佐藤イクヨ教授開講15周年記 - 東京女子医科大学

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(佐藤イクヨ教授開講15周年記念論文)鼻咽腔に原発した
悪性腫瘍の2例
窪, 敦子; 鈴木, 貴美; 金井, 美津; 金子, 輝子; 羽田野,
文江
東京女子医科大学雑誌, 27(8):436-442, 1957
http://hdl.handle.net/10470/12845
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
(東京女医直孫第27巻第8号頁436−442昭和32年8月)
(佐藤イクヨ敏授開講15周年記念論文)
鼻咽腔に原発しアこ悪性腫瘍の2例
東京女子医科大学耳鼻咽喉科学教室(教授佐藤イクヨ)
教
授
窪
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クポ
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コ
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コ
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江
田
野
タ
ノ
フミ
工
(受付昭和32年6月13目)
.緒
言
い。
上咽頭腫瘍は一般に稀な疾患であって,特に腫
現病歴:初診2ヵ月前から開放性鼻声に気づき,鼻
瘍の発生部位が発見され難い上咽頭にあり,早期
咽頭炎として医療をうけていろうちに1ヵ月前から右
診断はとかく遅きに過ぎ,叉治療の面でも手術操
側頸都リンパ節の有痛性腫脹が起り,右耳閉塞感,嚥
作がその位置的関係から困難且不完全の事が多
下痛,血性膿性鼻漏を認めるに至り該リンパ節の試切
く,一般悪性腫瘍に比べても更に予後不良のもの
標本検査の上で悪性腫瘍といわれて来院した。
である。従って強力な放射線療法拉びに化学療法
現症:一般的所見として体格,栄養共に中等
が望まれるが,これらの治療に際して治療中止の
度,皮膚に異常なく,平脈,初診時休温37。C,
原因となるのは主として白1血球の減少である。こ
胸腹部は聴打診上及びレ線透視上異常は認められ
の度鼻咽腔に原発した細網肉腫症と癌腫の2例に
なかった。四肢に浮腫なく,腱反射正常,意識明
遭遇し,白血球減少の回復を企図して用いた種々
瞭であった。局所所見としては,右側頸部リンパ
の白血球増多剤使用も所期の目的を達せず,テレ
ビン油注射及びセファランチン内服,注射による
白血球増多法を追試しいささか好結果をえて治療
続行中であるのでここに述べる。
症
例
第1例:柴○ノ046才女
初診:・昭和31年2月23目
主訴:右側頸部腫瘤,開放性鼻声
.既往歴:昭和29年血液梅毒反応陽[生にて,サルバフレ
サン療法をうけた他医患を知らず。
第1図第1例咽頭所見
家族歴:『母が子宮癌にて死亡せる他特記する事はな
Atsuko KUBO, Ki皿i SUZ UKI, Mitsu KANAI・Teruko KANEKO&Fumie HATANO・(Depart−
ment of Oto−rhino−laryngology, Tokyo Women’s Medical College) : Two cases of maligmant tumor
originated from nasopharynx.
一 436 一
37
節に栂指頭大腫瘤1コをふれ,右前口蓋弓上部に
以上の所見より,右鼻咽腔並に口蓋扁桃に原発
軽度の浸潤あり,右口蓋扁桃は凹凸状に腫大し,
した悪性腫瘍を疑い,入院翌日両側扁桃劉出術,
鼻咽腔後壁にも浸潤あり(第1図),右耳管開口部
引き続き右頸部リンパ節捌出を行ったが,何れも
寄りの後壁に小指頭大腫瘤及び潰瘍を認め口臭が
癒着少く簡単に行われた。
あった。いつれも弾力性硬固で疹痛なく,喉頭に
病理組織学的所見:捌出扁桃の重:量は右8g,
著変はなかった。右鼓膜には潴溜三線がみえて中
左2.59で弾性硬,凹凸不平である(第2,3図)。
組織像は,右扁桃は原形質のこまかい突起で互
耳カタルの所見を呈していた。
入院時諸検査成績:一血液所見は赤血球373万,
白血球6,500,1血色素量100%(ザーリー一),血色
素係数1.33。難中等値40mm,血圧1盟/68㎜
Hg,一血液梅毒反応陰性。尿所見に異常なく,体重:
43kg。オージオグラムで右に軽度低音域難聴が認
められた。
撫
難
蓬
.婁
享幾
..毒婦
、 薫蕊
第4醍醐1例右扁桃H−E染色×420
ハ
...蕊
・…
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…
躍灘轡騨1聞糊1轡}1畢1
冗 “二.描.、$
第2図第1例の総出扁桃露出部
、、』驚
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第5図第1例右扁桃鍍銀法×420
“ ,遂峯
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左:園嚢
ば
・嚢
ll 轡Ψ麟 1 辮難榔鱒ll轡鱒製
第3図同上埋没部
第6図第1例左扁桃H−E染色×420
一487一
38
に連絡した腫瘍細胞が一様に浸潤して発育し,細
つて著明な白1血球増多をきたしながら,レ線深部
胞は異型が比較的強く,核分裂像も散見された
照射7700r, Azan 420mg注射等の治療を続行中
(第4,5図)。左扁桃は扁桃の構造は保たれてい
るが,濾胞中心部の細胞は腫瘍性に増殖する傾向
であるが,腫瘤著明に縮小し現在の処治療効果が
期待されている。
にあった。頸部リンパ節もリンパ節の本来の構造
第2例:多○キ051才女
は認められず,広い範囲に腫瘍細胞が増殖し,異
初診;昭和31年3月13日
型が大変強く核分裂像もかなり多く認められ(第
主訴;鼻出血
6,7,8図),いずれも細網肉腫と診定した。
コ
既往歴;特述する事はない。
家族歴=父が胃癌,母が脳出血にて死亡せる他特記
壁紙
する事はない。
現病歴;初診5ヵ月前から二丁に際しての鼻出血を
縫
認め,1ヵ月前から悪臭鼻漏があり,半月前頃から右
鼻閉塞感に気づいた。約1週間男前から右耳鳴,難聴
に気づいた。
現世:一般的所見として体格栄養共に中等度,
初診時体温37.7。Cの他前例と同じく著変はみら
れなかった。局所所見としては,右前口蓋胃上部
駄
に浸潤性腫脹を認め,鼻咽腔後壁右寄りに浸潤あ
亀
編も 灘灘
り,耳管隆起寄りに大豆大の吊出」血性腫瘍あり,
之は鼻腔からも認められた。拝辞中耳カタルの所
第7離調1例リンパ節H−E染色×420
見も呈していた。
入院時諸検査成績:血液所見は赤血球325万,
白血球4,000,血色素量80%(ザーーリー),血色素
係数1.23,蟷中等値31。5㎜,血圧150/9㎞
Hg,』血液梅毒反応陰性。尿所見正常,体重46kg。
オージオグラムで両側高音,右低音難聴を認め
た。
本症例は前例に酷似していたので,入院後直ち
に扁桃別出,鼻咽腔腫瘍蚊びに頸部リンパ節腫瘤
を捌出したが,扁桃は実質性に増殖してはおら
ず,下半部に梢々癒着を示していたが,リンパ節
腫瘍は弾性軟で周囲との癒着が強く癌乳様内容物
第8図第1例リンパ節鍍銀法×420
を有していた。
治療撰びに経過:術後2日目より右鼻咽腔にラ
病理組織学的所見:扁桃は肥大蛇びに慢性炎症
ジウム照射を始め,右側1300mg時,左側500mg
所見を示していたが,鼻咽腔腫瘍蚊びたリンパ節
時照射により鼻咽腔腫瘍は消失したが,軟口蓋に
腫瘤は共に単純癌所見であって腫瘍細胞の浸潤あ
火傷が生じたために中止し,引き続きザルコマイ
り,鼻咽腔のものは表層が壊死に陥っていた(第
シン計259,ナイトロミン計480mgを注射後,白
血球減少(3600)をきたした。白.血球増多の目的
9,10図)。
治療拉びに経過:手術後翌日から鼻咽腔にラジ
でパニールチン4000mg,グロンサン8000mg,葉
ウム照射を開始し計1750mg時照射した処,白血
酸255mg等の注射,輸血2300㏄を行い,その間も
球著減のためパニールチン4500mg,葉酸390mg,
頸部リンパ節は次々に腫大するので,面出術3回
ゲロンサン1400mg,輸血1900㏄等を用いたが白
施行した。しかし白1血球数の回復云々しからず,
.血球数の回復を得られず,セファランチン1日3.O
そこで滅菌テレビン油の皮下注射及び貼布法によ
mg連日内服と4. Omg隔日注射続行により,白血
一 488 一
39
H26,は60∼90%,本庄7は80%で,男子に多いと
されているが,本2例は共に女子であった。年令
別についてみると,松村・田中12’は線維腫は15∼
19才が70%,15∼25才が90%,肉腫は10∼60才に
わたり平均しており,癌腫は40才代が80%と述べ,
本庄7)は線維腫は10才代が大部分で80%,癌腫は
40∼50才代,肉腫は20∼40才代に多いが,両者共
大体あらゆる年令にみられるという。腫瘍の分類
については,松村・田中12)は線維腫35%,肉腫40
%,癌腫25%で肉腫が多いとし,本庄7)は線維腫
36.8%,肉腫32。 3%,癌腫26.5%とし,肉腫では
円形細胞肉腫,細網肉腫が多く,癌腫では扁平上
第9図第2例鼻咽腔腫瘍H−E染色×100
皮癌が多いと述べている。本報告は第1例の細網
肉腫,第2例は扁平上皮癌であっだ。
.早期症状としては,松村・田中12」は線維腫の85
%,肉腫の45%は鼻閉塞より始まり,癌腫の50%
は耳閉塞,難聴より始まると,更に病機が進行す
ると100%耳管狭窄症状を呈すると述べているが,
概して一側の鼻閉塞,鼻出1血,鼻漏,耳管閉塞症
状及び早期の側頸部リンパ節転移等が起るとは諸
家の報告工)9)21)24)26)27)29)の一致する処である。
主症状は,線維腫の100%は鼻閉塞,85%は鼻
出血であり,肉腫は40∼50%が頸部リンパ節腫大
であると12。本庄7♪は頸部リンパ節転移は肉腫68
第10図第2例リンパ節H−E×100
%,癌腫72.2%に起るという。本報告例の細網肉
球数は投与開始後2週間程から増多を来し,以後
腫例では先ず頸部リンパ節腫大が起り,次いで耳
Azan 490mg,レ線深部照射4000r等の治療をな
閉塞感,血性膿性鼻漏を認めるに到「り,癌腫例で
し得て,現在治療続行可能の状態である。
考
は,先ず鼻出血を認めている。Thomas Sz6keiy
按
51)は上咽頭腫瘍の早期診断の際の耳症状の意味と
鼻咽腔悪性腫瘍はその局所的関係から症状の現
して,1つは腫瘍が直接機械的に耳管狭.窄を泡
われ方にかなり特異な点があり,しばしば見逃さ
し,他の1つは腫瘍周囲の炎症が耳管に及ぶため
れ易い。元来上咽頭視診はおろそかにされ易く,
に耳管かタルを起すと意昧づけている。’
相当に進行した症例では容易であるが,それでも
療法については,鼻咽腔悪性腫瘍は放射線感受
耳症状,鼻症状を合併している場合に診断を誤ま
性の武なる傾向があり9♪,早期診断の下に完全別
られる場合が少くない。Coates等24)はThis area
記後にレ線・ラジウム照射をする1)21)という原則
is the“εilent area”which is frequently misLged
は変りないが,星野・浅井9)はこの部の腫瘍の治
in a clinical examination.と述べている如くで
療は局所解剖的関係上,叉早期に脳症状を現わす
ある。
ものが:最も多いので腫瘍を別出治癒せしめる事は
上咽頭にきたる悪性腫瘍の発生頻度は,耳鼻咽
甚だ困難,否全く不可能というべきであり,主と
喉科領域の全悪性腫瘍の0.6∼4.6%であり21),上
して放射線治療を採用し,この目的のために軟口
気道全悪性腫瘍黙約3%を占め,又全悪性腫瘍の
蓋の正中線に沿って縦切開を施し穿孔をつぐり,
0.2%を占める29)。Nielsenは全悪性腫瘍中0.75%
これよりラジウムを視診し乍ら腫瘍部位に密接固
を占めるといっている。男女別については男子が
定せしめ,7例中3例に2年以上の再発又は転移
松村・田中12は75%,本庶・古川8,Harold L.
をみていない。松村・田中12)はラジウム治療は
一 489 一
40
1500mg時で通常ラジウム照射開始後1週間以内
る。従って延命効果を期待するために,放射線及
に腫瘍が収縮レ始めるものは効果ありとし,癌腫
びナイトロミン療法に伴う白.血球減少に由る治療
中断を防ぐべく,従来用いられているところのパ
では線維腫,肉腫に比して遙かにラジウム効果は
.ニールチン,メチオニン,.VB12, レスタミン,
劣ると述べている。Fransis A. Sooy25)は先ず
int・an尋sar septa1・esecti・n,を行い・御こ腫瘍部
グルクロン酸,輸血等を用いたが満足な結果を得
位のintrapastal electrodesicationを行い・つい
なかった51015)20)。ついでテレビン油及びセファ
でこの部にradioactive cobaltを用,い,50%に
ランチンの白」血球減少の予防乃至治療の報告に接
有効であっアζが,腫瘍が頭蓋底にわたっている時
し,これを追試したので以下少しく詳述する。
には殆ご効果なしと.。又Jackson27).は原発巣の
テレビン油並びにセファランチンによる白血球
外科的療法と一方放射線療法の施行として3500∼
増三法についで
4000rを2回行うを可とし,最も効果あるのはレ
1. テレビン油:テレビン油(以下テ油と略)
線の分劃照射とラドンシード刺入との併用である
を始めて皮下に注射し治療に供したのは,1890年
と述べ・叉Harold L耳罰)は腫瘍の多くは脳神経
症状を伴っていたり,頸リンパ節がふれても高度
仏国のFochiri6であって,これによって生ずる
膿瘍にAbc6s de fixationなる名称を附した。
の放射線感受性があるが,叉不幸にもどうしでも
テ油の白血球増加作用は多くの研究者の認めると
再発が起り,そして次の治療は効果がないといっ
ころであり,炎:症性化膿性疾患に広く用いられて
ている。原・向井2)の剖検例でなレ線搾部治療,
おったが,最近の化学療法の進歩とともにこの治
ラジウム療法,ナイトロミン注射の治療的効果は
療法は歴史的存在としてほとんど顧みられていな
何ら病理組織学上の所見に反映していなかった
い。1955年脇坂教授22)は,テ油注射が悪性腫瘍に
と。又本庄7)は,放射線,ナイトロミン療法は一
対する放射線及び化学療法時に伴う白血球減少の
時的にしばしば劇的に作用するが,所詮再発をま
予防並びに治療に極めて優れた効果がある事を示
ぬかれず,局所腫瘍の完全別出と転移リンパ肺に
された。
はリンパ節倉出のみでなく,今後は当然Radical
テ油とは松椎科の植物,ことに尊属の樹木に含
neck dissectionの必要があると唱えている6第1
まれるものである4)。テ油注射による白血球増多
例ではラジウム照射計1800mg時,レ線深部照射
の発生機転は,申枢性肝性調節によって生じた
7700r,ザルコマイシン259,ナそトロミン480mg,・
:Neutrophilin(催白imlk増多物質)の骨髄作用に
Azan 420mg,第2例ではラジウム照射1750mg
より起るものであるとされている5・1115。本例に
時・レ線画部照射4000r・Azan 490mgを用い・
用いたテ油は本学薬局に依頼し,局方テ油0.5cc
両翼共頸部リンパ節廓清を行い,局所所見は好転
を1アンプルに封じ100。C蒸気滅菌15分間施した
しつつみり,且放射線療法,ナイトUミン療法を
ものを用いた。テ油注射方法については,清16)に
可及的続行せしめるべく,第1例にはテレビン油
注射砿第2例ではセファランチン内服,注射を
よると皮下注射の方が筋肉内注射よりも反応著明
且持続期間が長いといわれ,従って吾々は第1例
行って治療を続行しえた(後述)。
において最:初皮下注射を行ったが,後述する副作
予後についてみると,鼻咽腔悪性腫瘍はその治
療の期を失せるもの渉多く,且掴所的関係から充
分の治療を行い得ず,死亡率100%であるという
21)。松村・田中12・は予後良好ほ線維腫87%,肉腫
14%,癌腫120%であるが,頸部リ.1ンパ節腫大を認
めるものは予後は悲観的であると。Harold26)は
5年間の生存率は20∼25%,Martin29)は17%で
あるとするも,Jackson27)は上咽頭癌に対しては
たとへ適当なレ線治療をしても望みなき病気であ
ると明言している。すなわち悪性腫瘍の中でも殊
に鼻咽腔悪性腫瘍は予後全く不良の離唖瘍であ
第11図(第1例のD
一 440 一
41
用の一つである落部を緩和する目的で貼布法を行
移動,幼若細胞の出現が諸家の述べる処であり,
い第11,12図の如き結果をえた。方法は縦横約
:本例も著明な核左方移動と同時に軽度の単球増加
2cmの六枚折ガーゼにテ油1アンプ。ル0.5ccを浸
がみられた他時変はなかった。
して大腿前面に当て油紙にて被い,約3∼5時閤
後除去した。轟轟後30分で局所にヒリヒリ感を訴
副作用としては,全身発熱,起呼の激痛,発赤
腫脹,無菌性膿非形成がみられる。注射部位の激
えたが特に除去する程でもなかった。白功1球数は
痛は注射量の減量か貼布法により疹痛軽減が図ら
十25∼30%の増加を示し,局所の発赤腫脹が極く
れ,発赤腫脹もこの程度の量ならば大した事はな
軽度に認められた。注射量については,脇坂教授
かった。清16は注射後4∼5日後に膿膓形成をみ
22)は0.5ccを,武岡18)19)は0.2∼0.3ccを適量とし
ているが,本例では10∼11日後であり,且穿刺排
ている。第1例では始め0.5ccを大腿部伸側皮下
膿により腫脹は消退した。腎・肝に対する作用に
に注射したが,落子,発赤腫脹,膿瘍形成の度強
ついてみると,テ油注射は腎・肝に相当の刺激を
く,0.2ccにおいてはその度が軽くしかも白.血球
与え,腎に対しては蛋白尿,血尿をきたし4),肝
増多効果もえられた。又前記の如く初回注射後は
には肝のうつ.血,中心性脂肪をきたすといわれて
貼護法でも或る程度有効である。
いるが,多くの臨床例においては殆ど障碍は認め
テ油注射後の白血球増多の消長に関しては,
清16は注射後一過性減少をきたして後返4∼7日
られない事が報告されている。ただし武岡18・は犬
における実験成績及び臨床的観察によれば,臨床
に最大,第9∼11日に正常値にかえるという。百
的応用範囲を上廻る量の場合でもさほど腎・肝機
瀬15)は注射後第4日目に最:高を示すと,武岡18)は
能障碍は来さず,只予め肝障碍のある揚合のみ
2週間以内にをいて軽々正常に復すると述べてい
に,テ油注射によってその障碍の度が更に増悪す
る。本例においては2∼4日目に最高を示し約10
日間で注射前の値に戻っている。貼雑法では2∼
る傾向があるが,テ油注射前に腎障碍のあったも
のでも病状の悪化はないという。本例も腎・肝機
3日目に増多をきたし,その後3∼4日にて貼布
能の悪化はみられなかった。
前の値に戻っていて,増準率と増多持続期間は短
以上の如くでテ油注射は脇坂等の推奨される如
かかった。従って諸家の成績と併せ考え,レ線治
療を続けながら白一血球減少を防止するにはテ油注
く,悪性腫傷治療時の白一軒球界少の予防並びに治
療に効果があると思われた。
射では10∼14日闇隔で,貼布法では3∼4日間隔
2.セファランチン:セファランチン(以下セ
で続行するのが良いように思われた(第12図)。
ファと省略)は防理科の「たまさきつづらふじ」
の根にあるアルカロイドで,嘗って結核の治療剤
冶療総過LA t・i中之。ttr msπ 藷島魚雛’↑
州
ワ t 7 13 ps ・? 1¶ZI z3 x5 f7 四続 a s r 9 ,・ 日 lr
として使用された薬物である。その白一血球増多の
慧的野鞭難薫難羅.難1難樂.
尊
爵
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作用機転に関しては,網状内皮系或いは植物神経
1 . 『一「..「’「一一丁一一→t「” .
1 1 , 1 , i l l l
醤轟コニー詳亡藁旧抽
等に対し何らかの影響を及ぼし,その結果生じる
1工肝]茸L・耳
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’K’T一
現象と推測されている17)25,。セファの放射性貧一戸
に対する治療効果については,山下・小林25,,奥
拝
二
し
1一+一十す
原・恒元15),春名5)等の臨床実験例がみられる。
’
遵.
琴 蒙
皇
1 毫
鷲
饗
山下25)等は毎日0・5∼3.Omg内服を,叉奥原ユ5・は
1回3mgを治療前に頓服きせ白血球減少抑止作
琴
第12図(第1例の■)
用を認めている。春名5)は長期放射線照射におい
テ油注射後の白一血球増多率については,百瀬15)
て,セファを持続的に内服せしめる事は比較的簡
は家兎における実験にて,テ油注射目第2日目に
単であり,貧1血の予防及び治療に有効な方法で,
平均十42・2%で・正常家兎の生理的動揺を僅かに
特に白!血球増多に最:も有効であると述べている。
上回るにいたり,第3日目に平均十62. 8%,第4
本例についても第13図にみられる如く,セファ注
日目に平均十58,6%に達する増多を示し,第7日
射として隔日4mg静注を行ったところ,7日目
遅に常に高率の増多を示すと述べている。
より増加し始め,セファ内服連用(1日3mg),
テ油注射後の血液像の変化に関しては,核左方
ua R注射の併用により約2週間で約2倍の値を示
一 441 一
42
口演した。)
主要文献
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党療一過・血血ヰ敏・権謁・
議
17
盈亀羅,購
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酵7r・131h19ユ22「”施争ワρr卸珂922z多
壷粥
田野
旧卿
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ユ0 2s 嵩‘ 2,
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ユ聾瓢・「 @ 訓『「
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一刊
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i
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13)百瀬蓼之:久留米医学会雑誌,19(2),407(昭
31)
第14図(第2例の■)
14)額田 晋:臨床i薬理学,190(昭8)
してきた。なお第14図の如くレ線深部照射を続行
15)奥原政雄・恒元 博:新薬と臨床,4,8(昭28)
しても白血球の減少は著明にみられなかった。こ
16)照日太鄭:医学研究,7(2),1405(昭8)
の間血液型は,山下25)によると30日後に僅かのリ
17)盈見竜壽:臨床産科婦入科,8,6.
ンパ球増加を来し,その後大体において僅かのリ
18)武岡春雄:久留米医学会誌,19,7,1216(昭31)
ンパ球増’加を来し続けた。投与中に自覚症及び尿
19)武岡春雄:久留米医学会誌,19,7,1245(昭31)
所見等も異常はみられなかった。このようにセフ
20)梅谷恵子・大塚礼子:臨床外科,10(7),453
(昭30)
ァ投与法では患者に苦痛を一与えぬ点から推奨しう
21)山下憲治:耳鼻臨床,35(10),83(昭15)
るが,短時日に然も強力に白一血球増多をう、るには
22)脇坂順nt・他2名:治療,37(1),74(昭30)
テ油注射の方が有効であると思われる。
結
23)山下久雄・小林公治:放射線障碍予防対策委員
語
鼻咽腔悪性腫瘍の2症例を報告し,且その文献
を照合し,併せてより有効な治療法としての放射
線,ナイトVミン療法の続行を期するために,そ
の副作用の一つである白血球減少症に対して,テ
会の発表(昭29)
24) Coatefi : Otolaryngology. 2, 192 (1953)
25) Francis. A. Sooy.:Ann. Oto. LXV. (3),
(1956)
.?.6) Harold. S.H.:Arch. Oto. 53, 66r−67(1951)
レビン油注射並びに貼布法,セファランチン内服
27) Jackson, C.and Jackson, C.L.:Philadelphia,
及び注射法にづいて,文献に自験例を照合し考察
を加え,今後悪性腫瘍の治療上これらの方法を試
28) John, J. Rainey:Arch, Oto. 63, 609(1956)
みて然るべき手段の一一つである事を述べた。
29) Lederer,:F.A. Davis company. Phlladelphia
W.B. Saunders Company. 189 (1946)
W th ed. (1953)
稿を終うに臨み終始御懇篤なる御指導と御校閲の労
30) Martin, H. : New York, Am. Cancer soc.
を賜った目下佐藤イクヨ教授及び病理組織学的検査に
御教示戴いた今井教授,放射線療法について御指示下
22rt−23 (1949)
さった島津教授並に石原講師の諸先生に厚く謝意を表
31) S261{ely,’Thomas:Zschr. Laryng. 45 (2),
します。
(1956)
(本稿の要旨は昭和31年第340回日本耳鼻咽喉科学会
32) Walterh6fer, G.:Deut. Arch. f.Klin. Med.
関:東地方会及び第22回東京女子医科大学学会総会にて
Bd 135 (1921)
一442一