看護が繋がれば、医療は進化する。

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企画制作 中日新聞広告局 編集 PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー
Senior Advisor/馬場武彦 Editor in Chief/黒江 仁 Associate Editor/中島 英 Art Director/伊藤 孝 Planning Director/吉見昌之 Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一/ランドスケープ/空有限会社
Editorial Staff/伊藤研悠/村岡成陽/吉村尚展/佐藤さくら/黒柳真咲/國分由香/加藤徳人/安藤直紀/小塚京子/平井基一 Design Staff/山口沙絵/大橋京悟 Web制作/G・P・S/Media Pro
1年
荒野をめざす
若き医師たち。
すなわち、
病院は従来のように、
患者を迎え入れて治療をするだけでなく、
在宅医療の担い手を積極的に支えていく方向へと転換しつつあるのだ。
病院が地域との関わりを強化するなかで、
これからの医師のあり方や
教育も変わっていくべきではないだろうか。今回は、
医師の教育について考えていく。
※地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるように、
住まい・医療・介護・予防・生活支援などのサービスを包括的に提供する仕組み。
後期研修病院
★
林 紘太郎さん
立石遥子さん
初期研修医1年
川村美穂子さん
6年
7年
赴任先病院
ニーズにも対応していかねばならな
い。まさに、超高齢社会の地域医療
の最先端で、医師の技量を高めてい
くことになる。
「9年間の勤務で、医
師としての引き出し(知識)がすごく
蓄えられるはずです」と大原教授は
太鼓判を押す。
ただ、こうした地域枠の意義は、医
学生の間でもあまり認知されていな
い。一般学生からすれば、
「地域枠医
★
8年
初期研修医2年
赴任先病院
える病院〉という。
※3地域医療連携のための有識者会議。県内の大学
病院院長、県職員、県医師会長などで構成される。
※4総合診療医は、総合的な診療能力を持つ医師。
専門医制度の改革(平成29年度から実施予定)が進
むなか、新たに「総合診療専門医」が創設されること
になった。
02 3
地域枠を発展させ、
二次医療圏で医師を
育てる仕組みづくりを。
私たちは「高齢社会の最先端」へ行く。
−−−若き医師たちの志と覚悟。
01 1
高齢者を知らない
若者たち。
で研修する医師。平成16年4月から新医師臨床研修
制度が導入され、2年間の初期臨床研修が義務化さ
れている。
療の実践をめざす意見が聞かれた。
現場で学んだこと
これから学びたいこと。
医学部6年
するものだ。
期間中、1カ月以上の「地域医療」が
くか。たとえば、
〈治し支える病院〉に
愛知県では、地域枠医師の1期生
が今春、研修医として巣立つ。10年
後には、県内各地に赴任する地域枠
必修となっており、研修医は、地域の
診療所や病院などで研修を受け、貴
重な学びを持ち帰る。その中には、医
おいて、研修医の教育を担う指導医
が不足していれば、近隣の〈治す病
院〉から派遣するなど、フレキシブル
医師は100人ほどに達する予定だと
いう。彼らがパイオニアになって、超
高齢社会の医師のあり方を指し示し
師不足のへき地や離島の医療を支
援するケースもある。
だが、今後の人口構成の推移を見
な協力体制が必要となる。
医師教育は、地域医療を支える要
である。地域で優秀な医師を育てる
ていくに違いない。
ると、高齢化の主舞台は地方から都
市部へ移ると想定されている。高齢
化問題は、都市部にこそ顕著に現れ
る。とすれば、これからは地方ではな
ために、地域の医療機関があたかも
一つの病院のように強く連携するこ
とを、
LINKEDは期待感を持って注
視していきたいと考える。
超高齢社会の医師の
役割は何だろう。
では、超高齢社会に貢献する医師
の育成には、何が必要だろうか。従来
の医師教育、すなわち、臓器別専門
医を育てることに主軸を置く教育とは
明らかに違うアプローチが必要なの
ではないだろうか。そのことを探るた
りは希薄になっている。
しかし、これから医療界を背負って立
つ医師は、
〈高齢者を知らない〉では通
用しない。なぜなら、現在、医学部で学
めに、まずは、一人前の医師をめざし
て日々、学びを深めている医学生と
研修医の7人に意見を聞いた。
はじめに、超高齢時代の医師の役割
んでいる学生、あるいは、医師免許を
取ったばかりの研修医(※)が将来、活
躍する場は、世界がかつて体験したこ
とのない未曾有の超高齢社会。内科
系・外科系を問わず、医師はたくさんの
高齢患者と向き合っていかねばならな
いからだ。ちなみに、医師が一人前に
なるには10年かかるといわれるが、今
についてどう考えるか、聞いてみた。
「今後は、在宅で療養する高齢患者さ
んが急増する。入院しても患者さんをう
まく在宅に帰し、地域全体で患者さん
を診ていくように医師がリードすべき」
「治すだけが医師の仕事じゃない。お年
寄りの残りの人生を考え、
より良い生活
ができるような治療法を提示すること
年医師としてデビューした人が10年後
を迎えるのは、ちょうど〈団塊の世代〉
が75歳以上となる 2025年である。内
閣府の発表によれば、その年、日本の
も重要になる」
「高齢患者さんが急増
すれば、病院はパンクしてしまう。入院
に至らないように、予防医療も大切にな
るのではないか」。
どの意見も、高齢社
高齢者人口は3,657万人になり、その
後も増加を続け、2042年に3,878万
人で高齢化のピークを迎えると推計さ
れている。
これから医師になる人は、医
師としてたくさんの経験を積み、熟練
していく年代を、超高齢化の真っただ
中で過ごすことになるのだ。
会における患者への目線、地域医療に
対する見識がしっかりと感じられる。
続いて、
「あなたは10年後、
どんな医
師になっていると思うか」と尋ねたとこ
ろ、大半が「進むべき診療科や専門分
野をまだ決めていない、迷っている」と
いう答え。ただし、専門医の資格を取っ
た上で「総合的に何でも診る医師に
医学生や研修医たちの、地域医療へ
のまなざしはどのような教育で養われ
たのだろう。彼らが第一に挙げるのは、
〈現場〉での発見や驚きだった。
「訪問
診療に同行して、自分の想像力不足を
思い知った。生活の場で話を聞いて初
めて、患者さんが何を求めているかわ
かった」
「救急車同乗実習で、家事が行
き届かず、荒れ放題になった老夫婦の
住まいを訪問。厳しい老々介護の現実
を知った」
「病院実習で、住民が自分の
生まれ育った土地に愛着があり、そこ
で生涯を終えたいという思いが強いこ
とを実感した」など。百聞は一見に如か
ず。山間部での研修、訪問診療の同行
実習などを通じ、彼らは病気を抱えなが
ら暮らす「患者の思いや生活を知る」こ
とが、医師にとって何よりも重要である
ことを学んできたのである。
その上で、彼らは今後、どんなこと
を学ぼうと考えているのか。今春、研
修医として新たな一歩を踏み出した
医師は「まずは、救急科と内科をしっ
かり学び、幅広い疾患に対する診療
能力を身につけたい」と意気込む。そ
の他、
「内科一般は当然のこととして、
運動機能が衰える高齢者を支えるた
めに、整形外科の知識も学びたい」
「産婦人科を志望しているが、高齢女
性の疾患にも対応できる幅広い力を
つけたい」など、それぞれが高齢社会
のニーズを見据え、医師としてのキャ
リアを磨いていこうとしている。
「地域枠」の人材はなぜ
地域医療への
貢献意欲が高いのか。
に重視します。本学では、愛知県の担
当者も同席し、将来の赴任に関する
条件も伝え、本人が本当に地域医療
をやりたいかどうかを見極めます」
今回、取材した医学生と研修医は、
〈超高齢社会〉や〈地域医療〉に対し、
高い意識を持っていた。その理由の
と、大原教授。たとえば、将来、内科、
外科、整形外科、産婦人科、小児科な
ど期待される診療科に進むこと、そし
て、県知事の指定する病院への赴任
が条件になる。決して生半可な気持ち
一つとして、取材対象者7人のうち4
人が、
「地域枠」で入学選抜されたこ
とが大きく関わっているのではないだ
ろうか。
地域枠とは、国の政策に基づき、地
域医療に従事する意欲のある学生を
対象とした入学者選抜枠。平成25年
4月現在、68大学で1,425人の地域
で入学することは許されない。
その上で、大学6年間の教育につ
いては、
「県や大学によって異なりま
すが、本学では地域枠学生のカリキュ
ラムは一般学生とほとんど同じです。
愛知県の地域医療セミナーに参加し
たり、
3年生のとき4カ月間、地域医療
学の研究室に配属したりしますが、そ
枠が設定されている(文部科学省)。
東海三県では、名古屋大、名古屋市
立大、愛知医大、藤田保健衛生大、岐
阜大、三重大の合計6大学の医学部
れ以外はあまり変わりません。また逆
に、一般学生の中にも、地域医療に興
味があり、地域医療学を学ぶ学生も
います」と、大原教授は語る。
で、地域枠入試を実施。地域枠で入学
した人には、県が修学資金を貸与(私
立大学の場合、県と大学が貸与)。卒
業後、県内の病院(医師不足に悩む公
立・公的病院、独立行政法人が開設す
る病院)に一定期間勤務すると修学
資金の返還が免除される仕組みだ。
この地域枠制度を軸に据え、これか
一般学生と同じように学ぶ地域枠
学生だが(名市大の場合)、卒業後の
らの医師教育について、名古屋市立
大学大学院の大原弘隆教授(地域医
療教育学)に話を聞いた。まず、地域
枠学生・医師の意識の高さは、どのよ
進路については明確な違いがでる。愛
知県における地域枠医師のキャリア
パスを見てみよう
(右頁上段参照)。
卒業して医師免許を取得した地域
うに培われるのだろうか。
「それは、入学前から個々が持つ価
値観が大きいと思います。というの
も、地域枠入学試験では面接を非常
枠医師は、まず厚生労働省の指定を
受けた県内の臨床研修病院(主に治
す機能を持つ病院※1)で、
2年間の
初期研修を受ける。ここで研修医は
02 2
地域枠医師は、
超高齢時代の医師の
ロールモデルになる。
診療能力を養う。修
了 後 、自 分 の 進 み
たい診療科を選択
The Challenger
編集部がみつけた、
シアワセをつなぐ仕事!
安城更生病院
岐阜県総合医療センター
先駆者が追い続ける、
心疾患の内科的治療の深化。
高度な小児看護の充実。
子どもたちとその家族を支え続ける
小児看護専門看護師。
稲沢厚生病院
公立西知多総合病院
もっと地域のなかへ。
患者の人生の時間軸に沿って
支える病院をめざして。
〈地域との共生〉、
〈生活のなかへ〉。
新しい看護を創造する。
稲沢市民病院
中京病院
大学の臨床教育拠点として、
新たに歩み始める
稲沢市民病院 脳神経外科。
看護師が、
もっと患者の
ベッドサイドに行くために。
大垣市民病院
名古屋掖済会病院
肝臓病の最先端で闘い続けた30年。
一人の医師と、
病院と。
地域の先頭に立って病院と生活を繋ぐ
仕組みを作っていきたい。
岡崎市民病院
西尾市民病院
がんの根治とQOLの両立をめざし、
集学的がん治療、
本格始動。
在宅で、
がんと生きる患者を支える。
蒲郡市民病院
半田市立半田病院
命を守る30分。
生活を支える30分。
院内で、
そして地域へ。
薬剤師の可能性が広がり続ける。
岐阜県立多治見病院
八千代病院
東濃医療圏の将来を見据えて
新しい医育モデルが
生まれようとしている。
C o l u m n
幅広い急性期疾患
に 触 れ 、基 本 的 な
超高齢時代の医師を育てる
「地域枠」という新機軸。
02 1
がん医療の進化を、
患者の望む生き方のために。
もいい影響を与えると思います」。
〈治す病院〉
〈治し支える病院〉の
両方で研修し、地域医療をより良くし
ていくために何が必要かを、医師一
人ひとりが考える。地域完結型医療
ここまで地域枠を中心に語ってき
たが、一般の医学生や研修医が、地
域 医 療を学ぶ 機 会がないかといえ
ば、決してそうではない。初期研修の
垣根が低く、
アクティビティが高い。
「出る杭」
を伸ばす環境がある。
愛知県がんセンター 中央病院
天草勇輝さん
Edition_02
01 3
01 2
「どんなふうにお年寄りと話せばい
いかわからない」
「今までお年寄りの
体に触れたことがない」−−−。若者の
中には、高齢者との接点を全く持った
ことのない人も少なくない。その背景
には、核 家 族 化の影 響がある。親 、
子、孫が一緒に暮らす大家族が減少
したことにより、若者と高齢者の繋が
※研修医:卒業後(医師免許取得後)、臨床研修病院
なって、地域のニーズに応えたい」
「患
者さんの日常生活に踏み込んだ診療が
できる医師になりたい」など、全人的医
編集部とともに、病院を知ろう!
さらに、大原教授が同じ医療圏で
研修する利点として挙げるのが、研
修医が抱く「地域への愛着」だ。
「同
じ地域にあるさまざまな病院で研修
することにより、研修医は、その地域
に育ててもらったという愛着を感じま
す。それが、その後の仕事の姿勢に
体制を構築する上で、地域の医師が
さまざまなステージを経験している
ことは、非常に心強い財産になるの
ではないだろうか。実現の鍵を握る
のは、地域にある病院、大学各診療
科医局、医師会などがいかに医師教
育に理解を示し、一つにまとまってい
松阪市民病院
The Challenger
す病院〉で担当した患者さんが、
〈治
し支える病院〉でどのように回復して
いくかを見ることができ、自らの診療
を振り返る絶好の機会になると思い
ます」。
度急性期治療を終えた患者を受け入れ、日常的な生
活への復帰を支援する病院。
L
INKEDでは〈治し支
平成27年4月、
「愛知県地域医療支援センター」が始動。
Edition_01
9年
師=田舎で働く医師。9年間の義務
を果たして、そこからようやく、自分
の好きな分野に進める」と誤解する
向きもあるという。しかし、そもそも
地域枠医師は自らの意志で、地域医
療をめざすわけで、その道は、超高
齢社会に必要な医師の育成に合致
※1急性期の治療を行う病院。その中でも、とくに重
症な疾患に対応する高度急性期病院を、
L
INKEDで
は〈治す病院〉という。
※2発症頻度の高い一般的な疾患に対応しつつ、高
後期研修医1年
医学部6年
初期研修医1年
5年
ンなどもある。
そのなかで、
病院のあり方も大きく変わりつつあることを認識した。
初期研修医1年
4年
※このモデルプランの他、後期研修に引き続き、
1年間の専門研修期間を設けたプランや、初期臨床を終
えて、すぐに赴任先病院に勤務(2年)
し、その後、後期研修(2年)
・赴任先病院に勤務(3年間)するプラ
地域医療にスポットを当て、
現状と課題をレポートした。
井手敦基さん
3年
★は、個々の赴任先病院の選定や医師派遣に関わる
大学間協議会での調整が必要となる時期を示す。
前号のLINKEDでは、
超高齢社会における地域包括ケアシステム
(※)
と
伊藤 謙さん
2年
臨床研修病院
若い医師たちが活躍する未来は、
未曾有の超高齢社会。
河辺綾美さん
く、都市部においても、地域医療を研
修する機会を設けていくべきではな
いだろうか。大原教授は、
「同じ医療
圏の中で、
〈治す病院〉
〈治し支える
病院〉の両方で研修することは非常
に望ましい」と話す。
「たとえば、
〈治
■ 地域枠医師のキャリアパス(例)
悩む病院のため、というよりも、その先の患者さんのことを
第一に考え、取り組んでいきたい」と意欲を燃やす。そのた
地域枠医師の派遣調整と地域の医師不足の是正に関わ
る体制が、今後さらに強化される見通しだ。そのコントロー
めには、
「大学や病院など、医師教育に関わる全員が、大き
な視野に立ち、愛知県全体の医療を底上げしよう、という意
識を持って取り組んでいくことが重要」だと指摘する。
ルタワーとなるのが、厚生労働省の呼びかけにより、全国の
都道府県で設置が進む「地域医療支援センター」である。
愛知県では、平成27年4月から「愛知県地域医療支援セン
地域医療支援センターの機能は、かつて大学の医局が
担っていた医師派遣調整・あっせん機能をより進化させた
ものともいえる。将来的には、愛知・岐阜・三重県の地域医
ター」の運営がスタート。初代センター長に、内海 眞氏が就
任した。内海センター長は「当面は、医師不足の現状を把握
し、各大学や有識者会議と協議しながら、医師の足りない病
療支援センターの職員が意見交換できる機会を設け、東海
エリアにおける医師の供給体制について
検討するような広域のネットワークづくりも
院へ地域枠医師を中心に派遣していく計画。ゆくゆくは、医
師のキャリア形成に踏み込んで支援していきたいと考えて
います」と話す。医師の派遣調整においては、
「医師不足に
期待されている。
〈看護〉
がファシリテートする、
地域医療の最適化。
岐阜大学医学部附属病院
最先端の遺伝子研究と、
地域の中での多職種ネットワークで
生活習慣病に立ち向かう。
名古屋医療センター
中日新聞からのお知らせ
医療を創り出す特別な病院。
2年の歩みと、
これからのヴィジョン。
名古屋第二赤十字病院
愛知県地域医療支援センター
センター長 内海 眞 氏
得意分野を持ちつつ
幅広く診られる力を身につけたい。
名古屋市立大学大学院
し 、県 内 の 臨 床 研
修病院で2年間、専
門 的な知 識と技 術を修 得( 後 期 研
大原弘隆
教授
修)。充分な診療能力を身につけた上
で、県内の医師不足の中小病院(治
す機能を持つ病院や治し支える機能
を持つ病院※2)に5年間勤める。
赴任先病院の選定については、愛
知県が医師不足の状況などから候補
となる病院を提案し、有識者会議(※
3)で検討。同時に、各大学で地域枠
医師の意向を確認、さらに大学間で
合 意を図るための協 議 会を開 催す
る。一方、赴任先病院では、関連大学
と相談しながら、キャリアパスを作成
する。
このように見ていくと、県 、有 識
者、大学、病院と、さまざまな人が関
わり、地域枠医師の養成・配置計画が
作成されることがわかる。
「10年先
までを見据え、吟味されたキャリアパ
スが提示されるわけですから、本人
にとって非常に安心できると思いま
す。おそらく、新しく創設される総合
診療専門医(※4)の育成プログラム
と同じような実力が養われると考え
ています」と大原教授は言う。
そもそも地域枠制度は、地方の医
師不足や偏在の解消を目的に作られ
たものだ。
しかし、大原教授の話を聞
くと、この制度の意義はそれだけで
はないことに気づく。赴任先病院で
は、医師が潤沢に揃っていないため、
そこで働く医師は当然、専門分野に
かかわらず、全身を診る能力が求め
られる。また、
〈治し支える病院〉だけ
に 、在 宅 療 養 に 関 わるさまざまな
human's eye
教育は、
未来を創り出す
最大の道具。
いうものです。
社会が求める医師の未来像を共有し、
そうした次代の医療を担う医師教育
優 劣のない 連 携により互 いの教 育リ
地域医療の生命線
なります。
域が医師不足で困っているのであれ
もっとも、地域包括ケアシステムや
ば、そこに行って貢献しようという医師
はどうあるべきか。大切なのは、前提と
ソースを開放し合う。その上で、既成概
「地域医療の崩壊」と言われ始めて
地域医療連携推進法人等の政策的・制
の「意志(Will)」が最も大切であるこ
なるゴール、つまり、社会全体で今後の
念に囚われないアイデアを出し、柔軟性
久しいですが、地域医療の課題解決に
度的工夫を行っても、医療・介護そのも
とは言うまでもありません。
我が国の医師教育は、これまで〈治す
日本のあるべき姿を描き、そこにおいて
ある多様な医師教育の機会と場を、生
向けた取り組みは続いています。医学
のを支えるのは「人」です。
処遇、制度、意志。いずれも重要で
み出すことが大切です。
医療〉という観点から精緻化、高度化さ
必要な医療のあり方、さらに、そこで医
れ、一定の成功を遂げてきました。その
師が担うべき役回りから、どのような教
背景には、社会が、臓器別・専門別医療
育が必要かを考えるという発想です。
を求めてきたことがあります。ただ、こ
〈教育〉という営みは、大変、時間がか
松尾清一 氏
昭和56年名大医学部大学院修了後、
名大医学部助手、講師を経て、平成
16年から名大大学院腎臓内科学教
授、同19年名大医学部附属病院院
長。同21年名大副総長。
また、同年に
は公立病院等地域医療連携のための
有識者会議の座長を務める。平成27
年4月、名大総長に就任。
れからの超高齢社会を考えたとき、社会
かるものですが、実は未来の創造に繋
が医療に求める形も変わってきます。治
がる重要かつ有効なツールです。医師
すだけに留まらず、もっと生活に密着し
は、生涯学び続けなければならない職
た視点、たとえば、介護や保健などとの
業であることを考えると、大学も、地域
繋がりを含めた、
〈治し、支える医療〉と
の基幹病院も、そして、中規模病院も、
S P E C I A L
editor's eye
地域医療体制と医師教育は、実は一枚のコ
く。その新しい教育のロールモデルは、本編
インの裏表の関係にある。地域医療体制は、一
で取り上げた地域枠医師ではなかろうか。東
つの医療機関で診断から経過観察までを行っ
海三県において地域枠医師たちが赴任先病
ていた「病院完結型」から、地域の複数の医療
院で本格的に活躍するのは、いよいよこれか
機関が役割分担して、一人の患者を診る「地
らだ。その赴任先については、専門家の間で
域完結型」へ転換することが求められている。
検討されるというが、公立・民間など設立母
同じように医師教育も、従来は一つの臨床
体に関係なく検討されることが望ましいだろ
研修病院の中で大部分が完結していた。そう
う。たとえば、民間病院の中には、公共性の
部地域枠、総合医育成、地域包括ケア
医療・介護人材の育成・供給のため
すが、
「医師の意志(Will)」こそ、日本
システム等々の諸施策は、それらの一
には「処遇」改善が重要です。しかし、
の地域医療の生命線と言えるでしょう。
環です。
それだけでは量的不足を解消できても
今国会でも「地域医療連携推進法
地域的偏在は解決できません。
人制度」創設を図る医療法改正が議論
自治医大や医学部地域枠は偏在解
されます。同法人は地域の医療・介護
決のための「制度(システム)」であり、
等の関係者が連携して活動するための
今後、同様の工夫を拡大していく必要
プラットフォームであり、同法人に参画
があります。
する病院間での病床融通等が可能と
しかし、そうした制度がなくても、地
T H A N K S
●PROJECTL
INKEDは、下記の医療機関の協力により、運営されています。
愛知医科大学病院
岐阜市民病院
豊田厚生病院
愛知県がんセンター 中央病院
岐阜大学医学部附属病院
豊橋市民病院
足助病院
江南厚生病院
名古屋医療センター
渥美病院
公立陶生病院
名古屋掖済会病院
安城更生病院
公立西知多総合病院
名古屋市立大学病院
伊勢赤十字病院
小林記念病院
名古屋大学医学部附属病院
稲沢厚生病院
市立伊勢総合病院
名古屋第二赤十字病院
稲沢市民病院
総合犬山中央病院
成田記念病院
鵜飼リハビリテーション病院
総合大雄会病院
西尾市民病院
大垣市民病院
総合病院中津川市民病院
はちや整形外科病院
岡崎市民病院
大同病院
半田市立半田病院
ではなく、地域にある
〈治す病院〉と
〈治し支え
高い医療を提供する「社会医療法人」も存
る病院〉が協力して人を育てる、地域完結型の
在し、自治体病院と同じように地域医療でな
教育体制に転換すれば、若い医師が地域内で
くてはならない責務を果たしている。医療機
尾張温泉かにえ病院
知多厚生病院
藤田保健衛生大学病院
循環するようになる。そうなれば、循環する医
関は経営母体に関係なく、すべからく
〈公〉で
海南病院
中京病院
増子記念病院
師たちが地域連携のパイプを繋ぐ役目を担
ある。その観点に立ち、より幅広い候補の病
春日井市民病院
津島市民病院
松阪市民病院
い、地域完結型医療体制を進展させ、さらに、
院から地域枠医師の赴任先を検討し、地域
蒲郡市民病院
東海記念病院
松波総合病院
その先にある地域包括ケアシステムの構築に
の中で医師を適正に配置し、地域全体が一
刈谷豊田総合病院
常滑市民病院
みよし市民病院
も貢献するのではないだろうか。
致団結して若い医師を育てていくことが大
岐阜県総合医療センター
豊川市民病院
岐阜県立多治見病院
トヨタ記念病院
地域の中を循環しながら医師が育ってい
切ではないだろうか。
八千代病院
(※医療機関名はあいうえお順です)
大塚耕平 氏
元厚生労働副大臣。早大卒後、
日本
銀行を経て2001年から参議院議員。
日銀在職中に早大院博士課程修了
(学術博士、専門はマクロ経済学)
。内
閣府副大臣
(金融、郵政改革、規制改
革等担当)
等歴任。55歳。
|次|号|予|告| 中日新聞 Vol.19
看護が繋がれば、医療は進化する。
超高齢社会のための地域包括ケアシステム、地域完結型医療の進展を考えたとき、
その鍵を握るのは看護師であると、社会の期待が高まっている。
それに対し、
看護師たちはその準備ができているのか?
あるいは、看護師たちを支える機能は社会に整っているのか?
看護師を取り巻く現状と、未来への可能性を探る。
■発行予定/2015年7月末 中日新聞朝刊
2015年 4月30日発行