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Title
イヌの低体温症の発症機構に関する研究( 内容の要旨 )
Author(s)
大橋, 英二
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(獣医学) 甲第160号
Issue Date
2004-03-15
Type
博士論文
Version
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/2214
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
(20)
氏
大
名(本籍)
橋
英
二(北海道)
学
位
の
種
類
博士(獣医)
学
位
記
番
号
獣医博甲第160号
日
平成16年3月15日
学位授与年月
学位授与の要件
学位規則第4条第1項該当
研究科及び専攻
連合獣医学研究科
獣医学専攻
研究指導を受けた大学
審
査
文
委
題
目
イヌの低体温症の発症機構に関する研究
員
主査
帯広畜産大学
教
授
更
科
孝
夫
副査
帯広畜産大学
教
授
西
村
昌
数
副査
岩 手大
学
教
授
安
田
副査
東京農工大李
教
授
岩
暗
利
準郎
学 位 論
帯広畜産大学
副査
岐 阜大
学
教
授
武
脇
義
副査
岐 阜大
学
教
授.北
川
均
論
文
の
内
容
の
要
旨
恒温動物は環境温が変化しても,熱調節機構によって体温を一定の範囲内に
維持するこ.とが可能である。寒冷環境下においセは熟産生の冗進と熟放散
制が生じろ。急性相の寒冷刺激下ではエビネフリン,ノルエビネフリンおよび
コルチゾールの分泌が増加し,脂喪ま声は糖代謝か冗進する。慢性相において
は甲状腺機能の冗進により基礎代謝が冗進する。しかし,ヒトを含めて冬眠機
構を持たない恒温動物におけるこれら耐寒野能機構の相互関係は明確に検討さ
れていない。イヌはヒトと同じ生活環境で飼育されない限り,季節による環境
.温の変化を直接受けている。従ってi寒冷刺激た強く暴露されることが多い。
・そのために,▲寒冷刺激に対す草体湿蘭節反応の破綻による低体温症に遭遇す
機会が多い。
北緯道において,冬季に低体温.症を発症するイヌが多い。これらのイヌの血
中総サイロキシン(れ)濃度が低値であることが多いため,甲状腺機能の低
下がこの地域の低体温症発症甲主鱒因であると考えてきた。しかし,血中れ
溝度は必ずしも甲状腺機能を匡映しているとは言えず,低体温症に含まれる甲
状腺機能低下症およびその他の基礎疾患の割合は明らかでない。近年,イヌの
血中遊離サイロキシン(f㌔).濃度および」イヌ甲状腺刺激ホル毛ン(打SH)濃
度測定が可能となりi甲状嘩疾串と非甲状腺疾患の鑑別診断の精摩が増した。
本研究の目的は,寒冷地で発症するイヌの低体温症ゐ発症機構を明らかたする
ことである。
冬季に低体温症を尭症レた18頭の屋外励宙犬を厳密に鑑別診断を行中ゝ,低
体温症の発症に関わる因子を検討した。その疲泉冬季のイヌの低体温症は甲
状腺機能低下症,二甲状嘩機嘩低下症以外甲続発睦嘩体温症お声び偶尭性低体
症の3群.に分類され各群¢革例はそれぞれ.亭7・寧/中及び27・
続発性低体温症で鱒,牒体翠症発症の原野経れゼれめ病態毎に畢なや
考えられた■牒発性低体温症でlキ血中f㌔準度力壁禽鹿田下由付近め
し,血中トリプリセライド・・汀G),遊離脂肪酸■(由)グルコ」ネ濃度は症例
によってばらつきが認めらゎた。このことから,イヌの低体温症め東症機構を
追究するためには慢性相および急性相の両方の寒冷刺激下における熱産生機構
を検討する必要が生じた。
次に,慢性相の寒蕗刺激が屋外飼育犬の甲状腺機能に与える影響を検討する
ために,健康な屋外飼育の6頭のピーグル犬を用いて,12カ月の間1カ月毎
に1回ずつ,血中fT.,tTlおよびcTSH濃度の測定と,TSH刺激試験を実施
した。その結果,1月にTSH刺激後の血中t㌔濃度の個体間のばらつきが小さ
くなったため,甲状腺機能は,慢性相の寒冷刺激に馴化している可能性が示唆
された。また,1月の血中fl濃度はばらつきが大きいため,末梢組織の甲
状腺ホルモンに対するレセプターの増加の程度に個体差が生じていることが推
察された。
さらに,健康な■5頭のど-グル犬に対して,3時間の急性相の寒冷刺激を加
え岳ことによって,経時的に血中TG,m,グルコース,コルチゾール,エ
ビネフリン,ノルエビネフリンおよび汀。濃度を測定した(冷水群)。これに
加えて,アドレナリンβ作動遮断薬の投与後に同様の実験を行った(試験群)。
これらの実験により,寒冷刺激下で必要とされるエネルギー源の物質と熱産生
機構の動向について検討した。その結果,冷水群の血中グルコース濃度は急速
に増加し,続いてTG,恥およびコルチゾール濃度が増加した。血中汀4濃
度はそれらに遅れて増加した。試験群セは直腸温の低下が顕著に発現レ,血中
TGおよび恥濃度が低値を示した。寒冷刺激後,冷水鮮と同様に増加した血
中グルコース濃度は1時間以降に低下した。試験群の血中コルチゾール濃度は
冷水群と同様に急速に増加し高値を持続した。試験群め3時間後の血中ノルエ
ー266-
ピネフリン濃度は,冷水群に比較して有意に高値を示した。従って,イヌでは
急性相の寒冷刺激下において,■第■1相は糖新生,東2胡は脂肪分解および第3
相時甲状腺機能の冗進が生じ,熱産生には時間差が存在することが判明した。
これらのことから,イヌの低体温症は甲状腺癌能低下症を含めた続発性
温摩ばか.・りではなく,基礎疾患のないイヌにも発症すること.が判明した。.健
なイヌでは,寒冷期に鱒慢性相の寒冷刺激に甲状腺機能の馴化により耐寒
維持していても,急性相中寒冷刺激か加わった如こ,■糖新生およびアド
ンβ償叩こ導力中る嘩肪代謝の冗進が乏しい場如こ,妄低体温症を発症す.る危
性が蒔く寧るこ辛が喚かになった。■これらの新鹿成績軋一小動物臨床分
いて,寒冷地におけやイヌゐ佐藤痘痕ゐ惑断・治療■・予防法を検討する上
常に価値ある成績と考える。
審
査
結
果
の
要
旨
本研究は,寒冷地のイヌの低体温症における発症機構について解明すること
を目的とした。
先ず,冬季のイ・ヌの低体温症は甲状腺機能低下症(27.8%),甲状腺機能
低下症以外の続発性低体温症(4隻.4%)-,および偶発性低体温症(27.8%)
の3群に系統的に分類された。
次に,寒冷刺激がイヌの甲状腺機能に与える季節的影響を検討した。1月に
は甲状腺刺激ホルモン(TSH)刺激後の血中総サイロキシン濃度の分散が狭
いことから,甲状腺機能1ま寒冷刺激車こ馴化していると考えられた。また,1月
には血中遊離サイロキシン(打1)濃度の分散が広いことから,抹消組織の甲
状腺ホルモンレセプターの増加程度に個体差があると推察された。
さらに,寒冷条件下で必要なエネルギー源物質と熱産生にういて実験的に検
討した。冷水群(15℃)の早期に血中グルコースが増加し,次いでトリグリ
セライド(m)L,遊離脂肪酸・(m),コルチゾール濃度の増加が続き,nl
濃度は遅れて増加した。試験群(15℃,アドレナリンβ遮断薬投与)では冷
水群に比べて直腸温,血中m,m,グルコース濃度が低下し,3時間後に′
血中コルチゾ∵ルおよびノルエビネフリン濃度が増加した。従って,イヌでは
急性相の寒冷刺激によって、,第.1相でl享副腎軽質機能冗進による糖新生,
第2相ではアドレナリンβ作用市進による脂肪分解,および第3相では甲状
腺機能克進が生じ,熟産生には時間差が存在することが判明した。ノ
以上のことから,健康犬では冬季の慢性相の寒冷刺激に対して甲状腺の馴
化によって対応する。しかし,甲状腺機能低下症症例犬では寒冷刺激に対する
馴化が不完全であるために低体温症を発症する。冬季に慢性相の寒冷刺激の他
に急性相の極度の衰冷刺激が加わった場合には,糖新生および脂肪分解機能が
低下することによって本症を発症すると考えられた。
本論文はイヌの低体温症の症例を系統的に分類し,季節的に甲状腺機能を解
析した後,実験的に本症を再現することによ_つて本症の発症機構について新知
見を得,これまで不明瞭であった本症の診断および治療法に対して大きく貢献
する研究と考える。審査委員6名は全員一致で本論文が岐阜大学院連合獣医
学研究科の学位論文として十分価値あるものと認めた。
基礎となる学術論文
目:Seasonalchang甲inserum
1)題
thyroxine,and
tOtalthyTOkine,free
canine
tbyroid-Stimulating
hormoneinclinicauyhealthybeaglesinHokkaido
著
者
名:、00hashi,E.,Ybgi,K.,Uzuka,Y.,恥nabe,S.,Sarzuhina,
T.andIshida,T.
学術雑誌名:meJoprnalofVeterinaⅣMedicalScience
一巻・号・貢・発行年:63・(11):124ト1243,2001
月:北海道で低体現症を発症した犬の血清総サイロキシン,遊
離サイロキシンおよび犬甲状腺刺準ホルモン法度
2)題
著
者・名:大橋英二,宇塚雄次,田辺茂之,更科孝夫,石田卓夫
学術雑誌名:日本獣医師会雑誌
巻・号・貢・発行年:55(4):235-238,2002
既発表学術論文
目:若齢猫のネフローゼ症候群の1例
1)題
著
者
名:大橋英二,古岡秀文,松井高峯
学術雑誌名,:1日本戦医師会雑誌
巻・号・貢・発行年:49(5):326-329,1996
-268-
2)題
目:犬の低体温を主徴とした内分泌疾患の3例
著
者
名:大橋英二,田淵博之
,学術雑誌名:獣医畜産新報1
巻・号・貢・発行年:50(2):110rl14,1997
3)題
目:イトラコナゾールによる猫のクリプトコックス症治験の1例
著
者
名:大橋英二,宇塚雄次,古岡秀文
学術雑誌名:日本獣医師会雑誌
巻・号・貢・発行年:51(4):197-199,1998
亜
題
目:摘出手術前後でアルファフェトプロテイン値に差が認められ
た犬の肝細胞癌の1例
著
者
名:大橋英二,小林与志安
学術雑誌名:獣医畜産新報
巻・号・貢・発行年:53(4):273-275,2000
5)題
目:Serum
thyrotrqpinresponsetoTRけadministratiohin
Sixhealthy
著
者
beagleLdogs
名:Ybgi・K・・Ohashi・E・,Thabe,S・iUzuka,Y・andSaras昆na,
T.
学術雑誌名:meVeterinaryRecord.
巻・号・貢▲・発行年:一146,706-707,2000
6)題
目:犬血中総サイロヰシン濃度測定における生化学検査システム
(VetScanR)の信頼性
著
者
名‥大橋夷二,八木勝義,宇塚雄次,田辺茂之,更科孝夫
学術雑誌名:動物臨床医学
巻・号・貢・発行年:9(2):95-100,2000