日本金属学会誌 第 79 巻 第 4 号(2015)176182 超音波接合を用いて接合された 押出 Mg96Zn2Y2 合金継手の微細構造の特徴 東 雄 一1,2, 岩 本 知 広3 河 村 能 人1 1熊本大学大学院自然科学研究科 2鹿児島工業高等専門学校機械工学科 3茨城大学工学部マテリアル工学科 J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 4 (2015), pp. 176 182 2015 The Japan Institute of Metals and Materials Microstructure Characteristic of Extruded Mg96Zn2Y2 Alloy Joints Joined by Ultrasonic Welding Yuichi Higashi1,2, , Chihiro Iwamoto3 and Yoshihito Kawamura1 1Graduate School of Science and Technology, Kumamoto University, Kumamoto 8608555 2Department of Mechanical Engineering, National Institute of Technology, Kagoshima College, Kirishima 8995193 3Department of Materials Science and Engineering, College of Engineering, Ibaraki University, Hitachi 3168511 Extruded Mg96Zn2Y2 alloys have excellent mechanical properties and are twophase alloys consisting of an Mgmatrix and a longperiod stacking ordered (LPSO) structure phase extended along the extrusion direction. Developing the welding process of the advanced Mg/LPSO alloys is indispensable for expanding applications. This study evaluated microstructure evolution of the extruded Mg96Zn2Y2 alloy joints which were welded by ultrasonic welding. Specimens were welded so that extrusion directions could be orthogonal to each other. The extrusion direction and the direction in which the LPSO phases extended are parallel, thus the extrusion direction of the top plate is 90°orientation to the ultrasonic vibration. The bottom plate is 0°orientation. A band with fine grains around the weld interface was generated and the grain growth occurred outside of the band. Inside of the band indicated the basal texture and outside of the band kept the extruded texture. The width of the band with fine grains expanded in the top plate side with increasing the welding energy. The grown grains outside of the band were also large in the top plate side. In addition, the grown grains of Mg matrix were estimated to be morphology that extended to the extrusion direction. In ultrasonic welding process, the expansion of the band width and the grain size of the grown grains in the top plate side were found that the direction of ultrasonic vibration and the orientation of the extruded texture were contributed. [doi:10.2320/jinstmet.JBW201403] (Received October 21, 2014; Accepted December 2, 2014; Published April 1, 2015) Keywords: magnesium alloys, longperiod stacking ordered structure phase, microstructure, extruded texture, ultrasonic welding この LPSO 相を持つ Mg 合金は鋳造金属を押出すことによ 1. 緒 言 って降伏応力と引張強さが著しく向上することが分かってい る5,8,9).その優れた機械的特性は,Mg 母相と LPSO 相の両 Mg 合金は実用金属中最も軽く,自動車や航空機産業など 方が関係しており,押出方向に沿って伸びた LPSO 相自体 において軽量化のための構造用部材として期待されてい が強い補強材として作用することや押出加工時に起こる Mg る13).さらに,高い比強度や減衰能などの優れた機械的特 母相の結晶粒の微細化と LPSO 相内におけるキンクバンド 性 を 持 つ こ と か ら , Mg 合 金 の 用 途 は 急 速 に 拡 大 し て い の形成がその特性に起因している5,10,11).このような先進的 る3,4).近年,引張強さが 400 MPa を超える優れた機械的特 な Mg / LPSO 合金については,近年盛んに研究が行われて 性 を 持 つ 押 出 Mg96Zn2Y2 合 金 が 開 発 さ れ た5) . 押 出 おり,その用途を拡大するためにも接合技術の開発は不可欠 Mg96Zn2Y2 合 金 は , Mg 母 相 と 長 周 期 積 層 構 造 相 ( Long である. Period Stacking Ordered Structure Phase,以下 LPSO 相と 本研究では,押出 Mg96Zn2Y2 合金を接合するために超音 する)からなる二相合金であり, LPSO 相の中に Zn と Y が 波接合法を応用した.超音波接合は,超音波振動による摩擦 濃化した 2 原子層が最密面に規則的に存在する57).また, が金属表面に存在する酸化被膜を機械的に除去し,清浄な面 同士が接触することにより,熱源を用いることなく素早く接 熊 本 大 学 大 学 院 生 , 現 在 茨 城 大 学 大 学 院 生 ( Graduate Student, Kumamoto University, Present address: Graduate Student, Ibaraki University) 合することが可能である12,13).この接合法は,電子機器や自 動車などの多くの産業で使われており,構造用部材としての 4 第 号 超音波接合を用いて接合された押出 Mg96Zn2Y2 合金継手の微細構造の特徴 薄板をスポット溶接するエネルギー効率の良い固相接合技術 である1417) .さらに,超音波接合は抵抗スポット溶接と比 2.3 177 継手の微細構造観察 べてはるかに低いエネルギーで接合できるため,省エネの観 Fig. 2 に示すように,接合した試料の断面をカットし, 点からも構造用部材への応用が期待されている17) .超音波 View A,View B および View C からの微細構造を電界放出 接合に関する研究は, Al 18)や Cu 19)の同種材や Zn / Al 20)や 形走査電子顕微鏡FESEM (JEOL JSM7600F)と透過型 Al / Glass 21), Fe / Al 22)の異種材など多くの材料について行 電子顕微鏡 200 kV TEM ( FEI TECNAI G2 F20 )を用い ら2325) が工業用 て観察を行った.SEM 観察用の試料は,機械研磨後,粒界 Mg 合金 AZ31B についての研究を行っており,超音波接合 を 観察 す るた め にア セト ン ピク リ ン酸 溶液 (ア セト ン 5 プロセスにおける微細構造の変化について,再結晶した結晶 mL , ピ ク リ ン 酸 2.1 g , エ タ ノ ー ル 35 mL お よ び 純 水 5 粒が底面集合組織を示すことや接合エネルギーの増加に伴っ mL)を用いて腐食処理を施した.SEM 観察は 15 kV の加速 て結晶粒が粗大化することが報告されている. 電圧により観察した.また,この SEM に備え付けてある電 われている. Mg 合金に関しては, Patel しかし,これまで Mg / LPSO 合金への超音波接合の応用 子後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶粒の配向性の分析も行 はなく,この合金のエンジニアリング材料としての用途を拡 った. EBSD 用の試料はクロスセクションポリッシャを用 大していくためにも,超音波接合プロセスにおける二相 Mg いて研磨を行い,加速電圧 15 kV,照射電流 16 nA,試料傾 合金の微細構造の変化を解明することは不可欠である.本研 の条件で EBSD を行った. TEM 観察用の試料も 斜角 70 ° 究では,超音波接合プロセスにおける押出 Mg96Zn2Y2 合金 SEM 観察用と同様に機械研磨を行い,その後,Ar イオン研 の微細構造の変化を評価した. 磨機を用いて薄膜化した. 実 験 2. 2.1 方 法 供試材と接合試験片 供試材として, Mg96Zn2Y2 合金の円柱押出材を用い,そ の押出材から押出方向に並行に短冊状の試験片を切り出し た . 試 験 片 の サ イ ズ は 長 さ 50 mm , 幅 20 mm , 板 厚 0.8 mm とし,接合する面は,# 2000 の耐水研磨紙を用いて研 磨を行った. 2.2 Fig. 2 超音波接合実験 View of microstructure observation samples. Fig. 1 ( a )に,超音波接合の概略図を示す.超音波接合の 株 製) 実験には,超音波接合装置(東芝三菱電機産業システム 株 製)を用いた.定格出 および発信器(ソノマックジャパン 力,発振周波数および加圧力は,それぞれ 1200 W,20 kHz および 1100 N とし,接合エネルギーを 1300 ~ 3500 J の範 囲で変化させ接合を行った.接合エネルギーは,最終的に試 験片の接合に要したエネルギーである.また, Fig. 1 ( b )に 示すように,試験片は押出方向が互いに交差するように配置 して接合させた.上板は,超音波振動の方向に対して押出方 向が 90° ,すなわち,超音波接合の方向と LPSO 相の伸びて いる方向が 90° であり,下板は,超音波振動の方向に対して の配置となっている. LPSO 相の伸びている方向が 0° Fig. 3 Fig. 1 SEM image of extruded Mg96Zn2Y2 alloys. (a) Schematic of ultrasonic welding, (b) schematic layout of specimens. 178 日 本 金 属 学 会 誌(2015) 第 79 巻 面同士を比較したところ( Fig. 6 ( a )の上板と Fig. 6 ( b )の下 3. 実 験 結 果 板もしくは Fig. 6 ( a )の下板と Fig. 6 ( b )の上板), Fig. 4 と 5 で示した結果と同様に上板の方が大きな結晶粒になってい まず初めに,押出 Mg96Zn2Y2 合金の微細構造の観察を行 ることが明らかである.また.押出方向の面では LPSO 相 い,その結果を Fig. 3 に示す.腐食処理を施すことによ が押出方向に沿って伸びており,LPSO 相が伸びている方向 り,粒界をはっきりと観察することができた.押出 に結晶粒も成長していることが分かる.しかし,押出断面で Mg96Zn2Y2 合金の Mg 母相の結晶粒は約 2 mm 程度の小さな は LPSO 相がランダムに分布しているため,結晶粒も不規 結晶粒であり,この結果は, Noda ら8) や Yamasaki ら26) が 則な形に成長している.また, Fig. 6 ( c )に示すように, 報告した結果に一致している.さらに,LPSO 相は明るいコ View C を観察することによって 3 次元的な結晶粒の形状を ントラストで示され,押出方向に沿って伸びていることが観 推測することが容易にでき,上板も下板も,押出方向に伸び 察された. た形状をしていると考えられる. Fig. 4 ( a )~( d )は, View A から観察した 1300 , 2300 , また,粒界が不鮮明なバンド内側の微細構造を明らかにす 3000 , 3500 J の接合エネルギーで接合した押出 Mg96Zn2Y2 るために, TEM を用いた観察を行った. Fig. 7 は, View 合金継手の SEM 像を示す.接合した試料は,押出方向が交 A から観察した 1300 J の接合エネルギーで接合した試料の 差するように接合されたため,LPSO 相が上板と下板で異な る形態を示した.接合後,いずれの接合エネルギーで接合し た試料においても粒界が不鮮明なバンドが接合界面周辺の白 い破線の間で観察された.白い実線は接合界面を示す.ま た,そのバンドの外側では成長した大きな結晶粒が観察され た.Fig. 5 は,バンドの外側で観察された大きな結晶粒の平 均粒径と接合エネルギーの関係を示す.上板は押出方向の 面,下板は押出断面の結晶粒径を測定しており,上板と下板 は異なる面を観察している.上板と下板の成長した結晶粒の 粒径は,ともに接合エネルギーの増加に関係なくほぼ一定で あり,上板の結晶粒の方が,下板の結晶粒より大きくなる傾 向が分かった.その平均粒径は,上板が約 10 mm ,下板が 約 8 mm である.また,Fig. 6(a)と(b)に示すように,View B の観察を行い,View A との比較を行った.お互いの同じ Fig. 4 Fig. 5 Relationship between the grain size of the grown grains and welding energy. SEM images of joints at welding energy levels: (a) 1300 J, (b) 2300 J, (c) 3000 J, (d) 3500 J. 第 4 号 超音波接合を用いて接合された押出 Mg96Zn2Y2 合金継手の微細構造の特徴 Fig. 6 179 Estimation of grain morphology; (a) View A, (b) View B, (c) View C. Fig. 8 Relationship between the band width and welding energy. Fig. 7 Brightfield TEM image nearby the weld interface joined at a welding energy of 1300 J. め,母材および継手のバンド内側と外側の EBSD を行い, 極点図の分析を行った.極点図の座標軸は,試験片の押出方 向が ED,板幅方向が TD,板厚方向が ND である. 接合界面周辺で撮られた明視野像を示す.バンド内側におい Fig. 9 ( a ) は , 押 出 Mg96Zn2Y2 合 金 母 材 の Mg 母 相 の て 2 mm より小さな非常に細かい結晶粒が観察され,結晶粒 { 0001}極点図を示す.その極点図は,{ 0001 }面法線方向が の微細化が起こっていることが分かった.さらに,この図中 ND から TD の方向に配向し,底面が円柱押出合金の柱面に で示されているように,接合界面近傍に LPSO 相が存在し 平行な典型的な押出集合組織のプロファイルを示した10,26). た場合,その LPSO 相と接合界面の間で微細化した結晶粒 Fig. 9(b)は,1300 J と 3500 J の接合エネルギーにおける が観察されており,これは LPSO 相が微細化した結晶粒を バンド内側の Mg 母相の{ 0001 }極点図を示す.接合後, 持つバンドの幅の拡大を制限したと考えられる.Fig. 8 は, 1300 J の接合エネルギーにおける微細化した結晶粒の配向 この微細化した結晶粒をもつバンドの幅と接合エネルギーの 性は,{ 0001 }面法線方向が ND の方向に配向したプロファ 関係を示す.上板のバンド幅は,接合エネルギーの増加に伴 イルに変化し,これは,底面が接合界面(超音波振動の方向) って増加しているが,下板のバンド幅は,接合エネルギーの に平行に揃った底面集合組織である.さらに, 3500 J の接 増加に関係なくほぼ一定となっていた. 合エネルギーにおける{ 0001 }極点図も, 1300 J の接合エネ 押出 Mg96Zn2Y2 合金継手の結晶粒の配向性を調査するた ルギーの極点図と同じ底面集合組織のプロファイルを示し 180 第 日 本 金 属 学 会 誌(2015) 79 巻 Fig. 9 {0001} pole figures: (a) base metal, (b) inside of the band at welding energies of 1300 J and 3500 J, (c) top plate outside of the band at welding energies of 1300 J and 3500 J, (d) bottom plate outside of the band at welding energies of 1300 J and 3500 J. た.したがって,超音波接合中に生成されたバンド内側の底 面集合組織は,接合エネルギーの増加に関係なく変化しない ことが分かった.また,底面集合組織に変化した際の集積度 は,接合エネルギーの増加に伴って低下した.Fig. 9(c)は, 1300 J と 3500 J の接合エネルギーにおけるバンド外側の上 板における Mg 母相の{ 0001 }極点図を示す. 1300 J の接合 エネルギーにおける Mg 母相の成長した結晶粒は,{ 0001 } 面法線方向が TD から ND の方向に配向したプロファイル を示し,母材と同じ分布を示した.上板の結晶粒は成長した にもかかわらず,低い接合エネルギーにおいて,母材の押出 集合組織が崩れていなかった.しかし, 3500 J の接合エネ ルギーにおける Mg 母相の成長した結晶粒は,{ 0001 }面法 線方向が TD から約 45° の角度に配向したプロファイルに変 化した.上板における集合組織の集積度は,接合後低下し, Fig. 10 Grain boundary map at a welding energy of 1300 J. 接合エネルギーの増加に伴ってさらに低下した. Fig. 9 ( d ) は, 1300 J と 3500 J の接合エネルギーにおけるバンド外側 の下板における Mg 母相の{ 0001 }極点図を示す.押出方向 に接合エネルギー 1300 J における粒界マップを示す.青線 が交差するように接合したため,下板の座標軸は, ED と が方位差角 15° 未満の小傾角粒界を示しており,赤線が方位 TD が入れ替わっている.下板の極点図は,1300 J と 3500 J 以上の大傾角粒界を示している.また,赤色に塗ら 差角 15° の接合エネルギーともに{ 0001 }面法線方向が ND から TD れている領域は LPSO 相を示し,黒点線がバンドの境界を の方向に配向したプロファイルを示し,母材と同じ分布を示 示す.バンド内側およびバンド外側の上板と下板いずれも大 した.下板の結晶粒も成長したにもかかわらず,母材の押出 傾角粒界からなっていることが分かった.また,いずれの接 集合組織は崩れておらず,大きな接合エネルギーにおいても 合エネルギーにおいても同様の結果が得られている. その集合組織は変わらなかった.また,下板における集合組 織の集積度は,接合後低下したが,接合エネルギーが増加し たとしても大きな変化は見られなかった.以上の結果より, 超音波接合後の Mg 母相の結晶粒は,バンドの外側と内側 で異なる集合組織を示すことが分かった.さらに, Fig. 10 考 4. 4.1 察 成長した結晶粒 Fig. 4 のバンド外側で観察された成長した結晶粒は,Fig. 4 第 号 超音波接合を用いて接合された押出 Mg96Zn2Y2 合金継手の微細構造の特徴 181 10 で示したように大傾角粒界からなっており,再結晶が起 な激しい塑性変形に起因して微小凹凸にせん断応力が作用す こったことにより生成された結晶粒であることが分かった. る.その変形による転位密度は,超音波振動が印加されてい ら23,24) や る間,バンド内側の結晶粒内で増加する.したがって,再結 Pareek ら27)の研究でも報告されている.また,Patel らの研 晶が起こり,微細化した結晶粒が接合界面周辺において生成 究23,24)では,接合エネルギーの増加に伴って再結晶粒は粗大 されたと考えられる.この理論は Al の超音波接合において 化することが分かっている.しかし,本実験では,成長した 議論されており18) ,接合界面で結晶粒が微細化する一般的 再結晶粒の粒径は接合エネルギーの増加に関係なく変化しな な理由である. 接合プロセスにおける再結晶粒の成長は, Patel かった.押出 Mg96Zn2Y2 合金は LPSO 相をもつ二相合金で しかし, AZ31B において,このような明確なバンドは観 あるため,LPSO 相と粒界間の相互作用が粒径の飽和に関係 察されておらず2325) ,押出 Mg96Zn2Y2 合金において観察さ していると考えられる.押出方向の面(Fig. 4 の上板)を見る れた.バンド内側も Fig. 10 で示したように大傾角粒界から と,押出方向に沿って LPSO 相は約 10 mm の間隔で分布し なっているため,上記で述べた Al 18)の場合と同様に再結晶 ており,成長した再結晶粒の粒径も約 10 mm で一定になっ が起こり,結晶粒が微細化したと考えられる.さらに,本実 ている.また,押出断面(Fig. 4 の下板)を見ると,LPSO 相 験で用いた押出 Mg96Zn2Y2 合金は, LPSO 相を持つ二相合 はランダムかつ押出方向の面より密な間隔で分布しており, 金であり,LPSO 相は Mg 母相に比べてすべり系の数が少な 押出方向の面より比較的小さい約 8 mm の粒径で一定になっ いため5,6) , LPSO 相が転位の障害物の役割をしていると考 ている.このような相関関係から,LPSO 相が粒成長の際の えられる.したがって,超音波接合の際に起こる微細化した 粒界移動をピン留めしていると考えられる. 隣接結晶粒へのすべりの伝播が LPSO 相によってせき止め また,Fig. 6(a)と(b)より,同じ面同士においても上板と られたと考えられ,バンドの内側における転位密度が LPSO 下板の成長した再結晶粒は上板の方が大きくなる傾向が得ら 相と接合界面の間で非常に高くなり,微細化した再結晶粒を れた.円柱押出材は, Fig. 9( a )で示したように{ 0001 }面が 持つバンドが生成されたと考えられる.これが超音波接合プ 柱面に並行な集合組織である.上板の場合,円柱の半径方向 ロセスにおいてバンドが生成された Mg / LPSO 合金特有の に対して超音波振動が印加されているため,超音波振動の方 理論である. 向と{ 0001 }面との間に角度が生じる.これに対して,下板 さらに,Fig. 8 で示したように,バンド幅は上板において は円柱の押出方向に超音波振動が印加されていることになる 接合エネルギーの増加に伴って増加した.これについても, ため,超音波振動の方向と{ 0001 }面は並行である.したが 超音波振動の方向と LPSO 相の伸びている方向が関係して って,超音波振動の方向に対して{ 0001 }すべり面に角度が いると考えられる.Fig. 9(a)と(b)で示したように,バンド 生じる上板において,{ 0001 }底面すべりが作用しやすいと 内側の微細化した再結晶粒は,{ 0001 }面が超音波振動の方 考えられ,上板の転位密度が高くなると推測できる.再結晶 向に平行に揃った底面集合組織に変化した.これは,バンド 粒は,粒内の転位密度に比例してその粒界移動の駆動力は大 内側において,{ 0001 }底面すべりが作用した激しいせん断 きくなるため28) ,バンド外側の成長した再結晶粒は上板の 変形によって生成されたと考えられる.また,4.1 章で述べ 方が大きくなったと考えられる. たように,{ 0001 }面と超音波振動の方向の関係から上板の さらに, Fig. 9(a), (c), (d)で示したように,接合後,上 方が{ 0001 }底面すべりが起こりやすい配置となっている. 板と下板ともにバンド外側において粒成長が起きたにもかか 上板において,底面すべりによるせん断変形が作用しやす わらず,母材の押出集合組織と同じプロファイルを示した. く,接合エネルギーの増加に伴って接合界面周辺の転位密度 これは,バンド外側においても超音波振動によるせん断変形 が高くなることにより,微細化した再結晶粒をもつバンドの は作用しているが,{ 0001 }面が回転するほどの転位が発生 幅が拡大したものと考えられる.さらに,バンド内側の底面 しなかったためと考えられる.また,その集積度も上板と下 集合組織の集積度は接合エネルギーの増加に伴って低下し 板とも母材に比べて低下し,これは新しく生成した再結晶粒 た.このような結果は,Patel ら23)や Chang らの摩擦攪拌加 のランダム化によるものと考えられる.しかし, 3500 J の 工(FSP)29)においても確認されており,これは,超音波接合 接合エネルギーを与えた場合,上板において{ 0001 }面法線 中の再結晶と集合組織のランダム化をもたらしながら,超音 方向は TD から約 45° 回転し,集積度も低下し,下板におい 波振動による塑性変形が底面集合組織を形成しているためと ては,大きな変化は見られなかった.これは,上述したよう 示唆されている23,29). に,上板において転位密度が高くなることが推測でき,接合 エネルギーが増加したことによって集積度が低下し,母材の 結 5. 論 押出集合組織が崩れ,{0001}面が回転したと考えられる. 4.2 微細化した結晶粒をもつバンドの形成とその幅の変化 Fig. 4 および Fig. 7 で示したような微細化した結晶粒を もつバンドは以下のプロセスを通して生成されたと考えられ る.接合前,試験片の接合する表面には微小凹凸が存在す 本研究では,押出 Mg96Zn2Y2 合金を超音波接合を用いて 接合し,その接合プロセスにおける微細構造の変化を評価し た. 接合界面周辺において微細化した結晶粒をもつバンドが形 成され,その外側において粒成長が起こった. る.一般的に,超音波接合の場合,加圧力とともにひずみ速 成長した再結晶粒の粒径は,上板で大きくなる傾向が得ら 度を作用させることによって,接合界面周辺における局所的 れた.これは,押出集合組織の向きと超音波振動の方向が関 182 日 本 金 属 学 会 誌(2015) 係しており,{ 0001 }面と超音波振動の方向との間に角度が 生じる上板の方が超音波振動による{ 0001 }底面すべりが作 用しやすい.したがって,上板の方が転位密度は高く,粒界 移動の駆動力が大きくなるため上板の成長した粒径の方が大 きくなったと考えられる.さらに,成長した再結晶粒の形態 が明らかとなり,上板と下板ともに,LPSO 相が伸びている 方向に成長した形状をしていることが分かった. また,微細化した再結晶粒を持つバンドも,接合エネル ギーの増加に伴って上板で拡大した.これも押出集合組織の 向きと超音波振動の方向が関係しており,上述したように, 上板の方が超音波振動による{ 0001 }底面すべりが作用しや すく,転位密度が高くなることで上板のバンド幅が拡大した と考えられる. 継手の集合組織は,バンド外側において粒成長が起こった にもかかわらず,母材の押出集合組織を保っている.しか し,高い接合エネルギーを与えた場合の上板においては底面 が約 45° 回転した.バンド内側は超音波振動による底面すべ りが作用した底面集合組織を示し,バンドの内側と外側で異 なる集合組織を示すことが分かった. 文 献 L. M. Zhao and Z. D. Zhang: Scr. Mater. 58(2008) 283286. A. A. Luo: Mater. Sci. Forum 419422(2003) 5766. X. Cao and M. Jahazi: Mater. Des. 30(2009) 20332042. L. Liu, X. Qi and Z. Wu: Mater. Lett. 64(2010) 8992. S. Yoshimoto, M. Yamasaki and Y. Kawamura: Mater. Trans. 47(2006), 959965. 6) E. Abe, Y. Kawamura, K. Hayashi and A. Inoue: Acta Mater. 50 (2002), 38453857. 7) E. Abe, A. Ono, T. Itoi, M. Yamasaki and Y. Kawamura: Philos. Mag. Lett. 91(2011) 690696. 1) 2) 3) 4) 5) 第 79 巻 8) M. Noda, T. Mayama and Y. Kawamura: Mater. Trans. 50 (2009) 25262531. 9) Y. Kawamura and M. Yamasaki: Mater. Trans. 48(2007) 2986 2992. 10) K. Hagihara, A. Kinoshita, Y. Sugino, M. Yamasaki, Y. Kawamura, H. Y. Yasuda and Y. Umakoshi: Acta Mater. 58 (2010) 62826293. 11) X. Yang, H. Miura and T. Sakai: Mater. Trans. 44(2003) 197 203. 12) E. Mariani and E. Ghassemieh: Acta Mater. 58(2010) 2492 2503. 13) C. Y. Kong, R. C. Soar and P. M. Dickens: J. Mater. Process. Tech. 146(2004) 181187. 14) E. T. Hetrick, J. R. 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