Title Author(s) Journal URL (佐藤イクヨ教授開講15周年記念論文)鼻咽腔に原発した 悪性腫瘍の2例 窪, 敦子; 鈴木, 貴美; 金井, 美津; 金子, 輝子; 羽田野, 文江 東京女子医科大学雑誌, 27(8):436-442, 1957 http://hdl.handle.net/10470/12845 Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database. http://ir.twmu.ac.jp/dspace/ (東京女医直孫第27巻第8号頁436−442昭和32年8月) (佐藤イクヨ敏授開講15周年記念論文) 鼻咽腔に原発しアこ悪性腫瘍の2例 東京女子医科大学耳鼻咽喉科学教室(教授佐藤イクヨ) 教 授 窪 敦 子 クポ アツ コ 』鈴 木 貴 美 スズ ギ キ E 金 井 美 津 ミ ツ カナ イ 金 子 輝 子 カネ コ アル’ コ 交 江 田 野 タ ノ フミ 工 (受付昭和32年6月13目) .緒 言 い。 上咽頭腫瘍は一般に稀な疾患であって,特に腫 現病歴:初診2ヵ月前から開放性鼻声に気づき,鼻 瘍の発生部位が発見され難い上咽頭にあり,早期 咽頭炎として医療をうけていろうちに1ヵ月前から右 診断はとかく遅きに過ぎ,叉治療の面でも手術操 側頸都リンパ節の有痛性腫脹が起り,右耳閉塞感,嚥 作がその位置的関係から困難且不完全の事が多 下痛,血性膿性鼻漏を認めるに至り該リンパ節の試切 く,一般悪性腫瘍に比べても更に予後不良のもの 標本検査の上で悪性腫瘍といわれて来院した。 である。従って強力な放射線療法拉びに化学療法 現症:一般的所見として体格,栄養共に中等 が望まれるが,これらの治療に際して治療中止の 度,皮膚に異常なく,平脈,初診時休温37。C, 原因となるのは主として白1血球の減少である。こ 胸腹部は聴打診上及びレ線透視上異常は認められ の度鼻咽腔に原発した細網肉腫症と癌腫の2例に なかった。四肢に浮腫なく,腱反射正常,意識明 遭遇し,白血球減少の回復を企図して用いた種々 瞭であった。局所所見としては,右側頸部リンパ の白血球増多剤使用も所期の目的を達せず,テレ ビン油注射及びセファランチン内服,注射による 白血球増多法を追試しいささか好結果をえて治療 続行中であるのでここに述べる。 症 例 第1例:柴○ノ046才女 初診:・昭和31年2月23目 主訴:右側頸部腫瘤,開放性鼻声 .既往歴:昭和29年血液梅毒反応陽[生にて,サルバフレ サン療法をうけた他医患を知らず。 第1図第1例咽頭所見 家族歴:『母が子宮癌にて死亡せる他特記する事はな Atsuko KUBO, Ki皿i SUZ UKI, Mitsu KANAI・Teruko KANEKO&Fumie HATANO・(Depart− ment of Oto−rhino−laryngology, Tokyo Women’s Medical College) : Two cases of maligmant tumor originated from nasopharynx. 一 436 一 37 節に栂指頭大腫瘤1コをふれ,右前口蓋弓上部に 以上の所見より,右鼻咽腔並に口蓋扁桃に原発 軽度の浸潤あり,右口蓋扁桃は凹凸状に腫大し, した悪性腫瘍を疑い,入院翌日両側扁桃劉出術, 鼻咽腔後壁にも浸潤あり(第1図),右耳管開口部 引き続き右頸部リンパ節捌出を行ったが,何れも 寄りの後壁に小指頭大腫瘤及び潰瘍を認め口臭が 癒着少く簡単に行われた。 あった。いつれも弾力性硬固で疹痛なく,喉頭に 病理組織学的所見:捌出扁桃の重:量は右8g, 著変はなかった。右鼓膜には潴溜三線がみえて中 左2.59で弾性硬,凹凸不平である(第2,3図)。 組織像は,右扁桃は原形質のこまかい突起で互 耳カタルの所見を呈していた。 入院時諸検査成績:一血液所見は赤血球373万, 白血球6,500,1血色素量100%(ザーリー一),血色 素係数1.33。難中等値40mm,血圧1盟/68㎜ Hg,一血液梅毒反応陰性。尿所見に異常なく,体重: 43kg。オージオグラムで右に軽度低音域難聴が認 められた。 撫 難 蓬 .婁 享幾 ..毒婦 、 薫蕊 第4醍醐1例右扁桃H−E染色×420 ハ ...蕊 ・… E. 伽・ @ 叢 ・§惹 1認 P、・. カ:妻 、ぎ 轟罐畑・ ご中’.、 他日蜘 … 躍灘轡騨1聞糊1轡}1畢1 冗 “二.描.、$ 第2図第1例の総出扁桃露出部 、、』驚 .、_、 1灘 P饗 ’.蝋 第5図第1例右扁桃鍍銀法×420 “ ,遂峯 驚 づご簗 5』 ・ 聯 ,織i ..㌃ll㌧鍛 「・隠’「∵灘 t“ ィ 一しんゆ ・灘 左:園嚢 ば ・嚢 ll 轡Ψ麟 1 辮難榔鱒ll轡鱒製 第3図同上埋没部 第6図第1例左扁桃H−E染色×420 一487一 38 に連絡した腫瘍細胞が一様に浸潤して発育し,細 つて著明な白1血球増多をきたしながら,レ線深部 胞は異型が比較的強く,核分裂像も散見された 照射7700r, Azan 420mg注射等の治療を続行中 (第4,5図)。左扁桃は扁桃の構造は保たれてい るが,濾胞中心部の細胞は腫瘍性に増殖する傾向 であるが,腫瘤著明に縮小し現在の処治療効果が 期待されている。 にあった。頸部リンパ節もリンパ節の本来の構造 第2例:多○キ051才女 は認められず,広い範囲に腫瘍細胞が増殖し,異 初診;昭和31年3月13日 型が大変強く核分裂像もかなり多く認められ(第 主訴;鼻出血 6,7,8図),いずれも細網肉腫と診定した。 コ 既往歴;特述する事はない。 家族歴=父が胃癌,母が脳出血にて死亡せる他特記 壁紙 する事はない。 現病歴;初診5ヵ月前から二丁に際しての鼻出血を 縫 認め,1ヵ月前から悪臭鼻漏があり,半月前頃から右 鼻閉塞感に気づいた。約1週間男前から右耳鳴,難聴 に気づいた。 現世:一般的所見として体格栄養共に中等度, 初診時体温37.7。Cの他前例と同じく著変はみら れなかった。局所所見としては,右前口蓋胃上部 駄 に浸潤性腫脹を認め,鼻咽腔後壁右寄りに浸潤あ 亀 編も 灘灘 り,耳管隆起寄りに大豆大の吊出」血性腫瘍あり, 之は鼻腔からも認められた。拝辞中耳カタルの所 第7離調1例リンパ節H−E染色×420 見も呈していた。 入院時諸検査成績:血液所見は赤血球325万, 白血球4,000,血色素量80%(ザーーリー),血色素 係数1.23,蟷中等値31。5㎜,血圧150/9㎞ Hg,』血液梅毒反応陰性。尿所見正常,体重46kg。 オージオグラムで両側高音,右低音難聴を認め た。 本症例は前例に酷似していたので,入院後直ち に扁桃別出,鼻咽腔腫瘍蚊びに頸部リンパ節腫瘤 を捌出したが,扁桃は実質性に増殖してはおら ず,下半部に梢々癒着を示していたが,リンパ節 腫瘍は弾性軟で周囲との癒着が強く癌乳様内容物 第8図第1例リンパ節鍍銀法×420 を有していた。 治療撰びに経過:術後2日目より右鼻咽腔にラ 病理組織学的所見:扁桃は肥大蛇びに慢性炎症 ジウム照射を始め,右側1300mg時,左側500mg 所見を示していたが,鼻咽腔腫瘍蚊びたリンパ節 時照射により鼻咽腔腫瘍は消失したが,軟口蓋に 腫瘤は共に単純癌所見であって腫瘍細胞の浸潤あ 火傷が生じたために中止し,引き続きザルコマイ り,鼻咽腔のものは表層が壊死に陥っていた(第 シン計259,ナイトロミン計480mgを注射後,白 血球減少(3600)をきたした。白.血球増多の目的 9,10図)。 治療拉びに経過:手術後翌日から鼻咽腔にラジ でパニールチン4000mg,グロンサン8000mg,葉 ウム照射を開始し計1750mg時照射した処,白血 酸255mg等の注射,輸血2300㏄を行い,その間も 球著減のためパニールチン4500mg,葉酸390mg, 頸部リンパ節は次々に腫大するので,面出術3回 ゲロンサン1400mg,輸血1900㏄等を用いたが白 施行した。しかし白1血球数の回復云々しからず, .血球数の回復を得られず,セファランチン1日3.O そこで滅菌テレビン油の皮下注射及び貼布法によ mg連日内服と4. Omg隔日注射続行により,白血 一 488 一 39 H26,は60∼90%,本庄7は80%で,男子に多いと されているが,本2例は共に女子であった。年令 別についてみると,松村・田中12’は線維腫は15∼ 19才が70%,15∼25才が90%,肉腫は10∼60才に わたり平均しており,癌腫は40才代が80%と述べ, 本庄7)は線維腫は10才代が大部分で80%,癌腫は 40∼50才代,肉腫は20∼40才代に多いが,両者共 大体あらゆる年令にみられるという。腫瘍の分類 については,松村・田中12)は線維腫35%,肉腫40 %,癌腫25%で肉腫が多いとし,本庄7)は線維腫 36.8%,肉腫32。 3%,癌腫26.5%とし,肉腫では 円形細胞肉腫,細網肉腫が多く,癌腫では扁平上 第9図第2例鼻咽腔腫瘍H−E染色×100 皮癌が多いと述べている。本報告は第1例の細網 肉腫,第2例は扁平上皮癌であっだ。 .早期症状としては,松村・田中12」は線維腫の85 %,肉腫の45%は鼻閉塞より始まり,癌腫の50% は耳閉塞,難聴より始まると,更に病機が進行す ると100%耳管狭窄症状を呈すると述べているが, 概して一側の鼻閉塞,鼻出1血,鼻漏,耳管閉塞症 状及び早期の側頸部リンパ節転移等が起るとは諸 家の報告工)9)21)24)26)27)29)の一致する処である。 主症状は,線維腫の100%は鼻閉塞,85%は鼻 出血であり,肉腫は40∼50%が頸部リンパ節腫大 であると12。本庄7♪は頸部リンパ節転移は肉腫68 第10図第2例リンパ節H−E×100 %,癌腫72.2%に起るという。本報告例の細網肉 球数は投与開始後2週間程から増多を来し,以後 腫例では先ず頸部リンパ節腫大が起り,次いで耳 Azan 490mg,レ線深部照射4000r等の治療をな 閉塞感,血性膿性鼻漏を認めるに到「り,癌腫例で し得て,現在治療続行可能の状態である。 考 は,先ず鼻出血を認めている。Thomas Sz6keiy 按 51)は上咽頭腫瘍の早期診断の際の耳症状の意味と 鼻咽腔悪性腫瘍はその局所的関係から症状の現 して,1つは腫瘍が直接機械的に耳管狭.窄を泡 われ方にかなり特異な点があり,しばしば見逃さ し,他の1つは腫瘍周囲の炎症が耳管に及ぶため れ易い。元来上咽頭視診はおろそかにされ易く, に耳管かタルを起すと意昧づけている。’ 相当に進行した症例では容易であるが,それでも 療法については,鼻咽腔悪性腫瘍は放射線感受 耳症状,鼻症状を合併している場合に診断を誤ま 性の武なる傾向があり9♪,早期診断の下に完全別 られる場合が少くない。Coates等24)はThis area 記後にレ線・ラジウム照射をする1)21)という原則 is the“εilent area”which is frequently misLged は変りないが,星野・浅井9)はこの部の腫瘍の治 in a clinical examination.と述べている如くで 療は局所解剖的関係上,叉早期に脳症状を現わす ある。 ものが:最も多いので腫瘍を別出治癒せしめる事は 上咽頭にきたる悪性腫瘍の発生頻度は,耳鼻咽 甚だ困難,否全く不可能というべきであり,主と 喉科領域の全悪性腫瘍の0.6∼4.6%であり21),上 して放射線治療を採用し,この目的のために軟口 気道全悪性腫瘍黙約3%を占め,又全悪性腫瘍の 蓋の正中線に沿って縦切開を施し穿孔をつぐり, 0.2%を占める29)。Nielsenは全悪性腫瘍中0.75% これよりラジウムを視診し乍ら腫瘍部位に密接固 を占めるといっている。男女別については男子が 定せしめ,7例中3例に2年以上の再発又は転移 松村・田中12は75%,本庶・古川8,Harold L. をみていない。松村・田中12)はラジウム治療は 一 489 一 40 1500mg時で通常ラジウム照射開始後1週間以内 る。従って延命効果を期待するために,放射線及 に腫瘍が収縮レ始めるものは効果ありとし,癌腫 びナイトロミン療法に伴う白.血球減少に由る治療 中断を防ぐべく,従来用いられているところのパ では線維腫,肉腫に比して遙かにラジウム効果は .ニールチン,メチオニン,.VB12, レスタミン, 劣ると述べている。Fransis A. Sooy25)は先ず int・an尋sar septa1・esecti・n,を行い・御こ腫瘍部 グルクロン酸,輸血等を用いたが満足な結果を得 位のintrapastal electrodesicationを行い・つい なかった51015)20)。ついでテレビン油及びセファ でこの部にradioactive cobaltを用,い,50%に ランチンの白」血球減少の予防乃至治療の報告に接 有効であっアζが,腫瘍が頭蓋底にわたっている時 し,これを追試したので以下少しく詳述する。 には殆ご効果なしと.。又Jackson27).は原発巣の テレビン油並びにセファランチンによる白血球 外科的療法と一方放射線療法の施行として3500∼ 増三法についで 4000rを2回行うを可とし,最も効果あるのはレ 1. テレビン油:テレビン油(以下テ油と略) 線の分劃照射とラドンシード刺入との併用である を始めて皮下に注射し治療に供したのは,1890年 と述べ・叉Harold L耳罰)は腫瘍の多くは脳神経 症状を伴っていたり,頸リンパ節がふれても高度 仏国のFochiri6であって,これによって生ずる 膿瘍にAbc6s de fixationなる名称を附した。 の放射線感受性があるが,叉不幸にもどうしでも テ油の白血球増加作用は多くの研究者の認めると 再発が起り,そして次の治療は効果がないといっ ころであり,炎:症性化膿性疾患に広く用いられて ている。原・向井2)の剖検例でなレ線搾部治療, おったが,最近の化学療法の進歩とともにこの治 ラジウム療法,ナイトロミン注射の治療的効果は 療法は歴史的存在としてほとんど顧みられていな 何ら病理組織学上の所見に反映していなかった い。1955年脇坂教授22)は,テ油注射が悪性腫瘍に と。又本庄7)は,放射線,ナイトロミン療法は一 対する放射線及び化学療法時に伴う白血球減少の 時的にしばしば劇的に作用するが,所詮再発をま 予防並びに治療に極めて優れた効果がある事を示 ぬかれず,局所腫瘍の完全別出と転移リンパ肺に された。 はリンパ節倉出のみでなく,今後は当然Radical テ油とは松椎科の植物,ことに尊属の樹木に含 neck dissectionの必要があると唱えている6第1 まれるものである4)。テ油注射による白血球増多 例ではラジウム照射計1800mg時,レ線深部照射 の発生機転は,申枢性肝性調節によって生じた 7700r,ザルコマイシン259,ナそトロミン480mg,・ :Neutrophilin(催白imlk増多物質)の骨髄作用に Azan 420mg,第2例ではラジウム照射1750mg より起るものであるとされている5・1115。本例に 時・レ線画部照射4000r・Azan 490mgを用い・ 用いたテ油は本学薬局に依頼し,局方テ油0.5cc 両翼共頸部リンパ節廓清を行い,局所所見は好転 を1アンプルに封じ100。C蒸気滅菌15分間施した しつつみり,且放射線療法,ナイトUミン療法を ものを用いた。テ油注射方法については,清16)に 可及的続行せしめるべく,第1例にはテレビン油 注射砿第2例ではセファランチン内服,注射を よると皮下注射の方が筋肉内注射よりも反応著明 且持続期間が長いといわれ,従って吾々は第1例 行って治療を続行しえた(後述)。 において最:初皮下注射を行ったが,後述する副作 予後についてみると,鼻咽腔悪性腫瘍はその治 療の期を失せるもの渉多く,且掴所的関係から充 分の治療を行い得ず,死亡率100%であるという 21)。松村・田中12・は予後良好ほ線維腫87%,肉腫 14%,癌腫120%であるが,頸部リ.1ンパ節腫大を認 めるものは予後は悲観的であると。Harold26)は 5年間の生存率は20∼25%,Martin29)は17%で あるとするも,Jackson27)は上咽頭癌に対しては たとへ適当なレ線治療をしても望みなき病気であ ると明言している。すなわち悪性腫瘍の中でも殊 に鼻咽腔悪性腫瘍は予後全く不良の離唖瘍であ 第11図(第1例のD 一 440 一 41 用の一つである落部を緩和する目的で貼布法を行 移動,幼若細胞の出現が諸家の述べる処であり, い第11,12図の如き結果をえた。方法は縦横約 :本例も著明な核左方移動と同時に軽度の単球増加 2cmの六枚折ガーゼにテ油1アンプ。ル0.5ccを浸 がみられた他時変はなかった。 して大腿前面に当て油紙にて被い,約3∼5時閤 後除去した。轟轟後30分で局所にヒリヒリ感を訴 副作用としては,全身発熱,起呼の激痛,発赤 腫脹,無菌性膿非形成がみられる。注射部位の激 えたが特に除去する程でもなかった。白功1球数は 痛は注射量の減量か貼布法により疹痛軽減が図ら 十25∼30%の増加を示し,局所の発赤腫脹が極く れ,発赤腫脹もこの程度の量ならば大した事はな 軽度に認められた。注射量については,脇坂教授 かった。清16は注射後4∼5日後に膿膓形成をみ 22)は0.5ccを,武岡18)19)は0.2∼0.3ccを適量とし ているが,本例では10∼11日後であり,且穿刺排 ている。第1例では始め0.5ccを大腿部伸側皮下 膿により腫脹は消退した。腎・肝に対する作用に に注射したが,落子,発赤腫脹,膿瘍形成の度強 ついてみると,テ油注射は腎・肝に相当の刺激を く,0.2ccにおいてはその度が軽くしかも白.血球 与え,腎に対しては蛋白尿,血尿をきたし4),肝 増多効果もえられた。又前記の如く初回注射後は には肝のうつ.血,中心性脂肪をきたすといわれて 貼護法でも或る程度有効である。 いるが,多くの臨床例においては殆ど障碍は認め テ油注射後の白血球増多の消長に関しては, 清16は注射後一過性減少をきたして後返4∼7日 られない事が報告されている。ただし武岡18・は犬 における実験成績及び臨床的観察によれば,臨床 に最大,第9∼11日に正常値にかえるという。百 的応用範囲を上廻る量の場合でもさほど腎・肝機 瀬15)は注射後第4日目に最:高を示すと,武岡18)は 能障碍は来さず,只予め肝障碍のある揚合のみ 2週間以内にをいて軽々正常に復すると述べてい に,テ油注射によってその障碍の度が更に増悪す る。本例においては2∼4日目に最高を示し約10 日間で注射前の値に戻っている。貼雑法では2∼ る傾向があるが,テ油注射前に腎障碍のあったも のでも病状の悪化はないという。本例も腎・肝機 3日目に増多をきたし,その後3∼4日にて貼布 能の悪化はみられなかった。 前の値に戻っていて,増準率と増多持続期間は短 以上の如くでテ油注射は脇坂等の推奨される如 かかった。従って諸家の成績と併せ考え,レ線治 療を続けながら白一血球減少を防止するにはテ油注 く,悪性腫傷治療時の白一軒球界少の予防並びに治 療に効果があると思われた。 射では10∼14日闇隔で,貼布法では3∼4日間隔 2.セファランチン:セファランチン(以下セ で続行するのが良いように思われた(第12図)。 ファと省略)は防理科の「たまさきつづらふじ」 の根にあるアルカロイドで,嘗って結核の治療剤 冶療総過LA t・i中之。ttr msπ 藷島魚雛’↑ 州 ワ t 7 13 ps ・? 1¶ZI z3 x5 f7 四続 a s r 9 ,・ 日 lr として使用された薬物である。その白一血球増多の 慧的野鞭難薫難羅.難1難樂. 尊 爵 茸 ‘ 作用機転に関しては,網状内皮系或いは植物神経 1 . 『一「..「’「一一丁一一→t「” . 1 1 , 1 , i l l l 醤轟コニー詳亡藁旧抽 等に対し何らかの影響を及ぼし,その結果生じる 1工肝]茸L・耳 ti’ ’K’T一 現象と推測されている17)25,。セファの放射性貧一戸 に対する治療効果については,山下・小林25,,奥 拝 二 し 1一+一十す 原・恒元15),春名5)等の臨床実験例がみられる。 ’ 遵. 琴 蒙 皇 1 毫 鷲 饗 山下25)等は毎日0・5∼3.Omg内服を,叉奥原ユ5・は 1回3mgを治療前に頓服きせ白血球減少抑止作 琴 第12図(第1例の■) 用を認めている。春名5)は長期放射線照射におい テ油注射後の白一血球増多率については,百瀬15) て,セファを持続的に内服せしめる事は比較的簡 は家兎における実験にて,テ油注射目第2日目に 単であり,貧1血の予防及び治療に有効な方法で, 平均十42・2%で・正常家兎の生理的動揺を僅かに 特に白!血球増多に最:も有効であると述べている。 上回るにいたり,第3日目に平均十62. 8%,第4 本例についても第13図にみられる如く,セファ注 日目に平均十58,6%に達する増多を示し,第7日 射として隔日4mg静注を行ったところ,7日目 遅に常に高率の増多を示すと述べている。 より増加し始め,セファ内服連用(1日3mg), テ油注射後の血液像の変化に関しては,核左方 ua R注射の併用により約2週間で約2倍の値を示 一 441 一 42 口演した。) 主要文献 1)後藤修=;日本耳鼻全書,3(2),162(昭28) 2)原董・向井英世:耳鼻臨床,5D(2),81(昭32) 3)春名英之他7名;治療,38,4(昭31) 4)林ヒ t雄:薬理学,245(昭8) 5)林幸男他6名:日本血液学会誌,18,238(昭30) 6)日比野進他2名:診断と治療,40(5),331(昭 27) 7) 本庄晋平:耳鼻口引ロ侯≡季斗, 28 (6), 41.(目召31) 8)本場正一・古川竜患:The Bu11etin of the 第13図(第2例の1) 党療一過・血血ヰ敏・権謁・ 議 17 盈亀羅,購 9)星野貞次・浅井良三:大日耳鼻41(11),1461 酵7r・131h19ユ22「”施争ワρr卸珂922z多 壷粥 田野 旧卿 L L 費 g i ユ0 2s 嵩‘ 2, Yamaguchi Med. Schoo1.2(2),88(昭29) ユ聾瓢・「 @ 訓『「 串 G[ ゴニtt ち 」一「一一一一 10)小山善之:治療,36(7),1(昭29) 11)力武貞之:日本病理学会誌,33,417(昭18) II; ; 1 1一一1一 P LF r LL (昭10) ヨ 一一5.一 員ゴ」1 一刊 5 12)松村 久・田申敬一:耳鼻臨床,43(3),123 黶o (昭25) i l I 13)百瀬蓼之:久留米医学会雑誌,19(2),407(昭 31) 第14図(第2例の■) 14)額田 晋:臨床i薬理学,190(昭8) してきた。なお第14図の如くレ線深部照射を続行 15)奥原政雄・恒元 博:新薬と臨床,4,8(昭28) しても白血球の減少は著明にみられなかった。こ 16)照日太鄭:医学研究,7(2),1405(昭8) の間血液型は,山下25)によると30日後に僅かのリ 17)盈見竜壽:臨床産科婦入科,8,6. ンパ球増加を来し,その後大体において僅かのリ 18)武岡春雄:久留米医学会誌,19,7,1216(昭31) ンパ球増’加を来し続けた。投与中に自覚症及び尿 19)武岡春雄:久留米医学会誌,19,7,1245(昭31) 所見等も異常はみられなかった。このようにセフ 20)梅谷恵子・大塚礼子:臨床外科,10(7),453 (昭30) ァ投与法では患者に苦痛を一与えぬ点から推奨しう 21)山下憲治:耳鼻臨床,35(10),83(昭15) るが,短時日に然も強力に白一血球増多をう、るには 22)脇坂順nt・他2名:治療,37(1),74(昭30) テ油注射の方が有効であると思われる。 結 23)山下久雄・小林公治:放射線障碍予防対策委員 語 鼻咽腔悪性腫瘍の2症例を報告し,且その文献 を照合し,併せてより有効な治療法としての放射 線,ナイトVミン療法の続行を期するために,そ の副作用の一つである白血球減少症に対して,テ 会の発表(昭29) 24) Coatefi : Otolaryngology. 2, 192 (1953) 25) Francis. A. Sooy.:Ann. Oto. LXV. (3), (1956) .?.6) Harold. S.H.:Arch. Oto. 53, 66r−67(1951) レビン油注射並びに貼布法,セファランチン内服 27) Jackson, C.and Jackson, C.L.:Philadelphia, 及び注射法にづいて,文献に自験例を照合し考察 を加え,今後悪性腫瘍の治療上これらの方法を試 28) John, J. Rainey:Arch, Oto. 63, 609(1956) みて然るべき手段の一一つである事を述べた。 29) Lederer,:F.A. Davis company. Phlladelphia W.B. Saunders Company. 189 (1946) W th ed. (1953) 稿を終うに臨み終始御懇篤なる御指導と御校閲の労 30) Martin, H. : New York, Am. Cancer soc. を賜った目下佐藤イクヨ教授及び病理組織学的検査に 御教示戴いた今井教授,放射線療法について御指示下 22rt−23 (1949) さった島津教授並に石原講師の諸先生に厚く謝意を表 31) S261{ely,’Thomas:Zschr. Laryng. 45 (2), します。 (1956) (本稿の要旨は昭和31年第340回日本耳鼻咽喉科学会 32) Walterh6fer, G.:Deut. Arch. f.Klin. Med. 関:東地方会及び第22回東京女子医科大学学会総会にて Bd 135 (1921) 一442一
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