月より相続相談サービスを開始
させるまでにかかるコストや、経年し老朽した場合
当社では、長年、不動産売買仲介事業に携わって
の賃料の引き
きましたが、13年7月から相続に係る不動産の処分
下げのリスク
等に関する相談サービス「プロの『相続×不動産』
等を勘案し
診断」を開始しました。
て、10年 間 の
通常、相続相談サービスは税理士や信託銀行等が
収支及び初期
実施することが多いのですが、このサービスでは、
投資の回収時
税理士法人と協力し、相続税と不動産の両面から診
断を行うことで、相続人同士のトラブル防止や節税
「リバブル『空き家』相談」で提示される
診断報告書
期を示しま
す。
対策につなげています。サービスは好評で、これま
でに800件程の相談がありました。
売却、賃貸希望者にはサポートメニューを用意
売却や賃貸を希望する方へのサポートの一つ
空き家所有者の多くが処分方法に悩む
に、「リバブル売却保証システム」があります。こ
相続相談サービスを実施する中で気付いたの
れは、審査後の物件が一定期間内に売却できなかっ
は、空き家に関する相談が非常に多いということで
た場合に当社が購入を保証するシステムです。この
す。特に、空き家の処分に関し、どこに相談したら
他にも、弁護士法人と連携した無料法律相談の受付
良いのかわからない、という声が多くありました。
等、様々なサポートメニューを用意しています。
そこで、14年3月に首都圏に空き家を所有する
300名を対象にアンケート調査を実施したところ、
首都圏では中古物件のニーズが存在
空き家の取得は半数が相続によるもので、処分方法
首都圏では、マンション等の建築可能エリアも限
についても半数以上が具体的にどうするか決めて
られているため、人気エリアでは新築物件が見つか
いないことがわかりました。
らないことも多くなっています。そのため、中古物
件も視野に入れて家を探す購入希望者も多く、ニー
アンケートを踏まえ空き家相談サービスを開始
ズはあると感じます。
アンケートの結果を踏まえ、空き家の総合的な診
一方で、売主と買主との間では、長年、互いに住
断・提案を行う「リバブル『空き家』相談」サービ
宅に関する情報不足が課題となっていました。以前
スを14年8月から開始しました。サービスでは、建
は、物件の診断というと、粗探しをされるようで不
物耐震診断等の現地調査を経た上で、売却・賃貸・
快に感じる売主も多くいました。しかし、メリット
管理の3つの視点から、診断報告書を作成します。
を示すことで、
「物件を売りやすくするために実施
診断に係る費用負担はありません。
する」との考えが広まりつつあります。
首都圏は特に中古住宅のニーズがあるにもかかわ
シミュレーションに基づく試算金額を提示
らず、空き家が放置され流通していない実態があり
空き家相談サービスの大きな特徴は、単に査定価
ます。その流動性を高めていくことが、当社の役割
格を示すだけでなく、シミュレーションに基づいた
だと考え、今後も空き家対策を進めてまいります。
’
15.4
27
ホームインスペクション(住宅診断)の普及を通じ中古住宅の流通活性化に取り組む
∼NPO法人 日本ホームインスペクターズ協会(東京都渋谷区)
理事長 長嶋 修氏
ホームインスペクターの
資格試験・研修等を実施
インスペクションの普及率は10%に満たない
通常のインスペクションであれば、実施者に特段
当協会は、住宅購入者向けのホームインスペク
の資格要件等は設けられていません。しかし、現
ションの普及や、ホームインスペクター(住宅診断
在、年間45 ∼ 50万戸流通する中古住宅のうち、ホー
士)の育成を通じ、住宅流通の透明化、活性化を促
ムインスペクションの普及率は10%にも満たない
すことを目的に08年に設立されました。現在は、公
のが現状です。これは、70 ∼ 100%の割合でインス
認ホームインスペクターの資格試験の実施、育成や
ペクションが実施される欧米諸国と比較し、極めて
スキルアップのための研修等、住宅診断の普及活動
低い数字です。また、不動産会社とインスペクター
を実施しています。
が癒着して検査が実施されるようなことを防ぐに
は、検査における第三者性の確保と実施者共通の評
目視検査が基本
価基準の設定が重要となります。
ホームインス
日本では、これまでこうした基準が未整備でした
ペクション(住
が、中古住宅流通の活性化に係る市場整備の一環と
宅診断)とは、
して、13年6月、国土交通省は「既存住宅インスペ
住宅に精通した
クション・ガイドライン」を策定しました。ガイド
ホームインスペ
ラインでは、インスペクションの適正な実施を図る
クター(住宅診
断士)が、第三
ために、検査事業者が共通して取り組むべき事項を
インスペクションのようす
まとめています。
者的な立場から、住宅のコンディションについて見
極めアドバイスを行う専門業務です。具体的には、
中古取得が家計での安定的な資産形成に寄与
住宅の劣化状況、欠陥の有無、改修すべき箇所やそ
中古住宅であっても、現在は、ローンを組んで購
の時期、おおよその費用について診断を行います。
入する消費者が大半です。金融機関による中古住宅
検査の深度(レベル)によって実施方法は様々で
評価の確立が欠かせません。そのため、買主、金融
すが、一般的には、対象箇所は屋根裏や床下には潜
機関双方の住宅診断が、これからの中古住宅の流通
らずに確認できる範囲とされ、内容は目視を中心と
活性化にとって必要と考えられます。
した非破壊検査が基本となっています。
インスペクション等が普及し、中古住宅の価値が
長期間維持されるようになれば、資産価値の低下に
買主側からの診断実施依頼が大半
現在、約1,000人のホームインスペクターが業界
伴う消費意欲の減退も緩和され、各家計での安定的
な資産形成につながると考えています。
内で活躍しています。当協会の関連会社である㈱さ
くら事務所には約50人が在籍し、年間2,200 ∼ 2,400
今後の市場拡大には診断士の養成や教育が必要
件程度の検査を実施しています。同事務所が実施す
インスペクションをはじめ、市場での流通環境が
るホームインスペクションでは、8割超が買主側か
整備されれば、中古住宅の流通量は、少なくとも
らの依頼、残りが売主や買取・再販業者からの依頼
200万戸程度は確保できるはずです。また、若い世
となっています。
代の中には、新築への興味がそれほど高くなく、価
’
15.4
28
格の安い中古住宅に魅力を感じる人も多いため、中
ん。大学等では中古住宅やインスペクションについ
古市場拡大の可能性は高いと感じます。
て学ぶ機会が少ないのが現状です。当法人では、今
業界全体が、中古住宅やリフォーム市場を重視す
後とも、インスペクターの養成やセミナーの開催等
る方向へ変わっていくのであれば、診断士の養成や
を通じて、インスペクションの普及啓発に積極的に
建築に関する教育にも注力しなければなりませ
取り組んでまいります。
【Topics 2】
中古住宅に関する住民意識
中古住宅の品質や性能に不安を持つ声が多数
国土交通省が13年に全国の住宅購入者を対象に
フォーム費用等で割高になる」が30.4%で続いて
いる。
実施した「住宅市場動向調査」では、中古住宅を
また、選ばなかった理由では、
「隠れた不具合が
選んだ理由として、
「予算的にみて手頃だったから」
心配だった」
、「耐震性や断熱性等、品質が低そう」
との回答が8割超で最も高い(図表3-1)。
との回答が3割弱に上る。中古住宅の流通促進に
一方、中古住宅を選ばなかった理由では、
「新築
の方が気持ち良いから」が60.2%で最も高く、「リ
は、住宅の品質や性能に関する不安を取り除いて
いく必要があると考えられる。
図表3-1 新築か中古かの選択理由(複数回答)
中古住宅にした理由【中古戸建住宅取得世帯】
0.0
20.0
40.0
中古住宅にしなかった理由【注文住宅取得世帯】
(単位:%)
60.0 80.0
予算的にみて手頃だったから
0.0
20.0
40.0
(単位:%)
60.0
80.0
新築の方が気持ち良いから
リフォーム費用等で割高になる
隠れた不具合が心配だった
耐震性や断熱性等、品質が低そう
給排水管等の設備の老朽化が懸念
間取りや台所等の設備や広さが不満
価格が妥当なのか判断できない
見た目が汚い等不満だった
保証やアフターサービスが無いと思った
その他
無回答
新築住宅にこだわらなかった
リフォームで快適に住める
間取りや設備・広さが気に入った
品質が確保されていることが確認されたから
住みたい地域に新築住宅が無かったから
早く入居できるから
保証やアフターサービスがついていたから
その他
無回答
出所:国土交通省住宅局「平成25年度住宅市場動向調査」
2.県内不動産業者等
県北地域特有の空き家問題の解消に取り組む
∼株式会社 日立ライフ(日立市)
取締役 不動産事業本部長 林 貞夫氏(中央)
取締役 不動産事業本部副本部長 和田 高明氏(右)
不動産事業本部副本部長兼ひたちなか支店長 西名 幸司氏(左)
設立:1939年 資本金:10億円 従業員数:631名
県北・県央地域を中心に幅広く事業を展開
た生活関連サービス事業を展開しています。
当社は、日立製作所のグループ会社として、1939
不動産事業では、県北・県央地域を中心に、注文・
年に設立されました。不動産関連事業をはじめとし
分譲住宅、リフォーム、マンションの販売、不動産
’
15.4
29
賃貸やホテル、フィットネスの運営等、幅広く事業
を展開しています。
市内丘陵部にある住宅地で空き家が増加
本社のある日立市では、近年、人口減少が著し
く、また、高度経済成長期に市内丘陵部に相次いで
建設された住宅地を中心に高齢化が進み、空き家が
増加しています。
市内丘陵部の住宅地は戸建住宅が中心ですが、一
ひたちなか市内に設置されたモデルルーム
時期に同年代の方が集中して購入・入居したため、
高齢化が急激に進んでいます。生活利便性を求め、
保証するわかりやすい仕組みをつくることで、住宅
他地域に移り住む方がいる一方、子の多くは、市外
のメリットが明示され、買い手は不安なく購入する
や県外に出てしまい、実家に戻る機会も少ないため
ことができます。
空き家が増加しています。
また、自宅リフォーム並びに中古住宅購入後のリ
フォームの参考例として、ひたちなか市内で築35年
課題はインセンティブ不足とニーズのミスマッチ
超の物件を買い取り、一定期間モデルルームとして
中古住宅の流通を促進させるには、所有者にとっ
活用しています。リフォーム後の住まいを見学して
て売却・賃貸するインセンティブが必要です。空き
もらうことで、買い手の不安感を取り除くことに努
家の所有者に話を聞くと、
「売却するほど資金に
めています。
困っていない」、
「急に処分する必要はない」
、
「貸し
ても大した家賃はとれない」等の理由で、売却・賃
地域の課題解決へ向けた根本的な対策が重要
貸しないケースが多いようです。賃貸する場合は、
空き家対策は、「なぜ空き家になるのか」という
所有者がリフォーム費用等を負担しなければなら
視点が重要となります。事例一つひとつに対処して
ないため、入居者が確保されなければなかなか踏み
いくことも重要ですが、
「人口減少や高齢化にどう
切れない、と言います。
対処していくのか」という地域全体の方向性が決ま
また、買い手・借り手にとっても、安さや広さの
らなければ、事業を実施しても単なる個別の対策と
メリットよりも、利便性を重視して、市内丘陵部で
しかなりません。根本にある地域の課題を解決する
はなく駅から近い住宅に希望が集中してしまいま
ためには、民間事業者の取り組みだけでは限界があ
す。こうしたニーズのミスマッチも、中古住宅流通
り、行政を含めた他の主体との連携が欠かせませ
促進の課題です。
ん。
当社は、日立市において日立製作所の社宅跡地等
中古住宅の販売に関し5つの安心保証を付与
の再開発を実施、ひたちなか市内でも、市と協働で
ミスマッチを少しでも解消できるよう、当社では
駅前再開発や中心市街地活性化事業を進めてきま
中古住宅販売に関し、住宅診断の実施や住宅の資産
した。今後も地域の課題を意識しながら、中古住宅
価値を見える化する「家歴書(家の履歴書)」の作
の普及はもとより、こうした再開発にも意欲的に取
成等、5つの安心保証をつけています。中古住宅を
り組んでいきたいと思います。
’
15.4
30
県央地域を中心に中古物件の利活用を積極的に推進
∼香陵住販 株式会社(水戸市)
代表取締役 薄井 宗明氏
経営統括本部次長 中野 大輔氏(写真)
設立:1981年 資本金:9,880万円 従業員数:170名
水戸市内の賃貸物件への入居率は90%以上
向きに考える所有者がいる一方、
「相続人が多数い
当社は、水戸市、ひたちなか市を中心とした不動
るため一人では決められない」等、処分に消極的な
産賃貸・売買業者です。アパート、マンションを含
所有者も多いのが現状です。また、バブル期に高値
め、11,000戸の物件を管理しています。
で購入した所有者にとっては、査定価格の安さも売
水戸市内の賃貸物件への入居率は93%程度で、震
却を渋る理由の一つとなっています。
災後に他県からの入居者が増加したこと等から、入
居率が上昇し、現在も高水準が続いています。
居住以外にも中古住宅には様々な活用方法がある
しかし、市場に流通すれば、中古物件にニーズが
ファミリー向けから単身者向けへ需要が変化
賃貸物件に関しては、以前はファミリー向け戸建
て物件の需要が多かったのですが、現在は、単身者
向け物件の需要が伸びています。水戸市内に単身の
転勤者が増加したことが要因でしょう。
あることは確かです。居住目的以外にも、例えば、
中古住宅を高齢者向けの介護施設に活用する等、
様々な活用方法が考えられます。
当社でも、もともと賃貸で出ていた戸建て物件
を、借り手となった介護事業者がリフォームし、デ
また、これまで、水戸駅周辺の中心部は商業用地
イサービス施設として利用した例や、共同住宅の一
が中心でしたが、現在は、地価も安くなり、駅前に
室に医師が往診を行うスペースを設け、在宅療養支
マンションが建設されるようになったことで、街な
援療養所併設型の高齢者向け賃貸マンションとし
かへの居住者が増えています。中心市街地における
て活用した事例があります。
賃貸物件の入居率は高いと感じています。
空き家の利活用は合わせ技で対応
空き家の処分に消極的な所有者も多い
放置された物件をいかに流動させていくかが、今
市内の空き家については、手入れされていない物
後の空き家問題の鍵となります。当社では、様々な
件が目立ちます。当社では、昔からの住宅地である
活用事例を組み合わせ、分かりやすい形で紹介し、
水戸市内の双葉台地区において、目視で空き家と確
売主、買主・借主に対してもっとアピールしていき
認できる340戸をピックアップし、持ち主に住宅の
たいと思います。
活用を提案しています。これまでに、3割程度の所
水戸市は、人口も多く、市内の人の流れも活発で
有者と面会し、活用の意向等について聞き取りをさ
すが、潜在的な予備軍も含めると、空き家数はさら
せていただきました。
に多いと考えます。今後も増え続ける空き家に対処
その中では、査定依頼や、現在の住宅を売却し利
便性の高い地域に住み替えようと、住宅の処分を前
するためには、空き家の利活用について、複数事例
の「合わせ技」で対応していく必要があります。
’
15.4
31
県南地域で空き家ビジネスを展開
∼一誠商事 株式会社(つくば市)
取締役 営業事業部長(TXエリア担当)兼つくば本社営業部長 植北 浩典氏
設立:1979年 資本金:1,000万円 従業員数:179名
つくば市内を中心に
9店舗を展開
ようです。
当社では、14年から空き家管理サービス「巡回く
当社は、つくば市内を中心とした県南地域に営業
ん」を開始しました。親の介護施設への入所等によ
所を9店舗設置し、賃貸管理の他、土地売買、リ
り、売却・賃貸の予定はないものの、実家を管理で
フォーム工事請負等の不動産事業を展開しています。
きない方の利用を主に想定しています。同業者でも
空き家の管理サービスを始める業者は多く、サービ
同じ市内でも利便性の高さによって人気に差
スのニーズは高いと感じています。
県南地域の住宅市場は、TX沿線や常磐線ひたち
野うしく周辺を中心に、新たな宅地分譲等、動きが
建物検査サービスにより中古売買のリスクを軽減
非常に活発です。特に、守谷市内やみらい平(つく
また、同じく14年から中古物件の建物検査サービ
ばみらい市)、みどりの(つくば市)等は、都心に
ス「すまいの太鼓判」を開始しました。検査の実施
近く、かつ埼玉、千葉よりも価格が安いことから、
により、買主にとって安心が得られるだけでなく、
他県のお客様にも好評です。
売主にとっても売却後のリスクを軽減できるメ
「駅に近い」
、
「商業施設が充実」
、
「小学校が近い」
リットがあります。検査は外部の有資格者に依頼し
という生活利便性の3つの条件が揃っている物件
ており、公正に実施され、売却・購入ともに安心し
は、非常に人気があります。一方で、つくば市内で
て決めることができると、好評です。
も利便性の低い物件は、売れ行きが良くありません。
空き家問題を契機に多主体によるサービス提供を
地域の製造業の動向により賃貸住宅需要は変化
つくば市をはじめとする県南地域は、今後も人口
賃貸物件に関しては、新築・中古ともに、つくば市
増加が予測されています。県内外からの移住者の住
内では95%、土浦市・阿見町内では90%の入居率を
宅を確保するためには、新築だけでなく、旧団地の
目指しています。地域全体の需給バランスは崩れて
活用等、中古住宅もその受け皿となるよう、業者は
いないものの、入学や異動のシーズンである春や秋の
行政と協調して活用を促していかなければならな
時期には一時的に供給過剰になることもあります。
いでしょう。
また、常総市や坂東市、阿見町等の賃貸住宅の需
これまで不動産業者は住まいの提供をメイン業
給関係には、地場の製造業の動向も影響していると
務としてきましたが、空き家問題を一つのきっかけ
みられます。地域企業に勤める、外国人労働者や派
遣社員用のアパート需要の変動により、空室状況は
大きく変化しています。
14年から空き家管理サービス事業を開始
取手市、牛久市等の常磐線沿線には70年代に建て
られた古い団地が多く、団地内で空き家問題が発生
しています。つくば市内は、まだ中古物件数は少な
いものの、農村部では徐々に空き家が増加している
空き家管理サービス事業の基本サービス
’
15.4
32
として、今後は子育てサービスや商業施設の立地
なく、多くの主体が連携して具体的なサービスの仕
等、住まいと生活サービスを一体で提供していく視
組みを構築し提供することで、まちの魅力は高まる
点が必要になるのではないでしょうか。行政だけで
のではないかと考えます。
【Topics 3】
多様化する空き家の利活用
現在、単に居住する以外にも様々な空き家の利活用事例がある。
ここでは、代表的な事例の一部を確認する。
【公的施設として活用】
空き家をコミュニティスペース等の公的施設と
り手にとって、家賃が通常より安く、居住者同士
での交流を深められる等のメリットがある。
して活用する取り組みがある。県内でも、牛久市
一方、13年には、狭い空間をシェアハウスと称
が12年に、子どもと遊びながら子育て中の親同士
して貸す、いわゆる「脱法ハウス」問題が報道さ
が交流をはかる子育て支援施設「牛久市すくすく
れた。国土交通省でも、規模に関係なくスプリン
広場」を、空き家であった民家に移設した。
クラー設置を義務付ける等、新たな基準を今後制
また、公的賃貸住宅への需要に対応するため、
定する予定である。
空き家である民間住宅を公的住宅として活用する
事例もある。財
【DIY型賃貸】
政難で公営住宅
DIY型賃貸とは、賃貸住宅の契約において、借
の建て替えが困
り手が費用負担をして自由に修繕や模様替え等を
難な自治体に
行い、退去時も原状回復を不要とするものであ
とっても大きな
る。14年に国土交通省が発表した「個人住宅の賃
メリットがあ
牛久市が設置する「すくすく広場」
る。
貸流通を促すための指針(賃貸借ガイドライン)
」
にも盛り込まれた(図表3-2)。
貸し手は、入居前の修繕に係る費用を軽減でき
【福祉施設として活用】
空き家の活用の中でも、事例が多いのが、高齢
る一方、借り手には、自分好みに部屋をカスタマ
イズできるメリットがある。
者向けの介護施設等への転用である。高齢化が急
図表3-2 DIY型賃貸の概念図
速に進展する中、介護施設等、その受け皿の確保
が急務となって
お り、 戸 建 て・
共同住宅の別に
関 わ ら ず、 多 様
な活用方法が考
えられる。
民家を活用した小規模多機能型居宅
介護施設(㈱日立ライフ)
【シェアハウスとして活用】
シェアハウスは、一部屋ごとに貸す形式で、借
出所:国土交通省HP
’
15.4
33
3.まちづくりとして空き家対策を実施する事業者等
コーディネーターとして団地再生に取り組む
∼NPO法人 ちば地域再生リサーチ(千葉市)
戸村 達彦氏 東 秋沙氏
大学教員が中心となりNPO法人を設立
プロの業者によるリフォームとDIYリフォームを
当法人は、千葉市美浜区にある千葉・海浜ニュー
組み合わせた「ハイブリッドリフォーム」も人気で
タウンにおいて、大学教員と地域住民がともに地域
す。これは、ペンキ塗りや壁紙張り等、出来る限り
の諸課題に対応し、暮らしやすいまちづくりを行う
のリフォームは住民自ら行い、水回り・配管設備等
ことを目的としています。千葉大学工学部の服部岑
の難しいところのみを専門業者に依頼するもので
生名誉教授が中心となり、03年に設立されました。
す。当法人で、工事範囲や使用材料等について、業
現在は、常勤スタッフ3名、主婦や定年退職した
者とのコーディネートを行うため、責任の所在が明
地域住民を中心とした非常勤スタッフ6名で事業
確になりトラブルを防止できます。
を実施しています。
高齢化や建物の老朽化等が地域の課題に
海浜ニュータウンは、1966年から埋め立てにより
開発が始まりました。公団分譲、民間分譲、県営住
宅、UR都市機構等、様々な住宅のタイプが入り混
じっている点が特徴の一つです。
ニュータウン内では、近年、高齢化率の上昇に伴
う孤独死の増加や高齢者見守り体制の欠如、周辺地
域で働く外国人の増加に伴う対応、建物の老朽化
等、様々な課題が生じています。また、エレベー
自分好みの部屋作りができると好評のDIYリフォーム
ターが未設置の住宅も多く、高齢の住民が日常生活
に支障をきたし始めています。
コーディネーターとして中古住宅の流通を促進
空き家が増加する背景として、デザイン性に乏し
ハード、ソフト両面から包括的な視点で支援を
い物件が多いために相対的に競争力が弱く、入居希
実施
望者も、既存の中古住宅流通の物件の中で、好みに
公的な団地再生支援は例も少なく、内容は建て替
えや施設整備等のハード面が中心です。そこで、当
合った物件を探すことは難しいことが挙げられま
す。
法人では、住まいのリフォームの他、空き店舗の活
そこで、国のモデル事業を活用し、入居者が物件
用等、コミュニティの維持や地域経済の活性化等の
を購入したり、借りた後にリモデル・リフォーム(間
ソフト面も併せて、包括的な視点で支援を行ってい
取り変更)を実施する仕組みを導入しました。当法
ます。
人がコーディネーター役として情報提供や事業者
の紹介を行うことで、希望に沿った満足度の高いリ
業者とDIYを組み合わせたリフォームを実施
フォームが実現され、ミスマッチが解消できます。
団地内の住宅のリフォームについては、ふすま張
この事業では、市や宅建業協会、住宅の管理組合
替え等のリペア・リフォームの他、住民向けのDIY
と連携し、地域の中古住宅の流通促進を行っていま
講習会を開催しています。
す。
’
15.4
34
ミスマッチの解消が空き家問題解決につながる
ます。
当地域は、都内まで快速で30分程度というアクセ
当法人では、今後とも国のモデル事業等を積極的
スの良さもあり、中古住宅のニーズは高いと考えて
に活用し、研究的なアプローチを継続しながら、地
います。問題は、借主・買主と貸主・売主との間の
域の課題解決に向けた効果的な仕組みづくりに取
ミスマッチをいかに埋めていくかという点にあり
り組んでまいります。
【将来を見据えた長期安定的なまちづくり】
∼山万 株式会社(東京都中央区)
山万株式会社は、51年に設立された不動産・開
し、住民の生活の変化に合わせて、マンションか
発業者である。71年より、千葉県佐倉市で「自然
ら戸建て、戸建てからマンションへと住み替えが
と都市機能が調和した21世紀の新環境都市」をテー
可能な体制を整えている。家の買い替えをする際
マに、敷地面積245ha、計画人口3万人(8,400戸)
には、会社側が鑑定金額の100%で家を買い取り、
の「ユーカリが丘」の開発を開始した。
リフォームをして新たに売り出す「ハッピーサー
ユーカリが丘の中心部には、超高層マンション
クルシステム」が適用される。
や大規模商業施設、ホテル等の都市機能が集約し
ている。一方、これらを除く建物は全て平面開発
ユーカリが丘の中には、認可保育所や総合子育
(戸建て)とし、緑地を残し、都市機能と自然が調
て支援センター等を設け、待機児童が出ないよう
和した街としている。
取り組んでおり、新しい子育て世帯も呼び込んで
いる。また、住民の意見を伺うエリアマネジメン
通常のニュータウンは、入居者の年齢層が近
トグループ(御用聞き係)を設置し、毎日戸別訪
く、同時に高齢化する問題が生じるが、ユーカリ
問活動を実施する等、住民との交流を重視しなが
が丘では、年間の供給戸数を概ね200戸に限定し、
らまちづくりを進めている。
長期かつ分散による住宅販売を進めることで、こ
の問題を回避している。
また、戸建てと共同住宅の割合を概ね6:4に
(
『JOYO ARC』2013年9月号調査「つくばエクスプレ
ス沿線地域の現状とこれから」でのヒアリング記事を
もとに再構成)
空き家の活用をまちの魅力向上につなげる
∼有限会社風間総合サービス(栃木県鹿沼市)
代表取締役 風間 教司氏
自宅や空き家を改装し
でも資金を安く抑えるために、自宅を利用したので
カフェを開業
す。現在は鹿沼市と日光市にそれぞれ2店舗のカ
私の本業は、カフェ経営と珈琲豆の卸業です。最
フェを営業しています。次の店舗展開を考えたと
初の店「Cafe饗茶庵」は、鹿沼市にある自宅を改装
き、自分たちで店を築くことを目的に、空き家や廃
して開店しました。当時24歳で資金に乏しく、少し
屋を改装して開業することとしました。
’
15.4
35
市内では中心市街地の空洞化が進行
店を始めてしばらくして、地域に自分と同年代の
若者が少なく、地元の商店街も空き家や空き店舗が
に位置しています。空き店舗等を自ら改装した店が
ほとんどで、カフェや居酒屋、古着屋等、様々な業
種かつ個性的な店が集まっています。
目立ち、賑わいを失っていることに気付きました。
郊外の大型店が好まれるのは、様々な店が集まって
まち歩き用の「ネコヤドMAP」を作成
活気があり、客にとって選択肢が多いことが理由で
ネコヤド大市等のイベントの開催により市内に
しょう。中心市街地にも多くの店ができれば、地域
多くの人が訪れるようになったため、店巡りと併せ
に来る客は増えるのではないかと考えました。
てまち歩きをしてもらおうと「ネコヤドMAP」を
作成しました。マップには、自分たちがおもしろい
06年より創業支援事業「ネコヤド大市」を開催
と思う店やスポットを掲載しています。後日、掲載
自分が開業してから、同様に開業を希望する若手
した店舗から連絡がある等、他世代経営者との交流
経営者から、経営や創業に関する相談を度々受ける
にもつながっています。
ようになりました。そこで、06年から、開業希望者
を集め、創業支援・チャレンジショップ事業「ネコ
ヤド大市」を開始しました。
「ネコヤド」とは饗茶
庵のある「根古屋路地」にちなんだものです。
空き家の利活用もまちの魅力度向上策の一つ
「鹿沼には何もない」と話す市民は多いものの、
住民の明るいキャラクターや風情ある路地等、特徴
ネコヤド大市では、路地の空き地に毎回10店舗程
と思えるものは何でも、少し磨けば価値となりま
度、創業を目指すチャレンジ店が出店します。チャ
す。ここには、他地域の住民にとって魅力が沢山あ
レンジ店はイベントに継続して出店することで、そ
ります。空き家の利活用も同様で、物件の古さや雰
の都度、情報収集や商品改良のきっかけづくり等、
囲気が個性の一つとなります。
試行錯誤し
利活用する空き家に関しても、大家自身が「この
ながら力試
物件はだめだ」と思い込んでいる場合が多いもので
しをするこ
す。流通を促進させるには、物件を放置するデメ
とができま
リットを理解してもらい、様々な活用方法があるこ
す。 ま た、
とを知ってもらうことが必要です。
常連客がつ
鹿沼を地方都市の活性化のモデルケースに
く こ と で、
出店者の自
Café饗茶庵
信にもつながります。
今後は、空き家となった旅館の再生事業を予定し
ています。新たに宿泊施設ができることで、昼以外
の時間帯の経済活動の広がりが期待できます。鹿沼
5年間で15店舗が独立、市内に開業
ネコヤド大市から独立し、開業した店は5年間で
15店舗に上ります。すべて当店から半径300m以内
はどこにでもある地方都市の一つだからこそ、多く
の地方都市の活性化のモデルケースとなり得ると
考えています。
’
15.4
36
第 4 章 空き家問題の解決に向けて
1.空き家の現状と課題の整理
① 経済的課題
⑴ 県内の空き家の現状
中古住宅の評価基準の未整備
需給バランスが崩れ発生する賃貸用空き家
これまで、不動産、宅建業界内では、住宅を築年
県内の空き家は全国同様、増加傾向にある。県内
数だけで評価する流れがあったが、中古住宅の流通
の空き家の内訳は、賃貸用物件が主流であるもの
が促進されるためには、まずは物件の価値が適正に
の、種類構成は地域で違いがみられる。
評価されなければならない。現時点では、補修によ
賃貸用空き家は、需給バランスが崩れることで発
生し、住宅需要は地域の産業動向に左右される面が
強い。そのため、地域によっては、供給過剰となっ
ているケースもある。
る劣化状態の違い等を踏まえて、物件を個別に評価
するための基準がない。
また、国が実施したアンケートからは、消費者が
中古住宅の品質や性能に不安を抱いていることがわ
かった。消費者の安心感を高めるためにも、住宅の
相続や施設への入居で発生するその他の空き家
価値をわかりやすく明示する基準が重要となる。
県内の空き家のうち、賃貸用に次いで多いのが
が、「その他の住宅」であり、より大きな問題とな
所有者が流通・管理方法を理解できていない
る可能性が高い。その他の空き家は、相続や介護施
ヒアリングからは、空き家所有者が、
「相談場所
設への入居等のタイミングで発生する場合が多い。
がわからない」等、住宅の流通・管理方法を理解で
子が所有者となっても、すでに実家を離れ、管理が
きていないという実態がわかった。市場ニーズを把
難しく、また、住宅を売ろうとしても市場が整備さ
握できずに物件が放置されれば、腐朽が進み、流通
れていないために売れない実態がある。更地にしよ
不可能となる場合もある。空き家所有者のための相
うとすると、固定資産税が増額されるため、建物を
談の機会や、利用希望者とのニーズのマッチングを
壊すインセンティブがない。これらの空き家が放置
図る場の設置が求められる。
され、管理を怠ると周囲に悪影響を及ぼす可能性が
また、市町村が実施する空き家バンクも、住宅流
ある。近年、県内の全空き家数に占める、その他の
通の間口を広げる取り組みの一つである。しかし、
空き家の割合は増加しており、今後問題のある空き
実施市町村からは、登録物件数の伸び悩みを指摘す
家の発生に繋がり得る。
る声が聞かれる。
⑵ 県内の空き家の課題
② 社会的課題
空き家問題には、中古住宅が市場で流通・利活用
腐朽の進んだ空き家については除去等の対応が必
しにくいといった経済的課題と、流通せずに放置さ
要となる。以下、社会的側面からの課題についてみ
れた空き家が周囲の住環境を悪化させるという社会
ていく。
的側面の課題との2つがある。経済的課題への対応
は、空き家の放置を未然に防ぐことにも繋がり、空
き家問題解決に向けた柱の一つである。ここではま
ず、経済的課題について整理する。
条例で指導等を定める市町村はまだ一部
周辺に悪影響を及ぼす危険な空き家を放置する所
有者に対しては、各市町村で条例を定め、指導等を
実施している。しかし、現在、県内で条例を定める
’
15.4
37
市町村は14市町村にとどまっている。
が図れ、消費者の安心感にも繋がる。
また、現行制度では、危険な空き家であっても、
基準整備後は、事業者による取り組みの広がりが
固定資産税等の住宅用地特例の対象となり、税額が
期待される。㈱日立ライフや一誠商事㈱のように、
1/6に減額となり、所有者の自発的な空き家の撤去
基準をもとに、建物検査サービスに取り組む県内事
を遠ざけている。
業者が増えれば、県内でも住宅本来の価値を評価す
る仕組みが定着するだろう。
多くの市町村が空き家の実態把握を課題とする
流通不能な物件は、迅速に除却されるべきである
が、市町村へのアンケートによると、空き家の所在や
また、具体的な取引事例が増えれば、今後は、
ローン審査を実施する金融機関等、他の主体が中古
住宅の価値を見直すきっかけともなる。
所有者情報等の実態把握を課題とする市町村が多い。
⑵ デザイン力
2.課題・問題点解決の方向性
所有者が住宅を流通・管理しやすい環境を整備
今後、空き家問題の解決に向けて、各主体に求め
中古住宅や空き家の流通、利活用の促進には、行
られる対応の方向性について、「潜在力」・「デザイ
政・事業者双方による所有者が住宅を流通・管理し
ン力」・「連携力」の観点からまとめていく。
やすい環境の整備が必要だ。
東急リバブル㈱では、空き家の処分に関する提案
⑴ 潜在力
を行う相談サービスを実施し、所有者の具体的な行
空き家を魅力あるストックとして認識する
動に繋げている。事業者が実施するこうした個別的
空き家は、「魅力あるストック」とプラスイメー
なアプローチは、所有者が住宅を市場に流通させる
ジで捉えることで、貴重な地域資源となり得る。し
までのハードルを下げ、市場での物件の流通量を増
かし、消費者の意識が中古住宅へと向かわなけれ
やすうえで重要となるだろう。
ば、積極的な流通・利活用は難しい。
消費者の意識の向上には、更なる認知度の向上が
バンク登録数増にはインセンティブ付与も一案
必要となる。消費者に対し中古住宅に関する普及啓
自治体が実施する空き家バンクの登録数を増や
発に取り組むのは、事業者だけでなく県や市町村の
すためには、空き家が放置される前に、いかに登録
役割でもある。
に結びつけられるかが重要となる。例えば、周辺住
具体的には、牛久市のように空き家を公的施設と
民より情報提供があった際には、すぐに所有者との
して活用する他、空き家バンクの設置を通じ、空き
接触を図る等、実施市町村には、迅速な対応が求め
家や中古住宅が魅力あるストックとして消費者に
られる。
認識されるよう、情報発信に取り組む必要がある。
また、笠間市等で実施するように、登録者・利用
者に対する修繕費の支援等、登録・利用に関し、何
住宅本来の価値を評価する仕組みを定着させる
中古住宅の価値が適正に認識されるためには、行
らかのインセンティブを付与することも一案であ
る。
政による統一的な評価基準の設定が必要となる。国
では現在、宅建業者等向けの中古住宅の性能基準設
定の準備を進めている。
ニーズを結びつけるコーディネーターの必要性
空き家には、居住用だけでなく、コミュニティス
この性能基準を取り入れるかどうかは事業者次
ペース等としての活用方法もある。しかし、空き家
第であるものの、国が統一的な基準を設定すること
活用のニーズはあるものの、物件の所在等の情報を
で、事業者の建物検査サービスに関し、質の均一化
把握しにくい実態がある。
’
15.4
38
所有者と利用希望者のニーズを結びつけるには、
まちづくりと一体で空き家問題を考える
ちば地域再生リサーチのような地域の住宅事情に詳
空き家問題は、住宅市場の問題だけでなく、人口
しいコーディネーターの役割が必要となる。県内に
移動や高齢化、人口減少等、地域の諸課題と密接に
はこうした団体は少ないものの、香陵住販㈱が、買
絡み合っている。中古住宅の流通促進や利活用の推
主・借主にニーズに合った様々な活用事例の紹介を
進だけでは、今後予想される更なる空き家の増加に
実施しているように、地域の不動産業者が代替する
は対処できにくくなる。
方法が考えられる。
民間事業者である山万㈱は住宅の年間供給戸数を
設定する等、まちづくりの観点から計画的な取り組
⑶ 連携力
みを実施している。今後は行政も、個々の対応だけ
計画や判断基準の策定に関し連携体制を整える
でなく、人口が減少する中でのまちづくりの一環と
「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定
されたことにより、危険な空き家を放置する所有者
に対する指導等に関する条例を制定する市町村は、
今後、県内でも増えると予想される。
して、空き家対策に一体的に取り組んでいく必要が
ある。
また、空き家発生の要因の一つである人口の流出
を防ぐためには、生活利便性はもとより、「このま
また、15年の税制改正により、特措法に基づき必
ちに住み続けたい」と住民自身が考えるまちでなけ
要な措置をとることを勧告された特定空家等の敷地
ればならない。㈲風間総合サービスの風間氏は、地
については、住宅用地特例の減税対象から外される
域にある何気ない特徴もまちの魅力の一つと捉え、
こととなった。法的側面からも危険な空き家の放置
まちづくりを進めている。住民が愛着を持ち、魅力
を避ける環境づくりが進んでいることは確かだ。
あるまちであれば、仮に空き家が発生しても、利用
今後、市町村が除却の対象となる特定空家等の判
希望者も現れやすい。
断基準等を定めた空家等対策計画を策定することと
なる。しかし、多くの市町村が空き家の実態把握を
課題とする中、市町村単独で協議会等を設け、判断
を行うことは難しい。
おわりに
県内は可住地面積が広く、まだ新築住宅を建築す
る余裕がある。そのため、住民の意識は、他地域と
そのため、県には、市町村が互いにあるいは業界
比較しても、より新築住宅に向きやすいかもしれな
団体等と積極的に情報交換を行うことができる場の
い。しかし、人口移動や人口減少が進み、社会環境
設置が求められる。県が、関係者等と市町村とのつ
が変化する中で、これまでと同様に、新築住宅を優
なぎ役となり、連携体制を整えることができれば、
先し建設し続けるリスクについて、事業者、消費者
県内で統一感を持ちながら空き家対策を推進するこ
がそれぞれ考えなければならない。個人の選択を誘
とができる。
導することはできないものの、中古住宅が新築住宅
と遜色ない選択肢の一つとして、捉えられるように
管内の自治会や企業等に情報提供を依頼
地域の空き家の実態把握については、現状では効
なれば、空き家問題は解決に向け、一歩前進するだ
ろう。
率的な把握方法はなく、市町村は、周辺住民からの
空き家の増加がもたらす影響は、現時点では顕在
通報や連絡を地道に集積していく必要がある。しか
化していない部分も多い。しかし、空き家が増える
し、それだけでは情報が乏しい場合、不動産業者と
ことは、地域から人がいなくなった象徴である。空
の協力や、管内の自治会や宅配サービスを実施する
き家問題への取り組みが、今後のまちの方向性を考
企業等に情報提供を依頼することも考えられるだろ
える契機となることは間違いない。
(大川・大和田)
う。
’
15.4
39