若い人にも起こる脳卒中/高橋 若生

通 巻・ 第 90 号
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発行日・ 2015 年 4 月 15 日
発行・東海大学医学部付属大磯病院
発行責任者・病院長 島 田 英 雄
若い人にも起こる脳卒中
はじめに
脳卒中とは、脳血管の閉塞や破綻によって急に言語や
手足に障害を来す病気です。脳血管が詰まる(閉塞する)
と脳に十分な血液が供給されなくなり、脳梗塞になりま
す。また、脳血管が破綻して脳の内部に出血すると脳内
出血となり、脳を包んでいるくも膜の隙間に血液が広が
るとくも膜下出血になります。原因はさまざまですが、
一般に中高年に多く発症し、高血圧や糖尿病を持ってい
ると発症しやすいことはよく知られています。
しかし、意外と思われるかもしれませんが、脳卒中は
若い人にも発症することがあります。特に 45 歳、もしく
は 40 歳未満で発症した脳卒中は、若年性脳血管障害ある
いは若年性脳卒中となどと呼ばれ、高齢者のそれとは違
った特徴があります。
脳ドックからの成績
脳卒中になるリスクは、高血圧や糖尿病、心房細動を
持っているかどうかの他に、MRI や MRA で検査すること
である程度予測できます。以前脳ドックの受診者 3,800
人を対象に無症候(症状のない)脳病変の有無について
調査 1)したところ、脳梗塞が 7.4%の方に認められまし
た。
また、
脳動脈瘤が 4.2%に、
狭窄もしくは閉塞が 3.4%
に認められました。無症候性脳梗塞あるいは脳血管狭窄
を有する方は、それらのない方よりも将来脳梗塞を発症
するリスクが 2〜3 倍高いことがわかっています。また、
動が契機とされる椎骨動脈解離は若年性脳梗塞の主な
原因の一つですし、卵円孔開存などの隠れた心疾患も
脳梗塞を来すことがあります。また、もやもや病や線
維筋性異形成は、まれながら小中学生でも発症するこ
とがあります。さらに大動脈症候群、膠原病などの自
己免疫疾患、先天的な血液凝固異常も年齢に関係なく
脳卒中になりやすいとされます。
若年性脳卒中の予防
若年性脳卒中の原因は多彩で、通常の検査では見過
ごされる可能性もあることから、予防は簡単ではない
と思われます。しかし、従来考えられているよりも、
中高年と同じように動脈硬化によって発症するケース
が多いことがわかってきています。したがって高血圧
や糖尿病は、年齢に関係なく、しっかり治療する必要
がありますし、くも膜下出血の家族歴を有する方は早
めに検査しておくことが望まれます。
“若いうちこそ
健康に気を配る“、これこそ脳卒中を防ぐための最高
の手立てといえるでしょう。
【 参考文献 】
1) 高橋若生. 脳ドックでみつかる異常.
—その頻度と対応—. 臨床成人病 31: 1609-1616, 2001.
2) 高橋若生. 脳ドックは若年性脳血管障害の早期診断
有用か. 成人病と生活習慣病 31: 1453-1456, 2012.
脳動脈瘤は将来のくも膜下出血の原因となることも知ら
れています。
さて、45 歳未満に限ってみると、どのような数字にな
るでしょうか。無症候性脳梗塞が認められた方は受診者
599 名中わずか 1 名(0.2%)と著しく少ないものの、脳
動脈瘤は 20 名(3.3%)に、頭蓋内動脈の狭窄は 9 例
(1.5%)にみつかりました 2)。45 歳未満は働き盛りで、
一見脳卒中とは無縁のように思われがちですが、将来脳
卒中になりうる病変を抱えている方は少なくないことが
わかります。
また、若年性脳卒中は、中高年とは違った原因で発症
するケースが多いことも知られています。首の過剰な運
-筆者紹介-
たかはし
わこお
高橋 若生
1959 年生。岩手県出身。
1985 年 東海大学医学部卒業。
東海大学医学部内科学系神経内科学 准教授。
東海大学付属大磯病院 神経内科所属。
内科学会および神経学会指導医、脳卒中学会専門医。
脳卒中学会、脳循環代謝学会、神経感染症学会の
各評議員。