第35回(平成26年度)北海道麦作共励会第 2 部(水田転換畑における秋まき小麦)個人 最優秀賞 岩見沢市 有限会社伊藤ファームの経営概要と麦作り 1 岩見沢市の概要 岩見沢市は、 広大な石狩平野の中央に位置し ており、 農業はその恵まれた大地の恩恵を受け て、 北海道有数の稲作地帯として発展してきま した。近年は米の生産調整により、稲から玉 葱などへ徐々に転換が進み、現在は水稲、小 麦、大豆、玉葱などが基幹作物となっています。 気候は、 石狩湾からの偏西風の影響をうける 豪雪地帯ですが、気候は温暖であり、特に農業 には恵まれた日本海型の気象条件にあります。 2 ㈲伊藤ファームの経営概要 伊藤夫妻 表 1 作付品目と面積、比率 (ha、%) 経営面積は、22.9haであり、栽培作物は、 作 物 名 水稲、秋まき小麦、玉葱、デントコーンなど 水 稲 9.8 42.7 をバランス良く作付けしています。 秋小麦 4.1 17.8 たまねぎ 3.46 15.1 デントコーン 4.5 19.6 その他 1.1 4.8 合 計 22.96 100.0 水稲は全て乾田直播で、代掻きをしない水 稲栽培をしています。そのため、土壌の団粒 構造が維持され、田畑輪換を円滑に行うこと ができています。このことを通称「空知型輪 作」といっています。 作付面積 作付比率 労働競合を避けるため、水稲だけではなく玉葱の一部でも直播栽培を導入しています。 ㈲伊藤ファームの主な労働力は、代表の伊藤浩光氏と妻ひろみ氏の夫婦ふたりです。機械や施 設は、近隣の農家と共同利用を進め、農機具費の低減に努めています。 3 秋まき小麦の生産状況 近年の㈲伊藤ファームの10a当たり収量は、市平均に対し150%以上を確保し、 1 等麦比率は 100%です。総収量に対する 1 等麦比率も、約93%と製品歩留は高く、適正な肥培管理が行われ ていることが分かります。 表 2 最近 3 年間の小麦生産状況 小麦栽培 面積(ha) 麦作率 (%) 収 量(㎏/10a) 1 等麦比率(%) 規格外 含む収量 製品( 1 等 規格外含 (㎏) + 2 等)に む総量に 対して 対して 年産 小 麦 品種名 H24 きたほなみ 0.99 5.7 514.8 341 5,439 100 93.7 H25 きたほなみ 3.70 16.0 609.8 386 24,219 100 93.2 H26 きたほなみ 4.10 17.8 608.7 389.2 26,861 100 92.9 農 家 − 25 − 町平均 4 技術の内容 ⑴ 基本技術の励行 連作をしない、適期播種、雪腐病防除、雑草対策、適正施肥、適期防除などの基本技術を忠実 に行っています。 播種や収穫は、共同化により、計画的かつ効率的に行われているため、適期作業が可能で、ま た、管理作業についても、こまめに作物を観察しているため、適期を逃さないように努めています。 田畑輪換による輪作をしているため、耕種的防除の効果が高く、雑草や病気の発生を抑えてい ます。 追肥は、朝一番に小麦の葉色を観察し、こまめに行っています。また、降雨前に追肥を行うな ど、最大限の効果を得られるようにしています。 倒伏による収量・品質低下を避けるため、植物成長調整剤を使用しています。 表 3 耕種概要など 播 種 期 量 方 法 土 性 区分 窒素 燐酸 加里 月 日 基肥 4.0 14.2 4.8 9 月21日 ドリル 起生 畦間 下層土 幼形 12.5㎝ 泥炭 止葉 7.3 0 0 4.2 0 0 7.3 0 0 埴壌土 9 月21日 7.0 施 肥 (㎏ /10a) 根雪始 雪 腐 病 防 除 時 期 使用薬剤名 ランマンFL 8倍 11月28日 11月 6 日 シルバキュアFL 5月3日 16倍 5 月30日 4 月13日 表 4 病害虫防除等 除草剤散布 融雪促進 時 期 剤名・散布量 時 期 資材名・散布量 融雪期 病害虫防除(植物成長調整剤等) 対象病害虫防除 時 期 赤さび病 使用薬剤・散布量 備 考 5 月26日 アミスター20FL・2000倍 植物成長調整剤 6 月 1 日 エスレル10・300倍 9 月27日 ボクサー 500ml/10a 10月 6 日 ガレース乳剤 防散タンカル 3 月10日 150ml/10a 60㎏ /10a 5 月19日 アクチノール乳剤 100ml/10a 赤かび病 4 月10日 6 月 8 日 シルバキュアFL・2000倍 アブラムシ 6 月 8 日 ゲットアウトWDG・3000倍 赤かび病 6 月15日 トップジンM水和剤・1500倍 赤かび病 6 月22日 ベフラン液剤25・1500倍 アブラムシ 6 月22日 スミチオン乳剤・1000倍 赤かび病 7 月12日 チルト乳剤25・2000倍 ⑵ 輪作の工夫 田畑輪換を容易にするため、代掻きをしない水稲栽培(乾田直播)を導入しています。 乾田直播の前作は、小麦を基本にして、小麦収穫後にプラウとレーザーレベラーを施工してい ます。このことにより、夏の土壌が乾燥する好条件で施工でき、春作業の分散ができています。 デントコーンを導入することで、土壌の物理性改善と雑草対策となっています。 複数品目の作付けになるため、水稲の全面積と玉葱の一部では直播栽培を導入し、作業分散を 図っています。 − 26 − ㈲伊藤ファームの輪作体系 パターン 1 水稲 → デントコーン → 小麦 → 水稲 パターン 2 水稲 → 小麦 → デントコーン → 水稲 パターン 3 玉葱 → 小麦 → デントコーン → 玉葱 ⑶ 排水対策 心土破砕の他に、レーザーレベラーによる圃場均平化と、圃場内明渠による表面排水の促進に 努めています。 また、デントコーンの作付けにより、土壌の物理性が改善され、排水性は向上しています。 ⑷ 有機物の補給 麦稈の鋤き込みの他、小麦の後作緑肥を導入し、有機物の補給に努めています。 また、デントコーンを導入したことで、有機物の補給効果が向上しました。 ⑸ 作業の効率化・省力化 作業機や施設は、近隣農家との共同利用を図り、播種と収穫・乾燥は共同で行っており、作業 の効率化と省力化を進めています。 また、水稲は全面積、玉葱は一部で直播栽培を導入して、作業の分散化を図っています。 5 技術の特色 田畑輪換を軸とした空知型輪作を実践して、小麦の連作を回避し、収量・品質の安定化を図っ ています。また、水稲や玉葱では直播栽培を導入することで、作業分散を実現し、作物をよく観 察し、生育に応じた適正な作業を行っています。 6 その他 ・北海道指導農業士として、農業の担い手の研修受入や、地域農業の振興に助言や協力をして います。 ・農協理事として、農協の運営と地域のまとめ役を担っています。 ・同地区の農業者で構成された組織(豊里農業経営活性化協議会)の会長として、生産技術の 向上や経営分析、新作物・新技術導入に向けた研修会を開催し、地域の活性化に貢献してい ます。また、地元企業などとも連携して、特産品の開発も行っています。 ・飼料作物生産組合の事務局長として、デントコーンの作付面積の集約や共同機械・施設の運 用等、生産・流通・販売に関する組合の事務全般を担っています。 ・JAいわみざわ水稲直まき研究会の初代会長として、 水稲直播の導入期から関係機関と連携し、 栽培技術の確立と技術資料の発刊等まで、尽力しました。 ・ 「きたほなみ1t穫りプロジェクト」の実証農家として、試験栽培や各種調査等に協力し、普 及センターや農業試験場、JA等関係機関と連携して、栽培方法の検討を行いました。また、 「プロジェクト」に係る視察の受入も行いました。 ( 執筆者名:JAいわみざわ 米穀部米穀課 須田 信吾 ) 空知農業改良普及センター 調整係長 向川 成人 − 27 − 第35回(平成26年度)北海道麦作共励会第 2 部(水田転換畑における秋まき小麦)個人 優秀賞 樺戸郡新十津川町 小林勝氏の経営概要と麦作り 1 新十津川町の概要 新十津川町は、北海道の中央部、北海道最 大の石狩川中流域右岸にあり、西側には暑寒 別岳を中心とした暑寒連峰を眺む、道内有数 の穀倉地帯です。 当該地域における農業生産は、JAピンネ (新十津川町、浦臼町)を核として、水稲作 付が全耕地面積の83.7%(25年度実績)を占 めており、国内最大級の米調製施設を備えて います。転作作物としては小麦、大豆(スズ マル)、そば(牡丹そば)、など土地利用型作 物が主力となっています。 写真 1 小林 勝氏 また、園芸作物として「キングメルティ」 で知られる浦臼メロンや新十津川産メロン「ノースランドレッド」を筆頭に実績と高い評価を受 け多くのファンに支えられてきました。近年では、ミニトマト「とまっちとまっこ」など、新た なブランドづくりに向けた取り組みも盛んな地域です。 2 当該農家の経営概要 小林氏は、樺戸山地の秀峰「ピンネシリ」と増毛山地を眺望できる新十津川町の高台で、190 頭の肉牛を肥育する経営を営んでいます。耕作地には粗飼料を自己調達するために牧草を栽培し ていますが、粘土地であるため収量が思うように得られていません。このため、小林氏は小麦の 導入により計画的な有機質投入と透排水性改善に努力し、粗飼料の収量・品質の向上を図るとと もに、ほ場副産物(麦稈など)の有効活用を行い効率的な営農を目指しています。 表 1 輪作体系と作付状況 経営規模 32.96ha 輪 作 体 系 輪作の特徴 H 22 H 23 H 24 H 25 H 26 牧草 小麦 小麦 小麦 小麦 小麦栽培に向く圃場を選定 し、 3 ~ 4 年で移動している。 3 秋まき小麦の生産状況 小林氏の小麦収量は、町平均に対して約 2 倍(H26年は178%)に達しており、等級別検査量 における 1 等麦率は100%、茎数管理や登熟期の肥培管理への細かな配慮も欠かさず地域のトッ プクラスの生産を行っています。一方で、自己で習得した栽培技術のポイントを小麦生産部会に おいて公表するなど、地域の技術レベルのアップにも貢献しています。 − 28 − 表 2 最近 3 年間の小麦生産状況 小麦栽培 面積(ha) 収 量(㎏/10a) 麦作率 (%) 1 等麦比率(%) 規格外 含む収量 製品( 1 等 規格外含 (㎏) + 2 等)に む総量に 対して 対して 年産 小 麦 品種名 H24 きたほなみ 3.05 9.3 474 214 18,566 100 77.9 H25 きたほなみ 3.05 9.3 606 275 21,258 100 86.9 H26 きたほなみ 3.26 9.9 455 255 18,452 100 80.6 農 家 町平均 表 3 品質測定値 容積重(g/ℓ) F.N.(sec) 蛋白含量(%) 灰分含量(%) 870 408 11.4 1.45 4 技術の内容 施肥においては、春先の土壌水分の高い時期から肥効が期待できる緩効性肥料を導入して初期 生育量の確保を図るとともに、その後の追肥は土壌水分に依存しない施肥方法(葉面散布)に切 り換えるなど、生育環境・生育状況に応じた管理がなされています。 表 4 耕種概要など は 種 期 量 方 法 土 性 施 肥 (㎏ /10a) 区分 基肥 窒素 燐酸 加里 月 日 10.0㎏ 9.0㎏ 6.0㎏ 9 月11日 根雪始 雪 腐 病 防 除 時期 使用薬剤名 --- 未実施 追肥 畦幅 埴壌土 9 月13日 9㎏ /10a 12.5㎝ --- --- 幼形 0.92 0.93 0.01 0.01 0.01 0.01 5 月10日 11月27日 5 月20日 止葉 0.93 0.93 0.74 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 0.01 5 月31日 6 月18日 6 月24日 起生 --- 表 5 病害虫防除等 除草剤散布 融雪促進 時 期 剤名・散布量 時 期 資材名・散布量 融雪期 病害虫防除(植物成長調整剤等) 対象病害虫防除 時 期 使用薬剤・散布量 6 月 7 日 シルバキュアFL 2000倍 9 月20日 ガレース乳剤 防散融雪炭カル 3 月16日 4 月18日 200ml/10a 180㎏ /10a うどんこ病 赤かび病 アブラムシ 6 月18日 ベフトップジンFL 1000倍 ・エルサン乳剤 1000倍 6 月24日 シルバキュアFL 2000倍 − 29 − 備 考 5 技術の特色 ⑴ 有機質の投入 肉牛飼養により産出される家畜糞尿を完熟させ、粘土地の土質改良のため毎年10t/10aを投入、 プラウで下層土に混和し地力の向上に努めています。 ⑵ 圃場の排水改善 は種前に下層土の破砕性の高いハーフソイラを施工、播種後には、圃場内明渠や額縁明渠を施 工して積極的に排水性を高めるため努力しています。 それにより、融雪後の地温上昇が促進されるなど初期生育の良い圃場となっています。 ⑶ 緩効性肥料の導入 春先の土壌水分が高い時期の施肥技術として、新たに「緩効性肥料」を用いて起生期追肥の省 略栽培に取り組むなど、新しい技術への関心が高く改善意欲が旺盛な方です。 ⑷ 天候状況に応じた施肥技術 圃場毎に茎数・生育を確認しながら追肥量を調整するほか、追肥時期の天候や土壌水分の状況 により「効果的な施用方法」を選択(H26年は、土壌水分が少なかったことから葉面散布による 追肥を選択した)するなど、細やかな肥培管理を実践しています。 6 その他 生産コストの低減を図るため、小麦の収穫・乾燥については余力のある生産者あるいはJA乾 燥施設を積極的に活用し過剰装備をしていません。 また、栽培管理において必要な作業機械については、地域共同の作業機を活用し、自己装備す べき作業機についても中古を導入し、可能な範囲の点検整備について自力で行うなどコストの低 減に努めています。 写真 2 麦畑からピンネシリを眺む 写真 3 小林勝氏 秋まき小麦畑から肉 牛育成舎を眺む (出典:新十津川町役場) (出典:空知農業改良普及センター中空知支所 ふじき) (執筆者名:空知農業改良普及センター 専門普及指導員 藤木 喜美) − 30 −
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