追補2:臨床試験の信頼性確保のための考え方

2014 年 1 月 14 日改訂
2015 年 4 月 24 日改訂
「分子イメージング臨床研究に用いる PET 薬剤についての基準」の追補2
臨床試験の信頼性確保のための考え方
臨床試験データの信頼性確保のための「モニタリングと監査」と呼ばれる仕組みは、被
験者の人権と安全性の確保、試験結果の再現性の確保について、第三者的な観点から担保
するためのものである。
「臨床研究に関する倫理指針」では要件とされていなかったが、治
験に適用される GCP 省令、そのもととなった国際基準である ICH-GCP において要件とさ
れている。「臨床研究」「疫学研究」指針を統合した「人を対象とする医学系研究に関する
倫理指針」
(2015 年 4 月 1 日施行)では、同指針の定義による「侵襲」
(軽微な侵襲を除く)
及び「介入」のある研究はモニタリング及び必要に応じて監査の実施が義務づけられた。
近年、先進医療や特定の研究事業では、臨床研究においても GCP 水準の体制が求められ
るようになっている。すなわち、新たな医療技術を、学術的な探索のみならず、保険併用
や保険診療の枠組みの中で行うことについて行政当局の承認を得るにあたっては、客観的
に信頼性を担保できることが望ましく、このため、
「モニタリングと監査」の仕組みを伴う
管理体制が目指されているのである。
日本核医学会では、先進医療等は GCP 省令等を参考にして進めることが望ましいと考え
るが、これに至らない段階でも参照できるモニタリングと監査の考え方を、
「臨床試験の信
頼性確保のための考え方」として示すこととした。近年、
「リスクベースド・モニタリング」
の考え方も広く議論されているが、PET イメージング臨床研究においては、人体の生理的
メカニズムや薬物の作用機序についての探索的な臨床研究の段階と、保険診療や薬事承認
を目指す検証的な臨床試験の段階が考えられるという認識の上に立って、適切な「リスク
ベースド・モニタリング」 1の体制を、各研究機関、各研究プロジェクトにおいて採用して
いくことが望ましいと考える。
なお、モニタリングと監査の活動は日本核医学会が実施するものではなく、各研究機関
や研究グループが独自に必要に応じて設定するものである。CRO(contract research
organization:開発業務受託機関)等に業務を委託することも可能である。最近では、研究・
医療機関内での ARO(academic research organization)の支援、機関相互の支援体制な
文末の文献 6)を参照。研究目的に照らしたデータの重要性や被験者の安全確保の観点か
ら、研究の品質に及ぼす影響を考慮し、あらかじめ定めた項目についてモニタリングを行
うという考え方。全症例についてモニタリングを行う・実地で直接閲覧により行うという
方法に対し、サンプリングしたデータについて行う・実地に赴かず中央から電子媒体を利
用して行う、などの方法をいう。リスク分類の際の着眼点については国内外で様々な考え
方が示されている。
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ども促進されている。
1.原資料
原資料とは、被験者に関する診療録、薬剤投与記録、検査記録、画像データなどの生デ
ータのことである。通常の診療録を超える範囲の情報を、研究を目的として被験者より収
集する場合には、原資料としての記録の方法を、計画書、手順書等において明確にしてお
くことが望ましい。
原資料の修正においては、修正を行った者、日付、理由を記録しておくことが望ましい。
2.症例報告書(case report form:CRF)
研究用のデータ収集・分析のため、原資料から転記して作成する症例報告書(case report
form:CRF)を用いる場合には、その様式を研究グループ内において確認する。倫理審査
委員会の審査資料に添付することによって、客観性を担保することができる。
症例報告書の修正においては、修正を行った者、日付、理由を記録しておくことが望ま
しい。
3.モニタリング
モニタリングとは、被験者の人権と安全、研究データの信頼性を客観的に担保するため、
同意文書の記載内容、薬剤投与記録、検査記録等の原資料および症例報告書を閲覧し、研
究計画書や適用規則に従って実施され、記録されていることを確認する活動である。これ
によって、症例報告書等の修正を求められることがある。
モニタリングを行う者を「モニター」という。モニターは、研究責任者が指名する。研
究グループに属さない者であることが望ましいが、研究グループ内の場合は、客観性・独
立性を保持できる者であるべきである。
なお、
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」及びそのガイダンスにおける定義
も参照されたい。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/
4.監査
監査とは、モニタリング活動が適正に行われたことも含めて、臨床試験データの信頼性
を確認し、試験データを保証するための活動である。これによって、症例報告書等の修正
を求められることがある。
監査を行う者を「監査担当者」という。監査担当者は、研究責任者が指名する。研究グ
ループに属さない者であって、モニタリング活動にも参加していない者が行うべきである。
なお、
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」及びそのガイダンスにおける定義
も参照されたい。
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/
5.手順書
モニタリングと監査の方法については、それぞれの手順書を作成し、事前に研究責任者
が確認する。モニタリングと監査は、全数調査であっても標本抽出であってもよいが、標
本抽出の場合には標本の選択の考え方と手順を明確にしておく。
6.研究計画書
研究計画書には、モニタリングおよび監査の担当者の氏名を記載する。また、必要に応
じて、方針、方法、手順等の概要を記載する。
7.改善措置
モニタリングまたは監査によって、重大及び(又は)継続した計画書の不遵守等が報告
された場合には、研究責任者は適切な改善措置をとらなければならない。
8.報告書
モニタリングと監査の実施結果については、それぞれの報告書を作成し、研究責任者に
提出する。
参考
1) 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成 9 年厚生省令第 28 号)
(GCP 省令)
2)「
「医薬品の臨床試験の実施の基準の運用に関する省令」のガイダンスについて」の一部
改正等について(平成 25 年 4 月 4 日.薬食審査発第 0404 第 4 号.
)
(GCP ガイダンス)
3) ICH 医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)のガイドライン.(International
Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of
Pharmaceuticals for Human Use.ICH harmonized tripartite guideline:Guideline for
Good Clinical Practice E6.10 June 1996.
)
(ICH-GCP)
4) 2011 International Standards Organization (ISO) Clinical investigation of medical
devices for human subjects – good clinical practice (ISO 14155:2011)
5) 文部科学省 厚生労働省.人を対象とする医学系研究に関する倫理指針.平成26年12月
22日 及びそのガイダンス.平成27年2月9日.
6) 厚生労働省医薬食品局審査管理課.リスクに基づくモニタリングに関する基本的考え方
について.事務連絡 平成 25 年 7 月 1 日