急性心筋梗塞・PCI施行後患者における安全な活動度拡大に対する

急性心筋梗塞・PCI施行後患者における安全な活動度拡大に対する取り組み
須藤宗 1、二宮竜司1、石井玲1、山田伸1、齊藤元太 3、大和田真玄 2、今田篤 2
1 青森県立中央病院リハビリテーション科、2 同循環器科、3 山形市立病院済生館
キーワード;急性心筋梗塞・活動度・歩行負荷試験
【目的】急性心筋梗塞(A
M
I
)患者の急性期には血行動態
も不安定であり、活動度の拡大には細心の注意を払わな
ければならない。そこで、A
M
I発症後の急性期に安全に
活動度を拡大するために歩行負荷試験を導入し、その取
り組みについて報告する。
【対象】平成 2
6年 7月から平成 2
6年 2月までの 8か月
間に入院した A
M
I患者(経皮的冠動脈形成術(P
C
I
:
p
e
r
c
u
t
a
n
e
o
u
sc
o
r
o
n
a
r
yi
n
t
e
r
v
e
n
t
i
o
n
)を施行したもの)
で急性期心臓リハビリテーション(以下心リハ)を実施
した 3
2例。尚、本報告にあたり、青森県立中央病院倫理
審査委員会の承認を得た。
【歩行負荷試験導入までの経過】当院では A
M
I患者に対
する急性期の活動度拡大は、これまで医師と看護師によ
って行われていた。負荷の強度に特に決まりはなく、動
作後の症状やバイタルの変化のみ観察され、心電図検査
などは行われていなかった。こうして活動度を徐々に拡
大し、退院までに A
D
Lが自立すればよいという考えのも
と、積極的な運動負荷は行われないまま退院となるケー
スが多かったが、退院後の生活や運動負荷に対する不安
を訴える患者もおり、入院中に安全に運動負荷を行う必
要性を心リハチーム内で協議した。その結果、まずは
1
0
0
mおよび 3
0
0
m歩行時に症状やバイタルの変化の他に
負荷前後で 1
2誘導心電図をとり、
心電図変化がないかど
うかを医師・看護師・理学療法士で確認することにした。
こうして安全に歩行が可能なことを確認して、階段昇降
や自転車エルゴメーターによる運動負荷を行なうことと
した。
【歩行負荷試験のプロトコール】当院では P
C
I後 2日目
より離床、
室内歩行可としている。
翌3日目に1
0
0
m歩行、
4日目に 3
0
0
m歩行負荷試験を行い、この際歩行負荷前後
で施行した 1
2誘導心電図を看護師と理学療法士が診断
基準に従って確認し、更に医師の確認のもと活動度拡大
の許可を得ている。この 1
0
0
mおよび 3
0
0
m歩行負荷試験
において、心電図変化の有無やバイタルサインの変化、
虚血性の症状出現について検討した。
【結果】P
C
I後の残存狭窄は 1
3例(4
0
.
6
%)に認められ、
このうち 9例(6
9
.
2
%)に P
C
Iが追加された。1
0
0
mおよ
び3
0
0
m歩行負荷試験はそれぞれ 2
3例(7
1
.
9
%)に、実
施され、両方実施されたのは 1
9例(3
0
.
6
%)であった。
1
0
0
m歩行負荷試験では 1例に血圧上昇、もう 1例に負荷
時の胸痛出現を認め、3
0
0
m歩行負荷時には 1例に心電図
上S
T低下を認めた。すなわち計 4
6回の歩行負荷試験中
2回(4
.
3
%)に虚血性変化を認めた。
【症例の検討】症例 1
:6
9歳、女性、胸背部痛を訴え当
院へ救急搬送。緊急心臓カテーテル(以下心カテ)にて、
左前下行枝#
6に 9
9
%、左回旋枝#
1
4に 9
9
%、右冠動脈#
2
に7
5
%狭窄を認め、
#
6にP
C
Iを施行(
M
a
xC
P
K1
0
4
8
)
した。
第 2病日より室内歩行可となったが、週末で理学療法士
が不在であり、歩行負荷試験なしに活動度が病棟内フリ
ーまで拡大された。第 6病日に実施した歩行負荷試験で
心電図上 S
T低下を認めたため活動度をトイレ歩行まで
に制限した。第 8病日に残存狭窄の#
1
4に P
C
Iを施行、
翌日の 3
0
0
m歩行負荷試験では問題なく、1
2病日から心
リハ室での運動療法を開始、
第1
6病日に自宅退院となっ
た。
症例 2
:6
1歳、女性、入浴中に意識レベルの低下あり、
近医受診後当院へ救急搬送。心カテにて右冠動脈#
2の完
全閉塞を認め P
C
I施行(
m
a
xC
P
K1
7
2
7
)
した。第 3病日に
1
0
0
m歩行負荷試験を実施したところ胸痛とともに心電
図で 2
・3
・a
V
Fで S
T上昇を認めたため緊急心カテ施行、
有意狭窄なく冠攣縮(スパスム)によるものと診断され
カルシウム拮抗薬の追加投与が行われた。翌日の 1
0
0
m
歩行負荷試験では問題なく、活動度を拡大して運動療法
を行い、第 1
2病日に自宅退院となった。
【考察】今回の検討では A
M
I急性期の歩行負荷時のイベ
ント発生率は約 5
%と比較的低いものと思われた。しか
し、運動負荷後の虚血イベントによって、致死的不整脈
の発生など重篤化する可能性も考えられ、多職種による
注意深いアプローチが必要である。当院では安全性を確
保するために看護師と理学療法士により心電図のダブル
チェックを行い、異常発見時には直ちに医師が対応する
システムを構築した。今回負荷試験にて虚血が明らかと
なった 2症例に対しても、迅速に対応ができたと思われ
る。
【まとめ】A
M
I患者の急性期心リハでは運動負荷による
虚血症状に遭遇することがあるため、患者情報をしっか
りと把握して、イベント発生時には迅速に対応できる多
職種連携とシステムづくりが必要である。