第35回(平成26年度)北海道麦作共励会第 1 部(畑地における秋まき小麦)個人 最優秀賞 斜里郡小清水町 有限会社 安田農産の経営概要 安田氏ご夫妻 1 小清水町の概要 小清水町は北海道の東北部、オホーツク管 内東部に位置し、東は世界自然遺産、知床国 立公園のある斜里町、西は網走市、南は阿寒 国立公園のある弟子屈町、北はオホーツク海 図 1 小清水町の位置 に面しています。 気象は、オホーツク海の影響を受ける冷涼 な沿岸部と内陸性気候に近い中央部の 2 つの 気候環境にあり、年間を通じて降水量は少な く、日照率の高さは全国でも有数です。 また、夏と冬の寒暖の差が大きく、夏から 秋にかけて晴天が続き安定した気象条件とな ります。 冬は雪が少なく、海には 2 月から 3 月にか けて流氷がやってきます。土壌は平野部が沖 積土と泥炭土地帯、高台地は火山性土地帯に 分けることができます。 写真 1 平坦な畑地が広がる小清水町 2 小清水町農業の現状 小清水町における基幹産業は農業であり、9,554haの農地面積のうち約75%をてんさい、ばれ いしょ、小麦の畑作 3 品の作付けで占める道内有数の畑作専業地帯です。 農業経営では、販売農家戸数は371戸、うち専業農家が286戸、第 1 種兼業農家が71戸で全体の 96%が主業農家割合となっています。一戸当たりの経営耕地面積は、28haと全道平均を大きく 上回っています(2010年農業センサスより)。 − 11 − 農業粗生産額は、約121億(平成25年度)で大半が畑作物で占められていますが、青果や畜産 の生産額も全体の約30%と多様な農業経営が展開されています。 表 1 規模別農家戸数 5未満 5~10 10~20 20~30 30~50 50~ 1 戸当り 耕地面積 (ha・戸) 23 9 65 152 100 22 28 農 家 戸 数(戸) 総 数 専 業 1 種兼業 2 種兼業 371 286 71 6 規 模 別 戸 数(ha・戸) ※総数には自給的農家 8 戸を含む 表 2 主要作物の作付面積 (ha) 秋小麦 春小麦 ばれいしょ てんさい 豆 類 野菜類 2,456 364 2,193 2,671 209 519 ※平成26年度作付面積(採種ほも含む) ※野菜類についてはにんじん、ごぼう、たまねぎ、アスパラガス等 表 3 作付構成と割合 3 安田さんの経営概況 主要作目名 作付面積 (ha) 秋まき小麦 15.37 25.9 平均耕作面積の28haを大幅に上回る59.4haで、う 春まき小麦 6.5 10.9 ち借地が26.6ha(45%)となっています。主な作 澱原用ばれいしょ 4.72 7.9 付作物は、表 3 のとおりですが、小麦の割合が経 生食・加工用ばれいしょ 9.14 15.4 営全体の36.8%を占めています。畑作物を中心と てんさい 17.48 29.4 した経営ですが、たまねぎ、にんじん、ごぼう等 たまねぎ 4.03 6.8 の野菜類を導入した複合経営を展開しています。 その他青果 2.17 3.7 合 計 59.41 100.0 ⑴ 経営規模と作付構成 安田農産の経営面積は、小清水町の一戸当たり ⑵ 家族構成と労働力 家族は、安田氏夫婦と両親、子供 2 人の 6 人家 族で農業従事者は 4 人となっています。 経営面積が大きく、春先の農作業が競合するた め、常勤雇用、パート作業も入れていますが、家 族内で作業の役割分担を行いながら効率的な農作 業を構築しています。 麦作は 3 人の労働となっており、労働日数は、 家族員数合わせて46日の従事日数となっています。 作付割合 (%) 表 4 家族構成 続柄 年齢 年間従事日数 うち麦作従事日数 (日) (日) 本人 44 280 25 妻 45 200 12 父 72 200 7 母 68 180 2 ⑶ 輪作の状況 輪作は、 3 年輪作を基本としていますが、野菜を取り入れて 4 年以上の輪作になるよう努力し ています。主な輪作体系としては、ばれいしょ→秋まき小麦→にんじん→秋まき小麦(収穫後に 後作緑肥(えん麦野生種)を作付け)→てんさいとなっています。 − 12 − 表 5 輪作体系 経営規模 輪 作 体 系 H 22 59.4ha 春まき 小麦 H 23 H 24 秋まき 小麦 てんさい 輪作の特徴 H 25 H 26 ばれいしょ 秋まき 小麦 にんじん 小麦・てんさい・ばれいしょ を中心として、一部青果物を 取り入れた輪作体系 4 小麦栽培技術の特徴 ⑴ 小麦の生産実績 安田農産の生産実績は、平成23年から26年の平均製品収量で822㎏ /10aとJAこしみずの平均収 量を大幅に上回っています。特に、平成26年の10a当たり収量は940㎏で、北海道平均収量451㎏ の 2 倍以上となりました。 品質面においても、毎年 1 等麦率100%で、ランク区分の容積重・FN・タンパク・灰分の品質 項目もすべて基準値内となっています。 表 6 過去 3 年間の小麦収量及び本年の品質測定値 小麦栽培 面積(ha) 麦作率 (%) 収 量(㎏/10a) 1 等麦比率(%) 規格外 含む収量 製品( 1 等 規格外含 (㎏) + 2 等)に む総量に 対して 対して 年産 小 麦 品種名 H24 きたほなみ 17.2 39.5 816 696 148,458 100.0 94.5 H25 きたほなみ 16.5 35.9 809 615 137,157 100.0 97.2 H26 きたほなみ 15.4 33.8 940 560 148,094 100.0 97.6 農 家 町平均 ※H26年産町平均収量については公表されていないため過去 7 年中豊凶年を除外した 5 カ年平均の収量。 容積重(g/L) F.N.(sec) 蛋白含量(%) 灰分含量(%) 882 471 10.6 1.35 ⑵ 技術・経営の特徴 ①土づくり 「小麦づくりは土づくりから」を基本として、 父の代より堆肥施用による土づくりを積極的に実 施しています。小清水町や近隣町村では堆肥が不 足しており、必要量の確保が難しいため、70㎞離 れた根室方面から父とともに年間10tダンプで200 台分(約2,000t)を確保・輸送しています。 堆肥は、完熟させ毎年小麦作付後を中心に堆肥 5t/10a程度投入しています。また、土壌診断を活 用した土壌改良や、小麦収穫後に後作緑肥(えん 写真 2 小麦圃場に堆肥を散布 麦野生種)を作付けしています。 経営規模が大きくなるに従って作業機械が大型化し、圃場の物理性悪化がみられたことから、 全圃場に心土破砕を施行し、排水対策を図ると共に作物の根張り改善につなげています。 − 13 − ②播種作業と施肥 整地作業において、パワーハローにウェッジリ ングローラを装着し、播種床を鎮圧することで播 種深度を一定化し出芽率を向上させています。 播種時には、トラクタはダブルタイヤとし、溝 ができないように工夫しています。また、播種量 は、均一な播種精度が確保できる7~8㎏ /10aの 設定で、適期を逃さず実施しています。 基肥は、窒素4㎏ /10aを基本に施肥を行ってい ます。越冬後は、常に小麦の生育状況をこまめに 写真 3 トラクタ上部のレーザー式生育 センサー には、起生期に過繁茂の場合、幼穂形成期まで施 確認して追肥時期、追肥量を判断しています。時 肥を遅らせたり、止葉期頃の追肥は状況によって は実施しない場合もあり、こまめに調整を行って います。今年は、レーザー式生育センサーを活用 した施肥試験にも取り組み、新技術も取り入れな がら生産の高位安定化と上位等級麦の生産に努め ています。 ③品質改善への取り組み 収穫は個人で行っていることから、収穫ロスが 生じないよう登熟を均一化することや倒伏しない 写真 4 止葉期の追肥風景 栽培管理を心がけています。 さらに病害虫防除では、圃場観察を行うことは当然ですが、JA、普及センター等による「営 農技術情報」を参考に適期適正防除を実施しています。 収穫時は、圃場観察をこまめに行い、農協の事前検査で品質確認を行ってから収穫作業を実施 しています。 ④その他経営の特色 毎年行った肥培管理や時期などの作業実績を 「ポケット手帳」に書き込み、常に「書ける、見 れる」状態で常備しています。過去 3 ~ 4 年の手 帳も身近に置き、天候による違いなどを確認しな がら作業を行っています。 また、作業機械の大型化に合わせて効率的な作 業を実施するために、圃場区画の大型化や集約化 に取り組んでいます。特に、秋まき小麦の前作物 は、同じブロックになるよう作付地を調整してい ます。また、経費節減のため、機械の点検、修理 は可能な限り自分で行っています。 − 14 − 写真 5 作業を記録したポケット手帳 5 小麦栽培の経済性 平成25年の小麦の10a当たり所得は54,095円、所得率は49.9%と高い収益性となっています。こ の収益性の高さは、堆肥施用による土づくりを継続的に実施してきたことや、生育状況をこまめ に確認しながら肥培管理を徹底したことが大きな要因となっています。さらに毎年、作業実績を 記録し、 3 ~ 4 年分の内容と天候状況を確認しながら作業管理を行っているところが反映されて います。 基本技術の励行とコスト低減のための努力、そして家族が協力しあいながら収量向上のために 尽力した結果が高い収益性と高品質の小麦生産につながっています。 表 7 収益の明細 項 目 (単位:円) 農業経営 全 体 うち小麦に係る部分 麦売渡代金(主食用途) 粗収益 A 20,151 192,058 1,165 14,333,405 86,974 17,846,337 108,290 68,484 種苗費 393,790 2,322 2,586 肥料費 1,211,610 7,352 10,097 農業薬剤費 771,429 4,681 5,028 光熱動力費 979,882 5,946 2,246 その他諸材料費 0 0 690 土地改良水利費 22,340 136 993 賃借料・料金 82,140 498 16,531 53,449,375 物件税・公課諸負担 1,024,450 6,212 1,455 農機具費 2,620,698 15,902 8,166 5,963 36 940 589,348 3,576 1,204 0 0 81 126,012 765 352 1,114,823 6,765 2,132 8,942,485 54,195 52,501 8,903,852 (所得率 49.9%) 54,095 15,983 副産物(くず麦) 76,229,643 補助金 (畑作物直接支払交付金) 建物費 自動車費 雇用労働費 支払利子 支払地代等 小 計 所 得 A-B 道 平 均 3,320,874 小 計 経営費 B 10a当り換算 22,780,268 − 15 − 68,484 6 今後の課題 ⑴ 小麦の生産性は年々高まっています。しか し、蛋白含有率は年によって変動が見られる ことから生育状況に応じた施肥時期、施肥量 を検討し、品質の向上を目指していきます。 ⑵ 堆肥投入による土づくりをさらに進め、気 象変動にも左右されない高品質な麦づくりを 目指します。さらに、効率的な施肥により肥 料コストの低減に努めます。 ⑶ 小麦、てんさい、ばれいしょを中心とした 畑作物 3 品を中心として、野菜や緑肥を取り 入れた 4 年輪作を目指します。 写真 6 小麦の収穫風景 表 8 機械使用時間及び労働時間(10a当たり) 作 業 名 稼働時期 (月/日) 機 械 名 機械使用時間 (分) 労働時間 (分) 心土破砕 サブソイラー 9/20~9/22 10.2 10.2 耕起 プラウ 9/23~9/25 9.0 9.0 整地 パワーハロー+ ウェッジリングローラ 9/21~9/24 19.2 19.2 9/29~10/6 7.8 15.0 6/5 1.2 1.2 施肥・播種 グレンドリル 除草剤散布 ブームスプレヤー 融雪促進 融雪散布機 3/20~3/21 3.0 5.4 追肥 ブロードキャスタ 5/15、6/8 3.6 3.6 病害虫防除 ブームスプレヤー 6/16~7/6 4.8 4.8 8/2~10 3.6 3.6 刈取・脱穀 普通型コンバイン、 トラック 運搬 トラック 8/2~8/11 4.2 4.2 麦稈処理 ロールベーラ 8/12~8/16 15.0 15.0 堆肥散布 マニュアスプレッタ 10/20~ 5.4 5.4 11/23 1.2 1.2 88.2時間 97.8時間 雪腐病防除 ブームスプレヤー 合 計 備 考 (1.63時間) ( 執筆者名:網走農業改良普及センター清里支所 専門普及指導員 高木 修一 ) 小清水町農業協同組合農畜産部農産課 農産係長 古川 慎也 − 16 − 第35回(平成26年度)北海道麦作共励会第 1 部(畑地における秋まき小麦) 個人 優秀賞 真狩村 木谷潤一氏の経営概要と麦作り 1 市町村の概要 真狩村は、「えぞ富士」と呼ばれ親しまれ ている羊蹄山の南麓に位置し、農業を基幹産 業として発展してきた純農村である。主要な 作物は、ばれいしょ、だいこん、にんじんな どで、中でも食用ユリ根は、全国一の出荷量 を誇っている。小麦は、春まきと秋まき合わ せて約130ha(平成26年産)である。 2 当該農家の経営概要 木谷氏は、経営面積約25haの畑作+野菜 の複合経営農家である。 木谷 潤一氏 表 1 輪作体系と作付状況 経営規模 24.6ha 輪 作 体 系 輪作の特徴 H 22 H 23 H 24 H 25 H 26 にんじん スイート コーン 小豆 ばれいしょ 小麦 5 品目による輪作 3 秋まき小麦の生産状況 木谷氏の小麦作付面積は約 2 haである。10a当たり収量は常に600㎏前後と地域の中でも高い 収量水準となっている。加えて、出荷された麦については全量一等と高品質な小麦生産を実現し ている。 表 2 最近 3 年間の小麦生産状況 小麦栽培 面積(ha) 麦作率 (%) 収 量(㎏/10a) 1 等麦比率(%) 規格外 含む収量 製品( 1 等 規格外含 (㎏) + 2 等)に む総量に 対して 対して 年産 小 麦 品種名 H24 きたほなみ 2.0 8.1 627 441 15,476 100 81.0 H25 きたほなみ 2.2 8.9 547 495 14,425 100 83.6 H26 きたほなみ 2.1 8.5 671 438 15,555 100 90.7 農 家 − 17 − 町平均 表 3 品質測定値 容積重(g/ℓ) F.N.(sec) 蛋白含量(%) 灰分含量(%) 868 405 10.8 1.27 4 技術の内容 ⑴ 適期作業の励行 近年、気象変動が大きく降雨の合間を縫って播種・管理作業を行わなければならないが、播種・ 施肥・防除作業とも適期を逃さず実践している。 ⑵ 雪腐れ病防除の実践 無人ヘリ防除により、圃場条件にかかわらず根雪直前の防除が可能となっている。 表 4 耕種概要など 播 種 期 量 方 法 施 肥 (㎏ /10a) 土壌 区分 区分 基肥 9 月12日 10㎏ /10a 根雪始 窒 素 燐 酸 加 里 月 日 4.0 12.5 5.0 雪 腐 病 防 除 時 期 使用薬剤名 9 月12日 畦幅12㎝ 火山 追肥 密条播 性土 起生 6.3 リゾレック 11月19日 11月17日 スベフラン 4 月20日 フロアブル 止葉 4.2 5 月20日 表 5 病害虫防除等 除草剤散布 融雪促進 時 期 剤名・散布量 時 期 資材名・散布量 融雪期 病害虫防除(植物成長調整剤等) 対象病害虫防除 時 期 雪腐病 アブラムシ 9 月19日 ガルシアフロアブル 3 月20日 200ml 融雪タンカル 60㎏ /10a 4 月15日 使用薬剤・散布量 備 考 11月17日 リゾレックスベフランフロアブル 6 倍 6 月10日 エルサン乳剤 1,000倍 赤かび病 6 月10日 ストロビーフロアブル 2,000倍 赤かび病 6 月19日 トップジンM水和剤 1,000倍 アブラムシ 6 月28日 バイスロイド乳剤 2,000倍 赤かび病 6 月28日 ストロビーフロアブル 2,000倍 5 技術の特色 ⑴ 排水対策の徹底 暗きょの整備、心土破砕の施工など排水対策を万全に行っている。融雪は遅いが、融雪後直ち に分施作業が行えるのは排水対策の成果である。 ⑵ 5 年輪作 畑作+露地野菜の 5 品目による輪作体系を実践し、効率的な作業体系となっている。 − 18 − ⑶ 耕起は圃場が乾いてから行う 圃場の水分状況をよく観察し、無理して耕起作業を行わない。 ⑷ 生産実績データの積極活用と情報交換の実践 生産履歴や生産実績データを活用して、改善点を洗い出し、次年度の小麦栽培技術に反映させ ている。 ( 後志農業改良普及センター 地域第 3 係長 伊藤 登 ) JAようてい 営農販売事業本部営農推進課 営農推進係長 柳谷 亮 − 19 −
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