3月号

計画・交通研究会
目次
Opinion… ……………………………………… 1-2
計画の失敗から何を学ぶのか
News Letters… ………………………………… 2-8
事業報告・活動報告
Projects… ……………………………………… 8-10
プロジェクト紹介
Members……………………………………… 10-11
会員紹介
Backyard……………………………………… 11-12
事務局通信
Association for Planning and Transportation Studies
会報
2015-3
発行日:平成27年3月16日
発行元:(一社)計画・交通研究会
□ Opinion
計画の失敗から何を学ぶのか
原田 昇 (計画・交通研究会 評議員)
東京大学副学長・産学連携本部長、教授
国土審議会・社会資本整備審議会・交通政策審議会委員
1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
2014 年秋晴れの日、小樽市を訪れ運河ク
て、シナリオを再設定した予測と計画の見直し
ルーズを楽しんだが、「道路を作るために運河
を実施するべしということであった。
を埋め立てた」と説明されていることを知り、
また、予測値と計画値の違いも明確にするべ
計画の失敗を論じた日々を思い出した。
きことも学んだ。特に、運輸政策審議会第一号
かつて、新谷洋二先生の号令のもとに、太田
答申をまとめられた八十島義之助先生の、「鉄
勝敏先生の指導を仰ぎつつ、東大都市交通研究
道は見直したような結果になっています。私は
室の総力を挙げて過去の予測事例をできる限り
事実見直すべきだと思います。
」
「鉄道はシステ
集めて事後評価したことがあった。当時の私は
ムチェンジをして、はじめて予測された需要が
院生であったが、その後も、井上孝先生から「明
生じる」との運輸と経済(31 巻 9 号)に掲載
日の天気もわからないのに二十年後の交通量を
されたインタビュー記事は印象的であった。
予測するのはなぜかわかるかね」と言われたこ
そして、多くの事後評価事例の中で、東京都
ともあり、私には、不確実性が存在する中で敢
市圏や広島都市圏の第一回都市圏交通調査にお
えて予測をして計画をすることの意義につい
いて、都心部の人口に減少傾向があったにもか
て、時々考える癖がついている。
かわらず、都心部の人口の減少が抑えられると
新交通の利用者が予測された通りに伸びない
予測したのに対し、実際には人口が減少したと
場合など、「予測の失敗」と批判され、予測を
いう「計画の失敗」が観測された。これらの事
担当する専門家への批判が中心となる場合が多
例について、当時の私は、トレンドを無視した
い。計画・交通研究会の諸兄には明白なことで
設定には無理があったと単純に理解していた。
あると思うが、
「将来利用すると予測された交
しかし、近年のコンパクトシティの議論や計
通量」と「現実に利用する交通量」の乖離は、
画手法の整備を目の当たりにして、今日では、
さまざまな要因で生じる。当時、分析して明ら
提案する都市の将来像の重要性に関する合意が
かにしたことは、予測モデルの誤差は確かにあ
不十分であったとともに、それゆえに、その先
るが、それよりも、予測モデルに入力する将来
の計画手法の議論や整備に進むことがなかった
人口や将来経済成長などのシナリオの誤差が大
と理解している。また、合意ができないのは、
きいということであった。学んだことは、シナ
時代の違い、計画提案を受け入れる時代が持つ
リオをモニタリングし、設定とは異なる状況が
価値観の違いによるものが大きいと考える。私
生じているかどうかをできる限り早くとらえ
は、モビリティマネジメントが受け入れられた
1
背景の一つに、環境負荷軽減に対する価値観、
時代の価値観の基に計画された事例を事後評価
経済効率と環境負荷軽減のバランスに関する考
するときに、時代の価値観の違いには注意すべ
え方の変化があったと主張しているが、同様に、
きである。
今回の国土審議会において「コンパクト + ネッ
最後に、今回の国土審議会であるが、人口減
トワーク」論が受け入れられるのは、人口減少
少社会を捉えてそれに対応する将来像を描き、
に対する時代の理解、対応の必要性に関する理
計画手法も整えていこうとしていると理解す
解が深まったという時代背景があると整理して
る。実際に、活力ある日本と地方創生が実現す
いる。冒頭に述べた小樽運河に関しても、経済
るように、粘り強く、関係者の総力を挙げて取
効率とまちに固有な歴史遺産とのバランスに関
り組み、我が国において計画的に設定した将来
する価値観の変化が、北海道における中心都市
像を実現できることを示す良い事例となるた
としての小樽の役割の変化とともに生じたこと
め、共に努力していきたいと考える。
が背景にあることを忘れてはならない。異なる
事業報告・活動報告
□ ­­News Letters
平成 26 年度 第 4 回 イブニングセミナー
「国際交通基盤としての空港経営・港湾経営の
新たな展開〜その現在と未来〜」
今年度第 4 回目のイブニングセミナーが 2014
年 12 月 5 日に開催されました。テーマは「空港経
営・港湾経営の新たな展開」です。空港からは、
2012 年に伊丹空港と関西国際空港が統合され、
現在コンセッションが検討されている新関西国際
ご講演される安藤社長
空港(株)の安藤圭一社長からご講演いただき、
その後、港湾からは、国内外の港湾ビジネスに精
通されている政策研究大学院大学の井上聰史客員
2000 万人、さらにそれ以上に増やそうとしており
教授にご講演いただきました。空の港と海の港、
ます。これは国家戦略としての取り組みとなってお
両者の経営の最先端に関して同時に話を伺う貴重
り、国内マーケットが縮小している日本経済におい
な機会でありました。
て非常に良いことであるとのことでした。訪日外客
にターゲットを絞って成功している家電量販店や、
■新関西国際空港株式会社の空港戦略
外国人に人気の南部鉄器・有田焼などの例もご紹
(新関西国際空港株式会社
介頂きながら、国内マーケットが縮小する中で訪日
代表取締役社長 安藤 圭一氏)
外客が増えれば地方創生にもつながること、飛騨
〇観光、地方創生への期待
高山や白川郷を訪問する外国人でも関空の LCC を
冒頭では、最近の訪日外客と地方創生について
利用する人が多く、関空の LCC ビジネスが花開き、
のお話しがありました。以前、日本政府が年間の
地方の創生にも一役買っていると感じること、観光
訪日外客数 1000 万人を目指しているときには、空
政策に対しては抵抗勢力もなく皆がウエルカムで、
港サイドでトランジット客を一度国内に入れること
3 つ目の成長戦略の一部に必ずなるとして大変期待
を考え、魅力ある観光コースや食のツアーを提供し
していること、などをご紹介いただきました。
たこともあったというお話しから始まり、現在は
2
〇新関西国際空港株式会社の経営計画と実績
をフル稼働させ、着陸して 20 - 30 分で次のフラ
続いて、東京の人にはあまり知られていないので
イトを行うというビジネスモデルにより利益を上げ
は、ということで関空・伊丹の概略をご紹介いただ
ている。関空は 24 時間空港で混雑もひどくないの
きました。海上空港である関空の建設時における
で、稼働率も上げられ、到着時間が深夜まで遅れ
巨額の投資や 24 時間空港の強み、都心に近い伊
ても着陸することができる。また、LCC は座席が
丹のビジネス性、関空伊丹の発着回数を足すとちょ
狭いため 4 時間くらいまでの飛行時間が勝負で、
うど成田と同程度の規模になること、また今回のコ
関空は東京にくらべてアジアに 1 時間近いことが
ンセッションには間に合わないが、神戸も入れた 3
LCC ビジネスにとって大きな差になる、とのことで
空港の計 5 本の滑走路を一体で運営して関西の総
した。
旅客数を拡大していくということも今後の展開の一
空港も LCC と一緒にマーケットを開拓しないと
つとして考えられるとも、お話になっていました。
いけないということで、LCC ターミナルも作った。
次に、2012 年に関空と伊丹を経営統合してか
フラットな作りで、エスカレータもエレベータもな
らの経営計画についてご紹介いただきました。なん
い。空調も最低限。ボーディングブリッジもない。
といっても、
まずは
「ネットワークの拡大」が重要で、
かなりの低コストになっている。これも LCC ビジ
そのためには着陸料等、エアラインにとってのコス
ネスが花開いた大きな理由とのことでした。
トを下げなければ始まらないということで、以前は
さらに、2 期島に FedEx を誘致した。当初は
成田や羽田よりも高かった着陸料や銀座並みで
圧倒的にコストが低い韓国のインチョン空港が最
あったターミナル内の店舗の家賃を下げ、路線・テ
有力だったが、国や地元自治体、財界の協力もあり、
ナントの誘致を図ったとのことでした。中期経営計
交渉を続けた結果、関空に最終的には決まった、
画で
「カスタマーズアイ」と書いているが、
空港にとっ
とのことでした。その結果、現在は中継貨物が増
てはエアラインやテナントなども重要なカスタマー
えている。関空をハブにした理由をあらためて聞く
で、お互いに W IN-W IN にならないといけない、
と、広大な敷地がまだ残っており、将来的な需要
エアラインや路線を誘致しネットワークを拡充する
増に対する拡張余地があることも重要だったとのこ
ことで多くの人が空港を利用し、テナントのサービ
とです。関空には膨大な負債も残ったが、負債以
スも向上することで、空港で非航空系収入を得て、
上のものを関西地域に残したのではないでしょう
それをインセンティブにしてさらに着陸料等を下げ
か、とのことでした。
る、こうした好循環にしないといけない、と繰り返
続いて、新関西国際空港株式会社の営業収益に
しお話になっていました。
ついてご紹介がありました。伊丹空港を統合し、
2014 年の冬ダイヤにおいては、国際線便数が
さらに伊丹の空港ビルを運営する、大阪国際空港
過去最高を記録し、その原動力の一つとしては
ターミナル株式会社を買収 / 完全子会社化した効
LCC が挙げられるとのことでした。 LCC は機材
果もあり、大きく伸びているとのことです。営業利
関西国際空港の国際線便数―過去最高を記録!(講演資料より)
3
貨物ハブへの取り組み(講演資料より)
第 4 ターミナルやさらなる展開(講演資料より)
益も上がっているが、経常損益では膨大な負債が
ついても検討が必要になってくるだろう、とのこと
あるので、2000 年代初期は赤字で、国からの補
でした。
給金が入っていたが、その補給金も減り、2015 年
LCC ターミナルである T2 も満杯で、T3 の建設
度 は 補 給 金も なくなり完 全 に自 立 で きそう、
を計画しているが、これも早晩いっぱいになるとの
EBITDA は 610 億円に達する見通しで 2014 年度
ことで、T3 はさらに拡張できるような設計にしてい
の営業利益は成田を超えそう、ようやく好循環に
る。LCC に対して圧倒的に強い空港にしようとし
入った、とのことでした。
ている。伊丹も今まで手つかずであったが、こん
設備投資としては、商業エリアでの収益を上げる
な都市部に近い空港を活用しない手はないので、
ビジネスモデルを展開するために、第一ターミナル
オリンピックまでにはリノベーションをする予定であ
ビルのリノベーションによる面積拡張も行っている。
る、とのことでした。
今後の業界の流れとして考えられるのは空港型市
〇今後のコンセッションの計画と展望
中免税店。デパートなどでは消費税免税を行って
いるが、空港型免税店は酒税なども免税される。
最後に、コンセッションに関連したお話がありま
今は沖縄だけ認められているが、これを広げようと
した。ご講演いただいた日はコンセッションの参加
しているので、もし空港型市中免税店が展開され
資格審査書類の受付期間の真只中、2015 年 6 月
れば、例えば、東京の市中免税店で買った商品を
には最終的な優先交渉権者を決定するスケジュー
関空で受け取ってから出国する、といった仕組みに
ルの中、これからまさにコンセッションが動き出す
4
タイミングでした。少し前までは、コンセッション
であれば民間が整備し、それ以上は新関空会社で
ありきではなく、まずは成長トレンドを見せ、負債
やる、とすることで大きな安心材料としている。
を返せる水準にまで企業価値を上げる必要がある、
Q:現在の関空の経営がこれだけ順調であれば、
無理にコンセッションをやっても失敗する、という
すぐにコンセッションを行わずに、もっとキャピタ
議論をしていたが、最近はアベノミクスや円安の好
ルゲインが大きくなるまで待った方が良いという考
影響、訪日外客の増加等のフォローの風が吹いて
えはないでしょうか
おり、その水準にまで上がってきた感触を持ってい
A:地元でも、コンセッションをやらなくても良い
るとのことでした。
のでは、いう話も出ることがあるが、現状の経営
形態では限界も感じる。実際に経営してみるとス
44 年 3 ヶ月という長期のコンセッションで、過
去にも例がないため、コンセッションに係る運営権
ピード感がない、投資したいけどすぐにできない、
対価についても市場の声を聞きながら柔軟な設定
特に IT 化や CS 向上に向けて、もっと民間の自由
を検討しているとのことでした。例えば、事業開始
で戦略的な投資ができれば必ず価値が上げられ
時の履行保証金を払うことで毎期の対価を下げた
る。海外の空港経営者ははるかにノウハウを持っ
り、毎期の支払いを売り上げに変動する支払と長
ている。
期固定とを組み合わせたりできる、といった内容で
す。対価の基準価格を一般的な資金調達コストで
■港湾民営化の実態と展望
割引き、事業価値の目安とされる EBITDA 倍率を
-日本の成長戦略と港湾-
(政策研究大学院大学客員教授・
算出すると、過去 10 年間の海外における同種のコ
国際港湾協会名誉事務総長 井上聰史氏)
ンセッションにおけるものは同程度の範囲内にあ
り、投資家からみても十分合理的な事業価値であ
ると考えている。それでも、市場からは様々な懸念
の声もあるので、しっかりと市場の声を聞きながら、
柔軟に対応していきたい、今後このコンセッション
が成功するかはまだ分からないが、公共インフラ
の新しいビジネスモデルを示すことは重要なので、
仙台空港等の他の事例とともにぜひとも成功させ
たい、とのことでした。
最後に政策研究大学院大学の森地特別教授か
ご講演される井上先生
ら総括コメントとして幾つかの質問を頂きました。
続いて、港湾の民営化と戦略に関して井上先生
主な質疑内容は以下の通りです。
Q:世界の PPP 事例では、民間が過度に儲けたり、
からご講演頂きました。港湾の民営化に関しては正
途中で投げ出されたりと、要はリスク分担の不備で
確に伝わっていないところもあるとのことで、歴史
失敗する例が多いが、今回のコンセッションにお
的な経緯から世界の最新動向を踏まえつつ今後の
けるリスク分担はどのように検討されているでしょ
日本の戦略に関してお話し頂きました。
うか。
○“海の港”は“空の港”と似ているか
A:リスク分担は非常に重要な要素である。地盤沈
下や津波リスクなどがあるが、基本的には極力コン
まず、名古屋港を例にしながら港湾と空港のシ
セッショネアである民間でリスクをとり、想定以上
ステムの比較がありました。まずは扱うもの、つま
のリスクは新関空会社がとるようにしている。例え
り港湾では貨物が主で、旅客を主に扱う空港とは
ば、災害リスクは可能な限り保険などによって民間
大きく違う。旅客と異なり貨物は歩けないため、
ター
側で対応し、それを超える部分は新関空会社が対
ミナルについた本船から貨物を降ろし、後ろのヤー
応、地盤沈下についても想定した沈下量の範囲内
ドへ運ばなければならない。人は積めないがコン
5
テナは積むことができる。また、名古屋港を例に
上物整備までを官が行う Tool Port、岸壁・土地
紹介頂きましたが、空港は一つのターミナルビルを
を官が整備し、あとは民間に任せて自分たちに一
複数のエアラインが共同で利用するが、港湾では
番適した荷役機械やオペレーションシステムを整
複数のターミナルを別々の事業者がオペレーション
備させ賃料を払わせる Landlord Port、いわゆる
を行い、ターミナル間で常に船社の奪い合いが起
地主型、これが世界の主流とのことで、最後は全
きていると考えてよい、とのことでした。名古屋港
てを民営企業がやるイギリスのようなスタイルで
では 3 つのターミナルでシステムがすべて違う。一
Private Port、民営化というよりも私営化と呼んだ
つは日本で唯一のフルオートメーション化された
ほうが適切であるとのことです。
ターミナルであり、クレーンから降りた貨物を無人
グローバル化により国際海運輸送が増大、コン
搬送車 AGV でヤードに移し、
トランスファークレー
テナ取扱量はこの 32 年間で 16 倍になった。これ
ン(門型のクレーン)で、これも無人のプログラム
だけ増えるとターミナルの供給力が不足し、既存施
化されたシステムで積み上げ、陸側へも自動で搬出
設の効率を上げるか、新規拡充が必要になる、さ
できる。他のターミナルは古いこともあり、ドライ
らに船社も船体を大きくするので、港湾もそれにみ
バーのついた有人クレーンやトラックシャーシでコ
あうハードを整備しないと港湾として脱落してしま
ンテナの移動を行っている。旅客の場合はターミ
う。こういうことが 80 〜 90 年代に起こり、さら
ナルで CIQ をうけるが、貨物の場合は周辺のロジ
に 90 年代後半から現在までは貨物の量的な増加
スティクスゾーンで CIQ を受けた後でしか港湾を
に加え国際物流システムそのものが進化し、いわ
通過できないので、CIQ システムの効率性も港湾
ゆるサプライチェーンマネジメントが本格的に普及
の性能を大きく左右する、とのことでした。
する時代になり、これへの対応が重要になった、
とのことです。
○ターミナル機能の提供パターンと港湾の
このような時代背景を念頭に、続いて、いわゆ
民営化
る港湾民営化とは何かについてご説明いただきまし
次に、ターミナル機能の提供パターンについて
た。需要が供給を上回った 80 〜 90 年代は官の
ご紹介がありました。大きくは 4 種類で、航路、
直営が多かったが、民間の専門オペレータに任せ
岸壁や用地のインフラ整備、クレーンやオペレー
た方が効率が上がると考えた国や港湾があり、下
ションシステムなどの上物整備、貨物の荷役などを
物は整備するにしても、クレーンなど上物は民間に
全て官の港湾当局の職員が直営で行う Service
任 せた方がよいと考えた国も多かった。つまり
Port、日本の港湾に代表されるようにインフラや
Service Port から Landlord に移ってきた。つま
コンテナ・ターミナルの多様なシステム(講演資料より)
6
〇日本の港湾:経営体制の課題
り、この時代の港湾の民営化とは、経営主体が変
わったというよりもビジネスのモデルを変えた、と
最後に、日本の港湾の今後の課題と戦略につい
言えるとのことでした。
てお話がありました。まず、日本の経営体制につい
しかし、港湾全体の活動を行政活動の一環とし
ては地方自治体の経営が主であるが、数年で人事
てやっていると迅速な対応ができないことから欧州
異動があり港湾の経営のプロが育たつ環境ではな
の主要港湾を中心として経営主体の公企業化が起
い。コンテナターミナルに限っては、外貿埠頭公団
きた(Port Reform 第 2 期)
。自ら決定権をもち、
から幾つかの変遷を経て、2011 年に国が関与す
資金調達も独自に多様なチャンネルででき、母体
る港湾運営会社を設立したが、国の関与の範囲や
の自治体を超えた広域的な背後圏各地への投資も
組織のミッションが明確でないといった問題を感じ
できるようになってきた。
ているとのことでした。次に、インフラが公共事
業による整備であることによる制約、最後に、制度
○ロジスティクス・ハブ港湾への脱皮
面の一番大きい問題として、日本に真のターミナル
港湾はサプライチェーンの一部分でしかなく、港
オペレータがいないことを挙げられていました。
湾システムのみを磨くということが万全な港湾戦略
しかしながら、長期にわたって日本の港に元気
ではなくなってきた、つまり、海陸の結節点として
がない最大の理由は、列島に経済的な元気ないこ
の港湾からロジスティクス・ハブとしての港湾への
とにつきる。先進国の中で日本だけが GDP が低
脱皮を、主要港湾はこの 15 年くらい取り組んでき
迷しており、国土の中の経済付加価値がシュリンク
た。それを「駅伝方式」から「サッカー方式」へ
すれば当然運ぶものがなく伸びないのは当たり前
の転換と例えられていました。港湾が区間賞を狙
であるとのことでした。このため日本の港湾の戦略
えば勝てた時代から、港湾を超えた港湾づくりに
とは、日本列島の活性化に港湾が具体的にどう貢
よってサプライチェーン全体で勝負をする時代に
献するかを考えることである、とのことでした。
なったということです。
〇今後の戦略
そのために、自動化や立体利用等、ターミナル
機能の革新はもとより、港湾で新しい付加価値を
アジアの活力を取り込む戦略群としては、アジア
生み出すようなロジスティクス・パークの開発を世
の人や企業を列島に迎え入れる戦略群、2 つ目は
界中の主要港湾が取り組んでおり、背後圏アクセ
アジアとの輸出入や水平分業を振興する戦略群、3
スの強化にも港湾が主体的に関わることが重要で
つ目としては日本とアジアの両市場を睨んだロジス
あるとのことでした。
ティックス拠点を形成する戦略群をぜひ推進してほ
ロジスティクス・パークの開発(講演資料より)
7
ンサバティブであるのはなぜか。
しいとのことでした。
すでにロジスティクスが製品の価値を決める時
A:日本の船社も港運業界も海外で仕事をしており、
代になっているとのことで、HP Japan が日本向け
ノウハウが不足しているわけではないが、国内は閉
PC を中国から日本へ全面移管して成功している例
鎖的で競争がないこと原因の一つだと思う。実質
や、フランスのロレアルが「Made in Japan」で
的に海外のオペレータが実効上入ってこられない。
市場開拓するためにアジア向けの製造・輸出拠点
Q:日本では公共が港湾の埋立をしてきているが、
として静岡の工場を 2 倍に拡張予定である例を紹
現在は東京港などでは空き家倉庫すら移転する場
介されながら、そのような活動を支えるアジアと日
所も手当てできない。なぜ、長期的な展望を持ち
本の間のロジスティクスの重要性を説明されていま
ながらマネジメントができていないのか。
した。実際には、東京から上海にはまっすぐ行け
A:我が国では港湾の埋立は借金・起債をして作っ
ば 2 日弱のところ平均 4 - 5 日かかるなど、アジ
ており、土地を売って返済にあてるスキームである
アから見て日本列島はロジスティクスの辺地にあ
ため、造成後に公共が所有している土地は極めて
る。アジアの活力を取り込み元気になるためには、
少ない。土地が拡大する時代であればよかったが、
アジア諸国との直行便によるシャトル化を国土政策
もう埋め立てる場所がなく、新しい事業は再開発で
として取り組む必要があり、それにより地方にある
しか動かないとなると、種地を持たずに港湾経営
産業が強くなり、新しい産業立地を海外から呼び
するのは非常に難しい。海外の Landlord 型では
込む基礎になるのではないか、とのことでした。
土地は売らず、20 〜 30 年の長期のリースとしてお
り、港湾計画には各土地の契約がいつ切れるは色
最後に森地特別教授からコメントを頂きました。
分けで示され、それらをみながら長期のマネジメン
その主な内容は以下の通りです。
トをしている。我が国では起債等で税金を使わず
Q:日本の船社が海外のターミナルオペレータを買
に埋立事業は進んだが、公共の土地がないなかで
収している例もあるが、それでも国内では非常にコ
再開発をどのようにやるかは大きな課題である。
文責:編集委員 平田輝満(茨城大学)
プロジェクト紹介
□ Projects
首都高速中央環状品川線開通へ向けて
を抜いて道路用としては日本最長のトンネルと
数えきれないほど多くの期待を背負って、平
なります。
成 27 年 3 月 7 日に開通を迎える首都高速中央
中央環状品川線の開通によってもたらされる
環状品川線。今回は首都高速道路株式会社の菅
効果は多岐にわたります。まず何といっても所
原課長と日隈課長にご案内いただき、現場見学
要時間の短縮、特に羽田空港へのアクセス向上
とインタビューをさせていただきました。
に関しては広く報じられています。これに加え
て、都心環状線や地上の幹線街路(山手通り・
■日本最長の道路トンネル、その効果は?
環七通り・環八通りなど)の混雑が緩和される
中央環状品川線は大橋 JCT と大井 JCT を結
ことや、都心環状線を通行できない大型コンテ
ぶ路線延長 9.4km の区間を指し、今回の開通
ナ積載車が通行できるため首都圏の物流機能が
をもって中央環状線は全線開通、首都圏 3 環状
向上すること、災害にも強い道路ネットワーク
道路で初のリングが完成します。品川線は目黒
が構築できることなどがあげられます。
川及び山手通り(環状 6 号線)の地下に建設さ
またこの中央環状品川線は、2005 年に首都
れており、現在開通している大橋 JCT −高松入
高速道路株式会社に民営化されてから工事に着
口の区間を合わせて約 18.2km、関越トンネル
手した初めてのプロジェクトとなります。開削
8
明るく照らされた本線合流部分
を避けるように設計されています。この「左側
での合流・分流」を実現するために、品川線の
本線は地上とは逆の「右側通行」になっていま
3 月より全線開通となる中央環状線(提供:首都高)
す。トンネルの中ゆえに見ることは出来ません
予定であった大井 JCT 付近をシールド工法に変
が、反対側の車線がドライバーから見て左側に
更したり、トンネルの径を可能な限り小さくす
ある、たいへん珍しい構造となっています。
ることで掘削量を削減するなど、様々な技術提
案によって当初 4,000 億円であった予算から
900 億円減の 3,100 億円に工事費を抑えるこ
とが出来ました。
■出水に悩まされた五反田出入口
今回は、開通後に五反田出入口となる箇所を
中心に見せていただきました。この出入口付近
は品川線の工事で最も苦労した箇所で、掘削時
には介在砂層からの出水に悩まされたそうで
追越車線からの合流を避けるための「右側通行」
(提供:首都高)
す。この区間はレンズ状の砂層が広範囲に存在
することが工事の進捗とともに分かり、広範囲
■万が一の事故や火災に万全を期す
に渡り出水のリスクが考えられました。そのた
め、1 か所のみを止水しただけでは抜本的な対
さて、トンネルには万が一の事故や火災に備
策にはならず、広範囲に渡って止水する必要が
えた設備もたくさんあります。
ありました。その結果、止水方法の検討や止水
ト ン ネ ル に は 死 角 が 無 い よ う に、 お よ そ
のための追加設備の構築等に時間を要したた
100m 間隔でビデオカメラが設置されていて、
め、結果として開通時期を遅らせざるをえなく
この情報が管制センターに送信されており、そ
なったとのことでした。
の情報をドライバーに提供する情報板も整って
います。
■地上は左側通行、地下は右側通行
また、万が一のときに脱出するための設備と
高速道路の本線合流部は、事故を防ぐために、
しては、まず反対車線のトンネルに避難する「避
特に重点的に照明を設置したり、見通しの良い
難連絡坑」があります。大きな防火扉で仕切ら
加速車線を設けるなど、ドライバーが安心して
れた横連絡坑が 250m 間隔で設置されており、
合流できるように設計されています。
扉は開けてしばらくすると自動的に閉まりま
また、中央環状品川線は、本線に対して左側
す。停電時も動作するよう、電気を使わなくて
で合流・分流することで、追越車線側での合流
も閉まる仕組みになっているそうです。ここか
9
非常口階段と地上出口
反対車線のトンネルへ繋がる避難連絡杭
(提供:首都高)
ら換気所まで避難し、地上に出られるように
なっています。
また反対側のトンネルに行けない区間には、
「独立避難通路」という安全空間を設け、ここ
を通って地上に出られるようになっています。
安全を確保するには何重もの備えが必要である
ことを改めて感じさせられました。
最後に、トンネル内にて集合写真
今回の取材では、現場見学を通じて実際に安
全のための工夫や防災設備などに直に触れさせ
ていただき、大変意義深いものとなりました。
文責:編集委員 白根哲也(三菱地所(株)
)
お忙しい中、取材にご協力いただきました首都
取材補助:溝口 肇(東京大学・修士課程)
高速道路株式会社の皆様に厚くお礼を申し上げ
西川祥矢(東京大学・修士課程)
ます。
会員紹介
□ ­­Members
東京急行電鉄(株) 山田久美さんの会員紹介です。
私と山田さんとの出会いは、今から 15 年ほど前になります。当時、私は大学院の修士 2 年の学生
でした。男ばかりの研室でしたが、その年配属された卒研生 17 名のうち、なんと 4 名が女性でした。
その 1 人が山田さんです。研究室の雰囲気がガラっと変わり、心なしか男性陣の身なりがきれいになっ
たことが思い出されます。
山田さんの卒業研究は、東京圏の通勤鉄道利用者を対象に、性別や年齢による鉄道サービスに対す
る重視度の違いを分析するというもので、女性が男性よりも駅でのサービスや車内環境を重視してい
る等を明らかにしました。当時は、まだ女性専用車両や駅ナカサービスが普及しておらず、これから
どのようなサービスが重要になるかに着目した先見性のある研究をされました。
大学を卒業後、東京急行電鉄(株)に入社されてからは、東急東横線・東京メトロ副都心線の相互
直通運転に伴う渋谷〜代官山間の地下化工事、中長期運行計画・将来需要予測、鉄道土木構造物の長
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寿命化計画の立案等、様々な分野で活躍されて
います。また、学会活動においては、平成 24
年からは土木学会教育企画・人材育成委員会副
幹事行を、さらに計画交通研究会のイブニング
セミナー(テーマ:トランジット・メトロポリ
ス東京の再構築)ではファシリテーターも務め
られました。業務に、社会貢献に大活躍です。
バリバリの仕事人ですが、海外旅行が趣味で、
長期休暇はほとんど海外で過ごされているとの
こと(これまで行った国は 35 カ国!)。これか
らもドボジョ・鉄子の星として走り続けていた
だきたいと思います。
山田久美さん
文責:山下良久(社会システム(株))
事務局通信
□ Backyard
■総会のお知らせ
総会の日程が決まりましたので、お知らせします。
日 程
4 月 23 日(木) 18:00 より
場 所
霞が関ビル 35 階 東海大学校友会館
総会後にはイブニングセミナーを同じ会場で開催します。その後、懇親会を隣接の東京倶楽部ビ
ル 2 階レストラン「カスミガセキ」で開催いたします。
近日中に皆様に正式な開催通知を差し上げますので、ご出欠の可否はそのあとにいただきます。
多数のご参加を期待していますので、ご予定に組み入れていただきますようお願いいたします。
■平成 27 年度 第 1 回 イブニングセミナーのお知らせ
4 月 23 日の総会後に下記内容で平成 27 年度 第 1 回 イブニングセミナーを開催します。
テ ー マ 元祖交通結節、日本橋のまちづくりと舟運
趣 旨徳川家康が江戸開府の際、最初に着手したのが交通インフラの整備だった。江
戸城前面は地方とのインターチェンジである五街道の起点。そして同時にそこ
は舟運の起点となった。まさに日本のヒト、モノ、カネの交差点、それが日本
橋だ。
近世、近代、現代のモータリゼーションを駆け抜け、日本橋は今、メガロポリ
ス東京の中でさらに進化したランデブーポイントの役割が求められている。
今回のイブニングセミナーでは、三井不動産の新原氏から日本橋のまちづくり
と舟運への取り組みをお話しいただくとともに、東京都観光汽船の守谷氏に舟
運事業の展望についてご紹介いただきます。
話題提供者
(株)日本橋街づくり推進部長 新原昇平
三井不動産
「日本橋のまちづくりと舟運」(仮題)
(株)代表取締役 守谷慎一郎
東京都観光汽船
「日本橋、舟運事業の展望と期待」(仮題)
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企画 ・ 幹事 ・ 司会
企画委員 雨宮克也(三井不動産(株)開発企画部環境創造グループ長)
日 時
4 月 23 日(木)18:20 より(総会の終了時刻によって多少前後します)
場 所
霞が関ビル 35 階 東海大学校友会館
■平成 27 年度春の見学会のお知らせ
5 月 11 日に下記内容で平成 27 年度春の見学会を開催します。
テ ー マ
日本橋発着、東京ウォーターフロントの可能性を探る船の旅
趣 旨4 月 23 日のイブニングセミナーの議論を踏まえて、実際に日本橋発着で東京
ウォータフトントを巡る。オリンピックに向けて、そしてその後のレガシーと
しての東京のウォーターフロントはどうあるべきか、さまざまな角度からその
可能性を探る約 90 分の船の旅です。
企画 ・ 幹事 ・ 司会
企画委員 雨宮克也(三井不動産
(株)開発企画部環境創造グループ長)
日 時
5 月 11 日(木) 14:00 集合 17:00 頃解散予定
*事前説明の後、15:00 頃移動・乗船の予定です。
集 合 場 所
豊年萬福(中央区日本橋室町 1-8-16、TEL:3277-3330)
懇 親 会
同上 17:00 より
一般社団法人 計画・交通研究会
〒 100-6005
東京都千代田区霞が関 3-2-5 霞が関ビル 5F-28
TEL: 03-4334-8157 FAX: 03-4334-8158
E-Mail: [email protected]
Homepage: http://www.keikaku-kotsu.org/
理事会
代表理事・会長
理事・副会長
理事・副会長
理事・幹事長
理事
家田 仁
石田 東生
屋井 鉄雄
岩倉 成志
水野 高信
企画委員会
委 員
委 員
委 員
委 員
雨宮 克也
太田 雅文
杉原 克郎
中山 等
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会報編集委員会
編集委員長
幹事長
委 員
委 員
委 員
委 員
委 員
委 員
日比野 直彦
王尾 英明
井料 青海
白根 哲也
多田 勝
鳩山 紀一郎
平田 輝満
松本 剛史
事務局長
髙橋 祐治